あいみょんが射抜く時代、愛、生きる力。クロスレビューで紐解く

ポップアイコンとしてさらに翼を広げた『ハルノヒ』誕生に捧ぐ、あいみょん徹底レビュー

まさに怒涛の勢いである。インディーズデビューから約4年。昨年は『紅白歌合戦』に初出場し、一躍音楽シーンに止まらない名歌となった“マリーゴールド”を披露。今年2月の『瞬間的シックスセンス』リリース当日には、サブスクリプションサービスのトップ20に彼女の楽曲が16曲も入るという、最高の事件までを巻き起こした。その歌の力、メロディの飛翔力、濃く生々しい歌のテーマも美しい情景描写と行間の中で聴かせるリリシズム。その核心にあるものとは一体なんなのか? 『映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし~』主題歌として『ハルノヒ』をリリースし、さらに速度を上げてポップアイコンとして駆け上がっていくであろう今こそ、その歌に愛を捧げる4つのロングレビューで、改めてあいみょんの核心を探る。

あいみょん
1995年生まれ、兵庫県西宮市出身のシンガー・ソングライター。中学の頃からソングライティングを始める。2015年3月にタワレコ限定シングル『貴方解剖純愛歌~死ね~』でインディーズデビュー。2016年11月にワーナーミュージック・ジャパン内レーベルunBORDEより『生きていたんだよな』でメジャーデビューし、2017年9月に1stフルアルバム『青春のエキサイトメント』を発表。2018年大晦日には“マリーゴールド”で『紅白歌合戦』に初出場を果たし、2019年2月には日本武道館公演を開催。『瞬間的シックスセンス』リリースの際にはストリーミングサービスのトップ20に16曲がチャートインした。4月17日(水)には『映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし~』主題歌として『ハルノヒ』をリリース。

「作家」として時代と向き合う、その序章としての“ハルノヒ”(テキスト:金子厚武)

「私はシンガーソングライターであると同時に、作家でもある」。これはあいみょんが取材時によく口にしている言葉だ。2月に行われた初の日本武道館公演が弾き語りであったように、「曲を書き、歌う」というシンガーソングライターを本分としながらも、自身の心情を歌に込めるのではなく、「作品」として曲を書くというのが彼女の基本スタンス。実際、DISH//らには曲提供をしているし、最近は映画絡みの書き下ろしも多いが、自身が主題歌と挿入歌を歌った『あした世界が終わるとしても』以外に、『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』や、5月に公開される『さよならくちびる』では、役者が歌う劇中歌を提供しているというのも、「作家」としての立ち位置をよく表している。

『映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし~』のために書き下ろされた“ハルノヒ”も、そんな「作家」あいみょんの本領発揮の一曲なわけだが、対象となる作品がより大衆的になっていくことによって、そこに作家として関わるということは、「時代と向き合う」こととイコールになってくる。もともと『クレヨンしんちゃん』という作品には「多様な生き方を肯定する」という側面があったが、「さらわれたひろしを家族(中心はみさえ)で助けに行く」という今回の物語は、「ヒーローがヒロインを助ける」のではなく、「ヒロインがヒーローになる」という時代感を反映したもの。“ハルノヒ”の<君の強さと僕の弱さをわけ合えば どんな凄いことが起きるかな?>というラインは、みさえとひろしの関係性を表すことによって、結果的に現代社会への投げかけにもなっている。

物怖じせずにはっきりものを言うタイプで、ファッションを含めてボーイッシュな雰囲気があり、“君はロックを聴かない”に代表される、弱さと愛らしさを含んだ男性目線のラブソングが真骨頂。そんなジェンダーレスなキャラクターや作家性が時代とマッチしていたからこそ、あいみょんは平成最後のアイコンになった。そして、『紅白歌合戦』という国民的な番組への出演を経て、存在としてではなく、作品として、初めて明確に時代を切り取った記念すべき一曲が、“ハルノヒ”なのだと言ってもいいかもしれない。

「agehaspringsのプロデューサーをはじめとしたアレンジャー陣と組むことによって、歌謡曲を今に更新している」という意味において、あいみょんと双璧を成す(と思っている)吉澤嘉代子は、昨年かつての妄想世界にひとまずの別れを告げ、<戦っている貴方はうつくしい>と、女性の背中を押す“ミューズ”を書き上げた。「あくまで作家」というスタンスである以上、あいみょんが急に自らのメッセージを強く打ち出すことはないと思うが、この1年の劇的な状況の変化が彼女の筆致に何かしらの影響を及ぼすことは十分に考えられる。“マリーゴールド”のように、「これこそ自分」という曲が新たに生まれたとき、はたしてそれがどんな曲になっているのか、今からとても楽しみだ。

わかりやすいキャッチコピーや、ひとつのイメージを定着させないからこそ、あいみょんはどこまでも行ける(テキスト:矢島由佳子 / CINRA.NET編集部)

あいみょんに、CINRA.NETが渋谷・TSUTAYA O-nest(250人キャパ)にて主催するショーケースイベント『exPoP!!!!!』に出てもらったのは、2016年8月のこと。懺悔を込めて正直に言うが、当時自分があいみょんに対して抱いていたのは、「歌はめちゃくちゃ上手いけど、彼女の個性はなんだろう? どういった人になにを届けるアーティストになっていくのだろう?」という印象で、ここまで一気に飛躍する想像はできていなかった。この約2年半のあいだに彼女から教えられたのは、「歌が上手い」はアーティストにとってなによりも強烈で、魅力的で、稀有で、もっとも必要な個性であるということ。そして、受け手のターゲットや自分のアーティストイメージを定めずに「何者にもならない」のは、「何者にもなれる」ということだ。

現在は、メディアの多様化という後押しもあって、様々な音楽性が生まれて聴き手に届けられるかなり面白い時代であると思っているが、どうしても、この国の「大衆歌」となり得るのは「歌」が届くものである、というその文化はさほどシフトチェンジしていない。たとえば『紅白歌合戦』の出演者を見てみても、アイドルを除くと、連続出場している歌手はみな、誰が聴いても「上手い」と思わせる歌と、言葉がはっきりと聴こえてくる歌を歌っている。その技術を持ち合わせている人はプロの歌手のなかでもかなり稀有であって、それこそが、ここ近年登場した女性アーティストのなかでもあいみょんが抜きん出ている個性だ。

だからこそ、あいみょんの歌はカラオケでも歌いこなすのが難しい。しかも、平井堅にも「譜割りが難しいから歌うのが難しい」と言わせるほど(あいみょん談)、あいみょんが書く楽曲は譜割りが歪になっている。「簡単にできるものではないからこそ、自分もやってみたくなる」というものが「流行」となっていくことは、たとえば星野源の「恋ダンス」のブームでも証明されたが、サブスクのランキングだけでなくカラオケのランキングでもあいみょんの楽曲が上位を占領しているのは、そういった歌と楽曲の特異性から生まれている現象でもあると言えるだろう。

歌という本質的な魅力と個性を持ったうえで彼女は、なにかひとつのテーマを歌ったり、ひとつの系統のファッションを身にまとったりすることはせず、毎回受け手が抱くイメージを裏切って変幻自在に「あいみょん」のイメージを変えてくる。“貴方解剖純愛歌~死ね~”で「メンヘラなのか?」という印象を与えたかと思ったら、“君はロックを聴かない”でJ-POPど真ん中の歌を歌い、“満月の夜なら”で官能小説っぽさ全開の歌を歌ったかと思えば、“ハルノヒ”では『クレヨンしんちゃん』の家族・夫婦をテーマにした純愛を歌う。それができるのは、彼女のクリエイティブ力と、アレンジャーやタイアップ相手など外部からの要素をしなやかに受け入れても消えない声・メロディー・言葉を含めた「歌」の本質的な力があるからこそだ。そうして、特定のイメージをあえて作らないからこそ人々が語りたくなるという現象を生むことも、あいみょんは軽やかに成し遂げている。アルバム『瞬間的シックスセンス』の取材(参考記事)で彼女は、理論ではなく直感で物作りをする大切さを教えてくれたが、「あいみょん」というヒットは、ミュージシャンに限らず全てのクリエイターやビジネスマンに、わかりやすいキャッチコピーやブランドイメージを作らずに世にものを届けていく手段も証明しているように思う。

あいみょん『瞬間的シックスセンス』を聴く(Apple Musicはこちら

あいみょんが歌う「愛」とは何か(テキスト:小川智宏)

あいみょんはシンガーソングライターとしてはどちらかといえばかなり頑固なほうだと思う。ディスコグラフィを通して彼女が歌っていることは、突き詰めればたったひとつしかないからだ。“貴方解剖純愛歌~死ね~”も“○○ちゃん”も“君はロックを聴かない”も“マリーゴールド”もそう。そのたったひとつの何かを、ずっとあいみょんは探している、彼女の歌を聴いているとそんな気がする。ではその「何か」とは何なのか。それは一言でいえば「愛」だ。より正確にいえば「愛されること」だ。『瞬間的シックスセンス』収録の“夢追いベンガル”の中で彼女ははっきりと<愛情求め生きてきてんのに / ああ 今日も愛されない>と歌っている。ここまで明確には言わないとしても、彼女の歌の主人公はいつもそうで、自分の心の穴にハマる愛のかたちを探し求めて怒ったり泣いたり叫んだりしているし、僕の大好きな“生きていたんだよな”で描かれる光景は、ある意味でその究極だ。

2月に行われた初の武道館公演で、彼女は家族の話をし、親友である○○ちゃんとのラジオ番組を幕間に流し、そして最後にはずっと連れ添ってきたマネージャーをステージに呼び込んだ。あのライブは彼女自身が得てきた愛の確認だったように僕の目には映った。実際に彼女の歌詞を読み返してみればわかる。彼女のラブソングは大抵、いかに自分が相手を愛しているか、ではなく、こんな自分をいかに愛してくれるのか、という裏返しの視点で書かれていて、それがエスカレートしデフォルメされると“貴方純愛解剖歌~死ね~”になり、その視点をくるっと回して逆方向からみると“マリーゴールド”になる。くるっと回すことで裏返しの視点はストレートになり、だから“マリーゴールド”は最終的に『紅白歌合戦』のステージで歌われるような歌になることができた。そして“マリーゴールド”がほかのすべての楽曲の構造を読み解く鍵となり、アルバム『瞬間的シックスセンス』はそれまでとは違うレベルの共感を得ることに成功した。

そこで“ハルノヒ”である。この曲は「愛している」と「愛されたい」の両方をひっくるめて、幸せな愛のありかたを堂々と歌っている。じつはあいみょんがそれを真正面から歌ったのはこれが初めてだと思う。もちろん、今回それができたのは『クレヨンしんちゃん』という題材があったからで、どうもこの曲関連のインタビューを読んでいると「しんちゃんが好き」以上のことをあまり喋っていないのでたぶん本人も気づいていない可能性があるが、いうまでもなく、その題材の中から家族が生まれる瞬間の風景を切り取ったのはそこにあいみょんの欲望があったからだ。そういう意味で、“ハルノヒ”はもしかすると“マリーゴールド”以上にあいみょんの謎を解く鍵となる曲になっていくのかもしれない、と思っている。

あいみょんの歌は、何にも線を引かない(テキスト:矢島大地 / CINRA.NET編集部)

人間の欲望の、その根っこだけを凝視している人だと思う。

“生きていたんだよな”を聴けば、「死にたい衝動」と「生きたい本能」は、相反するものではなく同じ心の引き出しの中にあるものだと痛感する。“満月の夜なら”のようなセックスソングを聴けば、生への執着と性衝動は一体のものだと理解できる。ラブソングの数々では、いつか終わると知るからこそ今を繋ぎ止めようともがき、その切実さが行き過ぎて狂気へと変貌していく様に震撼する。確かに“貴方解剖純愛歌~死ね~”の頃に比べれば音楽も詞もたおやかに変化したし、“マリーゴールド”の瞬発力には、真っ向から「愛してる」を歌えたことが直結しているのだろう。しかし『瞬間的シックスセンス』の“二人だけの国”などを聴けばわかる通り、生と性への執念や、恋する人への怨念にも似た独占欲――今なお歌の真ん中には、強烈な情念がある。メッセージ云々ではなく、生きていくための衝動に従順すぎるほど従順な歌。そんな半径数メートルと目の前の人とベッドと夜の帰り道から生まれる彼女の歌が、日本的なフォークに共鳴するのもよくわかる。

その上で彼女の凄さは、情欲や性といった、ともすればグロテスクになりそうな歌の種をあくまで軽やかに昇華していることだ。それはなぜか? 彼女自身が「女性性」や「男性性」のどちら側にも寄らない場所でそれらを歌うからだ。女性の生き方や人間観におけるステレオタイプなど不要になった時代の後押しもあるだろう。たとえば一人称が<僕>になる歌が多いことからもわかる通り、女性としての欲動に身を任せた歌でも、それが「彼女」のパーソナリティを超えたところに置かれることで、人と人の間に大きく横たわる愛と、繋がりそのものを描く歌になっていく。歌の力、メロディの才を大前提にして、本来あるべきジェンダー観のために旧来の価値観が問われている今の時代にそのままフィットする歌の在り方・愛の捉え方が彼女の翼になっている。だからこそ彼女は、あらゆる欲望を、そもそも蓋をする必要のない「人を繋ぐもの」「生きるためのエネルギー」として切り取れるのだろう。

そんな歌の軌跡を改めて見直した上で聴いた、『映画クレヨンしんちゃん』の主題歌“ハルノヒ”。伸びやかなメロディで描かれるのは、ヒロシとみさえがただただ同じ視線で弱さ・強さを分け合おうとする姿。そして<焦らないでいい / いつか花束になっておくれよ>という一節。愛と幸福を目一杯綴りながら、しかしそこに登場する人物を従来の結婚観にも性別観にも収めない、さらに懐を広げた1曲だ。生と性、愛と哀、男と女。それらに線を引かず丸ごと飲み込んでいく歌の巨大さに、改めて畏怖を覚える。

あいみょん『ハルノヒ』(Apple Musicはこちら

あいみょん『ハルノヒ』
リリース情報
あいみょん
『ハルノヒ』通常盤(CD)

2019年4月17日(水)発売
価格:1,080円(税込)
WPCL-13037
12Pブックレット / スリーブケース仕様

1. ハルノヒ
2. 鯉
3. ハルノヒ(Instrumental)

あいみょん
『ハルノヒ』クレヨンしんちゃん盤(CD)

2019年4月17日(水)発売
価格:1,080円(税込)
WPCL-13038
初回生産限定「クレヨンしんちゃん」コラボスリーブケース / 12Pブックレット仕様

1. ハルノヒ
2. 鯉
3. ハルノヒ(Instrumental)

イベント情報
「AIMYON VS TOUR 2019 “ラブ・コール”」

2019年5月17日(金)
会場:北海道 ZEPP SAPPORO
ゲスト:HY

2019年5月24日(金)
会場:愛知県 ZEPP NAGOYA
ゲスト:マカロニえんぴつ

2019年5月25日(土)
会場:愛知県 ZEPP NAGOYA
ゲスト:木村カエラ

2019年5月31日(金)
会場:大阪府 ZEPP OSAKA BAYSIDE
ゲスト:My Hair is Bad

2019年6月1日(土)
会場:大阪府 ZEPP OSAKA BAYSIDE
ゲスト:竹原ピストル ※弾き語りライブとなります

2019年6月9日(日)
会場:福岡県 ZEPP FUKUOKA
ゲスト:ORANGE RANGE

2019年6月14日(金)
会場:東京都 ZEPP TOKYO
ゲスト:amazarashi

2019年6月15日(土)
会場:東京都 ZEPP TOKYO
ゲスト:DISH//

2019年6月22日(土)
会場:宮城県 仙台PIT
ゲスト:平井堅

2019年6月23日(日)
会場:宮城県 仙台PIT
ゲスト:石崎ひゅーい

プロフィール
あいみょん
あいみょん

1995年生まれ、兵庫県西宮市出身のシンガー・ソングライター。中学の頃からソングライティングを始める。2015年3月にタワレコ限定シングル『貴方解剖純愛歌~死ね~』でインディーズデビュー。2016年11月にワーナーミュージック・ジャパン内レーベルunBORDEより『生きていたんだよな』でメジャーデビューし、2017年9月に1stフルアルバム『青春のエキサイトメント』を発表。2018年大晦日には“マリーゴールド”で『紅白歌合戦』に初出場を果たし、2019年2月には日本武道館公演を開催。『瞬間的シックスセンス』リリースの際にはストリーミングサービスのトップ20に16曲がチャートインした。4月17日(水)には『映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし~』主題歌として『ハルノヒ』をリリース。



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