BLUE ENCOUNT×住野よる 今の自分が痛い過去の意味を変える

BLUE ENCOUNTが9月2日にリリースする『ユメミグサ』。温かい質感でもって鳴り響くストリングスを土台にしつつ、何よりもバンドサウンドが壮大な情景を浮かび上がらせる、BLUE ENCOUNTの真骨頂と同時に新たなトライが随所に感じられる楽曲である。この曲は住野よる原作の映画『青くて痛くて脆い』の主題歌となっているのだが、常に新しい曲と新しいBLUE ENCOUNTを見せることに美学のあった田邊としては珍しく、7年前から存在していた曲に新たなアレンジと新たな歌詞を纏わせることでリボーンさせたという(7年前の2013年と言えば、ちょうどBLUE ENCOUNTがインディーズでの活動を軌道に乗せ始めた頃だ)。『SICK(S)』でブルエン節の王道を掴んだことにより、プロデューサーを迎えて曲ごとに音楽的な脱皮を果たしてきた今ターム。その歩みがあったからこそ、あの頃と今を丸ごと結晶化できたのが“ユメミグサ”だと言える。

また、この楽曲を呼び覚ました要因には、『青くて痛くて脆い』の中に描かれる、独りよがりな正義と自己証明の狭間を行き来する「痛い」青春模様が寄与している。長らく自分の黒歴史の象徴として高校時代を振り返り、暗黒の青春時代から逃げるようにして様々なジャンルを食い散らかしては自分の居場所を探して音楽を旅してきた田邊だが、改めて過去と今をひとつの線にする機会が『青くて痛くて脆い』の中にあったのだろう。

そんな、ブルエンにとっての重要楽曲である“ユメミグサ”と、その楽曲を呼び覚ました大きな要因である『青くて痛くて脆い』の共鳴点を探るために行ったのが、下記の対談である。以前からブルエンのライブに通い詰めるほどのファンでもあった住野よるを招き、存分に語り合った。

無観客ライブで目の前に人がいない時には、曲とバンドを信じるしかない。(田邊)

住野:(レコーダーを回すなり)……最近ブルエンの配信ライブを見たんですけど、すっごいライブハウスに行きたくなりました(笑)。

田邊(Vo,Gt):見ていただけて嬉しいです。配信ライブをやり始めた当初は、BLUE ENCOUNTがこれまでやってきたライブのスタイルから考えても、疑問があったんですよ。「本当にこれでいいのかな?」って。

BLUE ENCOUNT(ぶるー えんかうんと)
左から:田邊駿一、江口雄也
田邊駿一(Vo,Gt)、辻村勇太(Ba)、高村佳秀(Dr)、江口雄也(Gt)よる4ピースロックバンド。2004年に活動開始。2014年9月にEP『TIMELESS ROOKIE』でメジャーデビュー。2015年7月に1stフルアルバム『≒』(ニアリーイコール)をリリースし、2016年10月には日本武道館公演を開催。2017年1月には2ndフルアルバム『THE END』を、2018年3月に3rdフルアルバム『VECTOR』をリリース。最新シングルは、2020年9月2日リリースの『ユメミグサ』。2021年の4月18日には初の横浜アリーナ公演も決定している。

―お客さんとともに歩んでいく、っていう思想が強いバンドだからこそ、生で交感することを大事にしてきましたもんね。

田邊:そうそう。コロナ禍でお客さんを入れることが難しいのもわかってるし、できることをやるしかないのも理解してる。でも、配信ライブが市民権を得ることになったら、「直接見に行かなくてもいいじゃん」っていう空気になっちゃうのが怖かったんです。だけど実際に配信ライブを4回やってみて、住野先生がおっしゃったように「むしろ早くライブハウスに行きたくなりました」っていう声をいただくことが増えて。自分達自身も、普通のライブとは別物ではあるけど、ちゃんと届くんだなって感じられるようになってきたのも事実なんですよ。

―それはどういうポイントですか。

田邊:目の前にお客さんがいないからこそ、自分たちの作ってきた曲がどんなふうに聴かれるのか、どんな力を持っているのかを客観的に見る機会にはなったっていう部分ですかね。だって、目の前に人がいないっていうことは、曲とバンドを信じるしかないので。自分たちの曲がどう届いているのかっていうのは見えないけど、曲の力はちゃんと見えるっていうか。

―そういう意味で、ブルエンのライブに何度も足を運ばれて交流を深めてきたという住野さんにとっては、改めてブルエンのどんなところが刺さると感じられましたか。

住野:うーん……配信ライブを見て感じたのは、いろんな人の顔が見えるっていうところですかね。最初は、無観客の配信ライブであの熱量を感じられるのかなと思って見てたのも事実なんですよ。でも実際に見てみたら、単純な言い方だけど、楽曲ってすごいなと感じて。当然のことではあるんですけど、ライブの前に楽曲があって、楽曲の力が僕たちに刺さってきたんだよなって。無観客でも、この曲のここでクラウドサーフをしている人がいるんだよな、とか。この曲のこの部分で号泣している人がいるよなあ、とか。見えてくるんですよ。これまでのライブで各楽曲が作ってきた光景も、ブルエンの魅力になってるんだなっていうことを感じて。

『青くて痛くて脆い』 ©2020「青くて痛くて脆い」製作委員会
住野よる(すみの よる)
高校時代より執筆活動を開始。小説投稿サイト「小説家になろう」にアップした『君の膵臓がたべたい』(初出時は『君の膵臓を食べたい』)が編集者の目にとまり、2015年6月に同作で作家デビュー。著書に『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』『か「」く「」し「」ご「」と「』『青くて痛くて脆い』『麦本三歩の好きなもの』がある。

江口(Gt):言われて一番嬉しいことかも。もちろんライブバンドっていう意識は常に持ってますけど、当然ながら僕たちは音楽をやっているので。ものすごく励みになる言葉ですね。それに、最初は僕が住野さんの作品のファンだったことが始まりですし、『青くて痛くて脆い』の主題歌として“ユメミグサ”をリリースできるのも、本当に嬉しいんですよ。

―そこでブルエンと住野さんの関係を紐解くと、『青くて痛くて脆い』の原作が発刊された2018年に、その原作の主題歌として“もっと光を”が書店などで流れたと。「小説に主題歌」という新鮮な手法が今回の“ユメミグサ”の紀元前に当たると思うんですが、もともとどんな交流があって、今の関係性になっていったのかを教えてもらえますか。

江口:もともと、僕が先生をTwitterでフォローしていたんです。そしたら先生がリフォローしてくれたことをきっかけに、僕が作品の感想を送ったり、逆に僕らの作品に感想をくれたりっていうことが始まったんですね。そしたら、先生のほうから「“もっと光を”を『青くて痛くて脆い』の主題歌にさせてもらえませんか」と言っていただいたんですよ。“もっと光を”は2015年の曲ですけど、とにかくガムシャラにやるしかなかった頃の曲というのもあって、『青くて痛くて脆い』の中の、キラキラしている感じとは違う青春感にフィットしたのかもしれないんですけど。

住野:まさに、『青くて痛くて脆い』に込めた、ひたむきな一直線のパワーと同じものをBLUE ENCOUNTに感じてたんですよ。ブルエンの音楽が持っている一心不乱なパワーを貸していただけたらいいなと思って、“もっと光を”を主題歌にしたいというお願いをしましたね。なので、今回映画化する際にもBLUE ENCOUNTとご一緒したいという気持ちがあったんです。

BLUE ENCOUNT『もっと光を』MV

僕は「自分を含めてみんな嫌いだ」っていう気持ちと、人を好きになれたらいいのにっていう願望を同時に持って生きています。(住野)

―その主題歌である“ユメミグサ”は、おおらかなビート感にしても、ストリングスを土台にしたアレンジにしても、一心不乱さとはまた違うフェーズを感じさせる楽曲になっていると感じたんですが、ブルエンとしては、どういう手応えを感じている曲ですか。

田邊:この曲自体は、7年前――自分達がまだインディーズで活動していた頃から存在していたものなんですよ。当時はまだ“sakura”っていうタイトルだったんですけど、できた時から、僕ら自身もチームとしても大きな愛を持って温めてきた曲なんです。で、この映画の主題歌のお話をいただいた時にすぐ「“sakura”しかない」って思ったくらいだったんですよ。

BLUE ENCOUNT『ユメミグサ』MV

―それは、“ユメミグサ”――そもそもの“sakura”という曲にどんな力を感じていたからなんですか。

田邊:住野先生が僕らの音楽に対して「一心不乱なパワー」と言っていただいたように、インディーズの頃の僕らは特に、右も左もわからない中でガムシャラにやるしかなかったんですよ。その時に僕から出てきた楽曲だったから、『青くて痛くて脆い』に込められている、何もかもわからなくなってしまうくらいの一直線さに共鳴すると思えて。

専門学校に通っていた僕らからすると『青くて痛くて脆い』で描かれる大学生活やサークルのカルチャーは未知のものだったんですけど、よくよく『青くて痛くて脆い』の本質を考えてみると、一見わかりやすい青春群像劇に見えて、実は人間の持ってる複雑さとか、人からすれば「なんでそんなに怒ってるの?」って思っちゃうところにそれぞれの正義や意地があるとか、それを貫くことに必死で周りが見えなくなってしまう感じとか……タイトルの通り、人間の痛さとか、それゆえの愛しさが全部詰め込まれている作品だと思ったんですよ。

『青くて痛くて脆い』 ©2020「青くて痛くて脆い」製作委員会
人付き合いが苦手な大学生・田端楓(吉沢亮)と、空気の読めない発言ばかりで周囲から浮いている秋好寿乃(杉咲花)は「世界を変える」という目標を掲げる秘密結社サークル「モアイ」を作る。しかし秋好は「この世界」からいなくなってしまい、モアイは社会人とのコネ作りや企業への媚売りを目的とした就活サークルに成り下がってしまう。楓は秋好の夢を取り戻すために親友や後輩と手を組み「モアイ奪還計画」を企む。

―まさにそうですね。

田邊:で、“ユメミグサ”の原型を作った7年前とは違う、大人になった僕たちはその若さや青さを「痛いもの」として捉えるんじゃなく、抱きしめてあげたいと思ったんです。だから、さっき言ってもらったような、おおらかな曲にできたんだろうなって思いますね。なので僕の中では、『青くて痛くて脆い』は、人間の中身の危うさや不安定さにドキドキハラハラしてしまう作品なんですよね。

江口:そうだよね。原作を最初から最後まで読んだ後に、より一層このタイトルが刺さったんだよな。映画を観終わった後にも、「青くて痛くて脆いわあ」って言うしかない感じ。

田邊:はははははは! でも、わかる(笑)。

江口:人間誰しもが持っている危うさを突きつけられる感じがして。一度気づいたら一生気になってしまう自分の内面の部分に向き合わされるのが、『青くて痛くて脆い』っていう作品なのかなと。だからBLUE ENCOUNTが7年前から大事にしてきた曲を“ユメミグサ”っていう形にできたのも、7年前の若くて何も知らなかった自分たち自身がこの作品の中にいると思えたからなんだと思いますね。

―まさに『青くて痛くて脆い』を拝見して感じたことのひとつとして、自分の理想を自分で貫けない弱さゆえ、自分の理想が叶わないことを世界と人のせいにしてしまう人間の脆さがあったんですが。住野さんご自身は、改めてどんな作品になったと感じていますか。

住野:『青くて痛くて脆い』の原作を書いていた頃は、ちょうど『君の膵臓をたべたい』の映画が公開された時期だったんですね(2017年)。それでいろんな方からの反応を見ていて、『君の膵臓をたべたい』がキラキラした青春の物語として捉えられてると感じて。

それもありがたい感想なんですけど、僕個人は、『君の膵臓をたべたい』には煌めいている以外の側面も多く込めたつもりだったんですよ。それもあって、『青くて痛くて脆い』では、感動してしまうような気持ちよりも、それぞれにとっての一種の傷を呼び覚ますようなものを描きたかったんです。で、そもそも僕はいつでも、「目に見えない側面を大事にしたい」っていうテーマを持って作品を書いている気もしていて。

『青くて痛くて脆い』予告編

田邊:それは、どうしてなんですか?

住野:……僕は基本的に、「自分を含めてみんな嫌いだ」っていう気持ちで生きてきたところがあって。だからこそ、人を好きになれたらいいのにっていう願望を同時に持って生きていて。まさに『青くて痛くて脆い』の田端楓と重なるところがあるんですけど、壁を作って自分を守りながら、でも人への期待も消せないっていうか。だから『青くて痛くて脆い』では、自分自身の青春時代の独りよがりな感じを掘っていく感覚があったんですよ。

僕はいつも、一緒に成長していける人として物語の登場人物を描いている気がします。「目に見えない側面もある」ということを描きたいのはきっと、嫌いだと思ったり、自分には合わないと思ったりする人でも、実は嫌な部分だけではないんじゃないかっていう期待が表れてるのかもしれないですね。

吉沢亮演じる、田端楓 / 『青くて痛くて脆い』 ©2020「青くて痛くて脆い」製作委員会

田邊:ああ、なるほど……なんか、やっぱりマインドが似てるなあと思いました。僕は高校生の時にBLUE ENCOUNTを結成したんですけど、どうやったらデビューできるのかもわからないくせに、自分をなんとか前に進ませたいがあまり、「俺はすぐにデビューする」みたいなブラフを周りの友達にかまして自分を誇張しちゃってたんですよ。

でもオオカミ少年みたいなもんで、自分を誇張した結果、どんどん自分自身の居心地が悪くなっていって。結局は自分に自信がないから強く見せようとしてたんだと思うし、どんどん嘘つきになって夢を笑われるようになった状況から逃げるために、俺は高校を中退したのかなって思うことがあって。言ってみれば、過去を丸ごと「嫌いだ」って言って切り離すことで、今の自分を肯定しようとしてた気がするんですよ。

「痛い」って言われる過去も、今の自分を形成しているんですよね。(田邉)

―だからこそ、青春時代に聴いていた音楽を昇華するのではなく、むしろ自分の過去を塗り替えるように今の音楽を食い散らかすソングライティングを身につけてきた、と言えるかもしれないですよね。それは、2010年代ロック全網羅と言えるこれまでの楽曲に表れていると思うし。

田邊:ジャンルなんて関係ない、ルーツがないのがルーツだってインタビューのたびに言ってきましたから(笑)。でも『青くて痛くて脆い』を読んだ時に、どれだけ痛かった自分も全部が自分自身で、他人事じゃないんだよなって思えたんです。消し去りたくなる痛さも自分の中にはあったけど、それこそ住野先生が言ったみたいに、「痛い」って言われる過去も、今の自分を形成しているっていう見方ができた。痛さに向き合うのは本当に食らったけど(笑)。……だって、高校時代の俺は友達にも平気で嘘ついてたんですよ? 「来月メジャーデビューするから!」なんて言って。

―ああ……(苦笑)。

田邊:オリジナル曲のCD-Rをレコード会社に送っただけなのに、そんな嘘ついてたから。それで、俺に嘘をつかれた友達が江口のところに行って「田邊に嘘つかれたんだけど」って言う、みたいな。

江口:でも、俺は同じバンドのメンバーだからなんとも言えないのよ。

住野:それはそうですね(笑)。

田邊:勝算も根拠も自分の軸もないまま、ただ真っ直ぐあろうとすることだけが正義だと思っていた時期があったんですよ。で、『青くて痛くて脆い』の主人公である田端楓を見ていると、まさに昔の自分に重なるところがあって。身に覚えのあることだからチクチクしたんだと思うし、きっと誰にも、自分自身がどうなのかを問わず、勝手な正義を妄信して暴走してしまうところがあるんじゃないかと思ったんですよ。だけど、それでもここまでなんとかやってこられた自分たちだからこそ、そういう痛さや若さを抱きしめてあげられる曲にしたくて。そういう気持ちがあったから、“sakura”の歌詞もアレンジも再構築して、“ユメミグサ”を作れた気がします。

―青春を振り返るよりも、その全部を肯定して持っていこうとする意識というか。

田邊:きっと、そうなんだと思います。それに、この1年でプロデューサーさんについてもらったり、自分たちのこれまでを一度ぶっ壊して新しいトライをしたりっていう過程を踏んできたから表現できた楽曲だと思うんですよ。7年前に作った曲なのに「今じゃないな」って言って温め続けてきたのはどうしてだろうって考えると、もちろんこの曲を形にするスキルが足りなかったことも大きいんだけど、何よりも「あの頃」の自分たちを抱きしめてやれる余裕や、過去に向き合う気持ちが足りなかったんだと思うんです。

住野:それこそ<抱きしめる>っていう歌詞がすごく印象的ですけど……ネタバレになるから詳しくは言えないけど、映画の終わり方としては、お客さんはきっと突き放された感覚になると思うんですよ。その先を想像に任せるというか。でも、「その先」を“ユメミグサ”の内容とメロディが描いてくれてると思ったんですよ。過去の自分の痛さを自分で抱きしめながら、「あなたの人生はここで終わりじゃないでしょ?」ってことを問いかけてくれてると感じたんですよね。楓が幸せになったらいいなっていう希望を残してくれてる。それはまさに、自分が描きたい「物語に書いていることだけがすべてではない」っていう部分に繋がる話で。

『青くて痛くて脆い』 ©2020「青くて痛くて脆い」製作委員会

田邊:うわあ、本当に嬉しいです。伝わってよかった……。弱い、若い、青いっていうだけじゃない、その先に向かって変わっていこうとする気持ちが表れているエンディングだから。弱くても、それでも強くなっていけるっていうことを表現できたらいいなと思ったんですよ。

―これまでのブルエンで言えば、田邊くん自身が自分の弱さを乗り越えられるように音楽を作ってきたからこそ、弱者へのエールソングになってきた曲がたくさんあったと思うんです。

田邊:うん、うん。そうですね。

―でも“ユメミグサ”の中には、「俺は弱い」という言い訳がない。そこにブルエン自身の脱皮を感じたんです。

田邊:確かに。でもその部分も、この映画があったからこそだと思うんですよ。過去も含めた自分の全部と向き合う機会をもらったから、自分の全部を他人視しない歌にできた。それは「大人の目線から書いた」っていう感覚でもなくて、純粋に今年33歳の俺として書けたっていう実感があるんです。これまで散々自分の弱さも歌にしてきたし、実際、自分を殴って出てくる言葉を大事にしていた気がするんだけど……だけど、どうしたって戻れない自分の過去を見つめた結果出てきたのは、今ここからどう生きていくのかっていう気持ちでしかなかったんだよね。それに、人間は初心を忘れないことはできるけど、本当の意味で原点に戻ることは現実的にすごく難しいことじゃないですか。

―毎日世界が変わるわけだから、自分も変わっていきますよね。

田邊:そう。だとしたら、あの頃に戻ろうとする歌よりも、今の自分がこれまでの自分を肯定して進んでいく歌を純粋に書きたかったんです。「今ってすごくいいよ。この先捨てたもんじゃないよ」って言いたかったんです。

いろんな雑念を抱えて、いろんな現実も知りながら自分を形成していく過程にこそ人間の美しさがあると思う。(住野)

住野:エンディング自体は突き放したような感覚があるけど、田端楓も含めた誰しもが持っている若さとか青さを突き放さないで終われる曲なんですよね。見る人を孤独にしないでくれる曲で本当によかったなって。しかも、小説原作の映画に提供してくれる曲に<五線譜や言葉じゃ決して伝えられぬほどの>っていう歌詞を乗っけてくれるところ……そこにグッときたんですよ。

田邊:ああ、そこは今回新しく書いた歌詞なんですよ。それも、理屈をつけて目を伏せていた自分の存在に気づかせてもらったことが表れてる気がしていて。……それこそ高校時代の話になるけど、目の前の現実に対する言い訳をしたり、自分を強く見せるための虚勢を張ったりしてるばかりだったからこそ、本当の自分をさらけ出せる音楽と歌があってよかったなって改めて思えたんですよ。音楽と歌がなかったらって思うと、あのまま俺はどうなってたんだって震えがくるくらい(笑)。

音楽の中では、言い訳じゃなくて本当の自分と向き合うしかなかったから。音楽があったからこうして嬉しい出会いを経験できたわけだし、今の自分を誇らしいと思えるようになった。それによって、あの時はあの時で必死に生きようとしてたんだなって思えるようになったんですよ。この映画のエンディングがまさにそうであるように、この先をどうしていくかで過去の捉え方も変わっていくんだなって。

住野:ああ……僕自身が『青くて痛くて脆い』で描きたかったこととも重なるなと思ったんですけど、人間に対して「ピュアなことだけが美しさではないよね」っていう意識があって。たとえば『君の膵臓をたべたい』の登場人物である「桜良」に対して、彼女の純粋さを美しいと言っていただくことが多いんですけど、僕個人としては、桜良も同様に、いろんな雑念を抱えて、いろんな現実も知りながら自分を形成していく過程にこそ人間の美しさがあると思うんです。それだけの必死さとか、泥臭さがそこにあるわけだから。

『青くて痛くて脆い』で言えば、理想を掲げるだけですべてが叶うと思っていた頃の秋好のことを、楓は「美しかった」って思い込むわけですけど……本当はやりたくないと思っていたことも引き受けていった秋好の姿こそが美しさだなって思うところがあるんですよ。

杉咲花演じる秋好 / 『青くて痛くて脆い』 ©2020「青くて痛くて脆い」製作委員会

江口:人って、何も知らない無垢さを振り返って「あの頃は美しかった」っていう気持ちを抱えがちだと思うんですけど、だけど言うまでもなく、過去を見つめた上でこの先をどう生きていくのかに向き合わないと、どこにも行けないから。さっきの「変わらないところと変わったところ」っていう話にも通ずるけど、自分の希望や理想を変えないために、いろんなことを知って変わっていくものですよね。

―『SICK(S)』(2019年)以降、プロデューサーの方を迎えながら音楽を刷新してきたブルエンの歩みとも通ずる話だと感じます。江口くんのギターは弾き倒すだけじゃなくどっしりとした響きを軸にしているし、田邊くんの歌も、大きなメロディをゆったりと歌い上げている。変わらないものだけを認識することでむしろ自由に変化していけるんだっていうことが、音楽として表現されていると感じます。

BLUE ENCOUNT『SICK(S)』を聴く(Apple Musicはこちら

田邊:本当にそうだね。たとえば『青くて痛くて脆い』の原作の主題歌にしていただいた“もっと光を”を作った時を思い返すと……メジャーデビュー直前の右も左も分からない感覚や必死さがそのまま<もっと光を>っていう言葉になって、メロディと一緒に出てきたのね。で、この後にどんな歌が出てくるかなと思って書いていったら、結局は<もっと光が君に届くように>っていう歌になって。当時は<届くように>っていう願いだけしか書けなかったし、光は誰もくれないから自分が進むしかないっていうことまでしか歌えなくて。「全然完結しねえ!」って自分で突っ込んじゃうくらいでさ(笑)。きっと「これからもっと大変なことがあるだろう」っていう気持ちが、あの曲を完結させなかったと思うんだけど……あそこで完結しなかったからこそ、その先をどう歩むのかっていうことを大事にしてこられたと思うんだよね。

その上で、2020年のBLUE ENCOUNTとして『青くて痛くて脆い』の主題歌をやらせていただくことになった時は、“もっと光を”の続編を書くつもりは一切なくて。今の自分たちをそのまま表現することが、結果として「この先」を描き出すことになるんだと思ったんだよね。だからこそ、猪突猛進とはちょっと違う、いろんなことを知ってきた上での優しさを感じる曲にできたんだろうなって思う。そういう意味でもここまでの歩みを思い出させてくれる曲だし、ここまで自分たちの歩みを振り返らせてくれた『青くて痛くて脆い』に出会えて本当によかったと思いますね。

住野:こちらこそ、本当にありがとうございます。これは最初に質問されたことに戻っちゃうんですけど、僕はなぜブルエンのことが好きなんだろうって考えながら今日は話してて……“もっと光を”の話がまさにそうですけど、自分はいつまでも終わらない話を書こうとしてるし、いつまでも終わらないものが好きなんだなって思いました。だからブルエンが好きなんだろうなって。

いろんなものに立ち向かいながら、いつでも目線の先に進もうとしているところ。いつまで経っても終わらない、「自分」っていうものを見つめ続けている姿を見ると、自分もこの世界に希望を見出せる気がします。僕らに見えるのは物語に描かれている部分だけだけど、描かれていないところで登場人物の人生は続いていくんですよ。むしろ描かれていない部分に想いを馳せることが、その人の人生を大事にするっていうことで。「これで終わり」って思っちゃいけないし、それは自分の人生に対しても毎回思うんです。

田邊:ああ……それこそが、BLUE ENCOUNTの「変わらないところ」なのかもしれない。僕らって、「よく頑張ったな」っていう意味のエールを歌ったことは全然ないんですよ。むしろ、よく頑張ったなって思える1日があったとしても、この先まだまだ続いていくんだっていうことを歌ってきて。今日で終わってもいいと思うのは、今日を全力でやれれば明日がもっといい日になるって信じたいからで。だからこそ、生きてる限りは「ここで終わりじゃない」って歌い続けたいですね。

リリース情報
BLUE ENCOUNT
『ユメミグサ』初回生産限定盤(CD+DVD)

2020年9月2日(水)発売
価格:1,950円(税込)
KSCL-3255~3256

[CD]
1. ユメミグサ
2. 1%

[DVD]
2019月11月21日にZepp Tokyoにて行われた<BLUE ENCOUNT TOUR2019「B.E. with YOU>のライブパフォーマンスとツアードキュメンタリーを収録
1. #YOLO
2. HALO
3. 声
4. ポラリス
5. HANDS
6. Making of TOUR2019「B.E. with YOU」

BLUE ENCOUNT
『ユメミグサ』通常盤(CD)

2020年9月2日(水)発売
価格:1,250円(税込)
KSCL-3257

作品情報
『青くて痛くて脆い』

全国東宝系にて公開中

監督:狩山俊輔
脚本:杉原憲明
原作:住野よる『青くて痛くて脆い』(角川文庫 / KADOKAWA刊)
主題歌:BLUE ENCOUNT“ユメミグサ”
出演:
吉沢亮
杉咲花
岡山天音
松本穂香
清水尋也
森七菜
茅島みずき
光石研
柄本佑
配給:東宝

プロフィール
BLUE ENCOUNT (ぶるー えんかうんと)

田邊駿一(Vo,Gt)、辻村勇太(Ba)、高村佳秀(Dr)、江口雄也(Gt)よる4ピースロックバンド。2004年に活動開始。2014年9月にEP『TIMELESS ROOKIE』でメジャーデビュー。2015年7月に1stフルアルバム『≒』(ニアリーイコール)をリリースし、2016年10月には日本武道館公演を開催。2017年1月には2ndフルアルバム『THE END』を、2018年3月に3rdフルアルバム『VECTOR』をリリース。最新シングルは、2020年9月2日リリースの『ユメミグサ』。

住野よる (すみの よる)

高校時代より執筆活動を開始。小説投稿サイト「小説家になろう」にアップした『君の膵臓がたべたい』(初出時は『君の膵臓を食べたい』)が編集者の目にとまり、2015年6月に同作で作家デビュー。著書に『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』『か「」く「」し「」ご「」と「』『青くて痛くて脆い』『麦本三歩の好きなもの』がある。

フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • BLUE ENCOUNT×住野よる 今の自分が痛い過去の意味を変える

Special Feature

Habitable World──これからの「文化的な生活」

気候変動や環境破壊の進行によって、人間の暮らしや生態系が脅威に晒されているなか、これからの「文化的な生活」のあり方とはどういうものなのだろうか?
すでに行動している人々に学びながら、これからの暮らしを考える。

記事一覧へ

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて