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音楽を、やめた人と続けた人

(2014/08/12)

狂った歯車を直すことが出来なかったサードアルバムのツアー
うまくいっているうちは、苦しいことも忘れてどんどん前に進んでいける。しかし、ちょっとつまずいて足元を確かめたら、綱渡りをしていることに気がついてしまった。今振り返ってみると、PBLの復活劇とは、そもそもそういう危険を孕んだプロジェクトだったのかもしれない。なにせそれまでに、何度も何度も終わりかけた物語だったのだから。そして結果として、出だしの準備不足からつまずいてしまった26か所に及ぶサードアルバムのツアーは、全公演を完遂することなく終わってしまった。
バンドの舵取りを加藤に任せたPBLと、音楽人としてかなり深い音楽知識と審美眼を持っていた加藤は、PBLのサードアルバムを徹底的にプロデュースし、筋の通ったコンセプトと、綿密なアレンジが施された作品を作り上げた。そこまでは大成功だったわけだが、その作品性をライブで如何に表現するのか? という点で、バンドと加藤には、なかなか埋めがたいギャップがあったのかもしれない。

アルバム同様、ライブにも明確なコンセプトと演出を欲した加藤は、『exPoP!!!!!』直前にライブの演出を練り込み、エンターテイメントとして、ショーとしてPBLのライブを作り込んだ。メンバー四人では音数が足りないため、自分自身もステージに上がり演奏をしたし、キーボードの恒松は化粧をして舞台にあがった。客席にも簡易ステージを作り、ライブ途中にナカノが客席に出ていったり、メンバー全員で観客を煽るような演出など、これまでのPBLのライブでは考えられないようなアクションが際立っていった。
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―加藤さんに舵取りを任せると言ったし、実際レコーディングやアルバムは素晴らしかったけど、いざライブとなると、もう10年も四人でやってきた積み重ねがあったし、加藤さんの演出に違和感が出てきちゃったのかな?

ナカノ:今思うとそうですね。加藤さんのやりたいこともわかってたし、やるべきことなんだと信じてもいたけれど、心も体も、体調管理とは別のところで、悲鳴をあげてたっていうのはありました。自分に別の人格を憑依させるみたいな感じで、エンターテイナーを演じるというのは初めてのことで、なかなかうまくできなかった。

ナカノヨウスケ
ナカノヨウスケ(2014年6月)

―自分に嘘をつきながらやってるっていう部分はあったの?

ナカノ:あったのかもしれない。ただその時はとにかく加藤さんのイメージを実現しそれを楽しむことができるようになりたいと、精一杯やっていたんだと思います。メンバーも少なからず難しさは感じていたと思うけど、とにかく必死でやっていた。でも加藤さんとしてはイメージとの乖離が耐えられなかったんだと思います。ツアーの途中でステージに上がらなくなって、ツアーはもちろんPBLの仕切りも全部、曽根原に任せるようになったんです。彼がディレクション手腕を発揮して、いくつか自分たちでいい形を作って、ワンマン前の京都でのステージには加藤さんも戻って、やっと形になったって印象があった。「よしこの感じでツアーファイナルにいけるな」って感じ始めてた矢先に、加藤さんからメンバー全員にメールが来たんです。
ツアー中止から失踪に至る破局の始まり
冒頭のメールで加藤がジョー・ストラマーを例示し、「不注意で床に落としたら、粉々に割れちゃったようだ」と書いたのが、具体的な出来事を指しているわけではないかもしれないが、ナカノにとってそのメールは、決定的な内容だったようだ。
ナカノ:そのメールを読んで、加藤さんがPBLやアルバムのことをどう考えているのかもよくわかったし、精神的にも、肉体的にも相当つらい状況なんだなと思いました。それでもうこのバンドは続けられないんだなって、当時の俺は思ったんです。ちょうど渋谷のアップルストアに行こうとしてたときにそのメールが来て、愕然としている最中にブワーって地震がきたんですよ。

―えっ!? まさに3月11日のことだったの?

ナカノ:そう、たしか地震の40分前くらいにものすごく長いメールがきてるのを読んで……。翌日はツアーで北海道だったんですけど、さすがにみんな反対したんですよ、実は。でも俺はどうしても行きたかったんですよね。もともとメンバー全員の共通の仲間である曽根原とメンバー四人だけでライブできる最後の機会だと、俺は思ってた。もう加藤さんの下で歌を続けることはできないと思ってしまった。

―結局その北海道ツアー2daysが、PBLの最後の演奏になったわけだよね……。けど、震災が起きたのが11日で、ツアーの中止が正式に発表されたのは17日のことですよね。これはどういう経緯だったんでしょう?

ナカノ:他のメンバーも、さすがにそのメールについては「あれはおかしいよね」ってなってたんです。それで札幌から帰って来て、いよいよ加藤さんと話をするためにみんなで事務所に行って、話が始まったんですけど……。その時に、みんなが話してる最中に俺が倒れちゃったんです。痙攣起こして、言葉が出なくなって、動けなくなってしまった。パニック障害とはまた違う、もうストレス性の発作みたいなものだったんですけど。加藤さんからいろんなことを言われて、メンバーも一生懸命反論しようとしてくれてたのはちょっと覚えてるんですけど、とにかくもう声を聞いたり顔見たりするだけで、拒絶反応みたいになっちゃって、俺は。

ナカノヨウスケ

―本当に、限界まで行っちゃったんだね……。それで入院?

ナカノ:曽根原とようちゃん(キーボードの恒松)が病院に連れていってくれて、そのあと家で安静にしていることになったんですけど、一人暮らしの家で独りにさせるのが心配だということで、藤沢に住んでいる姉貴の家に連れて行ってくれたんです。そこで2、3日休んでいたんですけど、その間に「メンバーの体調不良」ということでツアーの中止が発表されていました。予測してなかったわけじゃないですが、とてもショックでした。
―時系列を追うと、そのツアーの中止が発表されたのが17日のこと。で、ツアーファイナルの予定日だった26日に、ナカノくんの失踪がTwitterで拡散されて、心配の声が集まりました。正直ぼくも、この日をゴールに設定してきたプロジェクトだったので、プロジェクトが失敗に終わった後、この日に失踪っていうのは、本気で心配になりましたよ。

ナカノ:すみません。ご心配をおかけしました。本当にいろんな混乱と、行き違いが重なっちゃったとしか言いようがない。その日、レーベルから事情を聞いた姉と、心配で駆け付けた母を交えて朝から話し合いになって、レーベルから借りてるお金のこともあったから、「あんた借金してたの!?」みたいな話になってしまって……。それで、そういう話し合いにちょっとうんざりしてしまって、「頭冷やしてくる」って家を出たんですよね。昼過ぎくらいだったかな。俺、頭を整理するときに歩く癖があるんで、携帯の電池が残り5%とかの状態で、お金もほとんど持たずに家を出てしまって、とにかく簡単には帰れないとこまで歩き始めちゃったんです。それで幼馴染みに、「もう無理かもしれん。もうダメだわ、よく分かんないわ」って電話して泣き出した直後に電池が切れたんですよ。そりゃまあ心配しますよね……。そのことがメンバーやレーベルにも伝わって、連絡も取れないから、Twitter上で捜索願いが出たようです。

―じゃあ、変なこと考えていたわけじゃなかったんだね。

ナカノ:人生を閉じてしまうべきなんじゃないかって考えが、なかったわけじゃないんです。それも含めて、頭冷やしたくて、とにかく歩いてた。たどり着いた稲村ケ崎の絶壁で、ずっと座ってたんですよ。そしたらものすごいでかい雹(ひょう)が大量に降ってきたんです。とにかく寒い日で、岸壁に波がばんばん打ちつけてる、真っ黒の海が本当に恐ろしくて、こんな中に落っこちて死んだら、俺絶対成仏しないなと思ったのを覚えてます。そんな悲しい人生ないなって。

―それからどうしたの?

逃げるように稲村ケ崎の絶壁を後にしたら、すぐ雹がやんだんです。もしかしたらこれ、亡くなった姉ちゃんが「さっさとここから立ち去れ!」って、俺をくじけさせようとして降らしたんじゃないかくらいに思いましたね。多分そこでちょっと正気に戻ったんだと思うんです。それから途方もなく歩きながら、これまでのこととか考えてるうちに、大事な人たちのことが頭を過ったりとかして、気づいたら朝の久里浜でした。

―Twitterの捜索願はいつ知ったの?

ナカノ:久里浜の公衆電話から父に電話して、その時に。もう少し考えたくて、無事を伝えてまた歩き出したんですが、28日の朝に一歩も歩くことができなくなって、父親に迎えに来てもらったんです。数日後に見た留守電の件数を見て、事の重大さに気づきました。
 

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