映像本来の豊かさに立ち返る「恵比寿映像祭」の世界

映像本来の豊かさに立ち返る「恵比寿映像祭」の世界

映像本来の豊かさに立ち返る「恵比寿映像祭」の世界

映像本来の豊かさに立ち返る「恵比寿映像祭」の世界

テキスト:宮崎智之(プレスラボ) 撮影:菱沼勇夫

「庵」に生息する作家の「現在進行形型」作品

今回のフェスティバルのユニークなところは、映像とは直接的な関係性が薄いように思える「建築」にも焦点を当てていることです。岡村ディレクターによると、「映像と物質・現実世界との関係を考えるうち、空間の有り方、視覚の在り方を考えることになり、そこから転じることで建築というサブテーマが導き出された」といいます。

建築家・鈴木了二の『物質試行53:DUBHOUSEKINO』も空間を映像体験として見せてくれる作品のひとつ。

鈴木了二『物質試行53:DUBHOUSEKINO』 鈴木了二『物質試行53:DUBHOUSEKINO』

鈴木は「デジタル時代となり、圧縮、ダビング、サンプリングが常態化してきたなかで、なおかつ変わらないものがあるんじゃないかということに関心を持っていて、実験をいくつか繰り返してきた」と話します。「DUBHOUSE」は縮尺や形状の比率を変えてもその特質は変わらない建築物であり、美術館、映画館、モニュメントという3つの機能を備えているそう。じっくり鑑賞すると、さまざまな発見をすることができるでしょう。

鈴木了二『物質試行53:DUBHOUSEKINO』 鈴木了二『物質試行53:DUBHOUSEKINO』

また大木裕之の『TRAIN-AN(庵)』は、インド、ドバイ、松前などを映した映像作品を「庵」のなかで放映し、そこに大木自身が「生息」する現在進行形型の作品です。

大木裕之『TRAIN-AN(庵)』 大木裕之『TRAIN-AN(庵)』

2月9日のプレスツアー時には、散らかった「庵」のなかに大木が座り込んでいる様子が見られましたが、「今後は何が起こるか分からない」という面白さがあります。さらに、大木いわく「お客さんも中に入ることになるかもしれない」とのこと。映像のエネルギーと呼応しながらどのような変化が起こっていくのか注目したいところです。常に大木が「庵」にいるわけではないので、出会えるかどうかを楽しみにしつつ来場してみてください。

最後に紹介するのは、1950年代に科学映画を制作した「東京シネマ」によるアーカイヴ作品です。

東京シネマ展示風景 東京シネマ展示風景

映像作品を後世に残していく方法については、ますます重要な課題となってきていますが、さらには残された映像の権利者が特定できないために上映ができず、貴重な映像が埋もれてしまうことも問題となっています。しかし、同社の場合は著作権をすべて会社で管理していたため、現在でも公開できる作品が多数あるそう。また、酵母からの製作過程を追った映像『ビール誕生』では、恵比寿ガーデンプレイスの前身であるビール工場の姿も映っていますが、「(過去の映像には)本来の目的とは違ったさまざまなものが映り込んでいる。それらの映像が残されないことで、何を失うのか考えてほしい」(岡村ディレクター)と注意を喚起する狙いもあるようです。

東京シネマ『ビールの誕生』 東京シネマ『ビールの誕生』

今回は、展示作品を中心に紹介してきましたが、会期中にはジム・オルークのライブ演奏とスウェーデンの無声映画『霊魂の不滅』のコラボレーションなど、上映作品(有料チケット制)も盛りだくさん。「フィジカル」という切り口から、映像表現についていま一度考えるきっかけになることは間違いありませんが、難しいことを考えず「身ひとつ」で会場入りしたとしても、得るものはたくさんあるはずです。いや、むしろそれゆえに獲得できる体験があることこそ、今年の映像祭の魅力でもあります。この機会を逃さず、足を運んでみてください。

第4回 恵比寿映像祭 映像のフィジカル

『第4回 恵比寿映像祭 映像のフィジカル』

2012年2月10日(金)〜2月26日(日)
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館、恵比寿ガーデンプレイス センター広場、ザ・ガーデンルームほか
時間:10:00〜20:00(2月26日のみ18:00まで)
休館日:月曜

展示出品作家:
マライケ・ファン・ヴァルメルダム
ユリウス・フォン・ビスマルク
前沢知子
ヨハン・ルーフ
伊藤隆介
カロリン・ツニッス
ブラム・スナイダ―ス
スッティラット・スパパリンヤ
東京シネマ
ユェン・グァンミン
ウィリアム・ケントリッジ
ヂョン・ヨンドゥ
鈴木了二
サラ・モリス
大木裕之

上映出品作家:
ジェド・ラップフォーゲル
ジョナス・メカス
ピップ・チョードロフ
アンドリュー・ロッシ
カート・モーガン
マーク・ルイス
ヂョン・ヨンドゥ
イム・ミヌク
チェ・ワンジュン
ク・ドンヒ
ナム・ファーヨン
ヤン・ヘギュ
大木裕之
川瀬慈
分藤大翼
ジム・オルーク
ウォルター・デ・マリア
トニー・コンラッド
アーニー・ゲア
カーク・トーガス
鈴木了二
七里圭
ハインツ・エミグホルツ
冨永昌敬
ベン・リヴァース
前田真二郎
高嶺格
池田泰教
齋藤正和
上峯敬
宇田敦子
マトロン
高尾俊介
有川滋男
石川多摩川
木村悟之
崟利子
西村知巳
本間無量
鈴木光
陳維錚
林勇気
松島俊介
宮本博史
安野太郎
若見ありさ
菅原睦子
阿部理沙
生田尚久
井上剛
今泉力哉
入江悠
ウィスット・ポンニミット
岡田まり
甲斐田祐輔
片岡翔
加藤直輝
河瀬直美
境千慧子
佐々木健太
佐藤央
佐藤良祐
塩田明彦
志子田勇
篠原哲雄
鈴木太一
鈴木卓爾
瀬田なつき
タカハタ秀太
田中博之
田中羊一
田中要次
田平衛史
遠竹真寛
外山光男
内藤瑛亮
中野裕之
朴美和
濱口竜介
日原進太郎
日向朝子
平林勇
堀江慶
真利子哲也
守屋文雄
山下敦弘
和島香太郎
青山真治
酒井耕
ヴィクトル・シェーストレム

シンポジウム、レクチャー、ラウンジトークゲスト:
レベッカ・クレマン
ジェド・ラップフォーゲル
松本圭二
青山真治
長嶌寛幸
松井茂
菅原睦子
富永昌敬
鈴木卓爾
中谷礼仁
鈴木了二
七里圭
中谷礼仁
岡田一男
岡田秀則
津田広志(地域連携プログラム)
岡本健(地域連携プログラム)

ライブ:
和田永
DJピロピロa.k.a.大木裕之
シニギワ(松井茂、長嶌寛幸)
Typingmonkeys(平川紀道、野口久美子)
evala
ドラびでお

オフサイトプロジェクト出品作家:
エキソニモ

料金:
無料(定員のある上映、イベントは有料)

恵比寿映像祭
http://www.yebizo.com/

宮崎智之(プレスラボ)

1982年3月生まれ。ライター。東京都福生市出身。地域紙記者を経て、現在、編集プロダクション「プレスラボ」に所属。ダイヤモンドオンラインや日経トレンディネット、月刊サイゾーなどで執筆中。社会問題系を得意としているが、文学やアートにも興味があり。

宮崎智之 (miyazakid) on Twitter



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Art,Design
  • 映像本来の豊かさに立ち返る「恵比寿映像祭」の世界

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて