漫画への憧れと、持ち前の度胸で夢を掴む。日向山葵の制作のヒミツ

本の挿絵やCDジャケット、チラシやポスターなど、ごく身近にあるさまざまなものに描かれ、私たちの生活を豊かにしてくれるイラスト。とくに家で過ごす時間が増えた昨今こそ、その面白さに気づく機会も多いのではないでしょうか。そんなイラストの描き手の発想の根源に迫るべく、3人のイラストレーターの制作現場や日々のワークスタイルを紹介する連載「イラストレーターの仕事風景」。

第2回目は、ミュージシャンのグッズイラストやginzamag.comでの漫画連載『パーフェクトシンドローム』など、多方面で活躍する漫画家 / イラストレーターの日向山葵が登場。持ち前の度胸で、自信を持って飛び込んだ経験が、いまの仕事につながっていると言います。

人生を変えたシャムキャッツとの出会いから、漫画連載に抜擢されるまでの道のりとは? 新作ペンタブレット「HUAWEI MatePad 11」を体験し、特別にイラストも描き下ろしてもらいました。

日向山葵(ひなた わさび)

1991年生まれのイラストレーター、漫画家。2018年よりフリーランスとして活動を始める。ふだんは液晶タブレットを使用し、AdobeのPhotoshopで制作。

日向さんが手掛けた、TETRA RECORDSのグッズイラスト

日向さんが手掛けた、CINRA主催イベント『シャムキャッツ 夏目知幸が送る 10年分の歌とことば』ビジュアル

日向さんが手掛けた、PINTSCOPEにて連載中の漫画『ときめき一杯 映画デート』の一部(サイトで見る

フラストレーションを原動力に、漫画家の道を目指した子ども時代

ー日向さんが絵を描き始めたきっかけを教えてください。

日向:幼稚園のときに仲のよかった友達のマホちゃんと、どちらが上手に絵を描けるか競いあっていたのが、一番最初の絵の記憶です。母が漫画やアニメが好きで家にたくさんあったので、小学低学年くらいから漫画にのめり込んでいきました。それから「漫画家ってかっこよくて楽しそう!」と意識するようになりましたね。

ー漫画家への憧れが原点にあるんですね。

日向:そうですね。それで、小学4年生のときに絵が上手な友達と一緒に漫画雑誌みたいなものをつくったんです。みんなで絵を描いてホチキスで綴じて、セロテープで表紙をラミネートみたいにコーティングして一丁前に「スイーツ☆」っていう名前をつけた本が完成しました。それが、つくることの原体験なのかなと思います。

ー小学生のときにいわゆるZINEをつくっていたってことですよね。そのときから漫画家になりたいという夢を持っていたんですか?

日向:ZINEと呼べるほどかっこいいいものではなかったですが(笑)、漠然と「将来は漫画を仕事にする」という気持ちはありました。他の進路を考えることもなかったと思います。母親も漫画家志望でしたし、2つ上の姉も絵が上手だったので、環境的には自然な流れだったのかも。ただ、姉はけっこうモテたので、メインカルチャーのほうに進んでいきました。

ー「モテたので、メインカルチャーのほうに」って、面白いですね(笑)。

日向:小さいころから、モテない私とは少しずつ違いが生まれていきましたね(笑)。姉は女の子として真っ当に存在していけたけど、私は「女子であることが下手」という感じで、存在が謎ポジションだったなと。でもその分グループや派閥には属さずいろんなタイプと仲良くしていました。勉強はあまり好きじゃなかったんですが、中学生のときには生徒会長をやりました。それも高校受験を推薦でラクにパスするため、というずるい考えで(笑)。

ー「モテない」とおっしゃっていましたが、生徒会長をやって、分け隔てなく同級生と仲良くできるって、人望があってモテそうだなと思いますが。

日向:いやあ、本当にモテなかったですね~(笑)。とくに私が思春期を過ごしたころは、銀杏BOYZみたいなバンドが流行っていて「モテない奴のフラストレーション」みたいな表現が共感を生んで、ひとつのブームになっていたんですよ。当時から聴いている『エレ片のコント太郎』(TBSラジオ)も、そういう「モテない」話がよく出てきました。

私の進学した高校は女子校だったんですけど、ものすごく校則が厳しくて、いわゆる男女交際的な「THE青春」に無縁だったんです。でも、身近な存在である姉は都立高校の軽音楽部に所属して、「Zipper」みたいな裏原のファッションをしていた。私にはすごく華やかに見えました。

その落差を日々突きつけられて、沸々とした「モテない」みたいな気持ちをお腹のなかで燃やしてモチベーションにしていたみたいなことは、たしかにあったと思います。

日向さんが手掛けた、『けんすう×佐久間Pの「コロナ渦で変わる企画力」』イラスト | 早稲田ウィークリー(サイトで見る

『いつか普通に桜を見る日に』

ー日向さんは、作品もご本人も「フラストレーション」を感じさせる印象はなく、より自然体な気がします。

日向:なんていうか、ラクに生きるということも大切にしているんだと思うんです。もっと生真面目だったら悩んじゃったりして、辛かったかもしれないですね。これまで意外とどうにかなったし、どこかしら楽観的に考えられている気がします。父も自営でWeb制作をしていたんですが、時間に融通がきいて日中はソファーでずっとゴロゴロしてて、いい生き方だなあと憧れていたくらいなので(笑)。

人生を大きく変えたシャムキャッツとの出会いと、念願の漫画連載

ーそこから、現在の仕事にはどうつながっていくのでしょう?

日向:多摩美術大学に進学して、版画を専攻しました。版画という表現にリスペクトはあるんですけど、賞に応募して個展を開いて……という伝統的なプロセスが、自分のやりたいこととどう交わるのかイメージが湧かなくて、その先に未来が見えなかったんです。そんなタイミングで、シャムキャッツとの出会いがあって、それが大きなターニングポイントになったと思っています。

ーどんな出会いだったのでしょう?

日向:最初は音楽を聴いて好きになったんですけど、当時シャムキャッツの周りには東京中のインディペンデントで面白いことをしているクリエイターがたくさん集まっていたんです。

ミュージシャンもイラストレーターもそれ以外にもいろんなクリエイターがいました。それで「シャムキャッツと一緒に仕事がしたい!」という目標を掲げて、大学3年生のときに自分で描いた大作イラストをライブ会場に持っていって、メンバーのみなさんに見てもらったんです。

日向さんがシャムキャッツ主催イベント『EASY』で制作した『シャムキャッツをさがせ!』と、メンバーとの思い出

日向:当時、自分には何もなかったからこそ、そうやって大胆なことができたんだと思います(笑)。それから、シャムキャッツが主催するイベントのときにイラストを掲出してくれたり、ブースを出店したりして、はじめてたくさんの人に自分の作品を見てもらえたんです。いろんなリアクションを間近で見れたのはドキドキしました。

だからそこで、シャムキャッツに自分をグッと引き上げてもらったという感覚でした。彼らと出会えなかったら、人生が違ったと思います。

日向さんが手掛けた、シャムキャッツ2018夏グッズ イラストタオル

日向さんが手掛けた、シャムキャッツ2017夏グッズ イラストタオル

日向さんが手掛けた、シャムキャッツのアロハシャツ(2017〜2019年)

ーその後、日向さんは一度就職し、会社員を経験したのちフリーランスのイラストレーターとなります。雑誌GINZAのWebサイト「ginzamag.com」での漫画連載『パーフェクトシンドローム』も広く知られるきっかけになったと思いますが、まずは就職を選んだ理由を教えていただけますか?

日向:まずはデジタル技術に強くなりたいと思い、Web制作会社に就職しました。新卒でゼロからウェブ制作を学んで、サイトをつくるためのプロジェクトの管理から、IllustratorやPhotoshopなどツールの使い方まで、いろいろ教わりました。会社の仕事をしつつ、並行してイラストの仕事も少しずつ頑張っていました。

入社前、大学4年のころに自主制作漫画を販売したんです。小学生のときからの呪いみたいに「漫画家になりたい」という気持ちはずっと残っていたんですね。その漫画を某大手出版社の編集の方が読んでくださって「よかったらうちで連載しないですか?」とお声掛けをいただいたんです。でも、会社員になってみると忙しさと実力不足で連載の話はポシャッちゃったんですが(苦笑)。そのときは、焦りと絶望でいっぱいでした。

『パーフェクトシンドローム』はその数年後、会社を辞めてフリーランスになってから知り合った編集さんに「漫画描かないですか?」とお声をかけてもらってから誕生しました。漫画に挫折した当時の自分を成仏させてあげるみたいな気持ちでした。

ginzamag.comにて連載した漫画『パーフェクトシンドローム』の一部(サイトで見る

ー『パーフェクトシンドローム』の主人公は会社勤めの女性で、植物を買うことでストレスを発散していますが、日向さん自身の経験を描かれたのでしょうか?

日向:そうですね、会社員時代に植物をひたすら買うことで気持ちを埋めていたので、その点は自分自身の体験を反映しています。ただ、すべて私というわけではないですね。仕事ぶりは当時の上司だった先輩をモデルにしました。

「イラストは額のなかに収まるものより、人の生活のそばにあってほしい」

ーイラストレーターとして、日向さんが影響を受けたイラストレーターや作品はありますか?

日向:好きなものは小さいころから変わっていないんですよね。玖保キリコさんの漫画『シニカル・ヒステリー・アワー』は、もともと母の蔵書にあって家族みんなで読んでいたんですけど、そのころから大好きでした。線がきっちり描かれているんですけど、自由曲線の柔らかさがあって、かつお洒落なんですよね。影響を受けていると思います。

日向:ラフで素敵なイラストを描かれる方にも憧れるんですけど、私はきっちりした線じゃないと気持ちがザワザワしてしまうんです。かっちりしているんだけど、それでいて遊び心があって素敵な絵に惹かれるってことに最近気がつきました。

ーたしかに、『シニカル・ヒステリー・アワー』は明瞭な線で描かれていますね。

日向:漫画でも、イラストがグッズ化されたときに違和感がない作品に惹かれるのかもしれないです。漫画のなかを飛び越えて、グッズとしても独立できる絵が好きというか。

ー生活のなかに存在していても違和感がない絵、ということですか?

日向:たとえばTシャツになったときに、違和感なく素敵になるかということは考えていますね。イラストは額のなかに収まるものより、人の生活のそばにあってほしいと思っていて。好きなものをそばに置いておきたいというのは、自分の趣味趣向なのかもしれません。

あとは、彩花みんさんの『赤ずきんチャチャ』が好きですね。これはどちらかと言うと、話のノリやテンポ感が好きです。登場人物みんなが元気いっぱいでとにかく楽しい! ノリだけで言ったら『ボボボーボ・ボーボボ』も好きです(笑)。

日向:私のイラストって、けっこうラフなものだと思われることが多いんです。でもじつは、厳選したしっかりした線で描いているんです。

あと、かっこよさのなかに「ダサさ」みたいな要素を残すことは意識的にやっています。かっこよすぎるものをつくると、思春期の自分に「けっ」って思われる気がして(笑)。それがラフさとか親しみやすさにつながっているんじゃないかなと思います。

仕事中はBGMとして、奥のモニターで映画を流しているという

日向さんの1日のタイムスケジュールを紹介

ー今日は日向さんの自宅兼仕事場にお邪魔していますが、仕事場のこだわりはありますか?

日向:この部屋は最近引っ越してきたばかりなのですが、窓が多いのがお気に入りです。ようやく部屋が片付いたところなんですが、もっと植物や気持ちが上がるガラクタを増やしたいなと思っています。

作業スペース。手前には本棚、奥は寝室

本棚には漫画がたくさん並んでいる

ー1日の仕事のタイムスケジュールを教えてください。

13:30〜14:00 準備や料理
14:00〜15:00 食事
15:00〜16:00 メールチェックなどしながら、PCの前でぼんやりする
16:00〜20:00 イラスト制作
20:00〜21:00 食事
21:00〜23:00 イラスト制作
23:00〜24:00 休憩
24:00〜26:00 イラスト制作
26:00〜27:00 入浴、映画やドラマを見る
28:00〜13:30 就寝

日向:仕事が忙しい日と何もしていない日で、すごい波がありまして(笑)。朝、目覚ましで起きるのがすごい嫌なので、目覚めたときに起きています……。

ー外にはあまり出られないのですか?

日向:コロナの影響もあって、一度外に出たらお風呂に入るまで絶対にベッドに上がっちゃダメっていう決まりにしているんです。なので、面倒臭さが勝ってあまり出ないんですよね(笑)。

ー毎日ルーティーンにしていることは何かありますか?

日向:仕事を終えて寝る前に、いつも映画やドラマを見ています。最近はドラマ版の『ウォッチメン』とか『千原ジュニアの座王』にハマっていて、各種サブスクをフル活用していますね。家のなかでのささやかな幸せで生きています。家で平和に過ごすのが好きなインドア人間なので、簡単なものだけど、料理も日々の楽しみです。

日向さんのイラストを支える、愛用グッズ3点

ー日向さんのイラスト制作に欠かせない、お気に入りの愛用品を3つ教えてください。

その① お茶

日向:制作中はお茶をたくさん飲みます。お茶っ葉は何種類かストックしていて、その日の気分で淹れています。大容量で何度も継ぎ足さなくていいので、お寿司柄の湯飲みがお気に入りです。

その② 膝かけ

日向:仕事中に足下が冷えるので、最近購入しました。軽くて暖かくて最高です。お昼寝のときも使っています。

その③ 『クレヨンしんちゃん』のライト

日向:しんちゃんは大好きで、ほかにもいろいろ持ってます。このライトは夜暗いなかでつけるともっと可愛いんです。さきほどの話にも通じますが、しんちゃんも漫画のなかだけじゃなく、グッズ単体になってもすごく可愛いので好きなんですよね。超リスペクトしています。

しんちゃんのお面を装着する日向さん

「必要なのは、戦略と度胸かもしれないですね」

ー日向さんに「HUAWEI MatePad 11」を使ってイラストを描いていただきました。普段タブレットは使用しますか?

日向:気分を切り替えたいときはタブレットを使ったりしますね。外に持っていけたり、より気楽な感覚で描けるんですよね。今回は、最近よくYouTubeや漫画アプリの広告で見かける、ゲームのイラストを描いてみました(笑)。

日向山葵によるイラスト『この人を助けよう!』(編集部命名)。「こういうゲームの広告、気になりすぎてついダウンロードしちゃいました」と日向さん。制作は「CLIP STUDIO PAINT」を使用、制作時間は5〜6時間

ーこれ、つい見ちゃいますよね(笑)。時代を象徴する表現だなという感じがします。

日向:そうですよね(笑)。いつか懐かしいものになったりするのかも。「HUAWEI MatePad 11」は、とにかく軽いのがよかったです。重いと描くときに疲れちゃうので。たまに気分転換に外に出てイラストを描くこともあるので、持ち運びやすいのはありがたいですね。あと、ペン先がボールペンみたいになっているので、細かい部分が描きやすかったです。

―今後やってみたいこと、挑戦したいことはありますか?

日向:スローペースでやっているエッセイ漫画を、今後はもっと描いていきたいです。これは完全に個人の制作なので、独自のギャグ的なノリに「本当に面白いか?」と制作中不安になることもあるのですが、もっとガンガンやっていきたいなと。ゆくゆくはまとめて1冊の漫画にしたいと思っているので、サボらず頑張っていきたいです。

―日向さんは、これまでのどんな経験や考えが、いまのお仕事につながっていると感じていますか?

日向:私は成功したというにはまだまだだと思っているんですけど、やっぱり自信を持つことは大事だと思います。昔から、根拠のない自信はずっとありました。そのおかげで、いろんなところに飛び込んでいけた気がします。

だから、これからイラストや漫画をはじめるなら、自信を持ってとにかく飛び込んでみるのがいいと思います。自分の不得意を克服していく過程で自信がついたりもすると思うんですよね。私の場合は、就職してウェブデザインを経験したことで、苦手だったデジタル技術、制作ノウハウを身につけることができました。それらの発想ややり方はイラストレーターをやっていくうえでとても役立っています。

ただ、無闇にやればいいというわけではなく、どこで勝負していきたいのかは考えたほうがいいと思います。自分が届けたい人に届けるためにジャンルを絞るとか、目にしてもらう機会をたくさんつくるにはどうしたいいか考えるとか。必要なのは、戦略と度胸かもしれないですね。

製品情報
HUAWEI MatePad 11

高精細なディスプレイを搭載した約11インチのタブレット。アメリカの老舗オーディオブランドHarman Kardonによるサウンドチューニングが施されており、画質だけでなく音質も高い品質となっている。タッチペンやキーボードと組み合わせて使うことで、ビジネスやクリエイティブの作業にも活用できる。
プロフィール
日向山葵 (ひなた わさび)

1991年生まれのイラストレーター、漫画家。2018年よりフリーランスとして活動を始める。

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