w-inds.慶太が、自前PCで楽曲制作の方法を大公開。イベントレポ

最新アルバム『100』の発売を記念して、メンバー3人がそれぞれプロデュースするイベントを開催

w-inds.の13枚目となるニューアルバム『100』が7月4日にリリースされた。本作は彼らにとって初のセルフプロデュース作。アルバムタイトルの『100』は橘慶太、千葉涼平、緒方龍一の年齢を合わせた数だ。

CINRA.NETでも2017年1月にリリースされた38枚目のシングル『We Don’t Need To Talk Anymore』以降、慶太がw-inds.の楽曲を精力的にセルフプロデュースするようになった変遷とグループの音楽性や立ち位置の変化を追ってきたが、ついに彼らは自分たちの手でアルバム1枚を作り上げた。

『100』のテーマは「ノンジャンルのポップス」であり、現行のインディーR&Bやトロピカルハウス、ニュージャックスウィングなどに目配せしたワールドスタンダードなサウンドを慶太がその鋭い嗅覚と聴覚を駆使してw-inds.流のポップスに昇華している。さらに慶太はミックスにも積極的に関わり、自身でボーカルディレクションも務めている。

w-inds.『100』
w-inds.『100』(Apple Musicで聴く

そんな『100』のリリースを記念して、メンバー3人がそれぞれプロデュースする購入特典イベント『How to“100”』が東京、福岡、大阪で実施されている(各会場100名限定)。慶太がその初回を担当し、7月15日に都内某所で『“慶太”プロデュース!初心者から楽しめる「How to“100”」~アルバムができるまで~』と題されたイベントを開催した。

7月15日に都内某所で開催された『“慶太”プロデュース!初心者から楽しめる「How to“100”」~アルバムができるまで~』の様子

7月15日に都内某所で開催された『“慶太”プロデュース!初心者から楽しめる「How to“100”」~アルバムができるまで~』の様子
7月15日に都内某所で開催された『“慶太”プロデュース!初心者から楽しめる「How to“100”」~アルバムができるまで~』の様子

自前のパソコンをモニターに映し、慶太自ら楽曲制作方法を大公開

内容としては、慶太がアルバムに収録された全12曲の中から、生音感の強いアシッドジャズにも通じるファンクネスが表出している11曲目“Drive All Night”と、フューチャーベースの意匠を巧みにポップスに落とし込んだ“Temporary”をピックアップし、彼が自前のMacBookから「Ableton Live 10」(音楽制作ソフト)のセッションファイルの画面(セッションビュー)を公開。それをもとに、この2曲のサウンドがどのように構築されているか解説するというものだ。

あくまでCD購入特典イベントのため、来場者は音楽制作に精通している人はほとんどいないことは、もちろん慶太も予想していた。しかし、そのうえでw-inds.ファンに少しでも音楽制作に興味を覚えてもらえたら、あるいは自身がSNSで日常的に発信している音楽用語を身近に感じてもらえたらという思いで彼はこの企画を実施した。このあたりの気概も実に慶太らしい。本番前後の楽屋で慶太に話を聞くことができた。

慶太:いつかこういうDTM講座みたいな企画をやってみたいという思いはずっと持っていて。「やってみたらどうなるんだろう?」という興味本位もありつつ、僕自身、YouTubeなどで公開されている講座でDTMやミックスの技術を学んだんですよね。アーティストがこうやって生の講座スタイルでセッションファイルを見せながら楽曲制作のポイントを語ることって日本ではあまりないじゃないですか。そういう環境が増えていけば面白いと思うし、その最初の実験という感じですね。

前にもCINRA.NETさんの取材でお話したと思うんですけど、僕のようにDTMで作る音楽においてトラックメイカー同士の情報共有ってすごく大切だと思うんですよね(w-inds.橘慶太×artpaix対談 トラックメイカーの地位向上を考える)。だから、こういうことは今後積極的にやっていきたくて。今日来てくれるファンの方たちにとってはマニアックすぎるかもしれないですけど、そのあたりのバランスを考慮して今日は初級編という感じで。今後、需要が高まっていけば上級編ができたらいいですね。プラグインの選び方とか使い方のレクチャーとか(笑)。

橘慶太
橘慶太

さらに、『100』リリース後のリアクションと手応えについても聞いてみた。

慶太:僕の周りの友人は今まで以上に「いいね」って言ってくれる人が多いですね。俳優の友人がわざわざメールをくれたりしました。

最近、セルフプロデュースという部分に関してはどうでもよくなってきたというか(笑)、そこまでアピールすることでもないのかなと思っていて。あくまで大事なのはw-inds.が表現している音楽性であって、僕がセルフプロデュースしている / していないというのはそこまで重要ではないのかなと。自分で曲を作るのはあたりまえになって、ただシンプルに今以上にいい音楽を作りたいという思いが強いです。アルバムが完成してから昨日まで(前日が全国ツアー初日だった)リハーサルやプロモーションでまったく曲を作れない日々が続いたので、今曲を作りたくてしょうがないんですよ。

なので、ツアー中は自分のコンディションを整えつつ、移動先でも自宅と同じレベルで楽曲制作ができるように環境を整えたんです。『100』を制作しているときからずっと頭の中で鳴っている音がいくつかあって。それを早くカタチにしたいですね。オルタナティブなR&Bを作りたいと思っていて、もしかしたらちょっとロックっぽいテイストを入れたりするかもしれないです。とにかく新しいサウンドを追求したいですね。

橘慶太

一つひとつの音を分解して聴き比べ“Drive All Night”を紐解いていく

イベントには慶太だけではなく、涼平と龍一も登壇。やや緊張気味の来場者を解そうと3人はオープニングでライブさながらのフリートークを展開した。慶太は「今回のメンバープロデュースイベントの中で僕の内容が一番マニアックなのでハズレだと思います(笑)。でも、途中退席はなしです」と自虐気味に笑いをとりつつ、講座をスタートさせた。

左から:緒方龍一、橘慶太、千葉涼平
左から:緒方龍一、橘慶太、千葉涼平

まず、スクリーン上に映し出された“Drive All Night”のセッションビューの見方を説明。縦軸のセクション(トラック)ごとに各パートのフレーズが打ち込まれており、それらが重なった音が横軸で左から右に流れることで1曲のオケになっていることをわかりやすく伝えるために、ドラムのスネアを単体で鳴らしてみる。スネアも2拍目と4拍目で2つの音色を使い分けているということ、またそこにキックが乗るのと乗らないのではこれだけノリに違いが出るということを実際に耳で確かめてもらう。

その後、ベースライン、エレクトリックギターのカッティングをそれぞれ鳴らすという具合にトラックの構造を解説した。続いて慶太は「個人的にこの曲の一番のお気に入りポイントなんですけど、誰も気づいてないと思う」と、サビの細やかなシンセフレーズを鳴らし「このシンセのリズムで疾走感を出しているんです」とポイントを語った。

スクリーン上に映し出された“Drive All Night”のセッションビューの見方を説明中
スクリーン上に映し出された“Drive All Night”のセッションビューの見方を説明中

左から:千葉涼平、緒方龍一
左から:千葉涼平、緒方龍一

慶太のトークテンポをキープするために涼平がいいタイミングで相槌を打ち、龍一は来場者の目線に立って「これはどういうことですか?」と慶太に質問する。このあたりはさすがのコンビネーションだった。来場者が強く反応していたのは、一定のコード進行で展開されていくこの曲が、実はアウトロでコードチェンジしていることを解説したときと、メインボーカルと左右に置いたオクターブ違いのコーラスを鳴らしたときだった。

w-inds.“Drive All Night”を聴く(Apple Musicはこちら

慶太が一番解説したかったと語る、“Temporary”に隠された音の工夫

続く“Temporary”では、主にシンセにかけるリバーブのバランス──リバーブをかけすぎると実音が聴こえなくなるということ、コード感を出すシンセと空間を埋める重層的に積んでいるシンセの役割などを解説。そしてドロップ前に入るパーカッションのフィルの「ポコパーン!」という響きにメンバーも来場者も異様にハマる展開に。こうして時間が経つにつれ会場のムードはリラックスしたものになり、慶太が「今日、これを一番解説したかった!」というサイドチェインの話へ。

慶太:(コンプレッサーで)サイドチェインをかけることで、キックの音が鳴っているときにシンセの音がヘコむようになっているんです。そうすることでキックが前に出てくる。実際にサイドチェインをかけないで鳴らしてみると、こうやってシンセの音にキックが埋もれてしまう。この違いはすごく大きいです。やっとみなさんに説明することができました(笑)。

 

w-inds. “Temporary”(Apple Musicはこちら

用意された1時間はあっという間に過ぎていき、来場者とのQ&Aコーナーを経てイベントは終了した。正直、慶太としては消化不足の感は否めないだろう。それでも、非常に意義深い時間だったと思う。

慶太:いやぁ、予想以上に難しかったですね。時間も足りなかった。初心者編では今日みたいに打ち込みを解説するというよりも、ミックス済のパラデータを解説したほうがよかったかもしれないですね。今日の教訓を活かしてまたチャレンジしたいです。

ツアー中にも制作するという慶太からどのような新しい楽曲が生まれるのか、それも楽しみだ。7月28日にはこんなツイートをポストしている。

w-inds.の音楽は、まだまだ、どんどん進化していく。

イベント情報
『メンバープロデュースイベント「How to “100”」』
『慶太プロデュース!初心者から楽しめる「How to “100”」~アルバムができるまで~』

2018年7月15日(日)
会場:東京都 都内某所

『涼平プロデュース!リーダーから見た「How to “100”」~w-inds.がここにたどり着くまでの18年~』

2018年8月11日(土)
会場:福岡県 博多市内某所

『龍一プロデュース!「How to “100”」番外編~龍一の流儀~』

2018年8月26日(日)
会場:大阪府 大阪市内某所

『w-inds. LIVE TOUR 2018 “100”』

2018年8月12日(日)
会場:福岡県 福岡市民会館

2018年8月19日(日)
会場:神奈川県 神奈川県民ホール

2018年8月25日(土)
会場:愛知県 日本特殊陶業市民会館

2018年9月2日(日)
会場:埼玉県 大宮ソニックホール

2018年9月7日(金)
会場:東京都 東京国際フォーラム

リリース情報
w-inds.
『100』通常盤(CD)

2018年7月4日(土)発売
価格:3,000円(税込)
PCCA-04683

1. Bring back the summer
2. Dirty Talk
3. Temporary
4. I missed you
5. Celebration
6. We Gotta Go
7. Time Has Gone
8. Stay Gold
9. The love
10. All my love is here for you
11. Drive All Night
12. Sugar

プロフィール
w-inds.
w-inds. (ういんず)

橘慶太、千葉涼平、緒方龍一からなる3人組ダンスボーカルユニット。2000年11月から毎週日曜日、代々木公園や渋谷の路上でストリートパフォーマンスを開始。2001年3月14日にシングル『Forever Memories』でデビュー。同年リリースされた1tアルバム『w-inds.~1st message~』はオリコンチャート1位を記録。これまでに日本レコード大賞 金賞7回、最優秀作品賞1回を受賞し、NHK紅白歌合戦には6回出場と、実力・人気を不動のものとした。その活躍は、台湾・香港・韓国・中国・ベトナムなど東南アジア全域に拡がり、海外でも数々の賞を受賞。台湾ではアルバム4作連続総合チャート1位を記録。日本人として初の快挙を達成。21世紀という新しい時代に日本を中心に、世界中へ新しい風を巻き起こし続けている、男性ダンスボーカルユニット―――それがw-inds.である。



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