コラム

K-POP歌手でありバーチャルなウサギ、APOKIとは?本人らが語る

K-POP歌手でありバーチャルなウサギ、APOKIとは?本人らが語る

インタビュー・テキスト
松本友也
通訳:石村麻那 リード文・編集:後藤美波(CINRA.NET編集部)

音楽だけでなく、多様なカルチャーやトレンドを取り入れ、進化し続けるK-POPシーンに、ユニークな存在が現れた。2021年2月にデビューしたバーチャルK-POPアーティスト、APOKIだ。

K-POPアーティストにとって「コンセプト」「世界観」と「ファンとのコミュニケーション」は重要な要素だが、APOKIは「宇宙のどこかに住むウサギ」として地球のファンと交流する。見た目はガールズグループにいそうなすらりとした体型に、海外のアニメキャラのようなキュートな顔つき。歌って踊る姿は生身の存在のようにナチュラルで不思議な存在感を見せる。

日本でもキズナアイをはじめとするさまざまなVTuberたちが人気を集めているが、バーチャル文化とK-POP文化の双方を股に掛けるAPOKIとは一体どのように生まれ、どんな展望を持って活動しているのか? 今回はAPOKIを生んだ韓国のスタートアップ企業・Afun Interactiveの代表DKクォン氏へのインタビューと、APOKI本人へのメールインタビューを交え、K-POPシーンに現れた新たな表現の可能性を探る。

K-POPシーンに突如現れた「宇宙のどこかに住むウサギ」

近年の「Unreal Engine」をはじめとするゲーミングエンジン(ゲームの開発に用いられるソフトウェア)の発達は、リアルタイムで人間の演者の動作を読み取って動く「バーチャルアーティスト」の存在を可能にした。いまやK-POPの精密で激しいダンスでさえも、3DCGの美麗なアバターに難なく踊らせることができる。

結果K-POPシーンにも大量のバーチャルアイドルが参入──という状況にはまだなっておらず、確固たる指針を持って活動し、オリジナル楽曲でメジャーデビューに至るほどに成功したバーチャルK-POPアーティストは現状ではひとりしかいない。それがAPOKI(アポキ)だ。

2021年に音源デビューした韓国発のバーチャルアーティスト、APOKI
2021年に音源デビューした韓国発のバーチャルアーティスト、APOKI

「宇宙のどこかに住むウサギ」であるAPOKIは2019年に突如動画プラットフォームに現れ、BLACKPINKやMAMAMOO、BTSといったK-POP楽曲のカバーで注目を集めた。

ディズニーの世界から飛び出してきたかのような愛らしい3DCGのビジュアルに、キレのあるダンスとハスキーな歌声。その表情や所作には、CGと思えないような人間臭い魅力が漂っている。

その存在の新しさや物珍しさも手伝ってか、すでに世界各国にファンがついている。TikTokのフォロワーは220万を超え、台湾に拠点を置く情報端末メーカー・HTCが今年発表した2021年の「グローバルVRソーシャルインフルエンサートップ100」では、アジア勢トップとなる5位を獲得。あくまでもHTCの独自基準による選出とはいえ、その注目度の高さが窺える。

APOKIによるBLACKPINK“Forever Young”ダンスカバー

APOKIによるBTS“Dynamite”ダンスカバー

一方で、その新しさはカテゴライズの難しさにも繋がっている。「バーチャル」と「K-POP」という、性質も文脈も異なる二つのシーンにまたがって活動しているがゆえに、「APOKIとは何なのか」をシンプルに説明することは難しい。TikTokでのグローバルな人気に比べてYouTubeの登録者数が30万未満と控えめなのは、本国・韓国やK-POP人気の高い日本でまだ十分に認知されていないからだろう。

これまでK-POP楽曲のカバーのみで活動してきたAPOKIだが、今年2月についにオリジナル楽曲“GET IT OUT”でデビューを果たした。6月には2曲目となる“Coming Back”をリリースし、まさにこれからの展開が注目されるタイミングだ。K-POPファンにもバーチャル文化のファンにもAPOKIの魅力を知ってもらえるよう、その活動の背景について簡単に解説していきたい。

APOKIのデビュー曲“GET IT OUT“MV

まず、現在一般的に「バーチャル」と称されるアーティストやキャラクターは、モーションキャプチャ用の機材で人間の動きを読み取り、それを2DCGや3DCGのアバターに反映させて動かすという原理で成り立っている。

それによってキャラクターがより「人間らしく」振る舞えるようになり、また演者も生身の属性や性別、容姿などからある程度自由になった状態で活動できるようになる。加えて、通常のアニメーションのように手作業でキャラクターを動かす必要がなくなるため、キャラクターを用いた映像コンテンツ制作のハードルも下がり、間口がぐっと広がった。

とはいえ、原理は同じでも実際の「バーチャル」のあり方や活動の形式は実に多種多様で、ここではとてもその全体像を紹介しきれない。日本のVTuberのキズナアイ、海外のゲーム実況プラットフォームで活動するバーチャルストリーマーのCodeMiko、バーチャルインフルエンサーのimmaやLil Miquelaなど、代表的な例をいくつかチェックするだけでも、そのあり方の幅広さは理解してもらえるはずだ。

日本のVTuberキズナアイは国外でも人気を博し、音楽活動も行う

バーチャルインフルエンサーのimmaはファッション誌の表紙も飾る

韓国のバーチャル文化については、オンラインゲーム『リーグ・オブ・レジェンド』のキャラクターから派生したユニット・K/DAや、アバターを用いた独特な世界観で注目を集めているガールズグループaespaのようにK-POPシーンを背景とするものが特徴的なほか、そこまでシーンは大きくないものの日本型のVTuberも存在している。また、BLACKPINKとのコラボでも話題になったアバターアプリの「ZEPETO」も若い世代に人気があり、アバター文化の土台の一つとなっている。

K/DAは、オンラインゲーム『リーグ・オブ・レジェンド』のキャラクターをもとにした仮想のグループ。K-POPグループ(G)I-DLEのメンバーらが楽曲に参加している

SMエンターテイメント所属のガールズグループaespa。メンバーの仮想世界の「もう一人の自分」としてアバターが存在し、MVなどにも登場する

「バーチャル」であるがゆえに、架空の世界観や設定を「リアル」に体現できる

APOKIが興味深いのは、そのいずれのシーンにもはっきりとは属していないところだ。彼女はひとりで独自領域を開拓しているように見える。

もちろん、APOKIの制作チームの人選や本人のパフォーマンススタイルは、「バーチャルK-POPアーティスト」と名乗るだけあって完全にK-POPのマナーを踏まえている。たとえば作曲はBTSやTWICEをはじめ、数々のK-POPグループに楽曲を提供しているメラニー・フォンタナ。振付はK/DAも手がけるNARIA(韓国の有名ダンススタジオ・PREPIX STUDIO所属)。そしてMVのディレクターはNCT DREAMやテミン(SHINee)のMVも手がけるJinooya Makes(Jay Parkによる音楽事務所・AOMG所属)と、K-POP的な文脈で豪華な布陣だと言える。

またオリジナル楽曲のリリース後は、テレビ局Mnet主催のリレーダンス企画に参加したり、ライブパフォーマンスシリーズ「It’s LIVE」でバンドとのコラボを披露したり、公募のカバーダンスコンテストを開催したりと、K-POPアーティストらしい活動を行っているのも事実だ。

“GET IT OUT“のリレーダンス映像。リレーダンスはK-POPアイドルらが曲にあわせて順番にダンスを披露していく、Mnetのチャンネル「M2」の恒例企画

しかし一方で、少なくとも現時点ではメジャーな音楽番組やK-POPの大型イベントには参加しておらず、K-POPシーンでの成功にはあまり関心がないように見える。APOKIにとっては、K-POPはあくまでも活動のためのリソースであって、活躍のためのフィールドではないのかもしれない。

そしてわかりやすい所属シーンを持たない代わりにAPOKIが築いているのが、バーチャルならではとも言える独自の世界観だ。APOKI(アポキ)の名前の由来が「アポロ11号+トッキ(韓国語でウサギの意)」であることからもわかるように、彼女は宇宙(=別世界=バーチャルワールド)の住人というSF的な設定を引き受けながら活動を展開している。とりわけオリジナル曲でのデビュー前後からはその傾向が強い。

たとえばデビュー直前の2020年12月30日のライブ配信では、それまで普通にトークをしていたAPOKIが突然何かに気づき、部屋から出て行ってしまうという展開が仕込まれていた。画面は屋外へと切り替わり、APOKIがスペースシャトルに乗って宇宙に旅立つと、配信はそこで終了。当然、コメント欄は混乱に包まれた。

そこから実に2週間ほど宇宙船の室内だけを映し続けるライブ配信が続き、コメント欄に残されたファンは時折発されるモールス信号を解読しながらAPOKIの帰還を待った。そして2021年1月13日にようやくAPOKIが月面に着陸する動画がアップロードされ、後日オリジナル楽曲の制作とデビューが発表された。これらの大がかりな演出の世界観をそのまま引き継ぐように、デビュー曲の“GET IT OUT”のMVにはさまざまなSF映画のオマージュが散りばめられている。

APOKIを乗せたスペースシャトルは2週間ほど宇宙を飛行し、月面に着陸した

もちろん、こうした独自の世界観や設定を伴うデビュー演出自体はK-POPシーンではそう珍しいことではない。ただ重要なのは、APOKIはそもそもバーチャルな存在であるがゆえに、こうした世界観を「リアルに」表現できるということだ。

通常、アーティストが何らかの設定を演じる場合には、設定上のキャラクターと現実の「その人」との間に必ずズレが生じる。しかしAPOKIの場合はもともとその存在自体にフィクショナルな要素が含まれているため、架空の世界観でも「嘘」にならない。「愛とポジティブなエネルギーを地球の人々と共有したい」という言葉は、少なくとも「APOKI」にとっては「設定」ではなく事実なのである。そしてこの真正性が魅力の肝だからこそ、(そのパフォーマンススキルの高さからK-POP関係者ではないかと噂されることがあっても)いわゆる「中の人」の情報については一貫して秘匿しているのだろう。

APOKI
APOKI

こうした独自路線をとっているのは、APOKIをサポートするプロジェクトチームが既存の芸能事務所ではないからなのかもしれない。2016年設立のAfun Interactiveは、リアルタイムレンダリング技術を基盤に3DCGコンテンツの制作を手がけてきた新進気鋭のテック・スタートアップだ。2019年より突如としてAPOKIのプロジェクトがスタートしたように見えるが、なぜスタートアップ企業がいきなり(バーチャルとはいえ)アーティストマネジメントに乗り出したのかはわからない。また、なぜあれだけ本格的なK-POP楽曲やMVを制作できているのかも不明だ。

やはり結局のところ、APOKIとは何なのかという問いが引っかかる。APOKI(のプロジェクト)は何のためにスタートし、何を目指しているのか。APOKI自身は、自分についてどのような考えを持っているのか。それがわかれば、APOKIの世界にさらに入り込めるはずだ。

今回はその謎を少しでも明らかにするべく、Afun InteractiveのDKクォン代表とAPOKI本人にそれぞれインタビューを行った。ここからはその内容をお届けする(なおAPOKIはメールインタビュー、DKクォン代表はオンラインインタビューとなっている)。

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