きゃりーや水カンのMVはなぜ愛される?作り手二人が極意を伝授

MVと広告に見る、映像作家の発想の違い。

途方もない数の映像コンテンツが、日々、配信される現代。しかしその中には、瞬間的に忘れ去られるものも少なくない。いま、本当に「愛される映像」とは何か?

広告専門誌『ブレーン』が2013年より開催し、今年5回目を迎えるオンライン動画のコンテスト『BOVA』(Brain Online Video Award)。11月27日、その『BOVA』のトークイベント『BOVA2018 クリエイターズナイト』が開催された。

ゲストは、きゃりーぱみゅぱみゅのミュージックビデオ(以下、「MV」)で知られ、『BOVA』では最終審査員も務める映像ディレクターの田向潤と、水曜日のカンパネラやサカナクションのMVで人気を集める映像作家、映画監督の山田智和。「注目のクリエイターが語る、愛される映像クリエイティブのつくり方」と題して、二人の仕事が語られた。

デザイン出身らしいグラフィカルで整理された映像センスを持つ田向と、映画的で情感溢れる作風の山田という、スタイルが大きく異なる両者。その違いは最初に投げかけられた「MVの発想法」という問いへの答えに、早くも表れていた。

左から:田向潤、山田智和
左から:田向潤、山田智和

田向:僕はMVも、一種のブランディング広告だと思っています。発想にあたりとくに意識するのは、歌詞との距離感。楽曲はそれ単体で成立するものなので、ただの音楽の補完ではなくて、別のものが見えてくるように心がけています。たとえばきゃりーのデビュー曲“PONPONPON”は、歌詞にほとんど意味がない(笑)。そのため彼女のブログもチェックして、アーティスト自体の面白さをブランディングしようとしました。

田向潤が手掛けたきゃりーぱみゅぱみゅ“PONPONPON”MV

田向の「歌詞との距離感」に対し、山田が目指すのは「曲のイメージの最大化」だ。

山田:MVの世界はお金がない。でも、予算で表現の幅が決定されることには疑問があるんです。今年やった水曜日のカンパネラの“メロス”では、楽曲の「馬」のイメージを最大化するために、JRAをスポンサーに付けて、モンゴルで撮影をしました。SNSで知人の赤ちゃんの写真を見ると、「撮りたくて仕方ないんだな」と感じますよね。その衝動と同じで、曲のイメージから撮りたいと感じたものを、いかに撮るのか。その方法論をいつも考えます。そこに制限をあまり儲けたくないんです。

山田智和が手掛けた水曜日のカンパネラ“メロス”MV

二人の違いは、企業の広告動画にも表れている。たとえば田向が手掛けた名刺交換アプリ「Eight」のウェブ動画では、名刺のやりとりが、幾何学的でユーモアに溢れた映像に美しく落とし込まれている。

田向:問題解決にワクワクするんです。広告の企画を見ると、いろんな事情を避けたためにこうなったんだな、と感じることが多い。でも、そこがアイデアの生まれる場所で、「だったら、こんな避け方をしたら面白いんじゃないか」と提案できる。この動画でも、本来面倒臭いものである名刺交換をいかに魅力的に見せるかを考えました。

田向潤
田向潤

田向潤が手掛けた名刺アプリ「Eight」ウェブ動画

一方、山田によるファッションブランド「niko and …」のウェブ動画は、まさにエモーショナルそのもの。俳優の坂口健太郎と忽那汐里が演じる男女が互いの違いを感じながらも惹かれ合う様子は、短時間ながら奥行きのある物語性を感じさせる。

山田:僕はMVも広告の仕事も、基本的には分けて考えていないんです。でも、広告の場合は情報処理的な整理がより必要で、魅力をどう詰め込みながらメッセージにしっかりと落としていくかが大事。そのとき、役者から魅力を表情を引き出す工夫は現場でもいろいろします。たとえば「niko and …」の場合、坂口くんが傘を突然奪われたときの素の表情を引き出すため、忽那さんに密かに耳打ちで演出しました(笑)。

山田智和
山田智和

山田智和が手掛けた「niko and ...」10周年MOVIE

「愛される動画」を生むヒントは、作り手の手触りと思い。

互いの仕事を、「自分には真似できない」と話す両者。田向は山田のように現場でのハプニングを受け入れることが苦手だと言い、山田は自分のイメージを他人と共有することに難しさを感じると、田向の緻密な演出に興味があるようだった。

ただ興味深かったのは、二人がYouTubeなどの動画サイトの視聴回数について、面白い共鳴を見せていた点だ。

左から:田向潤、山田智和

田向:視聴回数は、あくまで副産物だと思うんですね。結局、ある動画が多くの人に届くかどうかは、作り手の魅力によるのかなと。かつてのテレビCMでは、たくさんのお金を出して大量の広告を打てば、人に見てもらえた。でも、オンライン動画は作品の内容によって広がる。そこでは、作り手の魅力でどう撮るかが大事だと思うんです。

山田:「愛される動画」の「愛される」にもいろいろと種類があって、InstagramなどのSNSで短時間のうちに人を魅了するものもありますよね。でも本当に大事なのは、好きな人やものを撮ること。ある対象の魅力をどう撮るかを考えることは、その対象の好きな部分を考えることにもつながっている。「この人はこれが撮りたかった」ということが視聴者側からも見え、そこから「好き(愛される)の連鎖」を生み出せるのが本当に良い映像だと思います。

映像に染み付いた作り手の匂いや視点、「撮りたい」という思い。たしかに、イベントの中で紹介された田向と山田による作品には、マーケティング的な発想やお仕着せではあり得ない、それぞれの特色が貫かれていた。

「映像の綺麗さやクオリティーは、お金で解決できるもの」と田向は語る。「『BOVA』の応募作品にはそうしたものではなく、プロの作り手が悔しがるようなアイデアや個性こそを期待しています」。

『第5回BOVA(Brain Online Video Award)』ポスター
『第5回BOVA(Brain Online Video Award)』ポスター(詳細はこちら

左から:田向潤、山田智和

イベント情報
『第5回BOVA(Brain Online Video Award)』

作品募集期間:2017年10月1日(日)~2018年1月23日(火)

プロフィール
田向潤 (たむかい じゅん)

1980年生まれ。多摩美術大学を卒業後、デザイナー経験を経て、CAVIARへ加入。その後2011年よりフリーランス。主な仕事に、きゃりーぱみゅぱみゅ、くるり、SMAPのMV。ヤフオク!、レオパレス21、Newニンテンドー3DSのCMなどがある。

山田智和 (やまだ ともかず)

映像作家・映画監督。1987年東京都生まれ。日本大学芸術学部映画学科映像コース出身。クリエイティヴチーム「Tokyo Film」主宰。サカナクションや水曜日のカンパネラ、Charaなどのミュージックビデオをはじめ、UNIQLO、Canon、GMOクリック証券、niko and...、Microsoftなどのコマーシャル、フジテレビ系ドラマ「トーキョーミッドナイトラン」、短編映画などのディレクションを行う。最近ではEYESCREAM誌において写真企画「TOKYO-GA」を連載中。シネマティックな演出と現代都市論をモチーフとした表現が特色。CREATIVE HACK AWARD 2013グランプリ受賞、ニューヨークフェスティバル2014銀賞受賞、GR Short Movie Awardグランプリ受賞。Caviar所属。



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