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磯部涼×細倉真弓『川崎ミッドソウル』 アフター『ルポ 川崎』

磯部涼×細倉真弓『川崎ミッドソウル』 アフター『ルポ 川崎』

『NEWTOWN 2018』『SURVIBIA!!』
テキスト
磯部涼
撮影:細倉真弓 編集:宮原朋之

Part.1:ふたつの「川崎」ーー変容する南部、侵犯する北部

「川崎」はふたつの顔を持っている。その地名を聞いたときに、ある人は工場地帯を、またある人はニュータウンという相反する光景を思い浮かべるだろう。もしくはそれらは、刺激的だが治安が悪い土地と、平穏だが退屈な土地というイメージに置き換えられるかもしれない。そして、そういったふたつの側面は、東京都と横浜市に挟まれた細長い形をした7区からなる市の「南部」と「北部」とが、各々、担ってきたと言える。

2017年、神奈川県川崎市の人口は150万人に達した。政令指定都市の規模としては全国7位だが、非県庁所在地という条件をつければ1位、更に増加率に関しては条件なしで1位に当たる。交通の便の良さを生かし、ベッドタウンとして一極集中が進む都心から溢れ出した人々の受け皿となっている格好で、市の表玄関にあたるJR川崎駅に隣接したショッピングモール「ラゾーナ川崎プラザ」は同様の施設の中でも全国2位の売り上げを記録するなど、商業地域としても改めて人気を集める。

「ラゾーナ」の面積は7万9000㎡に及び、330もの店舗を擁する5層構造の中心部は人工芝が敷き詰められた巨大な広場になっている。天気の良い日に子供達が駆け回り、大人たちが寛ぐ様子はまるでユートピアだ。しかし、消費の楽園を満喫する彼らがふと1階の書店に入って、並べられているとある書籍を目にした時、どんな風に感じるのだろう。その表紙には「川崎」という大きな2文字が並んでいるが、背景は煙を吐き出す工場の写真で、帯にはこう書かれている。ーー「ここは、地獄か?」。

磯部涼『ルポ 川崎』
磯部涼『ルポ 川崎』(Amazonで見る

川崎が150万人都市となった2017年の年末に上梓した書籍『ルポ 川崎』は、雑誌『サイゾー』のノンフィクション連載をまとめたもので、企画の発端には2015年に立て続けに起こった幾つかの事件があった。まず、2月には川崎駅と1.5キロの距離にある多摩川の河川敷で、地元住民が13歳の少年の惨殺死体を発見。程なくして逮捕された17歳から18歳の少年3人による残忍な手口が世間を震撼させたが、被害者、加害者グループ共に、ネグレクトに近い家庭環境にあったことも問題視された。5月にはやはり川崎駅と1キロの距離にある1泊3,000円程の安価な旅館、いわゆる簡易宿泊所で火災が発生。11人が死亡、17人が負傷する惨事となったが、被害者の多くが高齢の生活保護需給者で、一帯の宿泊所ではそのような人々を多く収容するために違法改築が横行し、そのせいで火の周りが早くなったことが発覚した。また、2月の事件の犯人グループにハーフの少年がいたことから、川崎区内で排外主義を掲げたデモが過激さを増していく。

ちなみに、少年が殺された現場は29階建て、3棟構造の巨大なタワーマンションの目の前だ。あるいは、新しい住民逹の中には件の火災が起きるまで、川崎駅のすぐ近くに古い簡易宿泊所が立ち並ぶドヤ街があったことを知らない人もいた。川崎駅前をヘイトデモが通過する時もほとんどの人は何が起こっているのかよく分からない様子だった。そして、『ルポ 川崎』では一連の事件の背景となっている川崎ーー中でも南部の闇の中に分け入ったが、時に批判されるように土地の極端な側面を取り上げたわけではなく、そのような問題は延々と続いてきたものなのだ。

 

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イベント情報

『NEWTOWN』
『NEWTOWN』

2018年11月10日(土)、11月11日(日)
会場:東京都 多摩センター デジタルハリウッド大学 八王子制作スタジオ(旧 八王子市立三本松小学校)
時間:10:30~19:00(予定)

美術展:『SURVIBIA!!』(サバイビア!!)

校舎内を利用して、「郊外を、生き延びろ。」(Survive in Suburbia.)をテーマにした美術展を開催。「ノーザン・ソウル」+「サウスサイド」+「ロードサイド」からなる「郊外」を提示することを試みます。映画部屋で参加作家の作品も上映予定。

2018年11月10日(土)、11月11日(日)
時間:10:30~19:00
キュレーション:中島晴矢

『川崎ミッドソウルーーアフター「ルポ 川崎」』
細倉真弓
磯部涼

『EXPO-SURVIBIA -千里・万博・多摩-』
秋山佑太
石井友人
キュンチョメ
中島晴矢
FABULOUZ
原田裕規

『変容する周辺、近郊、団地』
[URG]
石毛健太
衛藤隆世
EVERYDAY HOLIDAY SQUAD
垂水五滴
中島晴矢
名越啓介
BIEN
yang02

『PERSISTENCE_suburb』
[PERSISTENCE]
新井五差路
百頭たけし
藤林悠

映画『サウダーヂ』上映
空族

トークイベント『死後の〈郊外〉—混住・ニュータウン・川崎—』
11月10日(土)14:00~15:30
小田光雄
磯部涼
中島晴矢

トークイベント『都市・郊外・芸術ー計画と無計画の間で』
11月11日(日)14:00~15:30
会田誠
中島晴矢

『SURVIBIA!!』クロッシング・トーク
11月11日(日)17:30~19:00
出展作家多数

料金:無料

プロフィール

磯部涼(いそべりょう)

ライター。主に日本のマイナー音楽、及びそれらと社会の関わりについてのテキストを執筆。単著に『ヒーローはいつだって君をがっかりさせる』(太田出版、2004年)、『音楽が終わって、人生が始まる』(アスペクト、2011年)、『ルポ 川崎』(サイゾー、2017年)がある。その他、共著に九龍ジョーとの『遊びつかれた朝に――10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』(ele-king books/Pヴァイン、2014年)、大和田俊之、吉田雅史との『ラップは何を映しているのか――「日本語ラップ」から「トランプ後の世界」まで』(毎日新聞出版)、編者に『踊ってはいけない国、日本――風営法問題と過剰規制される社会』(河出書房新社、2012年)、『踊ってはいけない国で、踊り続けるために――風営法問題と社会の変え方』(河出書房新社、2013年)等。

細倉真弓(ほそくらまゆみ)

立命館大学文学部、および日本大学芸術学部写真学科卒業。東京近郊で撮影した自然と若者のヌードを組み合わせた初期作『KAZAN』が、繊細さと力強い感受性で都市を描き出し、独特なエロスと美しさをそなえた新しい東京の写真表現として国内外から注目を集める。2011年オランダ「Foam Magazine」の新人選抜号『Foam Talent 2011』に選抜される。2012年、台湾關渡美術館のレジデンシプログラムに参加。主な個展に『祝祭ーJubilee』(nomad nomad、香港、2017年)、『CYALIUM』(G/Pgallery、東京、2016年)、『クリスタル ラブ スターライト』(G/Pgallery、東京、2014年)、『Floaters』(G/Pgallery、東京、2013年)、『KAZAN』(G/Pgallery、東京、2011年)。二人展に『Homage to the Human Body』 (Galleri Grundstof、オーフス、デンマーク、2017年)、グループ展に『集美xアルル国際写真フェスティバル Tokyo Woman New Real New Fiction』(厦門、中国、2016年)、『Close to the Edge: New Photography from Japan』(MIYAKO YOSHINAGA、ニューヨーク、2016年)など。写真集に「KAZAN」(アートビートパブリッシャーズ、2011年)、「Floaters」(Waterfall、2014年)、「クリスタル ラブ スターライト」(TYCOON BOOKS、2014年)、「Transparency is the new mystery」(MACK、2016年)、「Jubilee」(アートビートパブリッシャーズ、2017年)。また磯部涼と共に手がけた月刊誌での連載「ルポ 川崎」が、サイゾーより単行本化された。

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