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建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

テキスト:内田伸一 撮影:西田香織
※テキストは国立新美術館展覧会担当者へのインタビューに基づく

カリフォルニア・デザインを世界に広げたメディアの力

最後の「第4章 カリフォルニア・モダンの普及」では、いわゆるグッドライフとしてのカリフォルニア・デザインが世界中に知られる上で大きな役割を果たした「メディア」が切り口になります。前出『アーツ&アーキテクチャー』のような専門誌のほか、よりポピュラーな新聞・雑誌も、さらに数々の建築・ファッション写真やハリウッド映画の存在も、カリフォルニア・デザインと彼らのライフスタイルを世界中に伝えていく役割を果たしました。

建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

たとえば、崖上の住宅で、夜景を独り占めするようなリヴィング。また、スティール住宅をカラフルなコーディネートで使いこなす家族の憩いのひととき。これらをとらえたジュリアス・シュルマンの写真は、イメージの力がカリフォルニア・デザインの普及に貢献した好例です。

一方、他地域と対抗する形での普及活動も見られます。ニューヨーク近代美術館でのデザインコンペティションに対抗して、パサデナ美術館(現ノートン・サイモン美術館)が「カリフォルニア・デザイン」を恒例化。さらに、当時もう1つの大国であった旧ソ連に対して、アメリカの豊かな暮らしを発信する際、おおらかで伸び伸びとしたカリフォルニア・デザインが戦略的に多用されたようです。大人の事情も感じるセクションですが、デザインや製品が社会にどのように伝搬していくのかを考えることができる、興味深い内容です。

バフ・ストラウブ & ヘンスマン社 『マーマン邸 レクリエーション・パヴィリオン(アーケーディア)』 1958年 写真:ジュリアス・シュルマン 1959年 ゲッティ・リサーチ・インスティテュート蔵 The Getty Research Institute, Los Angeles © J. Paul Getty Trust. Used with permission. Julius Shulman Photography Archive, Research Library at the Getty Research Institute (2004.R.10)
バフ・ストラウブ & ヘンスマン社 『マーマン邸 レクリエーション・パヴィリオン(アーケーディア)』 1958年 写真:ジュリアス・シュルマン 1959年 ゲッティ・リサーチ・インスティテュート蔵 The Getty Research Institute, Los Angeles © J. Paul Getty Trust. Used with permission. Julius Shulman Photography Archive, Research Library at the Getty Research Institute (2004.R.10)

やがて60年代も中盤になると、モダニズムへの反意から生まれた新たな動向も目立ってきました。たとえば、ビール瓶を粘土に投げ込んで作ったというロバート・アーネソンの陶芸(彫刻)作品。これは当地の陶芸シーンの世代衝突をシンボリックに伝える一作となったそうです。そこまで過激でなくても、暮らしにおける機能主義から離れた、表現主義的なデザイン / オブジェ制作に向かう者たちが多く現れてきます。それはミッドセンチュリーの終わりを告げる鐘の音のような動きでもあり、ベトナム戦争とその反戦運動、人種差別など、アメリカが抱える様々な問題が表面化した時期とも重なるものでした。

建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

展覧会のラストで来場者を見送るのは、サーフィン映画の金字塔『終わらない夏』(1963年)のポスターです。

映画は、若いサーファー2人がカリフォルニアを飛び出し、波を求めて世界中を旅するドキュメンタリー。ポスターの中、サーファーたちと共に描かれたヴィヴィッドな太陽は、これから昇っていくようにも、沈んでいくようにも見えます。やはりポスターに記された映画の紹介文は、こう締めくくられていました。

「水平線の向こうにあるかもしれない完璧な波を求め、世界を旅した彼らの体験を共有しよう」

建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

すぐそこにも大事なことがあると気付かせてくれる、デザインの持つ力

会場を出て、改めて中村さんに全体の感想を伺いました。カリフォルニア・デザイン全般にはどんな印象を持ちましたか?

中村:まず単純に、可愛いものが多いのは魅力ですよね(笑)。そして、それを裏打ちする技術と、その技術の進歩に対応する中で、また新たなものを生み出していけた流れがあると思います。それらが過剰に前衛的な発明というわけではなく、日々の暮らしに深くつながっていく点も印象的でした。さらに、そうしたデザインの数々が、実は気候風土や戦時中の技術開発にも大きく関わる中で生まれたことを知りました。建築も、与えられた条件をもとにどう「解く」かが大切になります。そうしたことからも、より広くデザインの意味を考えることのできる良い機会だと思いました。

建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

最後に、来場者へのメッセージをお願いします!

中村:ふだん美術館にはアート作品を見に訪れることが多いですよね。でも今回は日常品であるデザインの展示。しかも太古の土器などではなく、わりと身近でつながりを感じられる時代のものです。それらを、ここまで多ジャンルで一度に見られるのが面白い。個々の作品を見るのも楽しいですが、それらが集まって生まれた暮らしの空間=モダン・リヴィングも感じられます。ただ「見る」というより、ここでひとときの時間を「過ごす」感覚でしょうか。それは「すぐそこにも大事なことがある」と気付かせてくれるのではと思います。

小さなデザイン1つをとってもそこにはデザイナーの意思が宿り、その力で毎日の暮らしを楽しく、豊かなものしようと情熱を燃やす人々がいる――。そんなことを改めて教えてくれるこの展覧会。太平洋でつながる遠い地のデザイン史を知ることは、日本にいる私たちにも様々なヒントをくれそうです。

『カリフォルニア・デザイン 1930-1965 ―モダン・リヴィングの起源―』

2013年3月20日(水・祝)〜6月3日(月)
会場:東京都 六本木 国立新美術館 企画展示室1E
時間:10:00〜18:00(金曜のみ20:00まで)※入場は閉館の30分前まで
休館日:火曜(4月30日は開館)
料金:一般1,000円 大学生500円

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