タランティーノ新作は「映画愛」の結晶。レオ×ブラピ共演作レビュー

全ての映画ファンに贈る最高傑作が、8月30日から日本公開

「この9作目が好評だったら10作目はない」

圧倒的な個性と優れたセンスで傑出した映画を撮り続けてきたクエンティン・タランティーノ監督は、かねてより10作品を撮りあげた時点で映画監督を引退すると宣言していた。そして場合によっては、その予定を早め、9作目である『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を最後の作品にする可能性があることを、雑誌のインタビューで示唆することになった。

いったい、なぜ引退するのか? なぜ本作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を最後の監督作にするかもしれないのか? その疑問は、本作を鑑賞することで氷解することになるだろう。素晴らしいことに、いや、残念ながらと言うべきか、9作目となった本作は、間違いなくタランティーノの代表作となるだろう傑作であり、そのクライマックスでは、これまでの集大成となる映画への愛情が結晶となり、全ての映画ファンへプレゼントされるのである。ここまでの作品を世に出してしまえば、思い残すことはないと考えてもおかしくはない。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』予告編

ディカプリオ×ブラピ。セレブリティが集う60年代ハリウッドの人・街・文化を鮮やかに描き出す

本作の舞台は、60年代のハリウッド。かつて隆盛を極めた西部劇が衰えを見せていた時代である。レオナルド・ディカプリオ演じる落ち目の俳優リック・ダルトン、そしてブラッド・ピットが演じる、長く彼のスタントマンを担当してきたクリフ・ブースのふたりが、そこで生きる主人公だ。

ハリウッドを代表する俳優二人の夢のような共演

かつて誰もが知るスターだったリックは、「イタリア映画にでも出たら?」と薦められるほど人気が低迷し、落ち込んでアルコールに逃げるなど自堕落な生活を送っており、クリフもまた仕事を干され、リックの運転手として彼の送迎をしたり、邸宅の雑用をこなす毎日。この役には、彼らが30年もの間ハリウッドで生きてきた実感も込められている。ブラッド・ピットの端正な顔にカメラが寄ると、歴史の重さを象徴する、深く刻まれた皺の数々が映し出される。

元戦争の英雄でもある、ブラッド・ピット演じるクリフ・ブース。56歳とは思えない肉体美を披露する一幕も

苦境のなかでも、彼らの生きる世界は輝いている。きらめくネオンに彩られたロサンゼルスの街なみ、セレブリティの集う華やかなパーティー、そしてスタジオのセットでの活気のある撮影風景……。映画を作ることの素晴らしさが、変わりゆく時代の情景とともに美しく描かれていく。さらに本作では、タランティーノ監督がこよなく愛するイタリア製西部劇マカロニ(スパゲティ)・ウェスタンへの愛情も描かれる。

本作をひとことで表すなら、「映画へのラブレター」となるだろう。タランティーノ監督は、自身が生まれた年代における憧れの世界を、ボロボロになって忘れられてゆく男たちの姿とともに再現していくのだ。

タランティーノ作品に通底する「しっかり染みた」味わい深さ

タランティーノ作品の大きな魅力は、どこを切っても「味が染みている」という点にある。登場人物たちの、本筋に関係のないムダ話や、画面に映るディテールの豊さなど、どのシーンを見ていても充実感、多幸感にあふれている。それを表面的に真似しようとしても、なかなか味が出せていない作品は多い。なぜタランティーノ監督の作品には、そのような魔法がかかっているのだろうか? 本作は、その理由が解き明かされる映画でもある。

もう若くはない俳優リックは、自分がハリウッドから去りゆく運命であることを知り、日々のプレッシャーを酒でごまかしながら、なんとかやり過ごしている。それは斜陽化する西部劇そのものを象徴しているようにも感じられる。そんな彼の苦悩から生み出される演技には、ボロボロだからこそ獲得した味がある。皮肉にも、人気がなくなったとき、彼は本物の役者の道を歩み始めたように見えるのだ。

強烈な演技が光る、ディカプリオ演じるリック・ダルトン

50年代アメリカの西部劇『リオ・ブラボー』に本作のルーツを見る

アルコール依存の登場人物が活躍するアメリカの西部劇に、『リオ・ブラボー』(1959年)がある。かつてタランティーノ監督はこの作品を、交際を始めようとする女性に見せて、その反応によって付き合いを続けるかどうかを判断していたと発言している。

『リオ・ブラボー』予告編

それほどのお気に入りである『リオ・ブラボー』は、やはり西部劇が廃れ始めた時期の作品だ。老いゆく西部劇スターのジョン・ウェインと、彼とかつて名作西部劇『赤い河』(1948年)を撮りあげた名匠ハワード・ホークスがタッグを組み、西部劇本来の面白さや、「旧き善き時代」の味わいをこれでもかとつめ込んだ、極端な内容となっている。それは、ジャンル自体への批判を含んだ社会派西部劇『真昼の決闘』(1952年)が人気を集めていた、新しい風潮へのカウンターでもあった。

そんな娯楽や「味わい」の権化のような西部劇『リオ・ブラボー』は、特にイタリアで大ヒットを果たし、愛される作品となった。そして、同じように娯楽性を追求する西部劇がイタリアでも作られ始めたことで、この作品はマカロニ・ウェスタンが誕生する契機ともなっている。このようなジャンル映画史の流れを、タランティーノ監督は本作で描き出し、おとぎ話のような架空の物語によって暗示しているのだ。まさに「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(むかしむかし、ハリウッドで)」というタイトルが示すとおりに。

リックが若かりしころに出演し、ヒットしたテレビ番組のワンシーン

ジャンルの解体と構築。「時代の寵児」と呼ばれたタランティーノの先進性

タランティーノ監督が、かつて「時代の寵児」と呼ばれ注目されたのは、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを獲得し、『アカデミー賞』で脚本賞を受賞した『パルプ・フィクション』(1994年)においてである。その先進性とは、ジャンル映画の解体と構築を行なう「ポストモダン」的な取り組みにあった。創作におけるポストモダンの特徴とは、「衒学的であること」、「記号的であること」、「模倣的であること」、そして「時間軸が無秩序的であること」などが挙げられる。それらはタランティーノ監督の作家性にそのまま合致する。

『パルプ・フィクション』予告編

このような取り組みが映画において大きく認知されたのは、ジャン=リュック・ゴダールの『勝手にしやがれ』(1960年)あたりからであろう。そこで行なわれた破壊的な撮影や編集の手法は、タランティーノ監督に影響を与えているはずである。それは、自身が経営する映画製作会社、「A Band Apart」が、ゴダール監督作『はなればなれに(Bande à part)』を引用していることからも明らかである。

『勝手にしやがれ』予告編

タランティーノ監督が『リオ・ブラボー』に惹かれたのは、あてつけのように西部劇の娯楽や「味わい」をつめ込みまくった内容が、期せずしてジャンルの解体と構築を示す、ポストモダン的な取り組みとなっていたからだろう。彼はレンタルビデオショップで働いていた時期に見まくっていたマカロニ・ウェスタンをはじめ、ブラック・エクスプロイテーション、香港のカンフー映画、日本のヤクザ映画など、ジャンル映画の要素を新たに組み立てていく。

『リオ・ブラボー』や『勝手にしやがれ』から、タランティーノ監督は自分の愛する映画群よりエッセンスを抜き取り、それによって新しい映画を構築するという手法を身につけていったのだろう。このように、『リオ・ブラボー』こそがタランティーノをタランティーノたらしめた映画であることを知れば、彼が気に入った女性にこの作品を見せてみるという理由も理解できるのだ。

好きなもの全てと自身の生きた時代、場所を映画に詰め込み、作品に仕立て上げた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

そして、ついに60年代ハリウッドという、彼の趣向の核心に迫ってゆく本作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、それ自体がタランティーノの信奉する映画史の一部であることから、これまでのタランティーノ作品や、彼自身が一体何者であったかを、これまで以上にネタばらししてしまう。つまり本作こそが、タランティーノの作品の核となっている、自身と映画の関係を最も強く刻印する作品となっていると言えよう。

タランティーノが過ごした60年代ハリウッド映画への愛が感じられる

本作の主演俳優である、ブラッド・ピットが出演した『イングロリアス・バスターズ』(2009年)、そしてレオナルド・ディカプリオが出演した『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012年)は、史実を基にした架空の歴史が描かれた作品だった。タランティーノ監督作のなかで、これらはポストモダンというよりは、本格的な劇映画に近い作品として撮られていた。それゆえに、タランティーノ作品が持っていた圧倒的な個性が、比較的活きていなかった面もある。

『イングロリアスバスターズ』予告編

『ジャンゴ 繋がれざる者』予告編

だが本作では、それら2作で行なわれた手法をも駆使されることで、ついにこれまでの手法とそれらが出会い、本作のクライマックスでひとつに重なる。そう、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、これまでのタランティーノ作品のやってきた試みが一点に集う作品なのだ。そしてその瞬間、炎のように燃え上がる「映画愛」の凄まじさ……! これを目撃するに至って、「これで終わってもいい」と思ったタランティーノ監督の気持ちが理解できるはずである。

作品情報
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

2019年8月30日(金)から全国公開

出演:
レオナルド・ディカプリオ
ブラッド・ピット
マーゴット・ロビー
エミール・ハーシュ
マーガレット・クアリー
ティモシー・オリファント
ジュリア・バターズ
オースティン・バトラー
ダコタ・ファニング
ブルース・ダーン
マイク・モー
ルーク・ペリー
ダミアン・ルイス
アル・パチーノ
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Movie,Drama
  • タランティーノ新作は「映画愛」の結晶。レオ×ブラピ共演作レビュー

Special Feature

メタ・サピエンス──デジタルとリアルが溶け合う世界を探究する

デジタルとリアルが融合する世界。世界はどう変化し、人々はどう進化するのだろうか?私たちはその進化した存在を「メタ・サピエンス」と名づけ、「Humanity - 人類の進化」「Life - 生活・文化の進化」「Society - 社会基盤の進化」の3つの視点からメタ・サピエンスの行動原理を探究していく。

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて