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音楽を、やめた人と続けた人

 

こうしてまた深い傷をおったPBLだが、それによって新しい音楽が生まれてきてしまうのがナカノヨウスケである。それからほどなくして、世に「PBL復活」をアピールできるような楽曲が生まれ始めたのだ。バンドのモチベーションも日増しに高まりをみせ、PBLは08年に隔月で主催イベント『メロウゴーラウンド』をスタートさせる。実はこのイベントが、予想だにしなかった盛り上がりをみせた。1回目にsleepy.abを迎えチケットはソールドアウトし、その後も着実に勢いを増したPBLは、3年間作品を発表しないまま、初めてのワンマンライブを行うところまでライブの動員数を増やしていた。

状況ができあがってきたPBLは、復活を大々的に飾るための準備をスタートさせる。それは因縁の「セカンド・アルバム」をメジャーレーベルからリリースするという計画となり、プレゼン用の音源をレコーディングしてメジャーレーベル数社に持ち込んだのだ。もともと大きな話題を得ている実績もあれば、音楽的な魅力も十分だった。某メジャーレーベルとの話しが、トントン拍子で進んでいった。前に進みたくても進めなかったPBLにとって、ようやく訪れた、大きなチャンスだった。

レコーディング風景

「取締役クラスの方々からもGOサインをもらって、もう後はハンコを押すだけになって。ただ、そのハンコを押しましょうっていう最後の最後のタイミングで、なくなっちゃった。簡単な話、手を挙げてくれたディレクターが、全ての決裁を受けた後、最後に熟慮を重ねた上で、『やっぱり、今はやらない』って決断を下したんです」(マネージャー談)

メジャーレーベルという大きな組織から合格点をもらったにも関わらず、担当者が最後の最後で出した結論のひとつの理由が、「他の3人はいいけど、ボーカル(ナカノ)に、音楽で世に出ていって、お金をもらう覚悟がない」ということだった。それは恐らく、第1話で書いた「ナカノにとって越えられない壁」に通じる話だろうと推察される。そしてその結論は、ようやく気運が高まっていたナカノを再び谷底に突き落とした。

ギター

ボロボロになりながらも音楽を続けてきたPBLにとって、これは「最後のチャンス」だった。「ここまで続けてきて、これでダメだったらさすがにもう無理」というのがメンバー全員の共通見解だったし、なによりも「どんなに頑張っても、いつも結局ナカノのせいで頓挫する」という決定的な事実に、ナカノ以外の3人の不満は爆発した。ナカノを責めたのだ。

メンバーからも批判されたナカノは、もはや立ち直る術もなく抜け殻と化した。

そんななかで、唯一希望を見いだしていたのはマネージャーだった。「メジャーレーベルという大きな組織からは合格をもらえてたんだから、諦めるタイミングじゃなかった。それなら、メジャーの力を借りずに自分たちで全部やって結果を出せばいい。ぼくたちスタッフサイドはそういう気持ちになっていたから、あとは4人が、ここからまた力を振り絞れるかどうかだったんだよね。だから1ヶ月間バンドの活動を休ませて、考える期間にしたの。これで終わりで本当にいいの? って」。

音楽のために4人で上京してきてから4年が経とうとしていた09年の初旬、再び集まったPBL。伊藤が出した結論は、「やっぱりここでやめるのは違う」だった。「合格点をもらったんだから、リベンジしないでどうするの?」。恒松と倉地も賛同した。しかし、「合格点をもらえていた」3人とは対照的に、全てを否定されたナカノに「自信」という言葉は見あたらなかった。ナカノの胸のうちにあったのは、「みんながあっての俺だから」というメンバーに対する想いと、「歌うことだけだったらできるかもしれない」という、姉の遺体を前にしても歌わずにはいられない、歌うひととしての自覚だけだった。

バンドの運営を他のメンバーに任せ、とにかく流れに身を任せたナカノが言う。「ただただ歌うことだけに集中してみたら、なんかそれがメチャクチャ楽しかったんです。いろんなしがらみから解放されて、自分の音楽にかけるファンタジーが戻ってきたんですよ。楽しいとか、ひとを笑わせたい、ひとを幸せにしたいって、思うようになってきたんです」。

積み上げてきた自信もプライドも全て粉々に砕け散ったあと、唯一ナカノに残されていた喜び。それはナカノの表現者としての自己満足などではなく、歌うことでひとを幸せにできる、そういう喜びだった。つまらないこだわりを全て捨て去ったことで、もっともシンプルな答えが浮き彫りになったのだ。それこそが、PBL第2章の始まりともいえる前進だった。

こうして話しはようやく、第1話で取り上げた「10周年記念ライブ」へと繋がり、今に至る。そしてその「今」は、第1話でお伝えした「ひと月前の今」とはまた、大きく変わっているのだが…。

ドラムキット

ひと月前、PBLは来年の1月に「セカンド・アルバム」をリリースすると発表していたわけだが、それから1週間後、彼らはその「因縁のセカンド・アルバム」を『Lost & Found 〜2006-2010〜』と題し、9月30日にリリースすることを発表した。あれほど因縁めいた「セカンド・アルバム」は、あっさりと完成し、すでに発売されているのだ。このひと月の間に、一体何があったのだろうか。

「10周年記念ライブ」を2部構成に分けて演奏した通り、そしてここまで彼らの空白期間について書いてきた通り、今のPBLは、これまでのPBLとは違う新しいステップへ進み始めた。

「空白の5年間はやっぱりあるわけで、そこで作った曲たちと、今作っている曲たちをごちゃ混ぜにするんじゃなくて、分けてリリースしたいと思ったんです。この5年間のベストアルバムを作ろうって。もともと9月末から『一から出直しツアー2010』をやることは決まっていたから、そこに間に合わせられれば、これまでずっと待ってくれていたひとたちに、直接自分たちの手で届けられるじゃないですか。もちろん突然決めたことだから普通の流通に乗せるのは間に合わないし、相当無茶な制作スケジュールだったけど、とにかく少しでも早く、みんなにこの5年間の曲を届けたいと思って。ずっとライブでやり続けてきた曲だから、レコーディングには時間もかからなかったし」。

イラストでマーキングされた進行表\

ずっとずっとできなかったことが、いとも簡単にできてしまった理由。それはここまで書いてきた通り、何度もどん底から這い上がってチャレンジを続けてきた結果、バンドの結束やスタッフを含めたチームワークが整ったこともあるし、苦難のなかで「自分たちにとって本当に大切なこと」が少しずつ明確になってきたからかもしれない。気がつけば、自分たちで動けばことは運ぶように、全ての状況が整っていたのだ。そして「待ってくれていたひとたちに早く届けたい」という想いが、到底あり得ないスケジュールでの制作進行を可能にしてしまった。ここにきてPBLは完全に流れに乗った。

ナカノと倉池

遂に届けられた8曲入りのセカンド・アルバム『Lost & Found 〜2006-2010〜』。姉との死別、心を掻きむしった恋の終わり、幾度かの解散の危機と挫折、社会に出て生きていくこと…。大きな壁にぶつかって、音楽なんてやめてしまえばどんなにかラクだっただろうに、心が壊れそうになっても音楽をやめることのできなかった4人が作りあげてきたこの作品は、すごく人間くさくて、だからこそ優しさや勇気をしっかりと届けてくれる作品に仕上がっていた。大きな話題を生んだあのファースト・アルバムの延長線上にあって、あの時にできなかったことがここには、しっかりと刻みつけられているのだ。この5年間がなければ表現できなかった感情とクオリティーが同居している作品だ。

そうして今、『Lost & Found 〜2006-2010〜』という形で締めくくられた5年間を経て、PBLはもう一歩先へ歩みを進め始めている。予定通り来年の1月には、「サード・アルバム」をリリースするのだ。まだまだPBLの音楽を届けられていない大勢の人たちに向けて、アクションを起こさなければならない。音楽で生きていくことを決めたひとたちの戦場へと、進んで行かなければいけない。そのための準備をPBLは今、着々と進めている。

PaperBagLunchbox『Lost & Found 〜2006-2010〜』
『Lost & Found 〜2006-2010〜』の詳細はこちらより。
10月中には、PBLのWEB SHOPでの販売も開始される予定です。
 
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