震災によって変化するエコとアートの交差点

環境をテーマにしたアートコンペ『KONICA MINOLTA エコ&アート アワード 2012 supported by Pen』の入賞作品展が3月22日まで、新宿区のコニカミノルタプラザで開催されている。昨年は会期中に東日本大震災が発生し、グランプリ発表会や展示が中止となった同イベント。国民の意識が大きく変化した1年だったが、『エコ&アート アワード』でも、日本の復興や未来のあり方を考える「next ACTION部門」が新設され、震災以降のクリエイションを模索する取り組みがなされている。

展示の様子

今年で4回目となる『エコ&アート アワード』には、16歳から35歳のクリエーターから279の作品が応募され、「ビジュアルアーツ部門」21作品、「プロダクト&コミュニケーション部門」9作品、「next ACTION部門」の9作品の入賞作品が選ばれた。3月20日には各部門のグランプリや準グランプリ、オーディエンス賞などが発表される予定だ。

レセプション関連

3月3日に行われたレセプションでは、協賛各社の代表からも震災を意識した発言が聞かれた。J-WAVE の宮本英延氏は、「震災以降、エコのあり方もより芯を食ったものにならざるを得ないし、生活に必要なアートというものも見直さざるを得なくなってきている」と指摘。IDEEの川渕恵理子氏も「3.11以来、毎日を同じように暮らしていけることが尊いと改めて感じるようになった。クリエーションの視点が人々に勇気や元気を与え、暮らしを輝かせることができる」と話した。

唐杉庸平『F.T.F.(in laboratory dish on mirror)#1』
唐杉庸平『F.T.F.(in laboratory dish on mirror)#1』

伊勢谷友介氏率いる「REBIRTH PROJECT」も審査に協力した「next ACTION部門」には、そんなクリエーターの思いが詰まった作品が多く入賞した。コンセントにドアを付けることで節電意識を高める『Denki no tobira』(進藤篤氏)もそのひとつだ。「ドアが開けっ放しになっていると閉めたくなる」という人間心理を利用し、「電化製品を使い終わった後はプラグを抜いてドアを閉める」という行為を日常に定着させようとした意欲作である。

進藤篤『Denki no tobira』
進藤篤『Denki no tobira』

また、青木大輔氏、樋口太郎氏によるユニット「NOTE」が制作した『玉響‐たまゆら‐』もユニークだ。この作品は、クエン酸と重層を無水アルコールで固めた「魔法のキャンディ」と少量の水をビニールに入れて膨らませ、座ったり寝転がったりする家具に変化させるというもの。

NOTE(青木大輔/樋口太郎)『玉響‐たまゆら‐』
NOTE(青木大輔/樋口太郎)『玉響‐たまゆら‐』

もちろん防災グッズとしても使えるが、根本には「放射能によって、空気や水など当たり前だったものが、当たり前じゃなくなる状況が生まれてしまった。空気や水を体感したり、可視化したりして身近に感じることができるプロダクトが提案できれば、「next ACTION」に繋がるのではないか」(青木氏)という思いが込められている。また、「暑い日にはビニール内の空気が大きく膨張したり、寒い日だったら中に結露が出たり。当たり前に変化する空気や水の表情を楽しんでもらいたい」(樋口氏)という狙いもあるそうだ。

『Pen』編集長 安藤貴之氏
『Pen』編集長 安藤貴之氏

「next ACTION部門」以外でも震災の影響を受けた作品は多く、震災や原発事故がクリエイターに多大な影響を与えているということが分かる。

第1回目から審査員を務める雑誌『Pen』の編集長・安藤貴之氏は、「良い意味でエコが当たり前の価値観になってきている。『エコ&アート アワード』が始まった当初は作り手にある種の気負いみたいなものがあったが、現在ではエコを前提として発信する意識が当たり前のこととして定着しつつある」と手応えを感じているようだ。さらに、「10代や20代前半の若い才能にも、力強いものを感じる」とも語り、早い段階からエコを意識して育った「エコネイティブ世代」に対する期待感ものぞかせていた。

コニカミノルタプラザの高橋誠光氏によると、これまでの受賞者も業界で活躍しており、若手を発掘する場として機能しつつあるという。若手の登竜門、そしてエコとアートを結ぶ表現の醸成など、「エコ&アート アワード」が果たすべき役割は大きい。

一方で、まだまだ課題も残っている。「REBIRTH PROJECT」の平社直樹氏は、「受け身ではなく、これからどのような仕組みに変えていかなければならないのか、という社会のシステムや構造にまで踏み込んだ作品がもっと増えてほしい」と話す。

「REBIRTH PROJECT」 平社直樹氏
「REBIRTH PROJECT」 平社直樹氏

自身もデザイナーである平社氏。「工場の動き方をデザインすればゴミを減らすことだって出来るし、ゴミを捨てる必要を無くすことだって出来るかもしれない。ビジュアル的な仕事だけではなく、頭を柔らかくして慣例にとらわれないようにする必要がある。子どもみたいに「なんで、こうじゃないの?」と素直な疑問を提示してくる本質的な作品に期待したい」

「システムを変える」と言うと、大掛かりなことのように感じてしまう人がいるかもしれないが、実はそうではない。「クリエーターの怒りや焦りなどが、作品を通じて周りの人に連鎖すること自体がひとつのシステムを作っていく」(平社氏)ことにも繋がるからだ。鑑賞者に思いを伝播させていけることも、クリエーションが持つ大きな力のひとつだと言える。

そういう意味では、来場者が作品をどのように捉え、どのように行動するかも重要だ。震災以降の表現がどのように変化しているのかをチェックするためにも、ぜひ足を運んでもらいたいイベントである。

イベント情報
『KONICA MINOLTA エコ&アート アワード 2012 supported by Pen』作品展

2012年3月4日(日)〜3月22日(木)
会場:東京都 コニカミノルタプラザ ギャラリーB&C
時間:10:30〜19:00(最終日は15:00まで)
休館日:会期中無休
料金:無料



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