西寺郷太が語る創作の楽しさ 異分野を繋ぐことで生まれる化学反応

「BIGLOBE Style」が主催するイベント『イノベーションミーティング2020』が、2月13日に開催される。さまざまな分野を牽引するイノベーターが登壇し、それぞれが実践する働き方、社会の変化、未来を生き抜くための術について語られる。

今回、イベント登壇者のひとりである西寺郷太と「BIGLOBE Style」編集長の桑原晴代の事前対談を行い、BIGLOBE Styleが目指す「イノベーション」ついて話し合ってもらった。NONA REEVESのフロントマンをはじめ、音楽プロデュースや書籍執筆など、多方面で活躍する西寺個人の「イノベーション」を皮切りに、V6、SANABAGUN.、そして小沢一郎にマイケル・ジャクソンと、多角的に拡散したトークをここに記録する。

きっかけは「小沢一郎、マイケル・ジャクソンほぼ同一人物説」

―今回のテーマは「イノベーション」ですが、この言葉は、実体のわからない横文字として捉えられる向きがあると思います。桑原さんはどのようなものを「イノベーション」と考えていますか?

桑原:さまざまな文脈で用いられる、大きな言葉ですよね。私たちが今注目しているのは、些細だけれど生活が劇的に変わるようなアイデアです。「なぜこれが今まで世の中になかったんだろう」というようなアイデアを見つけて、いち早く形にして世の中に出すことを、ひとつの「イノベーション」として捉えています。

―具体的にどのようなものでしょう?

桑原:有名なところだと、Uberを代表とするタクシー配車アプリですね。マレーシアに行ったときには配車アプリが普及していることに驚きました。潜在ニーズを捉えて、ちょっとの工夫で劇的に生活を変えるような試みに注目しています。

桑原晴代(くわばら はるよ)
NEC入社後、パソコンの販売促進業務を担当。BIGLOBEに異動後は、会員向けサービス企画開発やウェブメディア企画運営等に携わる。その後人事部門に異動し、2017年4月から人事部グループリーダーとして採用を担当。2019年12月にウェブメディア「BIGLOBE Style」を立ち上げ編集長に就任。

―イベントには西寺さんも登壇されます。そうした「イノベーション」を意図するイベントに、アーティストである西寺さんをお呼びしたのはどのような意図があったのでしょうか?

桑原:「BIGLOBE Style」は、さまざまな業種の方にご協力をいただきながら作り上げていきたいと考えています。その中で生まれる化学反応がイノベーションを生み出すヒントになればと。だから今回のイベントでは、業種や業界はあえてバラバラにして、「枠を飛び出している人」にお声がけしました。

西寺さんはNONA REEVESとして20年以上音楽を続けながら、アーティストのプロデュースや、小説、『伝わるノートマジック』(2019年、スモール出版)などの執筆活動を平行して手がけています。ご自身の豊富な引き出しをフルに使って活動されていて、その活動の幅がどのように広がっていったのか伺いたいと思っていたんです。

『伝わるノートマジック』表紙
『伝わるノートマジック』より

―ビジネス以外の分野からもイノベーションを生み出すヒントを得よう、ということですね。西寺さんはこのテーマをどのように捉えていますか?

西寺:最初、「イノベーティブ」がテーマと聞いて、僕で大丈夫か? って聞きました(笑)。小学生の頃から一貫して凄い仲間とバンドを組んで作品をリリースしたいという思い、同時にプロデューサーとして他のアーティストに楽曲提供をしたいという思いを持っていただけです。プリンスが女性の曲をさらっと作るのがかっこいいなって。

ただ、桑原さんのおっしゃる「幅の広がり」という意味で、音楽の枠からはみ出たきっかけはTBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』でした。宇多丸(RHYMESTER)さんがゲストとともに映画、音楽を中心に様々なカルチャーを発信する人気番組だったんですが、そこで2007年の秋に「小沢一郎、マイケル・ジャクソンほぼ同一人物説」という説を発表させてもらったんです。

―小沢一郎、マイケル・ジャクソンほぼ同一人物説とは?

西寺:もともと僕は小学生の頃から、日本の政治の仕組み、特に選挙が好きだったんです。で、遡って戦後のGHQの研究もしていて、自分のファンを集めてトークイベントを開いていたんですね。あるとき宇多丸さんから「ラジオで政治のことを喋ってほしい」という相談があったんですけど、普通に政治を話しても「なんでお前が?」となる気がして。トークイベントならまだしもラジオは、政治家だって政治記者だって聞くわけで。前日くらいになんとか自分のストロングポイントである音楽と繋げられないかなと。で、小沢一郎とマイケルの詳細な年表を作り、行動がことごとく一致する、とこじつける説を提唱したんです。

西寺郷太(にしでら ごうた)
1973年東京生まれ京都育ち。早稲田大学在学時に結成したバンド「NONA REEVES」のシンガー、メインソングライターとして、1997年デビュー。以後、音楽プロデューサー、作詞・作曲家としても少年隊、SMAP、V6、YUKI、鈴木雅之、岡村靖幸、私立恵比寿中学などの多くの作品、アーティストに携わる。日本屈指の音楽研究家としても知られ、近年では特に1980年代音楽の伝承者としてテレビ・ラジオ出演、雑誌連載など精力的に活動。

西寺:小沢一郎が政治家になったのとマイケルがデビューしたタイミングは1969年秋冬でほぼ同じ、自民党の田中角栄、モータウンのベリー・ゴーディ・ジュニア、それぞれの「オヤジ」からの寵愛。動物と仲良くしてる、よく雲隠れする、マスクしてるとか。とにかく時系列を合わせて細かくこじつけたんですけど。その放送をリスナーだけでなく、大滝詠一さん、水道橋博士さん、小林信彦さんなど先輩方が面白がってくれて。まだマイケルも亡くなってなかったですし。そこから音楽以外の仕事が広がっていったんですよね。だから「小沢マイケル同一人物説」が、活動の幅が広がるターニングポイントだったのかもしれません。

桑原:今の西寺さんのお話を伺っていて、「計画的偶発性理論」というキャリア理論を思い出しました。アメリカ・スタンフォード大学のジョン・D・クルンボルツ教授という方が提唱しているもので、偶然を引き寄せてそれをうまく自分の持っている武器と組み合わせ、さらに発展させてキャリア形成していくという。

西寺:「マイケル小沢ほぼ同一人物説」は、まさに計画的偶発性の産物ですね(笑)。その後、「ほぼ同一人物説」という概念で、いろんな人が「あの人とあの人も」みたいな説を発表していました。

桑原:偶発性を引き寄せるには、「好奇心」「持続性」「柔軟性」「冒険心」「楽観性」の5つが必要と言われています。

西寺:そう聞くと自分に当てはまる気がしますね(笑)。それに加えて、自分の好きなことを軸にする、というのが重要だと思います。若い人ならアニメでもいいし、ゲームでもいいし、インターネットの裏技ならなんでも知ってるとかでもいい。一番になれる可能性のあるものを追いかけてみる。「こんなことが?」って思うかもしれないけれど、昔から僕が夢中になってきたマイケル・ジャクソンや政治、選挙制度に関しては、当時の仲間からしたら「こんなことが?」だったので。改めて考えてみると、それが「枠を飛び出す」ことに繋がったのかもしれません。

二度とやりたくないようなことをまたやりたいと思ってしまうとき、「V6岡田くんの山登りの話をよく思い出す」

―西寺さんは音楽中心にいくつかの領域をまたいで仕事を実践されていますが、苦しさを感じることはあるんですか?

西寺:文章を書いてるときです。特に、田中宗一郎さんと宇野維正さんが1月末に出す『2010s』(新潮社)という本の解説を書いたことが、人生で一番苦しかったですね(笑)。おとといですけど。

―詳しく教えていただけますか?

西寺:タナソウさん(田中宗一郎)は『SNOOZER』(リトル・モア)という雑誌をかつて出していたけれど、僕やNONA REEVESのことなんか多分1行も書いていないんですよ(笑)。ZAZEN BOYS、スーパーカー、くるりとかをさんざん褒めていたのに、なんで俺が彼の本の紹介文書かなきゃいけないんだ、と(笑)。ただ数多い音楽評論家やライターではなく、ミュージシャンの僕をふたりが選んで依頼をしてくれたわけだから応えたいなと。今、月12本以上連載してるんですが、文章を書くたびに大変だなと思いますね。

―それでも文章を書くのは、どうしてなのでしょう?

西寺:その質問で思い出すのが、何年か前にV6のプロデュースをした時、レコーディング・スタジオで岡田くんが「僕、『山岳部』っていうの作ってて部長なんです」って話してくれたんです。「どんな山を登るの?」って聞いたら、「いろいろなんですけど。装備だけで何十万ってかけないといけないほどの山で、どうしてもって言う友達がいたんで連れて行ったら激怒されたくらいの山も登ります」と。「楽しいの?」って聞いても、「もちろん楽しいんですけど、キツ過ぎる山の場合は全く楽しくない」って言ってて(笑)。「じゃ、険しい山に登らなきゃいいんじゃないの?」って聞いたら、「登ってる最中はもうこれでやめようと思うんですけど、しばらくすると、なんだかまた超キツい山に登りたくなっちゃうんですよ」って……僕が文章書くのもまさにそれなんですよね(笑)。

西寺:文章を完璧に書くって、本当にめちゃくちゃ難しいんです。いろんな資料に当たって、穴がないように何度もチェックする。それでも完璧な原稿なんてそうそう書けない。でも、終わったらすごくスッキリするんです。プリンスのことにせよ、マイケル・ジャクソンのことにせよ、今回の田中宗一郎さんと宇野維正さんの本にせよ、一旦テーマとなる対象をインプットして文章としてアウトプットする段階で改めて発見することも多くて。終わった直後は二度とやるか、って思うけど、しばらくするとまたやりたくなる。そんなとき、岡田くんがしてくれた話をよく思い出すんですよね。

―音楽に関しては、生みの苦しみはないんですか?

西寺:〆切前は過集中して時間の感覚がなくなるんですが、それが楽しいですね。音楽以外のこともやっているからいつも音楽を楽しめている、ということなのかもしれません。

―いろんな楽しみがあると思いますが、最近楽しさを感じたのはどういう瞬間でしたか?

西寺:V6の話ばかりで恐縮ですが、最近も20th Century(トニセン)の曲を3曲制作していたんですが、3曲それぞれ関わり方が違っていて。そのうちの1曲は、勢いある若手バンドSANABAGUN.の大林亮三と一緒に作りました。以前SANABAGUN.のプロデュースをさせてもらったとき、ベーシストの亮三が「郷太さんと一緒に曲が作りたいです。勉強させてください」って言うから「まだ世の中に出してない曲を持ってウチのスタジオにおいで」って誘ったんです。

それで彼が持ってきたベースラインやいくつかのフレーズのアイディアを1つに混ぜて完成したのが“グレイテスト・ラヴァー”です。編曲は、僕の憧れのアレンジャー船山基紀さん。King & Princeの“シンデレラガール”とか、KinKi Kidsの“ジェットコースター・ロマンス”とか 少年隊の“仮面舞踏会”ほか、ジャニーズ関連以外でも無数のヒット曲を手がけた方。僕が世代的に真ん中になって、若手と超大御所と組んで、世代を跨いだ音楽をつくるのは、新鮮ですごく楽しかった。船山さんが書かれたオーケストラ・スコアは宝物ですね。

「平成時代の負の遺産は、物事を単純化しすぎたことだと思っています」(西寺)

―いくつかの分野をまたぐことが相乗効果になるというのは、現代を生きる上でのヒントになりますね。働き方という意味で、これからの時代はどうなっていくのでしょうか?

桑原:最近はサラリーマンでも副業をする人が増えています。外で新しい技術を学んでくる機会にもなるし、会社にとっても個人にとっても非常に良い機会になります。

副業というと会社の仕事をおろそかにして外の仕事でお金を稼いでくる、みたいなマイナスのイメージがあったと思うんですけれど、それも変わってきています。自分のスキルやキャリアについて考えて、実践しやすい環境なのかなと。

―そういった世の中の変化を受けて、音楽や文化産業はこれからどう変化していくと思いますか?

西寺:僕は平成時代の負の遺産に、「物事を単純化しすぎたこと」があると思っています。「すぐにわかるようにしないと駄目だ」という考えのもと、難解なものを忌避し続けたことの罪は大きい。

自分の好きな歌より、みんなの好きな歌を歌った方が良いという文化が、カラオケによって広がったと思うんです。急に洋楽とか歌うと冷めるし、ランキング上位の曲を連続していれよう! みたいな。歌って楽しむのは音楽の魅力のひとつですけど、それによって、プロの歌に耳を傾けたり、楽器を練習して演奏するよりも、酒を飲んで自分で歌って騒ぐ方が楽しくなっちゃった。

たとえば、チョコレートやマシュマロの美味しさはあるとして、納豆やミョウガ、ワサビの臭かったり苦かったり辛かったり、結果クセになるという複雑な良さもある。平成は「単純化」がさまざまな分野で起きた時代だと思います。

―西寺さん自身は、どのようにその現実と向き合っていこうと考えていますか?

西寺:先ほど話したトニセンの曲は、若いSANABAGUN.とベテランの船山基紀さんを引き合わせることができました。坂本さん、長野さん、井ノ原君が素晴らしいのは昭和の歌って踊るジャニーズの歴史を知る世代が、今まさにモダンなフォルムでサバイバルしているということです。それを考えると、僕が好きな人や現象はすべて、ある意味で歴史を繋ぐ作業をおこたらない、というポイントを抑えているかどうかだなって今思います。「マイケルと小沢一郎」も、その駄話をきっかけにそれぞれの歴史を追いかけてみてほしかったというのが出発点です。偉大な先輩がいて、自分がいて、それからもっと若い連中がいて、その長い時間を自分なりの形で圧縮すること。それはとても難しいことですが、異なる領域を繋いで作り上げた音楽は、10歳以下の人たちにだって絶対に届くんですよ。むしろ子供や若い人の方が「複雑だ」なんて考えません。

―わかりやすいものを追い求める風潮は、令和時代となった現在も続いていると思います。特にメディア環境はこの課題に直面していますよね。

桑原:そうですね。以前、BIGLOBEのニュースサイトを担当していたのですが、猫の動画ってとにかくアクセス数が伸びるんですよ。読者ニーズがすごくあるんですね。こちらとしてもアクセス数目標に近づくために掲載する。ただ、ニュース媒体としての本質はそこだろうかという葛藤はありました。

「BIGLOBE Style」は新たなオウンドメディアのあり方を追求しながら、情報発信し続けるという責務があると思っています。

―『BIGLOBE Styleイノベーションミーティング2020』は、ひとつのきっかけになるのではないでしょうか?

桑原:今回のイベントは、前半で「イノベーションの現在地」というテーマを、後半パートでは「イノベーティブな人材と働き方」についてお話をしていただきます。業界、業種に捉われない方々にお越しいただくので、いったいどんな話になるのか、想像もできないんですよね。答えが予測できないからこそ、足を運んでいただく意味があると思っています。

西寺:「計画的偶発性理論」、今日教わった言葉ですが、まさにその理論が具現化されたようなイベントになるかなと。お話を聞いて、当日出会える皆さんとの化学反応がともかく楽しみになりました。

イベント情報
『BIGLOBE Styleイノベーションミーティング2020』

2020年2月13日(木)
会場:渋谷ユーロライブ
出演者:
西寺郷太(NONA REEVES / 音楽プロデューサー / 作家)
陳暁夏代(DIGDOG 代表)
水野祐(法律家)
仲山優姫(編集者 / 株式会社コルク)
東松寛文(リーマントラベラー)
料金:無料

プロフィール
西寺郷太 (にしでら ごうた)

1973年東京生まれ京都育ち。早稲田大学在学時に結成したバンド「NONA REEVES」のシンガー、メイン・ソングライターとして、1997年デビュー。以後、音楽プロデューサー、作詞・作曲家としても少年隊、SMAP、V6、YUKI、鈴木雅之、岡村靖幸、私立恵比寿中学などの多くの作品、アーティストに携わる。日本屈指の音楽研究家としても知られ、近年では特に80年代音楽の伝承者としてテレビ・ラジオ出演、雑誌連載など精力的に活動。マイケル・ジャクソン、プリンスなどの公式ライナーノーツを手がける他、執筆した書籍の数々はベストセラーに。代表作に小説『噂のメロディー・メイカー』(扶桑社)、『プリンス論』(新潮新書)など。現在NHK-FMで放送中の『ディスカバー・マイケル』に案内役としてレギュラー出演。

桑原晴代 (くわばら はるよ)

NEC入社後、パソコンの販売促進業務を担当。BIGLOBEに異動後は、会員向けサービス企画開発やWebメディア企画運営等に携わる。その後人事部門に異動し、2017年4月から人事部グループリーダーとして採用を担当。2019年12月にWEBメディア「BIGLOBE Style」を立ち上げ、編集長に就任。



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