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ビリー・アイリッシュらが代弁する「絶望の世代」の実態と心の内

ビリー・アイリッシュらが代弁する「絶望の世代」の実態と心の内

ビリー・アイリッシュ
テキスト
竹田ダニエル
編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

Z世代にとって「個性」「自分らしさ」が何よりも大事である理由。その背景にある、ティーンカルチャーにおける価値観の転換

ビリー・アイリッシュやコナン・グレイなどに代表される、オルタナティブで新種のポップミュージックは、明確に音楽的なジャンル区分をし難いものの、サウンドが実験的で、歌われるテーマには鬱や孤独などのダークなものが多いなど共通点がある。そしてその音楽は、恋愛至上主義を前提とした従来のメインストリームのポップスの大多数とは大きく異なる。

その背景にあるZ世代の価値観について。『glee/グリー』(2009年5月から2015年3月にかけて放送されたアメリカのテレビドラマシリーズ)や『ハイスクール・ミュージカル』(2006年にアメリカで放送された映画、監督はケニー・オルテガ)などの作品を見てわかるように、これまでのアメリカのティーンカルチャーには「クールであるためにはこうでなければならない」というステレオタイプの幻想が根強く存在していたが、その「クールキッド」像はメディアの多様性によって崩れ去った。自分らしく自信を持って個性を示せることこそがもっとも「かっこいいもの」と化したのだ。

こういったティーンカルチャーにおける価値観の転換は、「共感できること」が人気を得るための最大のポイントである、インフルエンサーや同世代のYouTubeスターなどの、「自分らしさ」を肯定する言動からも影響を受けている。この「自分らしさ」に重要なのは、演技が垣間見える「フェイク」なポジティブさやトレンドに乗ったものではなく、赤裸々に孤独や悲しみについて語り合える友人のように、寄り添ってくれる親近感なのである。

それでは、様々なアーティストが体現するZ世代的な価値観について、具体的な例を挙げてみていきたい。

コナン・グレイの場合ーー恋愛至上主義に対する違和感を叫ぶ

たとえば、アイルランド人の父親と日本人の母親を持つアメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴ出身のシンガーソングライター、コナン・グレイには恋愛至上主義に対する違和感が表現された楽曲がある。

コナン・グレイ“Crush Culture”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く) / タイトルにある「crush」は好きな人がいることを意味するアメリカ英語的表現

(リリック)
And no I don't want your sympathy, all this love is suffocating
Just let me be sad and lonely 'cause
Crush culture makes me wanna spill my guts out

(歌詞和訳)
あなたの共感が欲しいわけじゃない、僕にはこの恋愛が重すぎる
勝手に一人で悲しませてくれよ
だって恋愛至上主義文化には吐き気がする

コナン・グレイ“Crush Culture”より(筆者訳)

現代のポップカルチャーを通じて当たり前のように押し付けられる恋愛至上主義的な価値観に違和感を感じるコナンが、その非現実的なロマン像を受け付けられないことを叫ぶアンチ恋愛アンセム。この楽曲からは、「周りの人たちとはわかり合えない」という孤独を出発点に、「理解されない自分」をリスナーと分かち合おうとしていることが読み取れる。

こういったオルタナティブな価値観を打ち出した楽曲がメインストリームの音楽と同じくらいの規模で支持されるまでに至った主な理由は、インターネットによって、誰もが同じカルチャーを消費する必要がなくなったことにある。

SNSは「個性」を発揮することがもっとも「いいね」を集めたり、フォロワーを集めることに直結し、誰かの真似をしていることが如実にわかってしまう世界でもあり、その傾向は友人関係においても如実に反映される。その結果、「同世代の他の子たちのことが理解できない」とSNSで嘆く「自称エッジーなZ世代」は、もはやミーム化されるほどの社会現象ともなっている。

ビリー・アイリッシュの場合――抗不安薬・ザナックスを必要とする若者たちと自分自身に眼差しを向ける

ビリー・アイリッシュ“xanny”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

(リリック)
What is it about them?
I must be missing something
They just keep doing nothing
Too intoxicated to be scared
(中略)
I don't need a Xanny to feel better

(和訳)
魅力は一体何?
きっと私が何か見落としてるだけなはず
彼らは何もしないでぼーっとしてるだけ
ヤク漬けになりすぎて恐怖さえ感じない
いい気分になるために、私はザナックスなんていらない

ビリー・アイリッシュ“xanny”より(筆者訳)

アメリカのポップカルチャーは、社会に蔓延しているドラッグの種類や乱用のされ方によって常に大きな影響を受けている。特に近年ではマリファナが合法化されたり、処方箋型の抗不安薬であるザナックスが未成年でも手に入りやすくなったことにより、そのようなドラッグを使用することが多くの若者にとって日常の一部になっている。オピオイド系鎮痛薬やベンゾジアゼピン系の抗不安薬は依存性も高く、感覚を麻痺させるような副作用があるため、21歳でこの世を去ったラッパーLil Peepなどをはじめ、それらの乱用によって命を落とす人も少なくない。

“xanny”はまさに、薬物を若者が乱用する虚しさを批判し、同時にドラッグの魅力を理解できず、関わりたくないと思う自身の違和感にも強く目を向けている。「いい気分になるためにクスリなんていらない」と断言しておきながらも、「何が魅力なの? 私が何か理解していないだけなのかも」、このドラッグカルチャーを楽しめない自分がおかしいのか? という自分に対する疑問も抱いているのだ。

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リリース情報

ビリー・アイリッシュ
『my future』

2020年7月30日(木)配信

コナン・グレイ
『Kid Krow』

2020年3月20日(金)配信

ジェレミー・ザッカー
『supercuts』

2020年7月24日(金)配信

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