ベルトラン・ラヴィエが語る園芸とコンセプチュアルアートの関係

表参道のルイ・ヴィトン内には、現代美術を専門的に紹介する施設「エスパス ルイ・ヴィトン東京」が併設されている。これまで、数多くのアーティストが作品を発表してきたこの場所で現在行われているのが、フランスを代表するアーティスト、ベルトラン・ラヴィエの個展だ。

1969年から活動を始めたラヴィエの作品の特徴を端的に説明すれば、日常的な大量生産製品や、アニメやコミックなどの既存のイメージを流用する「レディメイド」と「アプロプリエーション」にある。それらは現代美術の祖として知られるマルセル・デュシャンから続く約100年の現代美術史の系譜に位置付けられるものだが、同時に現代の社会を反映させた軽妙さやアイロニーもあわせ持っている。園芸を学び、独自のルートを通ってアートの世界にやって来たラヴィエは、自身の芸術をどのようにとらえているのだろうか?

種を植えてから風景になるまで20年かかかるように、アートでも本当の反響が訪れるまでには相当な時間が必要です。

ーラヴィエさんのプロフィールを拝見すると、最初に勉強なさったのはアートではなく園芸だったそうですね。園芸に興味を持った理由は何だったのでしょうか?

ラヴィエ:高校を卒業して私が園芸学校に入学した理由はとても単純で、大学に行きたくなかったから(笑)。それで「どんな学校があるかな?」と調べてみて、田舎で生まれ育った私には園芸がぴったりだと思ったのです。

ベルトラン・ラヴィエ
ベルトラン・ラヴィエ

ー園芸学校の経験は、ご自身の作品にどのように関わっていますか?

ラヴィエ:園芸は、植物に触れることを通して「世界を正確に見る」ことを私に教えてくれました。また、学生のときは気づきませんでしたが、その経験は現在の私が制作において重視する「グレフ(接ぎ木)」というアイデアの根本になっていきました。

ー園芸学校ではどんな科目を専攻なさいましたか?

ラヴィエ:あらゆる分野ですね。最終的には庭園学を専攻しました。以前京都を訪ねたことがありますが、日本にも石庭や苔の庭などたくさんの種類の庭がありますね。どれも大好きです。

ベルトラン・ラヴィエ

ー庭の面白さとアートの面白さに共通するのはどのような点ですか?

ラヴィエ:庭園から得られる教訓は、何かの植物を植えて、それが大きく育って風景になるまでに20年かかるということです。これはアートでもほぼ同じことが言えます。何かの種になる提案を行って、本当の反響が訪れるにはやはり20年は待たないといけません。

今回の出品作に『ツァンカーの上にラ・ボッカ』という作品がありますが、誰も冷凍庫の上にソファを置くなんて予想もしないし、期待もしていないですよね。この意味が本当に伝わっていくまでには、相当な時間が必要です。

ベルトラン・ラヴィエ『ツァンカーの上にラ・ボッカ』2005年 冷凍庫の上に置かれたソファ Sofa on a freezer 174 x 215 x 81,5 cm © Adagp, Paris 2018
ベルトラン・ラヴィエ『ツァンカーの上にラ・ボッカ』2005年 冷凍庫の上に置かれたソファ Sofa on a freezer 174 x 215 x 81,5 cm © Adagp, Paris 2018

ー植物同様に、作品も、作品を取り巻く状況も成長していくわけですね。では、園芸からアートへと興味が移っていったきっかけは?

ラヴィエ:パリにあるDaniel Templonというギャラリーに入ったことです(現在は「Galerie TEMPLON」に改称。フランスを代表する現代美術画廊)。私はその前を通って、園芸学校に通学していたんです。

最初の頃は、その建物がいわゆる「アートギャラリー」だとはまったくわかりませんでした。そこに並んでいたのは絵画や彫刻ではなく、美術作品とは思えないものばかりでしたから! 普通の人なら、理解不能で「自分にはこんなもの関係ない!」と無視するか逃げていってしまうものでしたね。でも、私の反応はまるで逆で、とても興奮したんです。

ベルトラン・ラヴィエ

ー理解不能というと、どんな作品だったのでしょう。

ラヴィエ:Art & Language(1968年にイギリスで結成したコンセプチュアルアーティストのグループ。作品を通じて、批評的な理論の実践を行った)の作品です。下の方に機械が置かれていて、文字が壁に書かれていました。その他には、例えばガラスの破片が床面の全部を覆っていて、剥製の古ぼけた鳥が置かれていたりしました。おそらく初期のインスタレーションでしょう。理解しがたいけれど、とても面白かったですね。

ベルトラン・ラヴィエ

「接ぎ木」は、私のすべての作品の根本的なアイデアなんです。

ーさきほどラヴィエさんがおっしゃった「接ぎ木」とは、どんなアイデアですか?

ラヴィエ:とてもシンプルなものです。『ツァンカーの上にラ・ボッカ』では、まず第一のオブジェとして冷凍庫があり、その上に第二のオブジェとしてソファを置く。そうすることで、総合的な第三のオブジェができるわけです。

つまり台座の上に置かれた彫刻的な存在が生まれる。園芸で梅と桃の木を接ぎ木して、ハイブリッドな新種を生むのと同じように。「接ぎ木」は、私のすべての作品の根本的なアイデアなんです。

ー絵画作品『ウォルト・ディズニー・プロダクションズ 1947-2013 No2』では、ディズニー作品に登場する架空のペインティングが素材になっているそうですね。

『ウォルト・ディズニー・プロダクションズ 1947-2013 No2』2013年 インクジェットプリントにアクリル絵具 Acrylic paint on inkjet print 167 x 225 cm © Adagp, Paris 2018
『ウォルト・ディズニー・プロダクションズ 1947-2013 No2』2013年 インクジェットプリントにアクリル絵具 Acrylic paint on inkjet print 167 x 225 cm © Adagp, Paris 2018

ラヴィエ:ここでは「フィクション」を「現実」に接ぎ木しました。コミック雑誌『ミッキージャーナル』に掲載された「美術館見学」というエピソードに、架空の美術館に展示されていた近代美術風の絵画が登場します。その絵を私がアプロプリエーション(流用、現代美術の表現方法のひとつ)して、現実の展覧会の絵画にしたんです。

コミック雑誌のコマのなかでは、1センチ×3センチくらいの小ささで描かれていますが、それを2メートル近くまで拡大プリントして、その表面をアクリル絵具で塗り固めています。

ーフランク・ステラ(戦後のアメリカを代表する抽象画家。直線を組み合わせた幾何学的なペインティングで知られる)の作品を蛍光灯で再構成した作品に顕著ですが、既存の美術作品を別の素材で脱構築してみせるラヴィエさんの手法は、美術史を接ぎ木しているようです。それはまるで、あなたなりの美術史の箱庭を作っているようにも思えます。

『エンプレスオブインディア Ⅱ』(2005年) ネオン管 Neon tubes 196 x 580 cm © Adagp, Paris 2018 / フランク・ステラの代表的な絵画を蛍光灯で再構成している
『エンプレスオブインディア Ⅱ』(2005年) ネオン管 Neon tubes 196 x 580 cm © Adagp, Paris 2018 / フランク・ステラの代表的な絵画を蛍光灯で再構成している

ラヴィエ:その表現は素敵ですね! 次のカタログで使わせてもらおうかな(笑)。私の庭では、芸術、家電、装飾、アフリカ世界、道路標識などのように、ハイカルチャーとローカルチャー、メジャーとマイナーが常に混ざり合っています。

『イボ』(2008年)ブロンズにクロムメッキChrome-plated bronze 86 x 25 x 16 cm © Adagp, Paris 2018  / ニジェールの呪物を型取りして作ったこのブロンズ像は、他国の宗教儀式のオブジェを一見賛美しながらも、西洋の芸術様式に回収してしまうという矛盾を孕んでいる
『イボ』(2008年)ブロンズにクロムメッキ Chrome-plated bronze 86 x 25 x 16 cm © Adagp, Paris 2018 / ニジェールの呪物を型取りして作ったこのブロンズ像は、他国の宗教儀式のオブジェを一見賛美しながらも、西洋の芸術様式に回収してしまうという矛盾を孕んでいる

昔ながらの画家のイメージが、道路標識に反映されていること自体が奇妙で面白い。

ー日本でも庭や茶室で、ラヴィエさんの作品同様、組み合わせのテクニックを見ることができます。例えば掛け軸を風景に見立てたり、特定の季節を連想させたり。そこには厳密なルールがありますが、ラヴィエさん自身も、自分の展示において特定のルールを意識していますか?

ラヴィエ:例えば今回の個展で、出品作の7点を選んだのは私ではありません。主催したフォンダシオン ルイ・ヴィトンの購入作品から選ばれていますからね。私自身は、これらの作品を制作する際に、こうして隣り合って並ぶ風景をまったく考えていませんでした。

しかし実際に並んだ風景を見て面白いのは、これらが似た波長を放っていて、ある調和を生み出していることです。作品同士の対話が成り立っていて、同じ人物が制作したというアイデンティティーも感じさせる。これは自分でも驚くべき発見でした。

ベルトラン・ラヴィエ

ーそのアイデンティティーが面白いところです。どの作品も、既製品や他者の作品として、既にどこかにあったものを素材にしていますよね。そこにラヴィエさんの手が加わり、作品化することでアイデンティティーが獲得されるわけですから。

ラヴィエ:例えば『エクスの風景』はその好例でしょう。フランスの高速道路を走っていると、ドライバーに「この先にこういう景色が見えてきますよ」ということを知らせるために、こういった道路標識が掲示されているんです。ちなみにこれはセザンヌ(近代絵画の父とも言われるフランスの画家。当初、印象派に属したが19世紀後半からは独自の絵画を追求し、20世紀の美術に大きな影響を与えた)がモチーフにしたことで有名なサント・ヴィクトワール山ですね。

『エクスの風景』(2014年) 道路標識にアクリル絵具 Acrylic paint on road sign 140 x 240 cm © Adagp, Paris 2018 / 高速道路の標識を素材にした作品で、奥の山がサントヴィクトワール山
『エクスの風景』(2014年) 道路標識にアクリル絵具 Acrylic paint on road sign 140 x 240 cm © Adagp, Paris 2018 / 高速道路の標識を素材にした作品で、奥の山がサントヴィクトワール山

ラヴィエ:この作品の素材になっているのはキャンバスではなく、標識そのもの。その上をアクリル絵具で塗り固めているのです。元の標識のデザインは抽象化されたポップなグラフィックですが、アクリル絵具のマチエール(質感)は、それを再び「絵画」的に変化させます。すると、まるでセザンヌ自身が描いているかのようなイメージを錯覚させるかもしれません。

ー本物の標識を使っているのに驚かされますね。

ラヴィエ:普通の道路の標識はサイズがもっと小さいのですが、運転速度が上がる高速道路用は見えやすいように、こんなに大きくなるんです。だから、余計に絵画っぽくなります(笑)。

昔ながらの画家のイメージに「田舎に出かけていって風光明媚な景色を前にしてキャンバスを広げて写生している」というものがありますよね。そのイメージが道路標識に反映されていること自体が奇妙で面白いでしょう?

ーちなみにこの道路標識はどこから入手したんですか?

ラヴィエ:標識を作っている会社から直接買えちゃうんですよ。この他にも抽象的な道路標識も買って、同じ手法で作品化しているんです。たしか携帯にあったはず……(おもむろにスマホを操作しはじめるラヴィエ)。

スマホで自身の作品を画像検索するラヴィエ
スマホで自身の作品を画像検索するラヴィエ

検索してでてきた道路標識の作品を見せてくれた
検索してでてきた道路標識の作品を見せてくれた

ースマホのなかにすべてのイメージが収まる時代になっているのも現代の奇妙なところですね(笑)。

ラヴィエ:たしかに!

アーティストは、この世界に流れる不協和音のなかから、何かを抽出し、より強いアイデンティティーを付与できる人間です。

ー道路標識のように、日常生活に隠されているアートの要素を見つけることもひとつの技法と言えますか? あるいは、それはラヴィエさんにとって、ひとつの楽しみでもある?

ラヴィエ:それは多くの芸術家に共通する喜びでしょうね。「美しい」という意味のフランス語で「ピトレスク」という言葉がありますが、語源的には「絵にするに足るほど(美しい)」という意味です。つまり、現代のさまざまなプロダクトのなかからコンテキストを抜き出して作品化するということ。

私自身も、道端にあった自然石を置いただけの作品を作ったりしています。アーティストというのは、普通の自然のなかにある石にも美しさを見出すことができる人間なんですよ。矛盾かもしれないですが、私の作品は思索を促すコンセプチュアルアートであると同時に、ポップなアートでもあります。ものの見方に関して偏見を持たず、保守的でない人であれば、直接的に語りかけることのできるアートなのです。

ベルトラン・ラヴィエ

ー少し作品から離れた質問をさせてください。ラヴィエさんがスマホから自身の作品の画像を取り出して見せてくださったように、今の社会では20年前よりもはるかにたくさんの物や情報に溢れています。そういった情報過多な社会では、アーティストが作品化できる素材を見出すことの難易度も上がっているのではないでしょうか?

ラヴィエ:アーティストというのは、この世界に流れる不協和音のなかから、何かを抽出し、より強いアイデンティティーを付与したり、予想もしないアイデンティティーを付け加えることができる人間でもあります。

例えばソファと冷凍庫なんて、世界のありとあらゆるところにある。でも、この2つのなかにある別の要素を取り出して、組み合わせることで、この2つの物体は「作品」となって、大量生産された商品よりもはるかに長い時間、人々に記憶されるものになるのです。ヒマワリだって、世界に何十億本と生えています。でも、みなさんはゴッホの『ひまわり』は鮮明に記憶していますよね。あるいは、先ほどの道路標識だって、100年後のフランスには残っていないかもしれないけれど……。

ーLED化されているかもしれないし、立体映像になっているかもしれませんね。あるいは道路標識そのものが不要になっているかもしれない。

ラヴィエ:SFの世界のようにね(笑)。でも、こうやって作品になれば、別の意味を与えられて未来にも残るかもしれない。

ベルトラン・ラヴィエ

私は自由とユーモアを楽しんできました。今の若いアーティストたちには自由は少ないかもしれません。

ーそこでふと思うのは「アイデンティティーを付与する作業は、必ずしもアーティストだけに可能なことではないのでは?」という疑問です。例えばキュレーターやデザイナーも同様のことができるかもしれない。

ラヴィエ:「そうではない」と私は自信を持って断言できます。なぜならアーティストという名前を使うことで、さまざまに異なる領域へと、自由に入っていくことができるからです。キュレーターと名乗ってしまうと、できることは限られてしまう。私自身もキュレーターや舞台芸術の演出家として働いたことがありますが、やはりアーティストであることによって、非常に大きな自由を獲得できたと感じています。

例えば明日、私がふと思い立って歌をうたって録音したとします。ヘタクソかもしれないけれど、アーティストとしてはそれが可能なんです。

ベルトラン・ラヴィエ

『アトミウム、ディテール No.10』(2007年) アルミニウムにアクリル Acrylic on aluminium 210 x 247 x 13 cm  © Adagp, Paris 2018
『アトミウム、ディテール No.10』(2007年) アルミニウムにアクリル Acrylic on aluminium 210 x 247 x 13 cm © Adagp, Paris 2018

ーラヴィエさんは作家活動を始めて今年で49年を迎えたわけですが、約半世紀にわたって自由を謳歌しているんですね。

ラヴィエ:そのとおりです! 私がアーティストになったのは、最初に個展を開いた1969年と言えます。当時はまだ園芸学校に在籍していて、ヨーロッパのレンガ壁を覆う蔦や葉っぱに、白い直線が浮かぶようなペインティングをほどこしたのが最初の作品でした。それ以来、私は自由とユーモアを楽しんできました。この49年間は、とても素晴らしい時間だったと思います。

しかし、それに比べると、今の若いアーティストたちには自由は少ないかもしれません。今のアートにはより強固なマーケットが備わり、各種の財団があり、さまざまな圧力があります。そして何よりも観客が増えています。観客の増加はポジティブなことですが、一方で動きの自由、表現の自由の制約を生み出してもいる。30年前は、美術館で展覧会を行うときには動員数につながるようなアーティストの人気は問われませんでした。でも今は違います。こういった時代の変化についてはもっと真剣に考えていかなければならないでしょうね。

ベルトラン・ラヴィエ

イベント情報
ベルトラン・ラヴィエ

『Medley』

2018年4月19日(木)~9月24日(月・振休)
会場:東京都 表参道 エスパス ルイ・ヴィトン東京
時間:12:00~20:00
休館日:ルイ・ヴィトン表参道店に準ずる
料金:無料

プロフィール
ベルトラン・ラヴィエ

1949年、シャティヨン=シュール=セーヌ(フランス)生まれ。1980年代および1990年代のアプロプリエーション(流用)アート運動に強い影響力を与えたアーティストであり、冷蔵庫やテーブルといった日常的な大量生産製品にペイントを何層も厚塗した、もしくは、ありふれた「物」を台座に置いたレディメイド作品でよく知られている。多種多彩な媒体を駆使するラヴィエの作品はこれまで世界各地で展示され、2012年にはポンピドゥーセンター(パリ、フランス)で大々的な回顧展が開催。



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