コラム

動物たちの世界描く漫画『BEASTARS』。「共生」は実現可能なのか?

動物たちの世界描く漫画『BEASTARS』。「共生」は実現可能なのか?

テキスト
辰巳JUNK
編集:後藤美波(CINRA.NET編集部)

アニメ版『BEASTARS』ビジュアル

「強者」の肉食獣と「弱者」の草食獣が共存する動物たちの世界が、現実の社会問題を想起させる

2016年より『週刊少年チャンピオン』で連載が開始され、『マンガ大賞2018』や『文化庁メディア芸術祭』マンガ部門新人賞など多くの賞を獲得した板垣巴留による漫画『BEASTARS』。アニメ版が放送・配信開始された今こそ、2010年代を代表する「動物版ヒューマンドラマ」漫画と言える本作を紹介したい。

二足歩行の動物たちが暮らす世界を舞台にしたディズニー映画『ズートピア』と比較されることも多い本作(ただし前身となる連載『BEAST COMPLEX』のほうが発表は先)ではあるが、大きな違いは「肉食獣の草食獣への食欲」だろう。『BEASTARS』において、「強者」とされる肉食たちは本能を抑えながら暮らしており、「弱者」の立場に置かれる草食は彼らに怯えつつ共生しているのだ。現実の「ヒト科」社会とはかなり事情が異なる。

しかしながら、この作品の面白い点は、動物たちの世界を通して、ステレオタイプやジェンダーにまつわる問題、表現「配慮」への反発、そして共生社会の難しさといった現実のソーシャルイシューを想起させるところだ。

板垣巴留『BEASTARS』第1巻表紙(秋田書店)
板垣巴留『BEASTARS』第1巻表紙(秋田書店)(サイトを見る

草食獣への食欲を抑え込まれた肉食獣。共存共栄志向の中でもなくならない「食殺」事件

寮制高校を舞台とする漫画『BEASTARS』の物語は、学園内で起こった生徒間の「食殺」事件、そしてオオカミのウサギへの恋という2つの禁忌で始まっていく。

まず、基本的な世界観を説明しよう。作品にヒト科の姿はなく、舞台となる街には鳥類を含む肉食と草食が半々のバランスで生活している。つまり、フラミンゴからネズミ、シマウマからヒョウまで、生態も体長も異なる種族がともに暮らしているのだ。

それゆえ、社会には数多のルールが存在している。最大のタブーは動物を食べて殺す「食殺」であり、公の場で肉食獣が草食獣に牙を剥くことすら法で規制されている。肉食も禁止されているため、ライオンやトラなどの肉食獣はタンパク質を豆や乳製品から摂取する文化が整備済みだ。それでも、肉食獣が草食獣を食べる事件は無くなっていない。むしろ、共存共栄志向が高まるなか「食殺」が増えているとされる。

「お前たち肉食動物にとって俺たちはしょせん食い物なんだ そんなわけがあるか 下等なのはそっちの方だぞ お前ら肉食獣なんてみんな怪物だ」(第1話より、肉食獣に食殺されたアルパカのテムの言葉)

死と隣り合わせで生きる草食獣。「弱者」のレッテルに抗い、「対等な瞬間」を味わおうとする者も

「弱者」とされる草食獣は死と隣り合わせの日々だ。身体の大小と強弱がもたらす影響も大きい。たとえば、学校の廊下でゾウの生徒とぶつかったリスは、それだけで全身を複雑骨折してしまう。経済界を牽引する企業幹部も肉食が多いようで、草食の地位向上や英雄的存在を求める声も大きいことがわかる。他方、「弱者」のレッテルから生じる問題も度々描かれている。「か弱く可哀想な存在」として扱われ続けた小型草食獣の女子が「対等な瞬間」を味わうために男たちとのセックスを繰り返すエピソードは、そのまま人間社会のジェンダーやフェミニズムの問題にも当てはめられそうな密度すら感じさせるものだ。

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