CHAIは世界で闘えるのか? UKにてSuperorganismとの共演を観て

12月19日に全国ツアー『CHAIいく!CHAIくる!トゥアートゥアートゥアー』のファイナル公演を行い、ニューアルバム『PUNK』のリリースも発表したCHAI。遡ること約2か月前、彼女たちはイギリス・ロンドンにいた——8人組多国籍バンド・Superorganismのツアーのサポートアクトに抜擢され、UK&アイルランドをかれらと共に廻ったCHAIはなにを得たのか、どのように海外のオーディエンスに受け止められたのか。2018年のCHAIの歩みを振り返りながら、10月24日にロンドンのO2 Shepherd's Bush Empireで行われた公演をレポートする。

夢の『グラミー賞』のために大きく動き始めた2018年

平成最後の1年は、CHAIで溢れていた。テレビをつけるとCHAI、ラジオから流れるCHAI、雑誌の特集でCHAI、インターネットにもCHAI、街を歩いていても気づけばCHAIがどこかから聴こえてくる……などと書くと、「いやいや、そこまで?」といぶかしく思う読者もいるかもしれないが、ひとりの音楽リスナーの体感としてはそれくらい彼女たちを目に、耳にする機会が今年は特に多かった。実際のところ、この1年で彼女たちの知名度がグンと高くなったのは紛れもない事実だと思う。

2018年、CHAIは本当に大忙しだった。5月にはEP『わがまマニア』、そして11月にシングル『GREAT JOB / ウィンタイム』をリリース。どちらもアルバム『PINK』(2017年10月リリース)以降の彼女たちの音楽的成長と野心を感じさせる素晴らしい作品だった。春から夏にかけては初のワンマンツアーである『Because ウィーアー・CHAIトゥアー』を完遂。『FUJI ROCK FESTIVAL』を始めとする各種大型フェスにも多数出演し、2018年の目標として掲げていた「CHAIなりのフェス映え」を有言実行した。そして、その歩みを止めることなく、国内ツアー『CHAIいく!CHAIくる!トゥアートゥアートゥアー』を敢行。12月19日に行われたZepp Tokyoファイナル公演では、来年2月13日に2ndアルバム『PUNK』をリリースすることも発表し、ファンの期待を煽った。

『FUJI ROCK FESTIVAL’18』にて(撮影:中磯ヨシオ)
『CHAIいく!CHAIくる!トゥアートゥアートゥアー』12月19日Zepp Tokyo公演(撮影:中磯ヨシオ)

日本での活動を充実させる一方、今年は国外での活動が本格的に動き出した年でもあった。BURGER RECORDSやHeavenly Recordingsなどの海外レーベルと契約し、1stアルバム『PINK』を国外でもリリース。3月には昨年に引き続き、アメリカ・テキサス州オースティンで行われた大規模イベント『SXSW(サウスバイサウスウエスト)』に出演。9月には、アメリカ・ロサンゼルスとニューヨークで初のCHAI主催ライブを行った。どちらの会場にも、CHAIをインターネットの海から見つけた多数の現地ファンが押しかけ、日本語の歌詞やらリフやらを熱唱するなど、大変な盛り上がりだったらしい。しかも、ロスのライブにはCHAIのお爺ちゃん分とも言える(?)ニューウェイブバンドの始祖、DEVOのメンバーも観に来ていたとか。CHAIの4人は泣きながら、DEVOとバックステージでハグしたそうだ。

しかしながら、よく考えてみれば、CHAIは「世界3位になるニュー・エキサイト・オンナバンド」を標榜するバンドである。そもそも、彼女たちはデビュー以前から全米ツアーを行うなど、日本や海外というくくりに囚われずに世界をまるっと主戦場にしてきた。では、今年、特に彼女たちを取り巻く状況にどんな変化があったのか……というと、やはりCHAIというバンドが世界中のリスナーに広く知られるきっかけが増えたということではないだろうか。

例えば、10月17日にアメリカ・シカゴの音楽ウェブメディア『Pitchfork』が投稿したインタビュー記事「Meet Chai, the Eclectic Japanese Rock Band Redefining What It Means to Be Cute(かわいいの意味を再定義する、日本のエクレクティックなロックバンドーーCHAIをご覧あれ)」は、ネット上で非常に大きな評判を呼んだ(12月17日に発表された『Pitchfork』の「BEST ROCK ALBUMS 2018」の内の1枚にも選出された。これは近年稀に見る快挙と言っていいだろう)。Bon Iverのジャスティン・バーノンがこの記事を絶賛するなど、これまでの活動からは考えられなかったようなフィールドにまでCHAIの名前は広がりを見せている。

今年10月におよそ3週間に渡って行われたSuperorganismとのUK&アイルランドツアーもまた、CHAIというパンクでキュートでラディカルで、どこまでもオリジナルなこの日本のバンドを広く世界に知らしめる一助となった。2018年、最も話題を呼んだバンドであるSuperorganismとCHAIの邂逅はいかなるものだったのか。10月24日、ロンドン・O2 Shepherd's Bush Empireで行われた公演をレポートしていきたい。

CHAI。O2 Shepherd’s Bush Empire前にて

SuperorganismからCHAIへラブコール

ご存知ない方のために改めて紹介しておくと、Superorganismはインターネットを介して結成された日・韓・英・豪・新の多国籍なメンバーが所属する8人組バンドである。今年、3月に1stアルバム『Superorganism』をリリース。8月に『Forbes JAPAN』(アトミックスメディア)が発表した「世界を変える30歳未満の30人」には、SuperorganismとCHAIが共に選ばれ、Superorganismは雑誌の表紙も飾った。来年1月にはSuperorganismにとって初のジャパンツアーが決定している。

SuperorganismのUK・アイルランドツアー全13公演へのCHAIのサポートアクトとしての抜擢は、以前からCHAIを「お気に入りのバンド」としてBBCラジオなどで紹介していたSuperorganismからのラブコールで実現したものだ。CHAIも「今、世界で一番好きなバンド!」と、かれらのことを評しており、まさに相思相愛の関係。今回のツアーに13日間ほど密着したが、本当にお互いがお互いの音楽を心の底からリスペクトしているのがよく伝わってきた。

CHAIとSuperorganism
マナ(CHAI)とオロノ(Superorganism)

このツアーで、SuperorganismとCHAIがロンドンでライブを行ったのはO2 Shepherd's Bush Empireというロンドン西部に位置する2000人規模の会場だ。1903年に建てられた100年以上の歴史あるこのヴェニューには、ビョークやエイミー・ワインハウスなど、数多くの有名アーティストが出演している。CHAIにとってはもちろんのこと、Superorganismにとっても、今回のツアーでは最も大きいクラスの会場のはずだが、出番前のかれらは気負うことなく、妙にリラックスしていた。「なんでもない、いつもと変わらないライブだよ。プレッシャー? 別にないな(笑)」とは、Superorganismのオロノ(Vo,Sampler)の言葉。そのままオロノは会場外のフードコートにご飯を食べに行ってしまった。CHAIもCHAIでリラックスした様子。会場横のパブで巨大なハンバーガーをお腹いっぱい食べ、ライブに備えていた。

オロノ(撮影:小田部仁)
ハンバーガーを頬張るCHAI

「かわいい」の価値観を変えようとするCHAIのステイトメントは、世界規模で必要とされている

よく知られている話だが、海外のライブの開始時間は日本と比べると大分、遅い。大体、仕事や学校終わりに一杯引っ掛けたり家に帰ってドレスアップしてから、ゆるゆると来る人が多いのだという。

「C・H・A・I」という、CHAIのライブではおなじみのSEと共に揃いのピンクの衣装で登場した4人。バーカウンターで飲みながらリラックスしていた人々が、ジロリと好奇の目を彼女たちに向ける。しかし、まったくのアウェーというわけでもないようで、メンバーの名前や、「CHAI」とバンド名を大声で呼ぶ声も、どこからから聞こえてきた。

「Hi! everybody! We are CHAI from Japan! Nice to meet you!(みんな! 私たちは日本から来たCHAIだよ! よろしくね~!)」と、満面の笑顔でロンドンのオーディエンスに自己紹介するマナ(Vo,Key)。なにか始まったぞ……と、とりあえず歓声をあげる観客たちのテンションを、“ボーイズ・セコ・メン”で、徐々に上げていく。最初は「What's that?(なんだ、あれは?)」などと言いながら、ステージを遠巻きに観ていた人々もその骨太なバンドサウンドを耳にして、CHAIの実力を確かめるようにフロアに降りてきた。マナ、カナ(Vo,Gt)、ユウキ(Ba,Cho)の3人のセクシーな腰つきと「シャッ!」という猫がパンチを繰り出すようなパフォーマンスが魅惑的な2曲目の“あのコはキティ”が始まる頃には、オーディエンスにもCHAIが只者ではないことが徐々に理解できたようで、興奮にも似たざわめきがフロアに広がっていく。

続いて披露されたのは、CHAIのパフォーマンスが炸裂する「自己紹介ソング」だ。ユウキとユナ(Dr,Cho)の奏でる太いビートに乗って、1stアルバム『PINK』のジャケットを持ったマナとカナが踊り、歌い始める。この曲で引用されているThe Ting Tingsの“Great DJ”は、かれらがイギリス・マンチェスター出身のポップデュオなだけあり、ここロンドンでは歌詞が、CHAIバージョンになっているにもかかわらず、中盤の印象的なリフで大合唱が起きていた。マナとカナのアカペラによる、ABBAの大名曲“Dancing Queen”の替え歌でも、さらなる笑いと大合唱の渦が巻き起こる。CHAIはオリジナルな歌詞を歌っているにもかかわらず、オーディエンスは原曲の歌詞を歌っていたのが、妙な一体感を生んでいた。楽曲の最後、4人がステージの前方に出て来てCHAIポーズを決めた時には、満員の会場から大きな歓声が上がっていた。

最高の空気を保ったまま、突入したMCタイム。3曲目の“N.E.O.”の導入として、マナがCHAIのメインコンセプトである「NEOかわいい」について自分の目や足を指差しながら英語で実に丁寧にMCを始める。ツアーの最終日まで彼女たちは現地スタッフの力を借りながら何度もこのMCをよりわかりやすく、伝わるようにブラッシュアップしていた。「Complex is your charm! Everybody is wonderful! This is NEO KAWAII.(コンプレックスはあなたの魅力だよ! みんな素敵だよ! これがNEOかわいい!)」というマナの力強い言葉に、会場のあちこちから「YES!」と、大きな同意の声が上がる。

マナ
マナ、カナ

そして、プレイされたCHAIのテーマソングとも呼べるキラーチューン“N.E.O.”。これまでとは打って変わって、パンキッシュで性急なグルーヴにオーディエンスは沸き立つ。「自分自身への肯定感をもっと持っていいんだ!」というCHAIのステイトメントは、まさに今という時代に世界規模で必要とされているものであることを再確認させられた。

最後は、抱き合うカップルたちがフロアに

Superorganismのハリー(Gt,Cho)は「ロンドンのオーディエンスはライブ慣れしていて、耳が肥えている。だからどうしても最初は初めて観るバンドを観察するような態度をとる」と、言っていたが、この時点で、CHAIはすでにロンドンの観客たちの心を掴むことに成功していたように思う。ここからはCHAIが手綱を引いて、O2 Shepherd's Bush Empireの観客たちを存分に踊らせる時間だ。

“N.E.O.”から“フライド”、そして“クールクールビジョン”へと、曲間をセッションでつなぎながら一連の流れで聴かせる構成は海外でのライブを特に意識して作ったのだそう。シンセベースとキーボード、タイトなドラムスの絡みに、この日一番の歓声があがる。“クールクールビジョン”では「Oh! Yeah!」というマナのボーカルに合わせて、ハンズアップするオーディエンスの姿が印象的だった。

カナ
ユウキ
ユナ

最後に演奏されたのは“sayonara complex”。メロウかつスウィートなグルーヴが、どこかロマンティックな雰囲気を醸し出す。フロアの中央では、お互い見つめ合ったままスロウダンスを踊っているカップルが何組もいた。名残惜しそうに会場を眺めるCHAIの4人。この日、確かにCHAIの音楽はロンドンのオーディエンスたちにしっかりと届いていた。楽曲の最後「Thank you, London!」と、マナがシャウトすると瀟洒な会場の天井を突き破らんばかりの大きな歓声が沸いた。

Superorganismを観て改めて確信「もっと自由に、思うがままに!」

終演後、CHAIは物販の側に立ち、集まった大勢のオーディエンスと記念写真を撮ったり、サインを書いたりしていた。「Amazing!(素晴らしい!)」や「Wonderful!(最高!)」など、投げかけられる熱を帯びた褒め言葉の数々に、はにかみながらも自信たっぷりに会話を交わす4人の姿を見ていると、なんだか誇らしいような気持ちすらした。

何人かのオーディエンスに今日のライブの感想を聞くと「演奏力がすごかった」「楽曲がポジティブなバイブスに溢れていて、とてもよかった」「NEOかわいいに共感した。クールなコンセプトだと思う」と、彼女たちの音楽の本質を捉えた答えが返ってきた。ところ変わっても、CHAIの音楽は誤解を受けることなく、真っ直ぐに伝わっているという印象を受けた。

2018年は、多忙を極め、自分たちの現在地を見失いかけていたというCHAI。ツアー最終日に行ったインタビューで彼女たちは、今回のSuperorganismとのツアーを「人生で一番と言ってもいいほど大きな経験だった。もっと自由に、もっとパンクに自分たちは自分たちのやりたいことをやっていいんだ」と、形容していた。4人は毎公演欠かさずに、オーディエンスたちに混じってSuperorganismのライブを食い入るように観ていた。かれらがライブで放つエネルギー、楽曲の強靭なポップネス、そして暴力的なまでの「自由さ」を目の当たりにして、CHAIは「子どものように自分たちのやりたいことをなにがなんでもやる、というのが大事」だと感じたという。

Superorganism

ツアー中は忙しい2組だけあり、なかなかスケジュールを都合するのに苦労したようだが、それでも合間を縫って、Superorganismの住むロンドンのシェアハウスに遊びに行ったり、レコーディングやジャムセッションも行ったそう。最終日にはお互い涙を浮かべながら別れを惜しむほど、強い絆を築いたCHAIとSuperorganism。かれらが過ごしたかけがえのない時間の記録は、12月21日発売予定のユースカルチャー誌『Quick Japan』(太田出版)でも大特集される予定なので、そちらもぜひご覧いただきたい。

1月にはSuperorganismのジャパンツアーの東京公演(追加公演)にて、CHAIの出演が決定している。深いリスペクトでつながったCHAIとSuperorganismのスペシャルなライブを、日本・東京で目撃できることが嬉しい。後に伝説として語られる一夜になることは間違いないだろう。

「もっとパンクに、自由に、思うがままに!」——SuperorganismとのUK&アイルランドツアーを経て、初期衝動に立ち返り、新たな翼を得たCHAIの2019年はきっと、もっと自由で、もっとラディカルで、もっとワクワクするようなものになるに違いない。どうやら、来年もCHAI(そして、Superorganism)にまみれる1年になりそうである。

『CHAIいく!CHAIくる!トゥアートゥアートゥアー』ツアーファイナルを終えた直後のCHAI(撮影:中磯ヨシオ)
リリース情報
CHAI
『PUNK』(CD)

2019年2月13日(水)発売
OTEMOYAN record

イベント情報
Superorganism
『JAPAN TOUR 2019』

2019年1月22日(火)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-EAST
ゲスト:CHAI

書籍情報
『Quick Japan vol.141』

2018年12月21日(木)発売
価格:1,296円(税込)
発行:太田出版

プロフィール
CHAI
CHAI (ちゃい)

ミラクル双子のマナ・カナに、ユウキとユナの男前な最強のリズム隊で編成された4人組、「NEO - ニュー・エキサイト・オンナバンド」、それがCHAI。誰もがやりたかった音楽を全く無自覚にやってしまった感満載という非常にタチの悪いバンドで、いきなりSpotify UKチャートTOP50にランクイン、2017年SXSW出演と初の全米ツアーも大成功、『FUJI ROCK FESTIVAL』ROOKIE A GO GO超満員を記録など、破天荒な活動を繰り広げる。そして期待値最高潮のなか17年10月に1stアルバム『PINK』をリリースし、オリコンインディーチャート4位、iTunes Alternativeランキング2位にランクイン。また日本テレビ系『バズリズム02』の「コレはバズるぞ2018」では1位にランクイン、第10回CDショップ大賞2018 入賞など、注目度が更に増す中、2月に『PINK』US盤をアメリカの人気インディーレーベルBURGER Recordsよりリリースし、3月にはアメリカ西海岸ツアーと2度目のSXSW 出演を大成功に収める!5月には3rd EP『わがまマニア』をリリースしApple Music/ iTunesオルタナティブランキング1位を獲得。更にアメリカに続き2018年8月にはイギリスの名門インディーレーベルHeavenly Recordingsよりデビューを果たし、10月には世界的に話題のバンドSuperorganismのワールドツアーUK/Ireland編に参加し全英13都市を回る!彼女たちに触れた君の21世紀衝撃度No.1は間違いなく「NEOかわいいバンド」、CHAIだよ!



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