会田大也×佐藤ねじ対談 才能を鍛えるための学び方を紐解く

デジタルが当たり前の「環境」となっている現代。気がつけば現代人は、アナログ対デジタル、フィジカル対バーチャルという対立を超えた暮らしを当たり前のように送っている。そんな環境のなか、モバイルアプリからメディアアートまで、表現者たちは「作ること」をどう考え、どう取り組んでいくべきか?

今回の対談は、そんな今日的かつ根源的な問いをさぐろうと行われた。登場するのは、山口情報芸術センター[YCAM]で手がけた、カラダとアタマを刺激するワークショップで知られるミュージアムエデュケーター会田大也。面白法人カヤック時代からユニークなアイデアのウェブサイトやアプリ企画で注目され、現在はブルーパドル社を率いるアートディレクター / プランナー、佐藤ねじ。

二人は、来春から始まるデジタルハリウッドの新設コース「本科デジタルアーティスト専攻」の講師でもある。フィールドこそ違えど、現代の発想法や思考法に日々向き合う者同士。そんな彼らが、これからのデジタルアーティストのありようや、誰もが活かせる発想や学びのエッセンスについて語り合った。

やりたいのは、自分たちが勝手に引いてきた境界線に入り込んで、定義そのものを変化させていくこと。(佐藤)

―今やデジタル表現と一口に言っても、モバイルアプリからメディアアートまで様々です。そうしたなかで、お二人は今、どんな発想法や思考法が大切だと考えています?

会田:たとえば文章を書く手段が手書きかタイプライターだった時代は、ウィリアム・バロウズ(ビートジェネレーションを代表するアメリカの小説家)のように、いちど書いたものをバラバラにして並べなおす、という表現は独創性があった。その後、ワープロが出現して編集しながら書くのが当たり前になると、書かれる内容も変わっていく。誰もがバロウズになれるとは言いませんが、技術が表現にも影響していくということは確実に言えると思います。

そうすると、デジタルと表現の関係はただ単に「頭のなかで想像してきたものがデジタル技術で可能になった!」というのを超えて、新たな考え方が生まれる環境と捉え直すことが出来る。この視点でベースから考え直すことが、重要だと思います。

左から、佐藤ねじ、会田大也

―文章以外だと、どんな例があるでしょうか?

会田:たとえば従来、アートとは一点モノの世界で、そこに希少価値がつくように作られてきた。でもデジタル技術の普及を通じて、人の想像力のなかにコピーという概念や、そこからバリエーションが生まれるのが当然だという価値観が生まれてくる。

すると、改めて「一点モノとは何か?」という問いから創造が生まれることもありえるわけです。どの領域にも、当然すぎて見えなくなっていることがあるので、「これまで」の話もしながら「これから」の可能性に生かしていく、それが大切だと感じています。

会田大地

―「当たり前を疑う」ことは、佐藤さんのお仕事にもつながりそうです。有名なお仕事に、人気のホラー映画シリーズと連動したスマホアプリ『貞子3D2 スマ4D』(2013年)などがありますね。映画を観たその日の深夜0時に貞子から電話がかかってくるというサプライズも話題になりました。

佐藤:体験のデザイン、というと陳腐な言い方かもしれませんが、体験ベースで考えると自然と包含的になるんですね。『貞子3D2 スマ4D』は当時流行ったセカンドスクリーン(メインコンテンツとモバイル画面を連動させる仕組み)を生かしたものでした。

佐藤ねじ

佐藤:映画は2時間で終わるもの、という枠組みを小さな形でも超えて、映画体験をちょっとだけ拡張させることを目指したんです。当時、午前0時以降にSNSで検索してみると、アプリを入れていた女子高生たちが大騒ぎしているツイートがたくさん出てきた(笑)。

会田:(笑)。怖いけど、すごく面白いですね。

佐藤:自分たちが勝手に引いてきた境界線に入り込んで、定義そのものを変化させていく。僕がやりたいのはそういうことかなって思っています。

可愛いネコ動画の拡散パワーもすごいけど、同じバズるコンテンツでも、それとは全く違う、新しい広がりを探りたい。たとえば、ウェブサイトのフッターにおける革新的表現とか(笑)。アップデートでもダウングレードでもない、そういう新しい分岐を作ることがすごいモチベーションになっています。

ビジネスなどの異領域でアート的な思考や発想を求める動きと、表現者たちがうまく連結すると、表現の場はさらに広がる。(会田)

―ご自身の発想法についても、ぜひ教えていただきたいと思います。会田さんがYCAM在籍時に手がけた『コロガルパビリオン』での取り組みの背景にはどんな考えがあったんでしょう?

会田:「メディアとは、拡張された身体である」とも言われます。さきほどの佐藤さんの貞子アプリもそうですが、今や多くの人が日常的にデジタルガジェットと共に暮らしている現実がある。つまり現代ではデジタルとは環境そのものであると言えます。

『コロガルパビリオン』にはフィジカルもデジタルも共存していて、斜面があれば、人は自然にそこを登ったり、滑り降りたりしたくなります。同じように、そこでLED光のアニメーションが動いたら、それを追いかけたり、ジャンプしたりしたくなるでしょう。

―デジタルは手法ではなく環境だと考えると、デジタル表現の活躍する場もより広くとらえられそうです。

佐藤:たとえばサイトスペシフィックな表現というのも環境との関わりですよね。僕はウェブサイトを作るときでも、モニター内の世界だけでなく、それを見ているユーザーの状況を考えます。そういう、ある瞬間の場所としての「環境」って、ユニークな表現につながると感じています。

―特にデジタル領域の表現は、映画や音楽界、企業の広告クリエイティブなど、個人でできることを超えて協働する場面が多いと感じます。

会田:近年、アートの定義も変わってきていると感じます。これまでは美術史を意識して表現する人たちが正当なアーティストとされてきましたが、最近はそれだけでなく、たとえばビジネスなど異領域でもアート的な思考や発想を求める傾向があります。そうした動きと、誰に頼まれることなく作り続ける表現者たちがうまく連結すると、表現の場はさらに広がると思います。

―ちなみに佐藤さんの発想法はどんなものでしょう? ご自身のアイデア出しにおけるノートの活用法を紹介した著書『超ノート術』もありますね。

佐藤:自分でいいアイデアが出る場所について、統計をとったことがあって。よく言われる「シャワーを浴びてるとき」というのは一回もなかった(笑)。僕は天井が高い空間だといいアイデアがでます。逆に低い場所は、デザインとかを詰める時に良い。ただ、その「自分流」もまた変化していくはず。

会田:確かに。つい自分の中にルールを作ってしまいがちですよね。

佐藤:自分なりの手法を持つのは、良いことだし必要なことです。でもそれを決めつけてしまうと、そこで止まってしまいます。実は僕、デジタルハリウッドでこの秋まで1年間、CGを学んでいたんですよ。CGの制作能力的には本当に底辺でしたが、少しでも覚えるとCGに対して当初とは違う面白がり方ができるんです。そういうCGのようなデジタル表現的な考え方の視点を変えて、一見デジタルとは縁遠そうな所に持ち込めると面白くなりそうだなと思います。

会田:確かに。ウェブ業界でいえば、バナーの配置位置や、表示の切り替えタイミングなど、幾多のユーザテストを通して検証してきた積み重ねがありますよね。一方で、商店街でのユーザー体験は、そこまで徹底して検証されることは少ない。そこで、UI / UXを熟知したウェブクリエイターが新しい商店街体験を発明できるかもしれない。実際、大型ショッピングモールではそうした考え方が既に窺えますしね。

自信がある人ほど、違う道筋というか「アート的な何か」を見つけられるといいですね。(佐藤)

―お二人は来春から、デジタルハリウッドに新設される「本科デジタルアーティスト専攻」で講師を務めます。いままでお話ししてきたような時代背景から生まれたコースで、メディアアーティスト、インタラクティブアーティスト、映像アーティストなど多様な表現者の育成を目指すものです。実際には、ご自身の経験をどんな形で伝えていくのでしょうか?

会田:このコースでは、各種のアプリケーションを使った表現を学ぶ「Technology Program」と同時に進行する、遊びと学びを考えることをテーマにした「Creative Lab」プログラムが特徴のひとつです。「Creative Lab」プログラムでは、3つの課題を出したいと思っています。その後、卒業制作に臨むという流れです。

会田:1つ目の課題は、「理想の学習環境をデザインする」。学び始めるにあたり、自分は学習者であるという「当たり前のこと」をメタレベルで見つめる課題です。わかりやすい例として、使い勝手の良い図書館とは何か、実際に訪ねてリサーチして、理想の図書館や学び舎をデザインし、3DCGやビデオを駆使したプレゼンをしてもらう予定です。

たとえば理想の学習環境に対して「静かな場所」と発想する人は多そうですが、無響室で集中して勉強できる人はまずいない。パッと浮かぶ答えは現実では違うことも多く、そこからどう掘り下げるかがカギになります。また、この課題に取り組むなかで、今まさに学んでいる自分の環境も誰かが設計していると気づくことになる。その「行ったり来たり」やスコープの拡大縮小の柔軟性は、クリエーションにおける重要なポイントです。

―発想法、思考法を鍛えることにも重点を置いているんですね。

会田:その点は何を創るにしても基礎的な力となります。2つ目の課題は、「インスタレーションを作ってみる」。空間展示というフォーマットを理解した上で、何がインスタレーションになり得るのかも考えながら作ってもらいます。実は「失敗させるための課題」でもあって、一度自分がやりたいものを思い切りやって、うまくいかないことも含めて学んで欲しい。学生の特権として盛大に失敗して、そこから何を学ぶかも重要だと考えています。

佐藤:伸びる人とそうでない人の違いって、経験からの吸収率によるなと感じます。AI的なことでいうと、特徴点(コンピュータが画像の内容を推測する際に検出、抽出する点)をいかに少ないデータでつかめるか。どうしても個人差はあるけど、場数を踏むという点でもこうした課題は大事でしょうね。

会田:3つ目の「現実世界を抽出したゲームを作る」という課題では、現実世界に起きている複雑なことを、ある種の抽象化を通じてモデル化したようなゲーム作りに挑戦します。古典的なものだと『シムシティ』などはまさにそれですね。もちろん現実とイコールではないけれど、現実を抽出して概念モデルを構築する経験は、様々な表現分野に応用可能です。ゲーム作りはすごく知的な作業で大変ですが、卒業制作を目前に取り組むことで、良い効果があると思っています。

―ゲームといえば、佐藤さんたちもいまスマホを使った新感覚のボードゲーム『アナログデジタルボドゲ』という新しい試みをしていますね。

佐藤:ここ数年、個人的にアナログゲームの楽しさを知る経験があったのがきっかけです。僕はどちらかというと、人がそれを楽しめるルール作りだという思考でゲームを考えてきました。でも、いまの会田さんのお話はなるほどと思いましたね。

確かに優れたゲームや作品には概念モデル的な面白さがある。だから課題としては、そこからデザイナー的な表現を突き詰める人も、アーティスト的な方向に行く人も、どっちにも生かせそうだなと思います。

―佐藤さんはこの専攻で、「Communication Design Meeting」というプログラムの特別講師として参加されるのですね。

佐藤:僕はアーティストではないので、自分の仕事経験からお伝えできることを考えています。でもこうしてお話ししていると、デジタル表現を結構使いこなせるけど、今みたいな話を通過してこなかったような人が、会田さんたちに洗礼を受ける姿を見てみたくなってきました(笑)。自信がある人ほど反発心も覚えるかもしれないけれど、違う道筋というか、言ってみれば「アート的な何か」を見つけられるといいですね。

知識や考え方は、手に入れて数年経って、ようやく自分のやりたいことに繋がることがある。(会田)

―この1年をかけて、技術だけでなく「学び方」や「考え方」をも学ぶということですね。

会田:大勢を前に先生が講演するような、効率のいい「早い教育」に比べて、今お話したような取り組みは「遅い教育」と言えるかもしれませんが、大切にしたいですね。このコースでは他にも、僕の以前の職場でもあるYCAMでIoA(Internet of Ability、人々や機械が持つ多様な能力をネットワーク化する考え方)について学ぶ合宿も予定しています。そして、最後の3か月で卒業制作に集中的に取り組んでもらう。希望としては、技法に拘泥するよりも、発想や思考においてデジタル的なものを活かして欲しいですね。

11月22日にデジタルハリウッド主催『近未来教育フォーラム2018』にて、エディケーター菅沼聖によるYCAMの取り組みが紹介された

―今日お二人にお話し頂いたことは、ともすれば個人の「才能」として扱われがちなところでもあるかと感じます。でも、その領域も学べる、鍛えられるという事実は、表現を志す側からすると嬉しいことかもしれません。

佐藤:専攻名にある「デジタルアーティスト」という言葉が示すクリエイター像については、ここで学んだ人たちがその後どんな道に進むかによっても、かなり多様に分かれていくのだろうと思います。ただ、どういう道に進むにしても、今日お話したような思考は活かせると思っています。

会田:それを、自分の血や肉として取り入れるということですよね。そして、知識や考え方は、手に入れて数年経ってから、ようやく自分のやりたいことに繋がることがある。だからゴールやゲームオーバーをどこに設定するかも重要です。

ちなみに僕は、一生のうちに1本でもホームランが打てたらいいじゃないかって思う方です(笑)。だからこの専攻が、表現を志す皆さんのホームランにつながる何かを、自らに練り込むような場所になれたらと思っています。

開講情報
デジタルハリウッド東京本校
本科デジタルアーティスト専攻<全日1年制・選抜クラス>

開講日:2019年4月
期間:1年間
通学:週3日
定員:20名

プロフィール
会田大也 (あいだ だいや)

1976年東京生まれ。2000年東京造形大学造形学部デザイン学科造形計画専攻卒業。2003年情報科学芸術大学院大学IAMAS修了。2003年開館当初より11年間、山口情報芸術センター(YCAM)の教育普及担当として、メディアリテラシー教育と美術教育の領域にまたがるオリジナルワークショップや教育コンテンツの開発と実施を担当する。一連のワークショップは、第6回キッズデザイン大賞を受賞。担当企画展示「コロガルパビリオン」が、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品受賞。一連の「コロガル公園」シリーズは2014年度グッドデザイン賞を受賞。2013年、国際交流基金主催の日・ASEAN友好40周年事業 国際巡回メディアアート展「MEDIA/ART KITCHEN」キュレーターに選出。2014年より東京大学大学院ソーシャルICTグローバル・クリエイティブ・リーダー[GCL]育成プログラム特任助教。他に、伊勢丹cocoikuプログラム監修、VIVITA株式会社企画担当、Mistletoe株式会社フェローなど。

佐藤ねじ (さとう ねじ)

1982年生まれ。プランナー/アートディレクター。面白法人カヤックを独立→Blue Puddle Inc.設立。「空いてる土俵」を探すというスタイルで、WEBやアプリ、デバイスの隙間表現を探求。代表作に『Kocri』『しゃべる名刺』『貞子3D2』『本能寺ストーブ』『レシートレター』『世界で最も小さなサイト』など。日経BPより「超ノート術」を出版。



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