パソコン音楽クラブの部活感の秘密。作家性や主張より大事なこと

2015年の発足以来、SoundCloudやBandcampでの作品発表や「Maltine Records」からのEPリリースなどを経て、その名を着実に知らしめてきたDTMユニット、パソコン音楽クラブ。メンバーに関する詳細も不明、かつメディアへの公式な露出もごく限られるなど、その謎めいた活動実態と特異な音楽性ゆえ、ときに海外のヴェイパーウェイヴ文化とも関連付けて語られてきた。

1980年代~1990年代に音楽制作で汎用され、今では「ハードオフ」のジャンクコーナーに眠っているような各種シンセサイザーや音源モジュールをあえて操ることで繰り出される彼らの音楽は、一聴するとどこか「懐かしさ」に浸されているようにも思えるかもしれない。しかし、コンセプチュアルな(ように思わされる)その制作スタイルや、何よりネットレーベル文化以降というべき自由な感性に彩られた楽曲たちは、たしかに時代の先端に漂う空気と触れ合い、ときに強く共振する。

2018年には初のCD作品となる1stフルアルバム『DREAM WALK』をリリースし、コアなDTMファン層を突き破り幅広いリスナーにその特異な存在を知らしめることになった彼ら。そして9月4日、その余勢を駆るかのごとく、早くも2ndアルバム『Night Flow』を発表した。「夜から朝までの時間の流れにおける感覚の動きを描いた」とするその内容は、アンビエント~環境音楽への一層の接近とともに、ダンスミュージックとしての強靭な身体性、そして先鋭的なポップネスを兼ね備えたものだ。この堂々たる(けれどどこか儚げでささやかな)傑作がどのようにして生み出されたのか、彼らの結成から現在に至るまでを振り返りながら、じっくりと話をきいた。

コンセプトっていうより、単に「機械、カッコいいなー」みたいな感じで(笑)。(西山)

パソコン音楽クラブ(左から:西山、柴田)

―パソコン音楽クラブって一体何者? と思っている人も多いと思うので、まずは結成の経緯から教えていただけますか?

柴田:たしかに、これまであまり写真とかも出してないですしね……(笑)。実はもともと僕と西山さんは、大学生の頃に同じバンドで活動していて。

西山:違う大学に通っていたんですけど、共通の知り合いから誘いを受けたバンドで、僕がギターで、柴田くんがキーボードで参加してました。恥ずかしいからあんまり話したくないんですけど、女の子がボーカルの普通のポップスをやるバンドで……(笑)。

そこから、デモテープ作りとかでDAW(デジタルで音声の録音、編集、ミキシングなど一連の作業が出来るように構成された一体型のシステム)をいじるようになって、シンセサイザーやDTM(デスクトップミュージック、パソコンと電子楽器類を使用して制作された音楽)の話を夜な夜なするようになって今に至ります。

パソコン音楽クラブ(ぱそこんおんがくくらぶ)
2015年結成。ローランドSCシリーズやヤマハMUシリーズなど1990年代の音源モジュールやデジタルシンセサイザーを用いた音楽を構築。tofubeatsをはじめ、他アーティスト作品への参加やリミックス、演奏会、ラフォーレ原宿グランバザールのTV-CMソングなど幅広い分野で活動。2019年9月、ゲストボーカルにイノウエワラビ、unmo、長谷川白紙といった個性派アーティストを、マスタリングエンジニアにこれまでceroや電気グルーヴなどを手がけてきた得能直也を迎えた2ndアルバム『Night Flow』をリリース。

―DTM作家のなかには楽器経験がない人も珍しくないと思うんですが、おふたりはまず生演奏からスタートしているんですね。以前『THREE THE HARDWARE』(tofubeatsによる音楽制作バラエティー番組)の動画を見て、「西山さん、めちゃくちゃギターうまっ!」と思ったんですが、今の話を聞いて納得しました。

西山:もともとフュージョンとかが大好きで、ギターソロをコソコソ練習していたので(笑)。たしかに、音楽的ベースは楽器演奏にありますね。

―そのあたりは柴田さんも同じ?

柴田:そうですね。僕も最初はピアノ教室に通っていたんですけど、譜面どおりに弾くのが全然好きじゃなくて。そしたら先生に「お前はピアノに向いてないからエレクトーンをやれ」と言われて。YMOが好きでシンセサイザーに興味があると言っていたので、メカっぽいエレクトーンのほうがいいだろう、と思ってくれたみたいで(笑)。

―具体的にパソコン音楽クラブとして活動しはじめたのはいつ頃からですか?

西山:2015年の暮れくらいですかね。でも、「外に目を向けて活動していこう」って感じでは全然なかったです。

柴田:ふたりで毎夜話しているなかで、昔のゲームのサントラとかで使われているチープな音っていいよね、っていう話で盛り上がって。そういう音がどうやって作られているかを調べるうちに、1980~1990年代のシンセサイザーや音源モジュールの存在が気になってきたんです。

それで、一緒に1万円を握りしめてソフマップに中古機材を探しに行って。そのときはそういう機材が3,000円とかで買えたから、ずいぶんお釣りをもらいました(笑)。

―ソフトシンセサイザーをあえて使わず、昔のハード機材を使うという活動コンセプトはそのあたりから固まってきたんでしょうか?

西山:そうですね。でも、コンセプトっていうより、単に「機械、カッコいいなー」みたいな感じで(笑)。ソフト音源に比べて音的に優れているからって理由ではなくて、ただそういう機材で音楽作れて楽しいなあ、って。

柴田:そうやって買った機材でお互いに作った曲を交換日記みたいに聴かせ合おうという話になって、共用のSoundCloudアカウントを作ったんです。そのとき、便宜上名前が必要だから、じゃあまあ「パソコン音楽クラブ」にしとくか、と。

西山:そういう意味でこのユニット名にも大して批評的な意味とかはなくて、本当に部活の名前として付けた感じです(笑)。

―そうだったんですね(笑)。ウェブサイトも昔のHTML感というか、ネット黎明期のテキストサイトみたいな雰囲気で最高なんですが、メンバー紹介のところにおふたり以外の名前も書いてありますよね? あれって実在する人たちなんですか?

西山:いるにはいるんですけど、音楽創作面に絡んでくることはないですね。ちなみにクラブのマスコット犬は僕の実家で飼っている犬です(笑)。

―(笑)。コンセプチュアルなのか、ただゆるいだけなのか、判然としない感じが……。

柴田:ウェブサイトに関しては、単に自分たちのスキルの限界があれだったことがあります(笑)。

特定のジャンルから浮遊する感じも含め、ヴェイパーウェイヴにも通じる考え方があったのかもしれない。(西山)

―西山さんが1994年で、柴田さんが1995年生まれということですが、10代の頃から「Maltine Records」(2005年に設立)などのネットレーベル文化に親しんでいたのでしょうか?

柴田:自分としては、「Maltine Records」を完全に後追いで知って。高校生の頃とかでしたが、なんか東京のほうで面白そうなことをやっているなあっていうくらいのイメージでしたね。

西山:僕らはネットレーベル第一世代ではないし、すでに音楽をはじめたときにはそういうものが存在していて、それを遠くから眺めていたっていう感覚ですかね。

―機材面とは別に、発足当初に音楽性の面で「こういうのを目指したい」とかいうのはあったんでしょうか?

柴田:あまり特定のジャンルを目指していた感じではなかったですね。

西山:それは今も変わらないですね。当時の機材のプリセット音源を触っていて、今の時代ではかえって珍しい音にインスパイアされて曲を組み立ていくことが多いです。だから、音色に応じて曲調も変わっていく。

当時はそこまで意識をしてなかったですが、特定のジャンルから浮遊する感じも含め、ヴェイパーウェイヴにも通じる考え方があったのかもしれないです。実はあまり聴いたこともなかったんですが。

―なるほど。ヴェイパーウェイヴというと、1980~1990年代的意匠やチープさみたいなものをわりと自覚的 / 批評的に扱うという側面がありますが、パソコン音楽クラブの場合は単に古い機材へのキッズ的な興味からはじまったというのが面白いですね。海外のヴェイパーウェイヴを聴いてみて、「うわー、わかるわー」みたいな感覚ありました?

西山:それはかなりありましたね。音楽の聴き方が決定的に変わっていくな、という感覚。ショッピングモールで流れているようなフュージョンとかBGMミュージックとかそれまで「ダサい」とされていたものの捉え方が覆りました。

柴田:僕はGiant Clawとか、「Orange Milk」レーベルのものとかを聴いてそう思ったかも。ペナペナのMIDI音源を使ってて、「おもろいやん!」って。新しい音楽ジャンルっていうか、発想の転換、発明、みたいな。

―ヴェイパーウェイヴに見られるように、作家的個性や記名性から離れたい、というのもありますか?

西山:それはあります。最近ようやく自分の顔写真を出せるかな、って(笑)。単に気恥かしさもありますけど。

パソコン音楽クラブのアーティスト写真

好きなことに素直に向き合いたいからこそ、作家性とか主張とかで自分たちのイメージをくくってしまいたくないな、とは思います。(柴田)

―たとえばインタビューとかで、「この曲には作家としてどんな主張を込めていますか?」とか訊かれても困っちゃう?

西山:そうなんですよ。作っている以上はもちろん気持ちは入っているけど……僕たちの音楽は、特定の個人のメッセージとかそういうものが込められている音楽ではないと思うので。もちろん「俺の声を聴け!」みたいな思想や主張のある音楽も好きだし、必要だし、憧れる部分もあります。

自分も政治的にこう思うとかはあるし、願望もいろいろな規模感でありますけど、音楽を作ったり聴いたりするうえでそれだけになってしまうとむしろ息苦しくなってしまうとも思うんです。強い感情とかイズムから離れて、そこにある感覚や質感を味わう音楽があってもいい。それを聴いてもらったうえでどう感じるかは聴く人に委ねられている、というのが健全だと思います。

柴田:それとやっぱり好きなことに素直に向き合いたいからこそ、作家性とか主張とかで自分たちのイメージをくくってしまいたくないな、とは思います。

―ある種のコンセプチュアルアートの発想法に近いのかもしれないですね。おふたりの場合はガチガチに固め過ぎていない分、どこかチャーミングさが溢れている気がしますが(笑)。

柴田:そう捉えてくれたら嬉しいですけどね(笑)。

―おふたりの音楽は、ネット発のカルチャーの匂いを纏っている一方で、ダンスミュージックとしてのフィジカルな現場志向も感じるんですよね。

西山:プライベートな空間でのリスニングとダンスの現場、どちらに優劣があるとかは思わないのですが、両方の大切さがあるなと思っていて。最初はパソコン音楽クラブとしてライブをしようなんて全く思ってなかったし、クラブにもほとんど行ったことがなかったんですよ。

でも実際にライブをしていくうちに、より踊ってもらいやすい曲調や低音の構成を考えていくようになりましたね。みんなが一体になって同じ曲を聴きながら踊って盛り上がるってすごく不思議というか、尊さがあるなと思うんです。

柴田:たとえばプリセット音のなかによいキックの音が出てきたら四つ打ちの曲を作りたくなるし、やっぱり音色から発想している部分は大きいですね。

―「ダンスミュージックの未来を切り拓いていくぞ!」みたいな意識ではない?

西山:それはないですね。クラブイベントに呼んでもらって、1時間ただアンビエントをやり続けても……というのもありますし(笑)、どうせなら集まってくれた人とみんなで楽しく盛り上がりたい。その場に応じてリスニングミュージック的なものとダンス志向のものどちらもできるというのが、まさに自分たちの思う匿名性みたいなものに繋がっていると思うんです。

柴田:ライブでフュージョンやったあとにゴリゴリのテックハウスやることが普通にあるんですけど、自分たちのなかでは特に違和感がないんです。それはたぶんお客さんも一緒だと思います。

いつか来てしまうモラトリアムの終わりが漠然と怖くて、そこから逃げたい気持ちがあった。(西山)

―2018年には1stフルアルバム『DREAM WALK』をリリースされました。初のCD作品というところで、どんなことを考えて作った作品でしたか?

柴田:CDを作ろうと思ったとき、どういう内容にしようか悩んじゃって。どうせ作るならたくさんの人に聴いてもらいたいし、ちゃんとコンセプトを詰めないといけないよな、ということは考えましたね。

西山:今まで作ったものにいろんな曲調がありすぎて、ひとつの盤として通して聴けるものにする必要性を感じたんですよ。

柴田:それで、過去にSoundCloudにあげていたもののリアレンジも入れたりして、アルバムとしての整合性をじっくり整えていくなかで、自分たちの音楽にある「逃避願望」「エスケーピズム」みたいのを軸にしようと徐々に固めていきましたね。

パソコン音楽クラブ『DREAM WALK』を聴く(Apple Musicはこちら

―前作はジャケットからして日常からの静かな逃避を思わせるところがありますよね。

柴田:あれは熱海にあるファミレスの写真なんですけど、非日常感がある場所で。店内から海が見渡せて、夜になると海岸線に旅館とかの光が見えるんですよ。

西山:ファミレスって自分たちのなかでは日常の象徴のようなものなんです。けれど、この店から見渡せるのは、普段の生活のなかで目にすることのない綺麗な水平線だったりする。しかも、お店自体もお土産屋とかが店を閉めた暗闇に夢のなかの風景のように佇んでいるんです。日常の裏返しとして現れる非日常感というか。

柴田:「逃避」ってことでいうと、パソコン音楽クラブをはじめた大学生の頃って、とにかく暇だったんですよ(笑)。差し迫ってやるべきことはないんだけど、その先には就職も控えていて、逃げてしまいたいことはたしかにあるっていう状況で。

西山:次の4月から社会人として働くことが決まっているなか、いつか来てしまうモラトリアムの終わりが漠然と怖くて、そこから逃げたい気持ちがあって。いわゆる「漠然とした不安」というか。そういう気持ちを紛らわす場所としてファミレスがあったんです。

柴田:お互い大阪の中心部に住んでいたわけじゃないので、ワイワイ過ごしても結局帰るところは郊外で。その帰路でダウナーになったりする気持ちが前作にはかなり反映されていると思います。

―おふたりは大阪のどちらの出身なんでしたっけ?

柴田:僕は泉大津市っていう港町です。住宅街があって、超でかいダイエーがあるような場所です。

西山:僕は堺市の泉北ニュータウン出身です。高度経済成長時代に労働者をたくさん住まわせるために作られたような団地がたくさんあるところで。今、再開発が進んでいますけど、それこそ前作の収録曲“OLDNEWTOWN”の名前にもなっているとおり、すごく古いニュータウンです。

パソコン音楽クラブ“OLDNEWTOWN”を聴く(Apple Musicはこちら

失われたものを懐かしんで焦がれているというわけではない。(柴田)

―ニュータウンのように人が暮らすために最適化された場所で育ったことが、おふたりのパーソナリティーやパソコン音楽クラブの音楽に影響を与えている部分もあるんでしょうか?

柴田:あると思います。ニュータウンみたいに人為的に整理された街って、ときを経て人の暮らしが変わっていくなかでどうしても廃れていく場所があると思うんです。

そこに生まれる余白や隙間みたいなものに惹かれます。今まで役立っていたものが突然必要とされなくなったときに生じる、その無意味さ。でも、妙に居心地がよかったりする。その感覚はパソコン音楽クラブの音楽がシンパシーを抱いている部分でもあるなあ、と。

西山:僕が住んでいた団地は、もともとたくさんの人が住んでいたところなんですが、僕が高校生の頃に出ていったときには一棟に1~2世帯くらいしか残っていないような過疎状態になっていて。実際にかつて生活していた場所がそうやってどんどん朽ちて孤立していく。それがなんとなく頭のなかで美化されているような……そういう喪失感へ妙に美しさを感じてしまうんです。

―それって、「昔はよかったな」という単純なノスタルジーとも違いますよね。

柴田:違いますね。失われたものを懐かしんで焦がれているというわけではない。

西山:僕らの音楽をノスタルジー的な文脈で語ってくれる人もいるんですけど、自分たちとしてはその感覚はあまりないですね。自分の子ども時代のことや、ほんの数年前とか数日前に経験したことや、YouTubeで見たもの、もっといえば自分が実際に経験していないことまでもが記憶のなかで融合して消化されて、時間軸を超えて並列に思えてくる感覚というか。

柴田:かつてあった「昔風」の情緒を再現するというより、匂いとか、建物の質感とか自体について考えているんだと思います。そういう記憶のなかのテクスチャーみたいなものが、どこか高次の部分でシンセサイザーのプリセット音と結びついてきたりするんですよ。

たとえば、地下鉄御堂筋線って、1990年の『大阪花博』(『国際花と緑の博覧会』)のために整えられた路線らしいんですけど、ホームに流れる電車発着の合図がパッド系のめちゃアンビエントなシンセの音で。そういうのをふと聴くと、「うわ~、くるわ~」って(笑)。

―面白いですね。今回リリースされた『Night Flow』も、シンセサイザーの音選びとして環境音楽~アンビエント的な色彩が増していますよね。

パソコン音楽クラブ『Night Flow』を聴く(Apple Musicはこちら

柴田:吉村弘さんの『Air In Resort』(1984年)という作品をはじめて聴いたとき、環境音と混じり合う電子音って別の次元に気持ちを連れて行ってくれるなと感動したんです。その感覚が今作にも影響しているかもしれませんね。

それと、静かな夜のなかで耳を澄ましていると、本当は鳴っていないはずの音が聴こえてくるような気持ちになることがよくあって。それが環境音楽的なものの美しさと結びついたというのがあります。

(夜は)おそらく感受性も鋭くなっているのかもしれない。いろんなものに感動する一方で、すごく怖さを感じてしまったり。(西山)

―資料を拝見すると、今作は「夜から朝までの時間の流れにおける感覚の動き」をテーマにしているとのことですが、なぜこのテーマで制作をしたのでしょうか?

柴田:アルバムの重要な要素として「ときめき」みたいなものがあって。大学生の頃、よくふたりで真夜中に自転車で郊外から大阪の中心部に行ってたんです。

そういうときに、日中は人がたくさんいる街もすごく閑散としていて、自分たちだけが取り残されたみたいな気持ちになって。なんでもない工事の立て看板とかガソリンスタンドの電光掲示とか、そういうものに急にときめいてしまうということがよくあったんです。

西山:ただ車がガラガラの道を通過していく様子とか、人がいないところでの信号の変化とか、ひと部屋だけ明かりが点いているマンションとか……そういう普通のことが非日常感のなかで特別に見えてくる瞬間というか。

―昔から「逢魔が時」とか、「丑三つ時」とかという言葉で表される感覚に近いんですかね? 夢とうつつが出会う時間というか。

西山:まさにそうですね。そういうときって、景色だけじゃなくて、「自分のイヤホン、こんな高性能だったっけ?」と思ってしまうくらい、やけに音楽がクリアに聴こえたりするんですよ。物理的に昼間に比べて雑音が少ないってこともあるのかもしれないのですけど、おそらく感受性も鋭くなっているのかもしれない。いろんなものに感動する一方で、すごく怖さを感じてしまったり。

柴田:そういう感覚って、もしかしたら歳をとっていくにつれてどんどんなくなっていってしまうんじゃないかという不安感みたいなものもあって。

西山:そう。はっきりとはわからないけど、なにかタイムリミットのようなものがあって、なにも考えずに過ごしていたらそういう感覚が失われてしまうかもしれない、という。その感覚を、音楽を作ることで繋ぎ止めておきたい、という気持ちもあります。

柴田:いずれは終わってしまうものへの眼差しということでいうと、夜というもの自体がそうですよね。いつかは明けて朝が来る。それが自分たちに迫るリミットと重ね合わさって、夜をより特別な時間にしているのかもしれません。

―さっきの朽ちていくニュータウンや取り残された空間についての話もふくめて、経済活動が一旦停止している資本主義におけるエアポケット的な空間や時間に魅力を感じる、ということなのでしょうか? 赤瀬川原平の「トマソン」(不動産に付属し、まるで展示するかのように美しく保存されている無用の長物を指す、芸術上の概念)にも通じるような話ですね。

西山:ああ、まさしくそういう感覚はあるような気がします。

計算に基づいた「最適解」みたいなものじゃない音楽こそ面白い。(西山)

―前作リリース以後、飛躍的に知名度をあげて、今もまさに新作リリースに際してすごく注目度が高まってきていると思うんですが、将来を見据えて、これから自分たちの活動はどうなっていくと思いますか?

西山:ふたりでたまに話すんですけど、音源制作は死ぬまでやりたいです。音楽性はどんどん変わっていくと思うんですけどね。

柴田:定年後もシニアの部活動としてやっていけたら、と(笑)。

―どこかの町のカルチャーセンターでDTM茶会をしているかも。

西山:(笑)。

―最後の質問です。このところのDAWにはリズムパターンを自動で付けてくれる機能があったり、音楽制作においてもAI技術の進歩は目覚ましいものがあります。おふたりは、音楽制作におけるシンギュラリティーは起こると思いますか?

柴田:シンセの誕生とか、ドラムマシンの発明とか、自分がこれまでそういう大々的な技術の更新にリアルタイムで立ち会っていないから、あまりAIの脅威みたいなものに実感が湧かないですね。

西山:僕は音楽制作におけるシンギュラリティーのようなものは起こると思います。でも、それによって奪われる仕事があるとするなら、それは仕方ないのかなと。

コンピューターが過去の膨大なサンプルを参考にしながら技術面で飛躍するということはあるかもしれないけど、今まで誰も聴いたことのないようなものが生まれるのかというと、それは疑問なのかなと思っています。

―おふたりの作っている音楽って、ただ技術的な新しさを求めていくというより、むしろそこにある文脈を撹乱していくものだと思うんです。そういうことはまだまだ人間に分があるように思うし、それこそがもっとも人間が得意とすることなのかなと思うんです。

柴田:なるほど……それに加えて思うのは、さっき言ったような夜とアンビエントの音色が高次の部分で結びつくことも、ある意味で人間ならではのバグだと思うんですよ。そういう無意識のエラーに基づく創作はまだまだ機械には難しいと思っていて。

さよひめぼうさんっていう、複雑なボイスカットアップとかを駆使したヤバいトラックを作る作家の方がいるんですけど、「どうしてこんな音楽になったんですか?」って本人に聴いたら、「ヴェイパーウェイヴを生演奏だと勘違いしてコピーしようとしたらそうなった」って言ってて。それを聞いて、「そんなすごいバグが起こるんや!」と感動してしまって(笑)。考えてみればハウスだってもともとはディスコを作ろうとしてリズムマシンをいじっていたらあんなふうなものが生まれてしまったわけで……。

西山:人間が作る音楽って、そういう意図しない勘違いみたいなのが魅力的ですよね。そういう計算に基づいた「最適解」みたいなものじゃない音楽こそ面白いし。

―「パソコン音楽クラブ」っていう一見無機質な名前を掲げながらも、おふたりの音楽がヒューマンな魅力に強く根ざしているように感じるっていうのも、今話してくれたことに照らすとすごく納得がいく気がします。

西山:そうですね。僕らも古い機材を使うなかでそういう勘違いを犯していると思うし。でもまあ、それこそ量子コンピュータとかが実用化されたら、そういう領域すらAIに取り込まれてしまうかもしれないですけど……(笑)。

柴田:まあ、まずはどうあれ、80歳まで音楽を作っていきましょう(笑)。

リリース情報
パソコン音楽クラブ
『Night Flow』(CD)

2019年9月4日(水)発売
価格:2,160円(税込)
PSCM002

1. Invisible Border(intro)
2. Air Waves
3. Yukue
4. reiji no machi
5. Motion of sphere
6. In the eyes of MIND
7. Time to renew
8. Swallowed by darkness
9. hikari

イベント情報
『パソコン音楽クラブ2ndアルバム「Night Flow」リリースパーティー』

2019年9月7日(土)
会場:大阪府 南堀江 SOCORE FACTORY
出演:
長谷川白紙
パソコン音楽クラブ

2019年10月12日(土)
会場:京都府 CLUB METRO
出演:
Soichi Terada(House Set)
SEKITOVA
Stones Taro(NC4K)
cool japan
seaketa
パソコン音楽クラブ

2019年 10月26日(土)
会場:東京都 渋谷 WWW
出演:
長谷川白紙
パソコン音楽クラブ

プロフィール
パソコン音楽クラブ
パソコン音楽クラブ (ぱそこんおんがくくらぶ)

2015年結成。ローランドSCシリーズやヤマハMUシリーズなど1990年代の音源モジュールやデジタルシンセサイザーを用いた音楽を構築。2017年に配信作品『PARKCITY』を発表。tofubeatsをはじめ、他アーティスト作品への参加やリミックス、演奏会、ラフォーレ原宿グランバザールのTV-CMソングなど幅広い分野で活動。2018年6月に自身初となるフィジカル作『DREAM WALK』をリリース。2018年9月、2ndアルバム『Night Flow』を発表。



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