コラム

ゴシップネタの「釣り投稿」で選挙への投票喚起。「社会のための嘘」が物議

ゴシップネタの「釣り投稿」で選挙への投票喚起。「社会のための嘘」が物議

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後藤美波(CINRA.NET編集部)
メイン画像:米『ELLE』のTwitterアカウントより

セレブゴシップを利用した投票喚起ツイートが拡散

テイラー・スウィフトが民主党支持を表明し、カニエ・ウエストがドナルド・トランプ大統領と面会するなど、11月の投票日を前にエンターテイメントの世界でも様々な動きが起きているアメリカ中間選挙。

多くのセレブリティーが投票を促したり、投票者登録を呼びかけるキャンペーンやSNS投稿などを行なっている。そんな中、1つのツイートが波紋を呼んでいる。

あるTwitterユーザーが、「これがアリアナ・グランデとピート・デヴィッドソンが別れた理由だなんてびっくり」という文言と、2人のツーショットと共に投稿したツイートだ。このツイートにはURL短縮サービスを用いて作られたリンクが貼られており、これをクリックするとVote.orgという有権者が投票者登録できるウェブサイトに飛ばされる。

アリアナ・グランデとピート・デヴィッドソンの婚約解消は、いまもっとも大衆の関心を集めるゴシップネタのひとつ。この投稿者の男性は投票行動が重要であるという自身の考えから、セレブゴシップへの大衆の興味を利用して人々を投票者登録サイトへ誘導する「社会のためのクリックベイト(Clickbait for good)」を思いついたのだという。このツイートは現時点で4.5万リツイートを超えている。

この人物は自身のツイートした投票者登録へのリンクは200万回クリックされたと報告している。また「このツイートのおかげで登録した」という声も複数紹介されていることから、「投票者登録を促す」という目的は多少なりとも達成されているようだ。

米『ELLE』誌が「カニエ&キム破局」のフェイクニュースを投稿

このような「釣り投稿」のような形で投票者登録を促すツイートはほかにも存在しており、先述のツイートをした人物も友人が「キムとカニエが別れた」という文言と共に投票者登録のウェブサイトのリンクをツイートしているのを見てこれを思いついたのだという。

そしてそんな流れにアメリカ版『ELLE』誌も乗ったことで批判を浴びている。

「キム・カーダシアンとカニエ・ウエストが破局へ」

同誌アメリカ版の公式Twitterは、現地時間の10月18日に2人のツーショット写真と共にそうツイートした。

添えられているリンク先は『ELLE』のウェブサイトでも2人の破局を伝えるニュース記事でもなく、「WHEN WE ALL VOTE」というアメリカの有権者に投票者登録を促すキャンペーン団体のウェブサイトになっている。キムとカニエというセレブカップルの離婚劇はビッグニュースだ。先述のTwitterユーザーの投稿と同様に、ゴシップへの大衆の関心を利用して投票者登録を喚起しようとしたのだろう。

しかしアメリカ版『ELLE』は一般のTwitterユーザーではなく、680万人のフォロワーを持つ大手メディアだ。そしてキムとカニエに離婚の事実はなく、そのツイートは文言だけ見ればフェイクニュースである。

相次ぐ批判に謝罪。「投票者登録への情熱が判断を鈍らせた」

このツイートには批判が相次ぎ、著書『バッド・フェミニスト』で知られるロクサーヌ・ゲイは「無意味でくだらない」と一蹴。ゴシップに興味のある人をターゲットにしたこのツイートは、ゴシップで興味を惹かないと読者は政治に興味を持たないと決めつけているようにも受け取れるが、ゲイは「人は市民意識を持ちながら、同時にセレブのゴシップに興味を持つことができる」と『ELLE』のツイートにリプライを送っている。

またアメリカのハフィントン・ポストは「人々に投票させるために、フェイクニュースを作り上げるな」と題した記事を公開し、同じくこのツイートを批判。ドナルド・トランプ大統領がCNNやニューヨーク・タイムズといったメディアをフェイクニュースだと攻撃し、「メディア戦争」を繰り広げているという現状を背景に、フェイクニュースを作り出すことはメディアの信用を損ない、読者への侮辱であると非難している。

アメリカ版『ELLE』は批判を受けて「つまらないジョークだった。私たちの投票者登録への情熱が判断を鈍らせた。心からお詫びします」とツイートしたが、元のツイートは今も消されずに残っている。(※原稿執筆時。その後、削除されました(2018年10月20日追記))

選挙で投票に行くことはとても重要なことだ。たった1票でも、政治に自分の意見を反映させるため、社会の変化に貢献するための力になり、意思表示になる。しかしその重要性を知らしめるという大義があったとしても、影響力のあるメディアが嘘の情報で大衆の興味を引くことの是非は問われてしかるべきだろう。一般のTwitterユーザーが「釣り」ツイートを仕掛けることと、メディア機関が「釣り」のフェイクニュースを流すことは性質が異なる。しかも扱っているのは実在する人物の私生活に関する情報だ。「社会のため」にフェイクニュースを流すことは許容されるのだろうか?どんな「善い行ない」のためであれ、フェイクニュースはフェイクニュースだ。

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