日本ならではの「秘伝の味」。東京の日式カレー・至極の4皿

インドからイギリスを経由し「洋食」として日本に伝来したカレー。その後、日本で独自の進化を遂げ、いまや当地で国民食といわれるほどに親しまれている。 そんな「日本式のカレー」=「日式カレー」は近年、日本国外でも人気で、いまや海外の日式カレー専門店も珍しくない。そこで今回は、日本らしい「秘伝のレシピ」や「匠の技」を味わえる、本場・東京の日式カレーに注目。なかでも日本のカレーの一つの象徴である「カツカレー」に焦点を当て、その至極の4皿(『銀座スイス』『ポンチ軒』『新保町キッチン南海』『ベイリーフ』)を紹介します。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

プロ野球選手のアイデアから生まれた。『銀座スイス』の「元祖カツカレー」

1947年創業の『銀座スイス』は、諸説あるものの「カツカレー」の元祖として広く知られるお店。

そのはじまりは、創業から2~3年後のこと。常連客だった当時の有名プロ野球選手・千葉茂の一言からだった。「カレーライスにカツレツを乗せてくれ」。これを機にカレーとカツが同居した欲張りで幸せな食べ物はメニュー化され、次第に世に広まっていく。

「元祖カツカレー」(1,300円)のカレーソースは、深いコクとほどよい酸味、そしてどこかチーズをも思わせる芳醇さが感じられる。とはいえチーズは入っていない。秘密の一つは、食パンを裏ごしして使うところにある。

食パンの甘みや塩気、発酵の風味がカレーソースに溶け込み、立体的な味わいをつくり出している。食パンを使う製法は、先代が修行した高級ホテル『帝国ホテル』のカレーがルーツだという。

もう一つ特筆すべきは、油。日本式のカレーは初めに小麦粉を炒めるのが一般的だが、このカレーは小麦粉を使わずにカレー粉を炒める。そしてその際の油は、他の揚げ物で使い込んだ油をあえて使用する。豚肉やエビ、カキなどのエキスが溶け出していて、それが豊かな旨味と香ばしさをもたらす。

カツは純正のラードでカラッと揚げる。パン粉が粗めなこともあり、カレーとからんでもしんなりしにくい。濃厚なグレービーと、カツのサクッという食感を同時に堪能できるのは、まさにカツカレーならではの至福だ。

カツカレーというヘビーな食べ物でありながら、その食べ味は不思議と軽く、額にじんわり汗を浮かべながら、あっという間にたいらげてしまう。もう一皿いけそうとすら感じさせる。この店にいる間は、腹ペコのプロ野球選手・千葉茂さんの魂が乗り移るのかもしれない。

銀座スイス

住所:東京都中央区銀座3-5-16
電話番号:03-3563-3206
営業時間:月曜~土曜11:00~21:00(LO20:30)、日曜・祝10:30~20:30(LO)
定休日:不定休
※2019年7月より同店特製のレトルトカレー「洋食屋のカレーソース」を店内にて販売

5年連続『ミシュラン』選出。『ポンチ軒』の「カツと特製カレー」

『ミシュランガイド』の「ビブグルマン」に、2015年から5年連続で選ばれ続けるとんかつ専門店『ポンチ軒』。

店頭には行列が絶えないこのお店の名物が「カツと特製カレー」(1,640円)。日本発祥の食べ物である「とんかつ」の一つの極みを味わえる一品だ。

豚のロース(ディナータイムはヒレも選べる)を厚く切り、パン粉を付ける。肉の味を立たせるために、パン粉は塩分と糖分を半分ほどにした特注品を使う。それを140~150度の中低温の油で揚げはじめ、仕上げに160~170度でカラッと揚げ切る。

揚げたてをほおばれば、肉脂のジューシーさが口内に広がる。肉厚だが柔らかく、カツの切り口を上にして肉部分を直接噛めば、さくっと噛み切れ、その食感も心地よい。

カレーもまた、カツに負けないほどの引力を備える。豚と鶏の合い挽き肉がゴロッと入っていて、肉感と旨味を存分に味わえる。それがチリのほどよい辛味と相まって、不思議なほどごはんが進む。カツともよく合う。スパイスは、数種類を低温でじっくり炒めた「ローストスパイス」を使い、それが風味のベースになっている。

まずはカツとカレーを単体で味わい(カツを食べる際は、卓上のウスターソースをかけても美味しい)、その後両者のマリアージュを堪能し、さらには玉子、福神漬、キャベツとの組み合わせも楽しむ。

直球で、問答無用に旨さがやってきて、スプーンが止まらない。カツカレーがもたらす快楽をピュアに体感できる一皿だ。

ポンチ軒
住所:東京都千代田区神田小川町2-8 扇ビル1階
電話番号:03-3293-2110
営業時間:ランチ11:15~14:00 ディナー17:30~21:00
定休日:日曜
※「カツと特製カレー」は早い時間に売り切れる可能性もあり

【閉店】摩訶不思議な中毒性。『神保町キッチン南海』の黒い「カツカレー」

1960年創業の老舗洋食店。ここから暖簾分けした『キッチン南海』が、都内を中心に20店舗近くある。

名物は、客の7~8割が頼むというカレー。なかでも圧倒的人気は「カツカレー」(750円)。こなれた価格に、大衆洋食店としての矜持をひしひしと感じる。

ここのカレーの特徴は、なんといっても「黒さ」にある。小麦粉を丹念にローストした後、食材とともに寸胴鍋で煮込む。火入れしては冷まし、火入れしては冷ましという作業を繰り返すという。火入れの際は焦げないよう、つきっきりで鍋をかき回し続ける。こうした手のかかる工程を経ることで、このお店ならではの黒さとコクが生み出される。

食べてみると、意外とさらりとした味わい。ただ食べ進めるほどに焙煎感や苦味を伴った旨味が感じられてきて、そこにシャープな辛さもやってきて高揚感をもたらす。カツはスプーンで切りやすいよう薄く叩かれ、人差し指と同じ幅にカットされる。パン粉はカレーとよく絡まるように粗めのものを使う。

当店のもう一つの凄みが、オペレーションだ。1日約500人の客が訪れ、ランチ時は長い行列ができるが、なぜかそれほど待たずに食事にありつける。

秘密は「色札」だ。カウンターに置いた札の色や向きで、注文内容・順番・何人連れかなどの情報をスタッフ間で共有。それをもとに、お客が着席してすぐ料理を出せるようスタッフ全体が連携して動く。その様は、もはや芸術的でさえある。

派手さはないけど、しみじみと、癖になる旨さ。食後も胸焼けが起きにくく、すっきり心地よい。だから、また食べたくなる。そんな不思議な中毒性を備えた黒いカレー。その証拠に、現料理長は30年以上に渡り、そして90歳になる創業者はなんと60年以上に渡り、いまもこのカレーを毎朝食べ続けているという。

神保町キッチン南海
住所:東京都千代田区神田神保町1-5
電話番号:03-3292-0036
営業時間:ランチ11:15~15:00 ディナー17:00~19:30
定休日:日曜、祝日
※2020年6月26日に閉店いたしました

カツカレーのニューウェーブ。『ベイリーフ』の「牛カツカレー」

「カレーバル」として、カレーとともにディナータイムにはお酒に合う一品料理を提供する店。ここの名物で、ランチタイムはほとんどのお客が頼むというのが「牛カツカレー」(1,030円)だ。

そう、とんかつではなく、珍しい牛カツ仕様。また、牛カツがドンと乗ってこの価格というのが、インパクトを強めている。

肉はステーキ用の牛もも肉を使用。脂身が多くなく、牛特有の癖も少ないのが特徴。それを高温の植物油を使い、断面に赤みがしっかり残るレア具合でサッと揚げる。牛でありながら食べ味は軽やかで、ぺろりと食べ切ってしまえる。

また、カレーソースも非常に特徴的。サラサラでスパイスのポーションが浮く見た目からして他のカツカレーとは一線を画すが、味わいもエッジが効いていて、ほどよい酸味とともにスパイスの風味がパキッと立っている。スパイスは、クローブやクミン、カルダモンなど13~14種類を使う。

そして、3口ほど食べたあたりで、こめかみをツツツ……と汗が伝う。そこまで辛いというわけではないのに、不思議な感覚だ。チリパウダーは、カイエンペッパーよりも辛いバーズアイチリを使用。他にもしょうがをはじめ辛味成分を含むスパイス類がいくつか入っているという。

カツカレーというと、ドロっとした質感で、スパイス感の比較的まろやかな、いわゆる日本式のカレーソースが一般的。ところが近年、サラサラな質感でスパイスを強調した「スパイスカレー」版のカツカレーも登場しはじめている。このカレーもその代表だ。

日本で独自進化を遂げた「日式カレー」と、そのデラックス版ともいえるカツカレー。さらにそれを進化させた、スパイスカレー仕様のカツカレー。日本人らしいこだわりと進取の気性により、今後も日式カレーはとどまることなく進化していくことでしょう。

ベイリーフ
住所:東京都港区赤坂3-20-6 川木ビル3F
電話番号:03-3584-0137
営業時間:ランチ11:30~14:30(LO14:00) ディナー18:00~23:30(LO22:30)
定休日:土曜、日曜、祝日


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