このイノセンスだけが、日々を彩る

このほど、独自のセンスで確かなクオリティの作品を世に送り出し続けているレーベルHEADZから、デビューとなった彼女。これまでにエレクトロユニット・コマイヌをはじめ、いくつかの名義で作品をリリース。コマイヌとしては『FUJI ROCK FESTIVAL』『渚音楽祭』に出演するなど、実はキャリアも実績もある。本作は、そんな彼女の8年にわたるソロワークの集大成。作詞・作曲やアレンジはもちろん、ほとんどの演奏は、彼女自身が担当。ミックスも益子樹(ROVO)の師事のもと、自ら行った意欲作だ。

実のところ彼女の音楽は、フォークトロニカ、アンビエントポップ、ダブポップなど、さまざまな形容ができる。そういった前情報やプロフィールだけ見ると、いかにも音響系の、ちょっとセンスが良くて、ボーカルはなよっとしていて……とくにロックリスナーからはまるで自分とは関係のないものと敬遠されてしまいそうだが、一聴してもらえばどんな形容やレッテルだって、聴いたそばからそぐわなくなってしまうことがわかるだろう。



実際この作品を、僕はあらゆるシチュエーションで聴いた。初めはある程度整った事務所スピーカーシステムで、次に電車のなかイヤホンからささやかれるような小さな音で、大音量のカーステレオで、自転車で強い向かい風に邪魔されながら……。しかしこの作品が真に響いたのは、あいにくヘッドフォンもイヤホンも持っておらず、どうしても音楽が聴きたくなった真夜中、iPhoneのスピーカーから直接楽曲を流した瞬間だった。音は割れてどうしようもなく、放たれた瞬間から闇夜に紛れてしまう。そんな状況でこそ、彼女の音楽は輝いた。

安直に「いい歌なんですよ」、なんてことが言いたいわけでは、もちろんない。

その物悲しくたおやかなメロディは、吐く息も白いブルーグレーの夜空に、よく似合った。持ち味のエレクトロニカ調のトラック、端正なローファイとでも言うようなサウンドスケイプは、静かに夜気に融けた。歌は、そんな単調な毎日の風景に、少しばかりの彩りを添えてくれた。結果残ったのは、無垢な歌とまっさらな自分だけ。イノセンス、そう言い換えてもいい。一日のうちのほんの一瞬、自分が自分に戻るたいせつな時間に、この音楽は輝いたのだ。

「考えてみれば、必要なものは、それほど多くない」。2011年はおそらく、否が応でも多くの人が、そう考えさせられた一年だった。実際にそんなものは両手でこと足りるほどしかない。音楽に限った話だとしても、そんなこと、とうの昔にみんな気づいている。でも心配はいらない。この作品は本当に「自分の音楽」として、あるいは「どうしようもなくひとりの夜のために鳴る、音楽」として、定着するにたる作品だから。

僕らはともすれば、「ただ毎日を生きて」いる。ようやく見つけられた、たいせつな人や好きなことに想いを馳せながら。わずかな時間で、バランスをとりながら。言うにこと欠いてあえて言うが、音楽には泥のような気分を、そんな日々を一変させる力などない。ただ少しの間、自分だけに寄り添っていてくれる。でもそれだけで十分、救われることだってあるんじゃないか?

ある種の魔法、白昼夢、自己を投影する隙間、イノセンス……どう言ってもいい。本作にはそんな、音楽の役割としてもっともたいせつな要素のひとつが、確実に宿っている。泥だって、カラフルをまとえる――感傷が過ぎるのはきっと、冬の寒さとこの作品がどうしても、心のひだに触れてくるせいだ。

リリース情報
山田杏奈
『カラフル』

2011年12月28日発売
価格:2,500円(税込)
WEATHER 052 / HEADZ 156

1. ヒツジ雲
2. loopway
3. 宙を舞う
4. 空中散歩
5. うみ
6. カラフル
7. ない
8. みるくのちかく
9. シャッター



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