むすびズムの登場から、再燃する80年代文化と時代の空気を考察

80年代カルチャーの再燃と時代の空気感について

世代や年代で、ある事象を区切ることの難しさについて語りたい。なぜ困難かというと、その主体の意思が根強く反映されてしまうため、客観的に語ることができなくなるからだ。私という「主体」が書いているテキストで名前を挙げるのはいささか恐縮なのだが、同じキャンパスで4年の歳月を過ごしたトラックメイカーのtofubeatsは1990年生まれ。なので、89年生まれの私とは、「同世代」という括りで語ることもできるわけだが、おそらく彼もそのような世代語りを好まない。なぜなら、世代というものが何かを決定付けてくれるわけではないのだから。

しかし、主観 / 客観どちらにもとらわれない時代の空気がこの2010年代、亡霊のように彷徨い続けている。いかなるカルチャーにも流行のサイクルがあり、忘却していた頃に顕在化するというのは自明の理だが、ここ何年にも渡ってリバイブしている「狂騒と混沌」に満ちた1980年代の残骸は、「流行の再生産」という安易な言葉では説明できない。

現代の日本について言えば、国民番号の付与により個人が識別され、民主主義がその機能を失いつつある「管理と支配」の時代である。「80年代リバイバル」の機運は、そうした社会情勢から浮き出た欲望の集積であり、ある種の希望なのだ。「管理と支配」から「狂騒と混沌」へ。アナーキーで無秩序な社会を人々が欲していると仮定すると、この時代を覆う80年代の空気感を定義することはたやすい。

2010年代のポップシーンにおけるtofubeatsの存在感と、その功績

前述したtofubeatsはトラックメイカー / アーティストとして、「80年代リバイバル」の中心的存在であり、現代音楽シーンの旗手である。彼のメガミックスやエディットなどの手法、レトロなJ-POPを真新しく感じさせる楽曲から見出すことができるのは、最高峰のポップサウンドの作り手であり、80年代へ最大限のリスペクトを持つリスナーであるということだ。

本人の意思とは裏腹に「アンチ風営法ソング」として広まった“朝が来るまで終わる事の無いダンスを”は、今もなお、クラブシーンにおけるアンセムのひとつであり、クラブとは対極にあると目されていたJ-POPをその場所に最適化させたのは、tofubeatsの大きな功績と言える。

tofubeatsの存在は、風営法(社会の管理)によって衰退を余儀なくされたクラブ文化に、狂騒と混沌を思い出させた。DJとして、彼がダンスフロアで鳴り響かせるのは、おおむね80年代のポップソング。tofubeatsも、フロアに集う若者たちの多くも当時を知っているわけではないけれど、かつての時代の楽曲に酔い、狂騒と混沌に包み込まれる。

世界的に見られる80年代リバイバル。日本と海外の違いは?

80年代リバイバルは欧米諸国でも起きている。が、日本と発露は同じでも、その実態はさまざまだ。アメリカの事例をいくつか挙げてみよう。ブラックミュージック隆盛の立役者であるThundercatの新作『Drunk』には、下地である70年代フュージョンにブレンドされた80年代プログレッシブロックを発掘することができるし、アルバム9曲目の“Show You The Way”に至っては、“What a Fool Believes”を生んだマイケル・マクドナルド(ex.The Doobie Brothers)、ケニー・ロギンスが参加するなど、80年代へのリスペクトが顕著に表出している。

2010年代ポップスの寵児であるCigarettes After Sexは、そのダークで幻想的なサウンドで、絶大な人気を博しているアーティストだ。“Keep on Loving You”(原曲は1980年リリース)というロックチューンのカバーでは、そのメロウ&ドープな世界観で、ネタ元であるREO Speedwagonの作品を再定義することに成功した。ラフ・シモンズのNYコレクション、マーク・ジェイコブズのCMにも起用されるなどポピュラリティーを獲得した彼らから、アメリカの今の空気を読み取ることができるだろう。

喧騒やアナーキーを求める日本のリバイバルに対して、アメリカはどこまでもドープでダークな影が時代を覆っている。Netflixオリジナルドラマ『13の理由』(2017年より公開。製作総指揮はアメリカの女優 / ミュージシャンのセレーナ・ゴメス)は、その暗澹なストーリーで賛否を集めたが、劇中で使用されているJoy Divisionなどを始めとするサウンドトラックの多くは現代が舞台にもかかわらず、80年代の楽曲で占められている。

また、エル・ファニング主演のホラー映画『ネオン・デーモン』(2017年公開。監督はニコラス・ウィンディング・レフン)では、80年代のエレクトロニックミュージックの実験的なサウンドと80年代のホラー映画のニュアンスを巧みに掛け合わせ、純真さに内包される狂気を見事に醸成した。

アメリカの80年代リバイバルは、「憂鬱と静寂」で説明できるだろう。これもやはり、国家や政治情勢と切り離して語れない。

近年のアイドルシーンにおける80年代感と、むすびズム

話を日本に戻そう。「バブルリバイバル」で新しいアイドル像を打ち出したベッド・インというグループがいる。バブルの時代は、1986年に施行された男女雇用機会均等法により、女性の社会進出が促進された時代でもある。彼女たちはボディコン、ジュリアナというバブル期のアイコンを身に纏ってパフォーマンスをおこなうが、それを単なる懐古趣味やバブルのパロディーと捉えるのはやや短絡的。

その意図を深読みしてみると、ベティ・フリーダンの『フェミニン・ミスティーク』(1963年)で描かれた女性のパワーや、どこまでも終わりのないアナキズムを主張しているように映る。女性ファンが多いのも、そういったポジティブなエンターテイメントを楽しみたいからと言えるのかもしれない(インタビュー:規制に縛られずもっと自由に。バブルな社会派ベッド・インの表現)。

同じく、80年代ディスコサウンドをアイドルという枠組みのなかで具現化したEspecia、そこからソロデビューを果たした脇田もなりのデビューシングル“IN THE CITY”(2016年)も、当時を想起させるディスコブギーな楽曲だ。

Negiccoの“アイドルばかり聴かないで”(2013年)は、21世紀のアイドルソングを語る上で外せない1曲。疾走感溢れる軽快なストリングスのサウンドは、80年代アイドル歌謡を現代によみがえらせた。

そうしたアイドルソングの文脈に新しく加わったのが、日本の「カワイイ」カルチャーを世界に発信することをコンセプトに活動をしている、むすびズムである。ニューシングルの“キミに夢CHU♡XX”は、スローテンポな80年代のシンセポップをベースに、最先端ダンスミュージックを象徴するロンドンのバブルガムベースを取り入れた、現在進行形のサウンド。振り付けにも「カワイイ」を取り入れたメロウなダンスナンバーだ。

雑誌『MARQUEE vol.121』のインタビューで「振り付けの先生が、80年代のおニャン子クラブや70年代のキャンディーズを研究してくれて、あまり移動しないんです。かわいさを追求して、激しい感じではなくて。」(木村ミサ)とあるように、彼女たちのこれまでのスタンスと一線を画しているのは、自分たちが狂騒の中央にいるのではなく「歌モノ」としてじっくりと聴いてもらいたいという、彼女たちの心境の変化にある。

ただ先日、『YATSUI FESTIVAL! 2017』でライブを観たところ、静観するではなく熱狂するオーディエンスがあとをたたなかった。むすびズムの想像を超えて、80年代リバイバルに求められる、アナーキーな空気感を内包しているからこそ、この曲にはリスナーを狂騒させるパワーがあるのだ。

むすびズム『キミに夢CHU♡XX』A盤ジャケット
むすびズム『キミに夢CHU♡XX』A盤ジャケット(Amazonで見る

リリース情報
むすびズム
『キミに夢CHU♡XX』A盤(CD)

2017年6月27日(火)発売
価格:1,080円(税込)
FPJ-60006

1. キミに夢CHU♡XX
2. キミへ100%
3. キミに夢CHU♡XX -Instrumental-
4. キミへ100% -Instrumental-

むすびズム
『キミに夢CHU♡XX』B盤(CD) 

2017年6月27日(火)発売
価格:1,080円(税込)
FPJ-60007

1. キミに夢CHU♡XX
2. 小悪魔なLOOK
3. キミに夢CHU♡XX -Instrumental-
4. 小悪魔なLOOK -Instrumental-

プロフィール
むすびズム
むすびズム

日本のカワイイと世界のみんなを結ぶ5人組その名も「むすびズム」。2014年12月19日 に結成されたエンターテイメントアイドルユニット。現在、Harajyuku Tokyo Japanを飛び出し、ライブを中心にむすび活動の真っ最中。むすびズムが皆々様と「日本カワイイ」をむすびます。



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