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「フジワラノリ化」論 最終回 あのノリ化は今!? 其の四 スガシカオ/押切もえ/加藤浩次/バタコさん

「フジワラノリ化」論 最終回 あのノリ化は今!? 其の四 スガシカオ/押切もえ/加藤浩次/バタコさん

武田砂鉄
イラスト:なかおみちお(TOKYOHELLOZ)

スガシカオには、一見拙い結論と読めるものの、実は深く刺さっているのではと思える結論が記されている。「書き始める前に気付けよ、という話かもしれないが、スガシカオって、『スガシカオのファン以外が彼のことを少しも考えようとしない人』なのだった」とある。最近、近所に中華料理屋が出来た。中国人シェフのいる、大衆中華ならではの下品な味わいのお店だ。そのお店は有線に加入しておらず、自分たちのセレクトでCDをかけている。これまでに三度ほど行っているが、最初は徳永英明のカバーアルバム、二回目はスガシカオ、三回目はKiroroだった。徳永英明、熱々の麻婆豆腐にこれほど合わない音楽も珍しい。感傷的に歌う彼の想いは、中華料理屋に空しく響いた。Kiroroの『Best Friend』、店内が閑散としていたこともあってか、なんだか雰囲気はお通夜のあとの食事のごとし。「ずっと友だちだよ」(涙)、と。では、スガシカオはどうだったか。これが意外と中華料理にも合うのである。ギトギトした口内を洗う烏龍茶のごとし。スガシカオの音楽には、主語というか、明確な私というか、想いのこもった当事者からの熱っぽいメッセージがない。その辺りを曲解して「アーバン」などと称してみたのだが、タクシーの車窓にうつる雨模様のなかを行き交う群衆の匿名性みたいなものを歌に乗せるスガシカオのスタンスって「少しも考えようとされない」ものであると同時に、「どこへでもある程度入っていける素材」なのだろう。村上春樹が彼の歌をたいそう評価しているが、考えてみれば村上春樹の小説も「どこへでもある程度入っていける素材」だ。入っていくだけで揺さぶりはしない、ここが肝なのだ。スガシカオは先日、長く所属した「オフィス オーガスタ」を離脱し、独立することを明らかにした。その理由は「ぼくにはまだ、歌わなきゃならない言葉がたくさん残っている。鳴らさなきゃならない音が沢山ある。(中略)だからデビューの前のような、あの時間にもう一度立ち返り、自分自身の「言葉」と「音」、「歌」を丁寧に見つけていきたい」とのこと。要するに、締め切りを設定されて、タイアップを先に用意されて、「いついつまでに、こういう感じを宜しく」と働かされることに嫌気がさしたのだろう。経歴を追うと、なるほど確かに年に2・3枚のシングル、2年に1枚はフルアルバムを作っている。生産サイクルを強いられていた部分もあるのだろう。だとすると、自分は強いていた側にも一定の理解を示す。だって、他のアーティストと比べて、そこまで神経質な創作、つまり血の通ったメッセージを持っているようには見えないし、その非・熱血なスタイルによってここまでのし上がってきたのがスガシカオだと信じてたと思うし……。しかし、彼は鬱憤を溜め込んでいた。独立してから放たれる音楽で晴らされるスガシカオが圧倒的な「個」を出すのならば、楽しみだ。エレカシの宮本のように顔を顰めながらカメラにかぶりつくスガシカオが見たい、サングラスの濃度を薄めたり強めたりしている場合ではない。

押切もえの回は、反響が大きかった。とりわけ「あるアパレル系勤務女性」と対話した回は評判だった。その女性は、押切もえのこれからを、「めちゃめちゃ当たる占い師になったら女子は受け入れるし、おっぱい出せば男子も受け入れると思います。」というぶっきらぼうな明答を残している。連載から数ヶ月後、蛯原友里の結婚が明らかになり、彼女は緩やかな下降線状態を一気にぶり返した。逆に、見切り発車で知的路線を導入し、緩やかな上昇カーブを歩いていた押切は、蛯原の結婚周辺のネタによってひとまず平行線に戻ることを余儀なくされた。時期を同じくして赤文字系女性誌を出自に持つ梨花や香里奈辺りが大きな仕事をテレビで獲得していった。テレビにモデルが出るとたちまちライフスタイルが開けっ広げにされるという単調な流れは現在も変わらずで、彼女らにしても、スタイルや顔立ちを飛び越えて、その生活全体が大雑把に愛でられた。押切もえというのは、その見せ方を丁寧にじっくりと神経質にやろうじゃないかと試みてきた人だった。コンプレックスとの付き合い方、そして、伝える言葉の重要性、勉強を惜しまない真面目さ、しかしそれらは旬なモデルがいかにも「旬です!」という仕事を重ねればたちまち踏み越えられてしまう線の細さを持っていた。今、30歳前後のモデルと言われた時に押切もえが第三番手のゾーンにいるのは、派手さより実直さを優先して来た結果なのだ。残酷だが、対話でアパレル系勤務女性が予測した未来くらいしか、再び相手を踏み越えていく手段はないのかもしれない。最近出た押切もえの本『LOVE my LIFE オトナ女子のための自分磨きレッスン』に目を通した。袖の部分にこうある。「『日々を丁寧に』。習ったことや学びを自分の体にきちんと息づかせて、日々、心にやさしい平和の火を灯し、もっと輝く自分に、輝く未来に出会いたい」。んで、中を開けば、要は習い事体験。フラワーアレンジメントにパン作り、チーズソムリエにアロマテラピーだ。その程度で「心にやさしい平和の火を灯」るのならば苦労しないわと、日々の激務・喧騒を生き抜いているOLさんたちはプンプンするんじゃないかしら。この「フジワラノリ化」連載の中で、もっとも具体的に「藤原紀香」化が懸念されるのは彼女だ。近いうち、藤原紀香が請け負う「何かと良さげな方向の仕事」のいくつかが彼女にこぼれてくるような気がしている。ざっくり書けば、ユニセフやNPO的な仕事だ。一度そこに足を踏み入れると、役務が定まってしまう。藤原紀香的な、優等生ゆえに吐き出される説教臭さを体に染み込ませる前に、抜かされた者たちの背中、つまり、梨花や香里奈の成り上がり方をキチンと身につけるべきだ。

楽屋話をすれば、加藤浩次は、加藤の論考というよりも山本圭一の復活を祈願する論考になった。ご存知の通り、山本の復帰は未だ適っていない。自身が現在働く肉巻きおにぎり屋さんで広報を勤めた彼は、先日も東京の物産展で売り子に徹したりと、すっかりそちらの仕事に専念し始めたと聞く。今年、芸能界を揺るがした事件と言えば島田紳助の引退だろう。本稿では島田紳助がマネージャーをぶん殴り顔に唾を吐きかけるほどの暴行をしたにもかかわらずさっさと職場復帰した一方、強姦行為があったとされ解雇処分、後日、相手少女とその保護者との和解が成立し、告訴を取り下げ不起訴処分となったにもかかわらず、山本がずっと現場に戻れないのはおかしい、と書いた。島田紳助は暴力団関係者との付き合いを理由に引退した。「絶対そんなものない」と引退会見で啖呵を切った暴力団関係者との写真は、数日後にその存在が明かされた。強権ではねじ伏せられないものがあると、権限だけで身を保ってきた彼は初めて思い知っただろう。島田紳助の引退は山本の復帰を更に遠ざけた。吉本興業にとって大きなイメージダウンとなったこの案件の記憶が色濃いうちに、(世間では、「未成年を犯した奴」で留まっている)山本を復活させることは難しいだろう。加藤は着々と歩みを続けている。前後の番組が改変を迫られたのに対し、『スッキリ!!』だけが微動だにせず長寿番組化しようとしているのはその何よりの証左となる。日テレの加藤浩次、テレ朝に異動した羽鳥アナ、この若手の2人が、その他の老害じみた司会者よりも信頼されているのは当然と言えば当然の結果だが、歓迎すべき潮流であろう。こちらの願いは一つ、やっぱり変わらない。爆発力が鈍化した現在のお笑いシーンに、あの男が戻ってくることだ。しつこいようだが、それしかない。「君、かわうぃーね」と調子づいているだけがお笑いではない。人に嫌がられても畳み掛ける獰猛さが、今のお笑いには欠けている。

「フジワラノリ化」論 最終回 あのノリ化は今!? 其の四 スガシカオ/押切もえ/加藤浩次/バタコさん

まさかの登場となったバタコは、今読み返しても、なかなか深いテーマまで掘り下げられている。バタコについて、追記することは「勿論」何も無い。昨日も今日も明日も、変わらずバタコはあのパン工場で働きつづけているからだ。変化の無い日々を、あの笑顔で過ごし続けるのだ。震災から間もなくして、「アンパンマンたちからみんなへ」と題した映像がアンパンマンのオフィシャルウェブサイトにアップされた。パン工場のみんな、そしてバイキンマンもドキンちゃんもいっしょになって、メッセージを送った。「わすれないでゆめを こぼさないでなみだ」には、能書きを垂れて自己保身に走る災後の浅はかな言行を貫通していく豊かさがあった。こういう夢を与えるアニメを支えるバタコの健気な活躍に、ますます興味を持った。この回の裏話をすれば、どこまでバタコの造形をイラストに反映して大丈夫かという問題があった。かつて、小学校のプールの底に卒業を迎える生徒達がミッキーマウスを書き、ディズニー側の抗議を受けて消すことになったという有名な事件があるが、キャラクターの権利保持にはやたらめったらうるさい昨今だ。編集部やイラストレーターさんにも協力いただいて、あえてバタコの周辺情報だけでバタコを表してみるという興味深いイラストの数々が出来上がった。キャラクター不在のアニメの現場は、いささか殺伐としていて、それが何よりバタコのリアルを暗喩しているようだった。

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