映像本来の豊かさに立ち返る「恵比寿映像祭」の世界

映像本来の豊かさに立ち返る「恵比寿映像祭」の世界

映像本来の豊かさに立ち返る「恵比寿映像祭」の世界

映像本来の豊かさに立ち返る「恵比寿映像祭」の世界

テキスト:宮崎智之(プレスラボ) 撮影:菱沼勇夫

「映画史上最も有名な6分間」のオマージュも登場

魅力的な作品が、会場では他にも数多く展示されています。マライケ・ファン・ヴァルメルダムの『カップル』と『イン・ザ・ディスタンス』は、巨大スクリーンの両面に映し出された映像作品です。

マライケ・ファン・ヴァルメルダム『カップル』 マライケ・ファン・ヴァルメルダム『カップル』

マライケ・ファン・ヴァルメルダム『イン・ザ・ディスタンス』 マライケ・ファン・ヴァルメルダム『イン・ザ・ディスタンス』

ふたつの作品には、湖畔にたたずむ老夫婦の姿が映っています。担当キュレーターいわく「異なったアングルや距離から撮ることによって、ひとつの空間に異なる場面や時間が存在しているということを表現」しており、時間の流れや深みを画面から感じることができる作品です。巨大スクリーンの前に立てば、映像によって身体が揺さぶられ、映像のイメージが流れ込んでくるような感覚に襲われます。

次に紹介するのも、鑑賞者の感性を揺さぶる不思議な魅力を持った作品です。

ユリウス・フォン・ビスマルク『ザ・スペース・ビヨンド・ミー』 ユリウス・フォン・ビスマルク『ザ・スペース・ビヨンド・ミー』

ドイツのユリウス・フォン・ビスマルクによる『ザ・スペース・ビヨンド・ミー』は、光を蓄える性質を持つ特殊塗料が施された真っ暗な部屋の壁に、映像を映していくというもの。撮影時のカメラワークと同じ動きで映像を壁面に沿って移動させることにより、「投射された映像を壁が記憶として見せることで、実際に映像を作っていった空間そのものが私たちの前に立ち現れる」(ビスマルク)という仕組みになっています。

ユリウス・フォン・ビスマルク『ザ・スペース・ビヨンド・ミー』 ユリウス・フォン・ビスマルク『ザ・スペース・ビヨンド・ミー』

まさに幻想的としか言えない空間には興奮を覚えますが、長髪にヒゲをたっぷり蓄えた若干28歳という作者ビスマルクの風貌にも、何かただならぬ雰囲気を感じました。顔写真はカタログで確認できるので、作品のミステリアス度を増す意味でも、一度チェックしてみてほしいところです。

また、伊藤隆介の『FilmStudiesオデッサの階段』は、ロシアの名作サイレント映画『戦艦ポチョムキン』のワンシーンで、「映画史上最も有名な6分間」と称される場面のオマージュ作品。

伊藤隆介『FilmStudiesオデッサの階段』 伊藤隆介『FilmStudiesオデッサの階段』

乳母車が階段を下降し続ける模型を小型カメラで撮影し、前方のスクリーンに映し出すという仕組み。当然、「映像祭に出展される作品のほとんどは、すでに撮影したものを再生している過去の作品」(伊藤)です。しかし本作はライブ映像であり、鑑賞者は撮影されている物体とその映像を同時に目撃する経験をすることになります。

また、「身体性」という側面から見て外せないのは、ユェン・グァンミンの2作品でしょう。

ユェン・グァンミン『微笑む木馬』 ユェン・グァンミン『微笑む木馬』

まず1作目は、子どもが木馬に乗った場面を映した『微笑む木馬』。木馬を一生懸命揺らして遊んでいる姿が可愛らしいのですが、揺れているのは映像のなかの木馬ではなく、映し出されている映像じたいだというトリックが隠されています。さらに、木馬の部品が画面から飛び出し、リアルな木材として固定されていることも面白い演出です。思わず近づいて凝視したくなるあたり、「フィジカル」というテーマの真骨頂かもしれないと思える一作です。

2作目は、『消えゆく風景-通過II』。

ユェン・グァンミン『消えゆく風景−通過II』 ユェン・グァンミン『消えゆく風景−通過II』

3面のプロジェクションからなる映像作品で、部屋の中、高速道路、海などの映像が寄ったり引いたりしながら展開されていきます。公式カタログによると、「スクリーンの前に立つと、過去から現在、さらに先験的な記憶へと続く通路を通過しているような感覚にとらわれる」作品で、作者本人によれば、「いま過ぎ去っていくものだけではなく、完全に過ぎ去りそうになっている、消えそうになっているものをとらえた」とのことです。

手描きのアニメーション作家として知られる南アフリカ共和国出身のウィリアム・ケントリッジは、路上で発生した交通事故を題材にした『アザー・フェィシズ』を出展。

ウィリアム・ケントリッジ『アザー・フェィシズ』 ウィリアム・ケントリッジ『アザー・フェィシズ』

木炭などを使って描かれたドローイングが印象的で、消して描き直した跡を残していく手法を採用しています。「映像の中に作者の痕跡を確実に残し、かつそこに機械的な手続きを踏んでいる。身体的なものと機械的なものの融合の中から新たな表現を獲得した作家の一人」(キュレーター)と評される作者は、個展が開催されるなど日本でも広く知られていますが、未体験の方はぜひ独特の世界観を体験してみてください。

宮崎智之(プレスラボ)

1982年3月生まれ。ライター。東京都福生市出身。地域紙記者を経て、現在、編集プロダクション「プレスラボ」に所属。ダイヤモンドオンラインや日経トレンディネット、月刊サイゾーなどで執筆中。社会問題系を得意としているが、文学やアートにも興味があり。

宮崎智之 (miyazakid) on Twitter



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