山縣良和と考える10代の「学び」。変幻自在な自分を知ること

2019年11月にグランドオープンした渋谷パルコの9階で、中高生向けのクリエイティブな学びの集積地「GAKU」がスタートする。様々な分野の第一線を走るそうそうたるクリエイター陣が講師となり、中高生のクリエイティビティを刺激するこの場のディレクターを務めるのが、ファッションデザイナーの山縣良和氏(writtenafterwards)だ。

このGAKUに、CINRA.NETを運営するCINRAが新たにはじめた10代向けのオンラインラーニングサービス「Inspire High」も、オフライン拠点として参画している。筆者はその事業準備のために国内外の教育者へのインタビューリサーチを重ねてきたのだが、中でも最も印象に残った言葉の一つをくれたのが、山縣氏だった。

「誰が、いつ、どのように化けるのかわからない中で、いかに奇跡を信じられるかが肝です」

クリエイティビティやアートは、限られた人のためのものではない。今この瞬間、画一的な評価で苦しみ、自分の個性や力を見いだせていない人がいるとすれば、そんな人々を様々な形で照らすことができるのがクリエイティブ教育であり、その実践の場がGAKUだという。

山縣氏が感じる日本の教育の課題や、海外との違い、これからの時代へのクリエイティブ教育の可能性を聞いた。

若者が自由になれるような場所を作ってみたかった。

―GAKUのプロジェクトは、もともとパルコの方からお話があってスタートしたそうですね。

山縣:そうですね。渋谷パルコの9階を文化施設として作っていく、その中で学びの場所を作っていきたいということでお話をいただいたんですが、パルコは東京や渋谷で色々なカルチャーを作ってきたという歴史もあるので、創造性を豊かにすることができる学びがいいだろうと思いました。渋谷は若い子たち、それも色んなジャンルの若者が集まる場所ですよね。なので、一つの分野に限らず色んなものが学べるカオスな場所がいいんじゃないかと思ったんです。

山縣良和(やまがた よしかず)
2005年セントラル・セント・マーチンズ美術大学を卒業。在学中にジョン・ガリアーノのデザインアシスタントを務める。2007年にリトゥンアフターワーズを設立。2008年より東京コレクションに参加。2014年に毎日ファッション大賞特別賞を受賞。2015年には日本人として初めてLVMHプライズのセミファイナリストにも選出された。またファッション表現の研究、学びの場として、2008年より「ここのがっこう」を主宰。「GAKU」のディレクター。

―GAKUは10代の若者が主な対象ですね。

山縣:日本の10代の教育現場って、いわゆる創造性を豊かにする場や教育に触れ合う機会が本当に少なかったじゃないですか? 僕も中高生の頃は一つの価値観で固まって、すごく保守的になっていたという思いもあって。もうちょっと若者が自由になれるような場所を作ってみたいなと思いました。

GAKU室内。山縣が自ら揃えた古家具や古調度が並ぶ

海外に行って「あ、外れていいんだ。自分は自分で良いんだ」と思えた。

―山縣さんはファッションデザイナーでありながら、ファッションデザインの教室「ここのがっこう」を10年以上やっていらっしゃいますよね。服作りと教育を並行してやるというのはどういう思いからだったのでしょうか?

山縣:僕は10代の頃にたくさんの挫折を経験していて、若い頃は特に何かがうまくいった感覚がなかったんです。自分に自分でダメだっていう烙印のようなものを押す寸前だったんです。ちなみにその時の経験からインスピレーションを得て制作したのが、昨年末に発売した『ぼくは0てん』(朝日出版社)という絵本です。

たまたまあるきっかけがもとで、僕は10代最後の年に海外に行くこととなり、日本とは全く別の環境で教育を受けて、新しい価値観を学ぶことで、方向は一つだけじゃないんだなって強く実感することができました。帰国したときに、一つの価値観だけで固まらないような場所があってもいいのにな、という思いが大きくなって、それが「ここのがっこう」の立ち上げにつながりました。

―イギリスの芸術大学セントラル・セント・マーチンズを首席で卒業されたそうですね。日本では自分に烙印を押すところだったのに、海外では輝くことができたというのは、人は環境によって全く違ってくるということなのかなと思います。日本とイギリスの教育では、具体的にどんな違いを感じましたか?

山縣:一番は、個性に対してウェルカムだった、個性を尊重する地盤があったというところかなと思います。日本では、決まったやり方から外れると学校でもあまり良い顔をされなかったんですが、僕が行っていた学校ではちょっとズレていたらむしろ喜ばれました。その感覚はすごく刺激的でしたし、救われました。「あ、外れていいんだ。自分は自分で良いんだ」と思えて。やっと少しずつ自分自身を認められるようになったっていうのは大きかったです。

もちろん日本の教育現場にも世界的に優れていると思われている部分は少なからずあると思うのですが、僕はそこからあぶれてしまった人間なので。あぶれてしまいがちな人のポテンシャルみたいなものにも、ちゃんとフォーカスできるような社会であってほしいっていう思いがありますね。

GAKU室内

社会も変わっていくし、自分も変わることができる。自分が変幻自在であると気づくことってすごく大事だと思う。

―子供たちのポテンシャルを見つけて、輝かせるというアプローチについて、具体的にはどのように考えていますか? 時代を問わず、自分では気づかないまま自分に「ダメだ」っていう烙印を押してしまっている子も多いと思うんです。

山縣:僕はまず自分自身を認められるよう、素直になることがすごく大事だと思っているので、そういう環境を作ることですね。それと一つの価値観だけに引っ張られないように、多面的に物事を見られる状況にしておくっていうことだと思います。

―色んなクリエイティビティに触れることは、多様な価値観を知っていくことにも繋がりますよね。GAKUのプログラムもそうですが、創造性を学ぶということは、必ずしもアーティストになるという意味ではなくて、これから生きていく上で大事なことであるというイメージでしょうか。

山縣:そうですね。今ってとにかく世の中の状況が刻一刻と変わっていきますよね。100年前、50年前と比べても、世界の様々な土地やルーツを持った人々とコミュニケーションできる機会が増えています。一つだけじゃないバリューが押し寄せてくる状況の中で、自分が変幻自在であると気づくことってすごく大事だと思うんです。

社会も変わっていくし、自分も変わることができる。GAKUは、自分には色んな可能性があるっていう気づきが起こる場所になればいいなと思っています。だからクリエイションを学んでどこかの業界を目指すということより、もっと本質的に、生きる力になればいいなと思います。

―生きる力というのは、何かを作りたいとか、表現したいっていう内から発する衝動のようなものでしょうか?

山縣:「生きたい」でも良いと思います。自分のことや世界を肯定して──もちろん否定もしても良いんですが──最終的には自分と世界が「ありかもな」っていう気持ちが芽生えたら良いですね。

「こんな人がいていいんだ」「こういう考え方もあっていいんだ」って思える人と出会ったから希望を持てる。

―クリエイティブっていうとどこか限られた人のためのものというイメージもあると思いますが、パルコが作ってきたカルチャーもみんながアクセス可能なものになっていますよね。

山縣:そうですね。だから、いわゆる特権的な部分を取り除きながらやっていくということも僕らの課題です。既存の教育機関に馴染めなかった子や不登校の子、何かしらの理由で学校に行けない子たちにも来てもらいたいですし、そういう体制を作っていきたいと思っています。

―僕は「Inspire High」を立ち上げるなかで、色んな教育サービスや事業に携わっている方々にお話を伺ったんですが、共通点が2つあると感じました。1つ目は自分の経験に立脚しているということ。2つ目は、それで終わっていなくて、世界や人間に対して何らかの希望や信頼があるっていうことでした。

山縣:僕もそれは本当に感じるんですけど、そういう風に思える人と出会ったからじゃないかなと思います。「こんな人がいていいんだ」「こういう考え方もあっていいんだ」って思える人と出会う、そういう体験をするっていう。

山縣:それと僕は葛藤しながらやっていくっていうことがすごく大事だと思っていて。だからこそ、希望を持ちながらも葛藤している人と出会うことは大きな意味があると思います。

―山縣さん自身は、そういう出会いが過去にあったんですか?

山縣:そうですね。教育現場で言えば、僕が通っていたロンドンの学校の先生はそういう存在でした。特に何かを言われたというわけではないんですが、その人の空気感とか態度とかちょっとした言葉に、すごく大きな世界を感じる方で。それを味わったのは僕としては救いでした。

ここだけじゃないんだよっていうことを伝えたいんですよね。

―中高生の保護者の方からすると、クリエイティブな学びの価値は感じつつも、GAKUに行く時間があったら塾に行かせた方が良いんじゃないかと考える人もいると思います。そういう状況のなかでクリエイティブ教育をどう位置づけるかということを考えたりはしますか?

山縣:うーん、やっぱり親御さんに対しても丁寧にお伝えてして理解してもらうことなのかもしれないですね。可能性や価値観は一つじゃないですって。

一般的にダメだって思われそうなものにもポテンシャルを見出してくれる。そういう価値観や人が存在する。だから、今見えている部分だけが世界でもないんだよっていうことを伝えたいんですよね。

―色んな価値観に触れることってすごく大事である一方で、子供たちにとっては、たくさんある確からしさのなかから自分で選ぶ、軸を作っていくというのは難しい問題でもあると思います。

山縣:だからこそ、出会うことが必要なんじゃないかな。人間ってどうしても出会いの数も情報処理能力のキャパも限られますよね。そのなかで人と肉体的に出会って、「本当にこんな人いるんだ!」って体感することってやっぱり大きいと思います。だからリアルに出会うきっかけを作ることはすごく大事だと思います。

自分の記憶でも、大したことを言われたわけじゃないけど、会って言われたことってすごい覚えてたりするじゃないですか。

―なるほど。僕らがやっている「Inspire High」はオンラインですけど、やっぱりフィジカルであること、場をやることの意義ってそういうところなのかもしれないですね。

山縣:そうですね。特にGAKUは教壇に立っている先生を見るだけっていう形式の空間ではないですし。大人だけでなく、色んな子供たちとも出会えると思います。

子供たちが寝っ転がってても良いなって。学び方も千差万別で、他のことをしていても良い。

―GAKUのスペースも、普通のスタジオや教室とは一味違う空間になっていますよね。

山縣:そうですね。カーペットを敷くというイメージは前からあったんです。羊毛のカーペットはすべてイランから取り寄せたものです。子供たちが寝っ転がって勉強してても良いなって。そしてふとカーペットの原産地であるイランという国に思いを馳せたり。学び方も千差万別で、時には他のことをしていても良いですし、色んな学びの姿勢が生まれるような空間が良いなって思っていました。

あとは「学びの集積地」って言っているくらい色々な先生が来るので、その方々でアレンジして好きに使ってもらえばと思っています。椅子とか机とか全部取っ払って、カーペットだけにしても良いですし、色んなコミュニケーションが生まれれば良いですね。

―山縣さんご自身はGAKU全体のディレクターでありつつ、GAKUで「coconogacco foundation」というプログラムを展開されますよね。そこではどんなことをやっていく予定ですか?

山縣:「foundation」って土台という意味にもなるので、ワークショップなどをたくさんやって色々体感しながら、ファッションや服を作ること、纏うこと、それらの原点のような部分をやれる場所になればいいなと。そのうえで10代にフォーカスした環境を作ってみたいなと思っています。

―それだけでなく、GAKUではアートや音楽、食など色々なプログラムがラインナップされていますね。

山縣:菅付雅信さんがオーガナイズされる「東京芸術中学」は、本当に多ジャンルな、刺激が強い方々と交わる機会になるんじゃないかと思います。ほかにも音楽や映像制作、建築に関するものだったり、これからも多彩なプログラムを企画しています。とにかく色んなことが起きている場になると良いなと思っています。

施設情報
GAKU

10代の若者たちが、クリエイティブの原点に出会うことができる「学び」の集積地。アート、映像、音楽、建築、料理など、幅広い領域で、社会の第一線で活躍するアーティストやデザイナー、先進的な教育機関が、10代の若者に対して、本質的なクリエイティブ教育を実施する。10代の若者が、本物のクリエイターと実際に出会い、時間を過ごし、ともに考え、試行錯誤をしながらクリエイションに向き合うことで、まだ見ぬ新しい自分や世界、すなわち、原点のカオスに出会うことを目指す。ディレクターには、writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)のデザイナー山縣良和を迎え、世界的評価を受けるファッション・スクール「ここのがっこう」、カルチャーWEBメディアCINRAによるオンラインラーニングコミュニティ「Inspire High(インスパイア・ハイ)」などが集まり、感性、本質的な知識、自己と他者の原点を理解する精神を育むプログラムを構成する。

プロフィール
山縣良和 (やまがた よしかず)

2005年セントラル・セント・マーチンズ美術大学を卒業。在学中にジョン・ガリアーノのデザインアシスタントを務める。2007年にリトゥンアフターワーズを設立。2008年より東京コレクションに参加。2014年に毎日ファッション大賞特別賞を受賞。2015年には日本人として初めてLVMHプライズのセミファイナリストにも選出された。またファッション表現の研究、学びの場として、2008年より「ここのがっこう」を主宰。「GAKU」のディレクター。



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