SNSで話題の巨額キャンペーン。拡散と善意の間で是非を問う

日常生活の気づきや悩みを、社会課題の解決につなげる日本財団『10億円会議キャンペーン』

「金持ちには思いつけない世界の救い方ってありますか?」――そう、彼らは問う。その「救い方」の発想は、私たち一人ひとりがおくってきた人生にこそ埋まっている、とも。「ひとりで子育てをしてきた」「ブラック企業で働いてきた」「保育園に落ちた」「ネットカフェで暮らしたことがある」「性差別にあったことがある」……そんな「あなただから思いつける世界の救い方がある」と。

これらのフレーズはすべて、日本財団が2月1日より随時展開している『10億円会議キャンペーン』の広告に掲載された文言だ。「みんなが、みんなを支える社会」を目指し、市民、企業、NPO、政府、国際機関と、世界中のネットワークに働きかけ、「ソーシャルイノベーションのハブ」となるべく活動する日本財団。担当者である経営企画部、花岡隼人は、次のように語る。

日本財団 花岡:近年、日本の社会課題は、社会構造の変化を背景に複雑化してきており、これまでの解決方法では対応できないケースも増えています。社会課題を解決する優れたアイデアは、必ずしも専門家から生まれるものではありません。いわゆる「普通の人々」の、日常生活のちょっとした気づき、実際に問題に直面し悩んだ経験、そんなリアルな体験こそが、これらを本質的に解決する手がかりとなるのではないでしょうか。

キャンペーンの狙いは、身近にある社会課題について考えるきっかけを作り、議論の機会を広げていくこと

先立つこと1月15日より、インターネットテレビ局「AbemaTV」にて、新レギュラー番組『10億円会議 supported by 日本財団』の放送が開始されている。本番組では「社会の課題を解決し、世の中に変革を起こす提案」を募集。優れた案には日本財団が用意した総額10億円から活動資金を提供する、というプロジェクトだ。

参加者は審査員5名に対してアイデアをプレゼンテーションし、全員の心を掴むと「合格」。別途日本財団での審査を経て、資金獲得の機会を得ることができる。たとえば先日放送されたエピソードでは、かつて引きこもりであり、行政の支援によって世に出ることができたプログラマーが、恩返しをすべく、SNSを用いた新たな行政サービスを提案していた。

この番組との連動企画として始まった『10億円会議キャンペーン』では、社会の課題を解決するアイデアをTwitterで募集。ハッシュタグ「#にっぽんざいだん」を付けてアイデアをツイートすれば、良いアイデアに対してキャンペーンの公式アカウントから「いいね」やリツイートなどのアクションがある。

渋谷駅ハチ公前 憲章ボード

つまりは、タイトルが宣言する通りだ。社会の課題をソリューションへと導くアイデアを、ソーシャルの関係性のもと、みんなで議論=「会議」してみよう、というキャンペーンである。

日本財団 花岡:私たち日本財団は、さまざまな社会課題の解決に取り組んでいる組織です。今回のキャンペーンは、多くの方が身近な社会課題について考えるきっかけになればと思い始めました。自分のアイデアを発信していただく、あるいは、他の人のアイデアを知っていただくことで、議論が活発になればいいなと思います。

担当者の言葉からも、議論の広がり自体を見据えていることがうかがえる。番組では、実際に自身が進行させているプロジェクトをその担い手がプレゼンテーションし、支援を受けるという形がある一方で、今回の『10億円会議キャンペーン』は、「世界を救える10億円の使い方」をめぐるアイデアを広く募る、ということなのだ。

もっと手前、人々の暮らしの中で発見されることを待っている、アイデアの萌芽こそが焦点となる。本キャンペーンは、あなたなら、どんなことを考えますか、と呼びかけているのだ。

巨額のキャンペーンは本当に私たちの社会を救うのか?

思い返せば、2018年末から2019年にかけて、SNSを含めた私たちの新たな関係性のもとに、社会問題の解決を試みる動きが世間を賑わせ、さまざまな議論が巻き起こっている。たとえば、ファッション通販サイトを運営する社長が、Twitter上で大金をプレゼントする「お年玉」キャンペーンを行ったことは記憶に新しい。

一方で、キャンペーンが本当に私たちの社会を救うのか、キャンペーン自体が企業の宣伝に過ぎないのではないか、といった議論が紛糾した。あるいは、昨年末から行われ、この2月より第2弾が開始された、モバイル決済サービスの支払額還元キャンペーン。前回も今回も巨額の還元額が用意されている。

サービスの担い手たちが志しているのはおそらく、キャッシュレス化が遅れているとされる日本社会に対する、自らのサービスを起点にした「変革」だろう。だが、乱立する類似サービスの中、大々的なキャンペーンのもとで独り勝ちを目指さざるをえないその姿勢には、新規サービスを社会に浸透させる際のジレンマが滲んでいるのも事実だ。実際にサービスが使用される小売店の店頭での混乱がささやかれもした。

10億円は、諦められた良いアイデアに目覚めてもらうためのもの

誰もが、この社会で「善」なるアクションを為そうとしている。だが、その「善」であるはずの行為が、当の社会の側にとっても「善」であるかどうか――ひょっとしたら「独善」的なのではないか、という問いが、私たちの日常を取り巻いている。巨額のキャンペーンの裏側には、「お金」をめぐる感覚の変化も見え隠れし、まだその答えは見つかっていない。

いわば、SNS時代の「バラまき」をめぐる是非、という問題がここにある。そして『10億円会議キャンペーン』は、「バラまき」ではなく、「アイデアの集約」という逆のベクトルをこそ志向しているようだ。キャンペーンを行う側のプレゼンテーションを高めることではなく、新たに「社会の課題を解決するアイデア」を世に問い、その議論を促すことこそが目的となる。

日本財団 花岡:行動を起こすことには、往々にしてお金がかかります。もしかしたら、お金がないという理由で、良いアイデアはその実現を諦められ、眠っているかもしれません。今回日本財団が用意した10億円は、これらのアイデアに目覚めてもらうためのものです。私たちはこの『10億円会議』を通じて、新たな、かつ多様な課題解決の担い手と出会えることを期待しています。

SNSで発せられるメッセージは、あっという間に流れいってしまう。私たちの日常だって、社会的課題を見つけても、あくせくする日々の中で、その発見はあっという間に過去のものとなってしまいがちだ。世界を救うより、自らを救わねば――だがそれだけでは、世界はきっと立ちゆかない。

今回、日本財団は、沸き上がる一つひとつのアイデアを可視化し、結びつけたいという。その試みは、ソーシャルネットワーク上に散らばった私たちへの、2019年という「今」だからこその呼びかけなのだろう。

キャンペーン情報
日本財団
『10億円会議キャンペーン』

社会には解決すべき課題が山積みです。いじめ、貧困、高齢化、差別など、あなたにしか見えない課題、あなたにしか思いつけない解決策があるはずです。教えてください、あなたのアイデアを。



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