相対性理論のライブがすごいことに。中野サンプラザ公演レポート

武道館公演から約1年。相対性理論の現在地をレポート

中野サンプラザはずいぶんひさしぶりである。再々々々結成くらいのKing Crimsonを観て以来ではないか。数年後には解体して新たに生まれ変わるそうである。そこで相対性理論のライブ『証明Ⅲ』を観た。

彼らの都内での公演となると、新木場Studio Coastで昨年暮れに行われたオマール・スレイマンとのツーマン『証明Ⅰ』から数えて半年以上、その前の武道館公演『八角形』は2016年7月22日だったので1年間で3回。武道館公演は昨年4月にリリースした5作目のアルバム『天声ジングル』のレコ発を兼ねていた。

『天声ジングル』収録曲“ケルベロス”

武道館以後の彼らの基調には、最新作としての『天声ジングル』がある。このアルバムの詳細については、見識ある書き手の別稿にあたられたいが、バンド史上最高度の観点から綴った歌詞と、16ビートのグルーヴを同居させた相対性理論にしかなしえない巧まざる完成度をそなえており、消費の速度をなにがしかの強度に読み替える瞬間最大風速至上主義の向こうを張っていた、との意見は彼らの実感そのものではないにせよ、私にかぎらず、2017年の東京で相対性理論を聴く / 観るとはそのような感慨を抱いてしまうことにほかならない。

相対性理論
相対性理論

相対性理論と客席には、次元の落差のような隔たりがあった

2階席前方からの視界に、舞台にはここ数年変わらない相対性理論の機材がセッティングされているのが映る。かつてロバート・フリップが鎮座ましましたあたりに永井聖一(Gt)、やや中央より後方に山口元輝(Dr )、下手にはItoken(Dr & Key)と吉田匡(Ba)が山口、永井と一線にならび、前方舞台中央にやくしまるえつこ(Vo & dimtakt & etc.)と彼女をとりまく機材一式がセットアップされているが、こころもち細部が定かならぬのは40代特有のかすみ目かと思いきや、前面に紗幕がかかっている。

相対性理論『証明III』@中野サンプラザ(撮影:Hazuki Muto)
相対性理論『証明III』@中野サンプラザ(撮影:Hazuki Muto)

山口情報芸術センター(YCAM)でのライブ風景

ああこれが昨年12月の山口情報芸術センター(YCAM)で開催した『天声ジングル - ∞面体』展でのライブで初お目見えしたという新しい演出ツールかと、わけ知り顔で腰を据えていたのだが、いざ演奏がはじまると、これが効果覿面、思わず身を乗り出した。

この目の粗い紗幕は映像を投影するスクリーンの役割なのだが、そこに映る映像は武道館公演時よりさらに洗練されたものになっていた。“ウルトラソーダ”からはじまった『証明Ⅲ』には、この曲で幕を閉じた武道館公演を引き継ぐニュアンスがあり、“ベルリン天使”“とあるAround”“ケルベロス”と、『天声ジングル』収録曲がつづく前半にそれは顕著だったが、1年のあいだ舞台にかけてきた楽曲の演奏の骨組みは太く身体は引き締まっている。

舞台前面の紗幕は、演奏者と客席には実際の距離以上の隔たり――というより、次元の落差のようなものを生み、相対性理論というバンドの在り方を彷彿させもする。とはいえ演奏しているメンバーをこの目で見たいのも人情である。観客の気持ちを察したのか、数曲で紗幕は引き上げられ、チャイナドレスをモチーフにした衣装のやくしまるえつこを中心にした相対性理論が会場の空気に観客と同衾する。

相対性理論『証明III』@中野サンプラザ(撮影:MIRAI seisaku)
相対性理論『証明III』@中野サンプラザ(撮影:MIRAI seisaku)

相対性理論『証明III』@中野サンプラザ(撮影:MIRAI seisaku)
相対性理論『証明III』@中野サンプラザ(撮影:MIRAI seisaku)

新たに加わったライブ演出、「YXMR Ghost “Objet”」(ヤクシマルゴーストオブジェ)」とは?

中盤は旧作をバランスよく織り交ぜたものだったが、リズムのツブ立ちが際立っており、『天声ジングル』での変化が過去へ遡及してく趣もあった。シーケンサーなどの同期ものが全体的に目立っていたのはあきらかに『天声ジングル』の延長線上にある志向であり、リズムはよりグルーヴを強調したものにシフトしている。

その変化は音楽だけにとどまるものではなかった。相対性理論のライブが視覚的にも特徴的なのは、一度でも訪れた方ならごぞんじだろうが、本公演でも彼らは新しい舞台演出に挑戦している。「YXMR Ghost “Objet”」(ヤクシマルゴーストオブジェ)」と名づけた装置がそれで、具体的に述べれば、3Dカメラ画像処理によるユーザーインターフェイスを備えた空間操作の次世代音楽ツール「KAGURA」の基幹機能をサウンド、ビジュアル、光の3種の3Dコントローラとして導入し、チューンアップしたやくしまるえつこのオリジナルシステム――となるが、この手の話にうとい方にはチンプンカンプンかもしれない。

「YXMR Ghost “Objet”」によって、相対性理論の背景にやくしまるえつこのゴーストがリアルタイムに映し出される(撮影:Hazuki Muto)
「YXMR Ghost “Objet”」によって、相対性理論の背景にやくしまるえつこのゴーストがリアルタイムに映し出される(撮影:Hazuki Muto)

「YXMR Ghost “Objet”」を操るやくしまるえつこ(撮影:Hazuki Muto)
「YXMR Ghost “Objet”」を操るやくしまるえつこ(撮影:Hazuki Muto)

私も資料を引き写してみたもののよくわからなかったが、かいつまんで言えば、写真でやくしまるえつこが手をかざしているプロンプター様のインターフェイスを介して音はもちろん、映像や照明も制御できるすぐれものであるということである。通常の舞台制作では、演奏者は映像や照明の方向性を決めることはあっても、本番ではそこにタッチできない。現代の高度に分業化した制作体制の必然ともいえる制約を、やくしまるえつこはテクノロジーの助けを借りて乗り越えようとしているのか。

やくしまるえつこ(撮影:Hazuki Muto)
やくしまるえつこ(撮影:Hazuki Muto)

やくしまるえつこ(撮影:Hazuki Muto)
やくしまるえつこ(撮影:Hazuki Muto)

やくしまるえつこ(撮影:Mirai seisaku)
やくしまるえつこ(撮影:Mirai seisaku)

やくしまるえつこ(撮影:Mirai seisaku)
やくしまるえつこ(撮影:Mirai seisaku)

やくしまるえつこ(撮影:Hazuki Muto)
やくしまるえつこ(撮影:Hazuki Muto)

進化を続ける相対性理論、次は野音で無料ライブイベントに出演

実際映像や照明といった視覚効果が聴覚に与える影響は看過できぬもののようで、本公演が強い印象をのこしたのも、舞台演出上の新機軸がひと役買っていたのはまちがない。むろんそれも彼らの演奏あったればこそ。最近の公演ではセットリストの要の位置に置かれることが多い“弁天様はスピリチュア”以降、ファーストから“スマトラ警備隊”、4作目の“帝都モダン”、MONDO GROSSOとやくしまるえつこのコラボ作“応答せよ”など、バラエティーに富んだ選曲で『天声ジングル』収録の“おやすみ地球”で迎えた大団円を“FLASHBACK”で異化する構成はこの1年の定番であり、本編はこれで終了かと思われたが、サンプラザでは最後に“わたしは人類”が待っていた。

この曲は正しくは相対性理論ではなくやくしまる名義であり、本年のアルスエレクトロニカ『STARTS PRIZE』グランプリ受賞作でもあるが、ライブ演奏の場では8ビートのダイナミズムが増し、インテンポの即興パートでアンサンブルと同期するようにやくしまるがYXMR Ghost “Objet”やdimtakt(真鍋大度らと開発した、やくしまるえつこオリジナル杖型の9次元楽器)やKAOSS PADなどのオブジェを操ると、音と光が混淆し周囲の空気を攪拌する本公演の白眉となっただけでなく、相対性理論ないしやくしまるえつこの進化にとどまる気配がないことをまざまざと示していた。

dimtaktを振るうやくしまるえつこ(撮影:Mirai Seisaku)
dimtaktを振るうやくしまるえつこ(撮影:Mirai Seisaku)

進化の態様を確認できるのはまた数か月先になるのかと思うと、私としては首が長くなってしまうが、ラッキーなことに無料イベント『exPoP!!!!!』の10年100回目を記念した公演に、Yogee New Waves、元Deerhoofのクリス・コーエン、シャムキャッツらとともに相対性理論も出演するのだという。単独公演ほどコンセプチュアルな演出は難しいにしても、ライブには趣向を凝らす人たちだ。お金もかからないし、はじめての方も野音に行くたびにフィッシュマンズを思い出している私のような古株も、これは足を運ぶに如くはない。

相対性理論が出演する無料イベント『exPoP!!!!! vol.100』と同時開催されるカルチャーイベント『NEWTOWN』のロゴイラストは、やくしまるえつこ作
相対性理論が出演する無料イベント『exPoP!!!!! vol.100』と同時開催されるカルチャーイベント『NEWTOWN』のロゴイラストは、やくしまるえつこ作(イベントの詳細を見る

(メイン画像撮影:Hazuki Muto)
イベント情報
『exPoP!!!!! Vol.100』

2017年8月20日(日)
会場:東京都 日比谷野外音楽堂
出演:
相対性理論
Yogee New Waves
Chris Cohen
シャムキャッツ
YOOKs(オープニングアクト)

料金:入場無料(2ドリンク別)

※当日の混雑状況によって、入場できない場合がございます。ご了承ください
※クラウドファンディングにて入手可能の「優先入場券」をお持ちの方は、必ずご入場いただけます
※日比谷公園にれのき広場内受付テントで12:00から入場券配布受付を開始いたします

『相対性理論 presents「証明III」』

2017年6月17日(土)
会場:東京都 中野サンプラザホール
料金:6,300円
※SOLD OUT

プロフィール
相対性理論
相対性理論 (そうたいせいりろん)

音楽シーンのみならず、ドローイング、美術作品、テキストなど多彩な分野で活躍するやくしまるえつこを中心に、一貫してインディペンデントでの活動を続ける。2016年にはアルバム「天声ジングル」を発表し、レコード会社にもプロダクションにも所属しないアーティストとして史上初の日本武道館公演「八角形」を開催。坂本龍一、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、ジェフ・ミルズ、サーストン・ムーア、マシュー・ハーバートら国内外アーティストとの共演・共作も多数。また、ポップミュージシャンとして極めて異例となる山口情報芸術センター[YCAM]での特別企画展「天声ジングル - ∞面体」も実施された。



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