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建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

テキスト:内田伸一 撮影:西田香織
※テキストは国立新美術館展覧会担当者へのインタビューに基づく

イームズ・チェアのデザインを支えた軍事技術

「第2章 カリフォルニア・モダンの形成」では、西海岸という地域に根差したモダンデザインがさらに発展していく様子を見ることができます。意外なのは、ここで第二次世界大戦という出来事が大きく影響していること。戦時中、航空機産業などの生産拠点となったカリフォルニアでは、軍事用に新開発された素材や技術も多く、日常生活での新たな利用手段も模索されていたのです。

建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

代表的な作品が、お洒落な椅子の代名詞とも言える、イームズ夫妻のデザインチェアです。平らな木の板を滑らかに曲げる「成型合板」の技術によって実現しているあのフォルム、実は戦時中、脚を怪我した兵隊の添え木にもこの技術が用いられ、そのノウハウが家具の大量生産にも受け継がれたそうです。

中村:最初に見たイームズの象のおもちゃ(前頁写真)もそうですが、軍事に関わる技術がこうやって、可愛いらしいデザインに応用されていくのは興味深いですね。僕も成形合板の仕組みは大好きで、自分でデザインした椅子「へちま」も最初はこの技術で進めていました。やがて強度のある紙を素材にすることにしたのですが、ある意味この展示セクションは、自分にとっての椅子の原点でもあります。

戦争という重い現実を経由しつつも、デザイナーたちの旺盛な好奇心と、豊かな暮らしのための実験精神はむしろ高まっていきました。それが、カリフォルニアのデザインを戦後の新ステージへと押し上げていきます。なお、イームズたちの挑戦の道のりは、会場の記録映像でも見ることができます。ええ、もちろんイームズの椅子にゆったり座って……。

建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

続いて、遊び心あるテキスタイルやジュエリーデザインも登場します。ここでのキーワードは「デザイナー=クラフツマン(工芸家)」。ユニークな1点ものジュエリーも、「誰もが手の届くもの」として作れることを誇りにしたマーガレット・デ・パッタのようなデザイナーや、テキスタイルの分野では斬新な素材や色遣いで「カリフォルニア・ルック」なるスタイルを確立したドロシー・ライト・リーブスらの作品が並びます。そこには、大量生産品と一点ものの間にヒエラルキーを設けない、ものづくりへの真摯な姿勢が見てとれます。

建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

中村:アートのように一点ものだけど、作り手の個人的な表現ではない。あくまで「みんな」のために作る姿勢は、ある意味アートとデザインの違いかもしれませんし、共通する部分でもあると思います。

建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

各所には、今回のために改めて作家たちへインタビューした映像も多数。中には忘れられた存在だった人々もいますが、多くは自信に満ち溢れた顔で自らのデザインを語っています。その偉業に改めて光を当てることも本展の狙いの1つ。何か、ちょっとキューバのベテランミュージシャンを追った映画、『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』のデザイン版みたいで素敵ですね。

合理性の魅力だけではない、余白たっぷりの展示空間

「第3章 カリフォルニア・モダンの生活」は、今展覧会で最大のボリュームをさいた、意義の大きいセクションです。カリフォルニアのデザイナーの多くは、安くて優れたデザイン住宅や家具を住民たちに届けることを目指しました。伝統に縛られない進取の気性と、日々の暮らしにおける実用性も重んじた気風、それが西海岸独自のライフスタイルを生み出していきます。

建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

住宅デザインや建築の世界で、今も伝説として語り継がれる実験的プロジェクト「ケース・スタディ・ハウス」もその1つ。建築雑誌『アーツ&アーキテクチャー』の企画として始まったこの試みは、毎回、気鋭の建築家たちがミドルクラスの人々に向けた快適な住宅を提案していくものでした。壁一面をガラスにしたり、屋内外が自然につながる構造にしたりと、格別に贅沢ではなくても、当地の豊かな陽光や開放性を活かしたプランが特徴的。実際に建てられたものもあり、ここではその様子も写真や映像で見ることができます。特に、8番目に登場し、実際に自邸として実現させたイームズ夫妻の案は今見ても斬新です。

建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

中村:イームズは、カタログに載っている既成品だけで作ることのできる「ケース・スタディ・ハウス」を提案したんですよね。他の地域では何でもない素材でも、彼らの審美眼とカリフォルニアの温暖で乾燥した気候によって、軽やかで開放的な空間が実現されている。そうした総合的な環境から成り立った住宅プランでもあったと思います。

屋内外の境界をあいまいにした伸びやかなライフスタイルは、ファッションデザインにも見られます。水着にワンアイテム加えるとカクテルドレスになるデザインなども、カリフォルニアでは早くから楽しんでいたようです。また、あのリーバイスもご当地(サンフランシスコ)生まれ。作業用のデニムパンツが若者向けのファッションに取り入れられていったのは有名な話です。いずれも、当時の衣装の実物を見ることができます。

建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

ファッションと言えば、あのバービー人形もカリフォルニア生まれなのを知っていましたか? 今回は展覧会タイトルにもある「モダン・リヴィング」の世界観を反映し、ドールハウスと共に紹介されています。そして、これらが並ぶ空間でひときわカリフォルニア感を放つのが「車+サーフィン+デッキチェア」という黄金のコンビネーション。シャープさと自然なカーブが共存するスポーツカー「AVANTI」は、フランスのスターデザイナー、レイモンド・ローウィがカリフォルニアのデザインスクールの卒業生たちと協働して仕上げたスポーツカー。その後ろには、当時ファイバーグラスの使用で革新的に軽量化したサーフボードが波待ち風に立てかけられています。

建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

中村:僕はそれほど車好きという方ではありませんが、これは乗ってみたいと思えるデザインですね。今見るからそう感じるのかもしれませんが、合理性だけによらないデザインの魅力があって、そこがいい。デザインにおける合理性も好きなのですが、「余白」にもすごく惹かれるんです。たとえば昔に比べて今の街中や雑誌のページ、様々なプロダクツには、何かで埋めなきゃという「余白恐怖症」的な感覚を感じることがあります。それは行き過ぎると、暮らしを貧しくしてしまうかもしれない。だから、少なくとも自分が関わる建築やデザインはできるだけ余白たっぷりにしたいんです(笑)。その想いは、この会場空間構成にもつながっています。

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