特集 PR

曽我部恵一と行く世田谷美術館『駒井哲郎1920-1976』展

曽我部恵一と行く世田谷美術館『駒井哲郎1920-1976』展

内田伸一
撮影:菱沼勇夫

銅版画のパイオニア――その才能ゆえの苦悩も?

第4章は、「充実する制作:詩画集『からんどりえ』まで 1959-1960」。混迷期を脱した駒井は、新作で複数の芸術賞を獲得します。表現の幅も広がり、安東次男との共作『からんどりえ』は、詩人と版画家による本格的詩画集としては日本初のものとして評価されています。

『福原コレクション 駒井哲郎1920-1976』に訪れた曽我部恵一

制作においては下描きをほとんどせず、自らのイメージを直接、銅板に刻み込んでいったという駒井。それは絵を版画におこしているのではなく、版画でしか表現し得ない完成イメージが既に頭の中にあり、それに向かって技法を駆使していくといった、もはや私たちの想像を超えたレベルの世界です。ふつうは版を複数回刷り重ねて実現する多色刷りを、指でインクを巧みに配して1回で刷り上げた『黄色い家』(1960)や、サンドペーパーなども用いた複数技法が豊かな表情を織りなす『Petiti Jardin(小さな庭)』(1960)など、銅版画の申し子にして異才、とでもいうべき意欲作が続きます。しかしここで、曽我部さんの口から意外とも思える言葉が語られました。

『福原コレクション 駒井哲郎1920-1976』に訪れた曽我部恵一

曽我部:本当にすごいですね。でも僕はここに、駒井さんの才能ならではの不幸、といったら失礼だけど、ここまで何でもできる力を持っていたからこそ、何をすべきか一生探し続けることになった苦悩も感じます。世の中の天才には、絵画も彫刻も版画も、何をやっても自分ならではの作品にしてしまうタイプもいる。でも駒井さんにとっての芸術は、やはり銅版画だったんでしょうね。発想を転換さえすれば、何でも出来る人だったのに、けなげに銅版画での表現に集中する姿…、情熱があるよね。音楽だったらロックなんだ、みたいなこだわりがある。番外編的な水彩作品はすごく気軽に描いている気がして、余計そう思います。だからこそ、生涯をかけて銅版画の可能性にこだわった生き方には胸を打たれるし、感動的です。

『福原コレクション 駒井哲郎1920-1976』に訪れた曽我部恵一

ジャンルは違えど、やはり長年「自分の音楽」にこだわってきた曽我部さんならではの視点がそこにはありました。当時、「銅版画のパイオニア」はどんな気持ちで名作を生み出し続けていたのでしょう。そこに想いを馳せながら美術館の空間に身を置くと、また違った風景が見えてきそうです。

最晩年の仕事――熟練と原点回帰と

展覧会ではこのほか、ご遺族の協力によって公開された、駒井が実際に使っていた制作道具の数々や、駒井門下の銅版画家による彼の作品の研究を紹介するセクションも。稀代の銅版画アーティストに、作品そのものとは別の面からもふれることができます。

『福原コレクション 駒井哲郎1920-1976』に訪れた曽我部恵一

なお今回、曽我部さんと訪れたのは、5月27日(日)まで開催されている『第I部 若き日のエッチャーの夢(1935〜1960)』。続く5月30日(水)〜7月1日(日)『第II部 夢をいざなう版の迷宮(1961〜1976)』は作品を総入れ替えし、晩年の作品中心の展示となる予定です。ただ、第I部の最終室でも、そんな晩年期の作品がいくつか紹介されていました。

そのひとつ、小説家の埴谷雄高による短編集『闇のなかの黒い馬』に使われた作品を見つけた曽我部さんは「…俺、この本持ってますね。これも駒井さんの銅版画だったんだ」と嬉しい偶然にちょっと驚いた様子。大学の学園祭に呼ばれてライブをしにいったとき、その学園祭内で開かれていた古本屋で手にした1冊だそうです。「僕のはこの特装本じゃなくて、ふつうの単行本でしたけど(笑)」。

『福原コレクション 駒井哲郎1920-1976』に訪れた曽我部恵一

駒井はこのほかにも、晩年も金子光晴らとのコラボレーションを意欲的に行っています。また、自身その作風から「白と黒の詩人」とも呼ばれた駒井ですが、前述のように多色刷りの作品も手がけており、晩年にはそうした表現も新展開を見せます。このあたりは、第II部の展示でじっくりと体験できそうです。なおそこでも、第I部の時期にあたる初期作品が一部展示されるとのこと。両方観られれば一番ですが、もし第I部を見逃した際も、また違う形で駒井哲郎の作家人生を知ることができるでしょう。

『福原コレクション 駒井哲郎1920-1976』に訪れた曽我部恵一

そして晩年の作品で、曽我部さんが好きだと語った1枚は、まるで15歳の初期作に戻ったようなシンプルなタッチで風景をとらえた『平原』(1971)でした。

曽我部:両者を見て、じゃあ、その間に試みた夢の作品や、さまざまな試行錯誤は何だったんだよ! って言う人もいるかもしれない。でもこれだけの変化を遂げた後に、まるで最初に戻ったかのようなこんな作品を作ったというのが、僕にはとても大きなことのように思えます。あの変遷がなければ、僕のこの感動もなかっただろうから。

『福原コレクション 駒井哲郎1920-1976』に訪れた曽我部恵一

最晩年の駒井は舌がんを患い、その転移が原因で56歳という若さで亡くなりました。当時、銅版画の腐食剤として主流に用いられていた硝酸の影響だという説もあり、まさに銅版画の可能性に挑み続けた作家人生でした。

Page 2
前へ 次へ

イベント情報

『福原コレクション 駒井哲郎1920-1976』

2012年4月28日(土)〜7月1日(日)※前期・後期で作品総入替

第I部:若き日のエッチャーの夢(1935-1960)
2012年4月28日(土)〜5月27日(日)
第II部:夢をいざなう版の迷宮(1961-1976)
2012年5月30日(水)〜7月1日(日)

会場:東京都 世田谷美術館
時間:10:00〜18:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日:毎週月曜日 ※5月29日(火)は展示替えのため休室
料金:一般1,000円 65歳以上・大学・高校生800円 中学・小学生500円
(入場券半券のご提示で、2回目のチケットご購入時に、ご観覧料が2割引となります)

世田谷美術館

講演会
『わが師 駒井哲郎を語る』

2012年6月2日(土)
会場:東京都 世田谷美術館 講堂
時間:14:00〜(当日、整理券を配布します)
講演者:中林忠良(版画家・東京藝術大学名誉教授)、渡辺達正(版画家・多摩美術大学教授)

『100円ワークショップ』

小さなお子様から大人の方まで、どなたでもその場で気軽に参加できる版画体験。
2012年4月28日〜6月30日の期間中、毎土曜日(随時受付)
会場:東京都 世田谷美術館 地下創作室C
時間:13:00〜15:00
参加費:100円

カフェ・ボーシャン CAFÉ BAUCHANT

世田谷美術館のリオープンに合わせて、美術館地下にカフェが新たにオープン。テイクアウトもでき、緑溢れる砧公園に立地する美術館カフェとして、公園利用者にも開放されています。
営業時間:10:00〜18:00(ラストオーダーは17:30)
休業日:毎週月曜日(その日が祝日の場合はその翌日)、年末年始


同時開催『世田谷アーティスト・コロニー「白と黒の会」の仲間たち』

2012年3月31日(土)〜6月17日(日)
会場:東京都 世田谷美術館 2階展示室
時間:10:00〜18:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日:毎週月曜日(ただし4月30日は開館)
料金:一般200円 大学・高校生150円 65歳以上・中学・小学生100円

『曽我部恵一BAND TOUR 2012』

2012年6月2日(土)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:北海道 札幌 BESSIE HALL
料金:前売3,000円 当日3,300円(ドリンク別)

2012年6月3日(日)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:北海道 函館 club COCOA
スペシャルゲスト:スモゥルフィッシュ
料金:前売3,000円 当日3,300円(ドリンク別)

2012年6月7日(木)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:山梨 甲府 桜座
料金:前売3,000円 当日3,300円(ドリンク別)

2012年6月8日(金)OPEN 19:00 / START 19:30
会場:静岡県 静岡 Sunash
料金:前売3,000円 当日3,300円(ドリンク別)

2012年6月9日(土)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:静岡県 浜松 窓枠
料金:前売3,000円 当日3,300円(ドリンク別)

2012年6月10日(日)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
スペシャルゲスト:前野健太
料金:前売¥3,000 当日¥3,300(ドリンク別)

2012年6月15日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:岩手県 盛岡 CLUB CHANGE
料金:前売3,000円 当日3,300円(ドリンク別)

2012年6月16日(土)
会場:秋田県 LIVE SPOT 2000

2012年6月17日(日)
会場:宮城県 仙台 CLUB JUNK BOX

2012年6月22日(金)
会場:新潟県 Live Spot WOODY

2012年6月23日(土)
会場:長野県 LIVE HOUSE J

2012年6月24日(日)
会場:神奈川県 横浜 club Lizard

2012年6月29日(金)
会場:大阪府 梅田CLUB QUATTRO

2012年7月1日(日)
会場:東京都 渋谷CLUB QUATTRO

『曽我部恵一 presents "shimokitazawa concert" 』

第十八夜:2012年6月21日(木)
第十九夜:2012年7月19日(木)
第二十夜:2012年8月16日(木)
第二十一夜:2012年9月20日(木)
第二十二夜:2012年10月18日(木)
第二十三夜:2012年11月15日(木)
第二十四夜:2012年12月20日(木)
会場:東京都 下北沢 440 (four forty)

リリース情報

曽我部恵一BAND<br>
『曽我部恵一BAND』
曽我部恵一BAND
『曽我部恵一BAND』

2012年4月4日発売
価格:2,500円(税込)
ROSE RECORDS / ROSE 129

1. ソング・フォー・シェルター
2. 恋をするなら
3. 兵士の歌
4. クリムゾン
5. ロックンロール
6. 街の冬
7. 月夜のメロディ
8. 誕生
9. サマーフェスティバル
10. 胸いっぱいの愛
11. 夜の行進
12. サーカス
13. たんぽぽ
14. ポエジー
15. 満員電車は走る
※紙ジャケット仕様
※ROSE RECORDS ONLINE SHOP&ライブ会場でお買い上げの商品に限り、アルバム全曲の弾き語りバージョンをおさめたボーナスディスク付き2枚組仕様(限定生産)

プロフィール

曽我部恵一

1971年生まれ。1995年サニーデイ・サービスでデビュー。2001年よりソロ活動をスタート。デビュー曲「ギター」を、小西康陽主宰のレーベルからリリース。2004年メジャーレコード会社から独立し、東京・下北沢に「ローズ・レコーズ」を設立。以降独自のインディペンデント活動を展開している。現在は2006年に結成された「曽我部恵一BAND」を活動の主体とし、2012年4月に待望の3rdアルバム『曽我部恵一BAND』を発表。その他、アコースティック編成での「曽我部恵一ランデヴーバンド」や、2008年に再結成を果たした「サニーデイ・サービス」などで活躍。プロデュースでは、小泉今日子、TOKIO、中村雅俊から豊田道倫までを手掛け、中でも鈴木慶一のソロ作『ヘイト船長とラヴ航海士』は、2008年度レコード大賞優秀アルバム賞を受賞。下北沢のカフェ兼レコード店「CITY COUNTRY CITY」のオーナーでもある。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

Mom“ひみつのふたり”

5月22日発売の2ndアルバム『Detox』から“ひみつのふたり”のMVが公開。美容室らしき場所で、彼は自身の仕上がりに終始不安げで不服そうな顔を見せつつも、最終的にはひどい有様の自分を受け入れてその場を去っていく。そんな冷静さを持っているからこそ、ふと見せる<もう一層の事 牙でも生やして / 君の肩に齧り付きたい><買い換えたばかりの携帯は / 早いとこ傷つけたくなる>といった破壊衝動にハッとさせられてしまう。(中田)

  1. BTSは愛と自信を原動力に前進する。新章『MAP OF THE SOUL: PERSONA』 1

    BTSは愛と自信を原動力に前進する。新章『MAP OF THE SOUL: PERSONA』

  2. 高畑充希×前田敦子×池松壮亮『Q10』組登場 『町田くんの世界』場面写真 2

    高畑充希×前田敦子×池松壮亮『Q10』組登場 『町田くんの世界』場面写真

  3. 長澤まさみ&夏帆がLOWRYS FARM夏ビジュアルに ディレクションは吉田ユニ 3

    長澤まさみ&夏帆がLOWRYS FARM夏ビジュアルに ディレクションは吉田ユニ

  4. 女子大生が「殺される誕生日」を無限ループ 『ハッピー・デス・デイ』予告 4

    女子大生が「殺される誕生日」を無限ループ 『ハッピー・デス・デイ』予告

  5. スガシカオが語る、アルバム名に込めた真意「幸福感は十人十色」 5

    スガシカオが語る、アルバム名に込めた真意「幸福感は十人十色」

  6. 舞台『オリエント急行殺人事件』日本初演 小西遼生、室龍太ら出演 6

    舞台『オリエント急行殺人事件』日本初演 小西遼生、室龍太ら出演

  7. トム・サックスが茶の湯の世界に目を向ける展覧会 庭や茶室、池などで構成 7

    トム・サックスが茶の湯の世界に目を向ける展覧会 庭や茶室、池などで構成

  8. ピクサーアニメの制作工程を体験&学習、『PIXARのひみつ展』六本木で開幕 8

    ピクサーアニメの制作工程を体験&学習、『PIXARのひみつ展』六本木で開幕

  9. 21世紀のプリンスを再評価。配信やセクシャリティーの先駆者 9

    21世紀のプリンスを再評価。配信やセクシャリティーの先駆者

  10. カネコアヤノのお守りみたいな歌 不安を大丈夫に変える詩の秘密 10

    カネコアヤノのお守りみたいな歌 不安を大丈夫に変える詩の秘密