ハイスタ、ライブアルバムを突如投下。音に滲む進化の過程を解説

4月22日、Hi-STANDARD(通称:ハイスタ)の全楽曲が主要ストリーミングサービスにて開放された。1990年代からのリスナーはもちろん、2011年の再始動後にハイスタを体験したリスナー、あるいは2016年に再始動後初の作品をリリースして以降にハイスタを知ったリスナーまでーー多くの人が、より一層ハイスタの楽曲へアクセスしやすくなったことに歓喜しただろう。

しかしさらに驚いたのは、そこでもサプライズが用意されていたことだ。全楽曲の配信と同時に、2018年に行われた『THE GIFT EXTRA TOUR 2018』の横浜アリーナ公演が丸ごと収められたライブアルバム『Live at YOKOHAMA ARENA 20181222』が突如配信リリースされたのである。ツアーの中でも特に打点の高かったライブが、当日の爆走感と熱量そのままに真空パックされている作品。その音からHi-STANDARDの脱皮と進化の背景を探り、解説するのが下記のテキストだ。ぜひ、3人のデカい笑顔までもがありありと浮かんでくるライブアルバムを爆音で聴きながら、読み進めてほしい。

Hi-STANDARDが初のライブアルバムをリリース。サプライズ以上に、ライブアルバムとして傑出したクオリティに注目する

Hi-STANDARD(はい すたんだーど)
1991年結成。恒岡章(Dr)、難波章浩(Vo,Ba)、横山健(Gt,Cho)からなるパンクバンド。1994年に『LAST OF SUNNY DAY』をリリースしてデビュー。フルアルバム『GROWING UP』『ANGRY FIST』『MAKING THE ROAD』は海外でもリリースされ、『MAKING THE ROAD』はインディーズ流通では異例となる国内外合計100万枚のセールスを記録した。1999年からはPIZZA OF DEATH RECORDSを独立させ、完全DIYでの活動を展開。『AIR JAM 2000』以降は長期の活動休止に入るも、『AIR JAM 2011』にて活動を再開。2016年にはシングル『ANOTHER STARTING LINE』を、2017年にはアルバム『THE GIFT』をリリースし、全国ツアーも展開。2018年に公開されたドキュメンタリー映画『SOUNDS LIKE SHIT the story of Hi-STANDARD』のパッケージ作品が4月22日にリリースされ、同日に、ストリーミングサービスにて全曲を解放した。

Hi-STANDARD初となるライブ音源『Live at YOKOHAMA ARENA 20181222』を聴いた。もう、この臨場感がたまらない。演奏はタイトだが過剰に前に出てはこず、かといって音源用にキレイに整えられた感じもしない。観客の歓声を含めた会場の鳴りも自然な形でミックスされているが、ただ生々しさを追求しているわけでもなく、いい意味で横浜アリーナという会場の顔が見えてこない。ひたすらHi-STANDARDの3人と観客の一人ひとりが正面から向き合っている様子が、不思議なぐらいありありと伝わってくるのだ。

Hi-STANDARD『Live at YOKOHAMA ARENA 20181222』を聴く(Spotifyを開く

ハイスタのライブ未経験のファンはもちろん、2011年に活動再開して以降の彼らの音塊を存分に浴びまくっているパンクスも納得するであろうクオリティーに仕上がっている。単にハイスタからリスナーへのプレゼントという域にとどまらず、純粋にパンク / ロックのライブアルバムとしてトップレベルの傑作だと断言できる。今作はDVD『SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD』のリリースに合わせてサプライズ的に発表されたライブアルバムゆえ、今はDVDのほうに話題が集まっている感もあるが、今作の価値の高さ自体も延々と語り継がれていくことになるだろう。

そもそもこのライブは、タイトルにもある通り、2018年12月22日に横浜アリーナで行われたもの。ここに至るまでの流れを、2017年10月4日に発表された『MAKING THE ROAD』以来18年ぶりとなるフルアルバム『THE GIFT』から追っていきたい。

Hi-STANDARD『THE GIFT』を聴く(Spotifyを開く

初のチャート首位を獲得した同作のリリース後、全13公演に及ぶ『THE GIFT TOUR』を10月26日にスタートさせたハイスタの3人。彼らは2011年9月開催の『AIR JAM 2011』で再始動して以降、新たなHi-STANDARDの形を模索し続けていた。それがある程度の完成を見たのが『THE GIFT TOUR』だった。

 アルバム『THE GIFT』にも言えることだが、2010年代のハイスタの動きが見事だったのは(余談ながら、3人が集合写真とともに突如ハイスタの再始動をアナウンスした歴史的なツイート『9.18 ハイスタンダード AIR JAM。届け!!!』からもう9年が経った)、過去の栄光、つまり1990年代の自分たちの姿を追わなかったことにある。あくまでも今の自分たちがやりたいことを突き詰めた結果、『THE GIFT』という新たな傑作が生まれ、ライブにおいても彼らの最初の絶頂期である1990年代とは全く異なるアプローチで臨むことになったのだ。

『THE GIFT』以降のライブに見た、バンドメカニズムの変化

自分は『THE GIFT TOUR』で6本のライブに立ち会ったが、もっとも印象的だったのはライブ前にメンバー3人だけで楽屋に籠もり、みっちりミーティングをする姿だった。この場にスタッフは一切立ち会わず、数十分にわたって話し合いが行われるのが常だった。一体何を話しているのかチラッとメンバーに聞いてみたことがあるのだが、主に精神面についての話が多かったようだ。ステージ運びや技術面のことがメインではないことが意外だったが、ライブを観ると納得できる。ステージ上の3人の関係性がとにかくいいのである。

『Live at YOKOHAMA ARENA 20181222』でも、その「メンバーの関係性」が表れたシーンを覗くことができる。ライブ中盤の“Time To Crow”へとつなぐMCで、難波が唐突に「朝、いきなりニワトリになってたらどうする?」と観客へ問いかける。すると横山が大笑いしながら、「(これからやる)新曲の話ね!」とすかさずフォローするという流れ。こんなことはかつてなかった。昔は、難波がメインのMCを務め、横山はそれを後ろから黙って見守っているという形が一般的で、いい意味で自由奔放な発言の多い難波のキャラが結果的にグッと前に出ることになっていた。しかし、今はそうではない。この作品で聴くことはできないが、横山以上に口数が少なかった恒岡もMCに参加することまであるのが今のハイスタだ。

多くの困難を越えてきたことも大きいが、1本1本のライブに向けて、事前にしっかりと気持ちの交換が行われているからこそこういった雰囲気が生まれているのは間違いない。ちなみに、『THE GIFT TOUR』中、あまり出来がよくないとメンバーが感じるライブがあり、終演後に長時間にわたる反省会が行われたこともあった。

結果、『THE GIFT TOUR』最終日のさいたまスーパーアリーナ公演で、3人は過去自分が観た中で一番のライブを見せてくれた。あくまでも個人的な目線にはなるが、このライブをもってHi-STANDARDは自身のキャリアハイを堂々と更新したのだ。

ハイスタ初のアリーナ公演を行ったとともに、所縁あるライブハウスも回った『THE GIFT TOUR』の映像で構成されている

『SOUNDS LIKE SHIT』公開以降、より一層強固になったファンとの絆

『AIR JAM 2018』のライブ。『AIR JAM 2000』ぶりとなるマリンスタジアムでの開催だった

翌2018年、3人はそれぞれのもうひとつのホーム――Ken Yokoyama、NAMBA69、summertime――へと戻り、創作活動に打ち込んだ。夏には『AIR JAM 2018』をZOZOマリンスタジアムで開催。そして、11月にはドキュメンタリー映画『SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD』が公開され、年末には心身共に充実した状態で再びHi-STANDARDの名のもとに集結し、1年ぶりとなる全国ツアー『THE GIFT EXTRA TOUR 2018』で7本のライブを開催した。『Live at YOKOHAMA ARENA 20181222』はツアー5本目となるライブだった。

『SOUNDS LIKE SHIT』の公開はハイスタファンの心情に大きな影響を与えた。1991年のバンド結成から『AIR JAM 2018』までを振り返った作品で、2000年代の空白期間に何が起こったのかをメンバーが赤裸々に語っていることが話題になった。

『AIR JAM 2000』以降、ハイスタ側から自身の活動に関する報告がされることは一切なく、(今の時代には考えられないことだが)活動休止しているということすら公式に知らされていなかった。その結果として、ファンは3人にまつわる数々の噂に振り回されることになる。

『THE GIFT TOUR』はハイスタが本格的に「復活」したことにファンがただただ熱狂したツアーだったが、映画公開直後に行われた『THE GIFT EXTRA TOUR 2018』は、2000年代から2010年代初期までに起こったことのすべてを彼らが知り、受け入れた上で臨んだものだったのだ。20年近い時を経て、本当の意味でバンドとファンが再びつながったツアーだったといえる。

“STAY GOLD”のラストでは<You won’t forget / You won’t forget / always in my heart “stay gold”>と「I(オレ)」が「You(お前たち)」に置き換えられ、“TURNING BACK”でも<We love you, OK!>と「I(オレ)」を「We(オレたち)」に変えて横山が叫んだ。『Live at YOKOHAMA ARENA 20181222』とはそんなライブで、今のハイスタとファンの関係性はより強固なものになっているのである。それを踏まえた上で今作を聴くと、また違った感慨が湧いてくるのではないだろうか。

面白いのは、初のライブ作品の会場として選ばれたのが横浜アリーナという大会場で、3人にとって初となる舞台だったことだ。ライブの出来不出来も大きいだろうが、彼らのイメージからするとライブハウス公演をピックしていてもおかしくない。

しかし、冒頭に書いたように、今作は舞台となる場所がどこであろうが今のHi-STANDARDにとっては大した問題ではないのだ。むしろ、初の会場、まだ不慣れなアリーナ公演でこれだけのパフォーマンスを聴かせる3人の力量に恐ろしさすら感じる。しかも信じられないことに、彼らの頂点はここではない。少なくとも、そう感じさせるエネルギーがこの全27曲にみなぎっている。

現在のところ、今作は配信限定リリースとなっており、音源をCDやレコードのようなモノとして所有したいリスナーは少々不満に感じているかもしれない。しかし、これは配信だからこそ実現した企画とも言える。今作の収録時間は81分。CDプレーヤーとの互換性などを考慮すると、一般的な音楽CDでこれだけ長い時間を1枚に収めることは難しい。かといって、2枚組にするのもちょっと違う。1本のライブの熱をより忠実に再現することを考えると、この形がベストなのである。

Hi-STANDARD『Live at YOKOHAMA ARENA 20181222』ジャケット写真

DVD『SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD』のリリースに合わせて、ハイスタの全タイトルがストリーミングサービスにて視聴解禁された。過去に革新的な動きで世間を驚かせてきたハイスタだが、ストリーミングに関してはスピード感を重視してはこなかった。ただ、だからといってこれをないがしろにしているわけではない。ライブアルバムという、ストリーミングの特性を活かした作品を発表するところが実にハイスタらしい。「Hi-STANDARDはときにへそ曲がりで、ときにピュア」――これは『THE GIFT』リリース時の横山の発言だ。

プレイリスト『This Is Hi-STANDARD』を聴く(Spotifyを開く

2000年代には多くの「元キッズ」がハイスタがいかにすごかったかを現役のキッズに向けて得意げに語っていた。それがうらやましくもあり、なんとなくウザったく感じた人もいるだろう。だけどもう気にする必要はない。Hi-STANDARDは今が最強だ。そして、そんな彼らの活動を今、存分に楽しむことができる我々は本当に幸せだ。

リリース情報
Hi-STANDARD
『SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD』(DVD)

2020年4月22日(水)発売
価格:3,850円(税込)
PZBA-14

Hi-STANDARD
『SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD / ATTACK FROM THE Far East 3』(2DVD)

2020年4月22日(水)発売
価格:4,950円(税込)
PZBA-12/13

Hi-STANDARD
『Live at YOKOHAMA ARENA 20181222』

2020年4月22日(水)配信

1. MY HEART FEELS SO FREE
2. ALL GENERATIONS
3. CLOSE TO ME
4. WE’RE ALL GROWN UP
5. THIS IS LOVE
6. TINKERBELL HATES GOATEES
7. NEW LIFE
8. SPREAD YOUR SAIL
9. SUMMER OF LOVE
10. TIME TO CROW
11. THE PINK PANTHER THEME
12. THE KIDS ARE ALRIGHT
13. LONLEY
14. TEENAGERS ARE ALL ASSHOLES
15. CAN’T HELP FALLING IN LOVE
16. STAY GOLD
17. PACIFIC SUN
18. ANOTHER STARTING LINE
19. STARRY NIGHT
20. THE GIFT
21. BRAND NEW SUNSET
22. HAPPY XMAS(WAR IS OVER)
23. FREE
24. DEAR MY FRIEND
25. MOSH UNDER THE RAINBOW
26. MAKING THE ROAD BLUES
27. TURNING BACK

プロフィール
Hi-STANDARD (はい すたんだーど)

1991年結成。恒岡章(Dr)、難波章浩(Vo,Ba)、横山健(Gt,Cho)からなるパンクバンド。1994年に『LAST OF SUNNY DAY』をリリースしてデビュー。フルアルバム『GROWING UP』『ANGRY FIST』『MAKING THE ROAD』は海外でもリリースされ、『MAKING THE ROAD』はインディーズ流通では異例となる国内外合計100万枚のセールスを記録した。1999年からはPIZZA OF DEATH RECORDSを独立させ、完全DIYでの活動を展開。『AIR JAM 2000』以降は長期の活動休止に入るも、『AIR JAM 2011』にて活動を再開。2016年にはシングル『ANOTHER STARTING LINE』を、2017年にはアルバム『THE GIFT』をリリースし、全国ツアーも展開。2018年に公開されたドキュメンタリー映画『SOUNDS LIKE SHIT the story of Hi-STANDARD』のパッケージ作品が4月22日にリリースされ、同日に、ストリーミングサービスにて全曲を解放した。

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