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音楽を、やめた人と続けた人

(2014/08/12)

無理を重ねてでも、ただただ「変わる」ための前進を続けた2010年
まず最初に、知らない方や忘れた方も多いと思うので、PBLが解散に至るまでの、この連載が綴ってきたストーリーを簡単に振り返りたい。

この連載をスタートさせた2010年の夏、PBLは「空白の5年」から抜け出し、復活の狼煙を上げた。10周年記念ライブを成功させ、5年間作りたかったのに作れなかったセカンドアルバムをあっという間に作り上げる。そしてなんと、セカンドアルバムはその夏のうちにリリースしてしまい、年明けには更にもう1枚アルバムをリリースすると発表。
溜まりに溜まったそれまでのエネルギーを一気に放出するかのように、彼らはどんどん勢いを増して、17か所に及ぶセカンドアルバムのリリースツアーを行いながら、サードアルバム『Ground Disco』を完成させ、年明けの2011年1月12日にリリースした。普通のインディーズバンドでは考えられないペースの活動だ。しかしその内容は少しも妥協したものではなく、ライブもアルバムも、素晴らしい出来映えだった。デビュータイミングで大きな注目を集めた彼らの才能や魅力は、少しも錆びていなかったのだ。

PaperBagLunchbox『Ground Disco』
PaperBagLunchbox『Ground Disco』

「人生を変えたいけど無理はしなかった」ことを証明してしまった「空白の5年」があったとすれば、2010年のPBLは、無理を重ねてでもただただ「変わる」ための前進を続けた。その当時、ナカノと加藤はこんな風に話していた。
ナカノ:2010年初めの解散騒動の後「バンドを続ける」って話になった時に、レーベルとも「ここでブレるならもうやめた方がいい。やるならもうブレずにやってこう」って話し合いをしたんです。それで、全てがようやく一つにまとまりだした。加藤さんや曽根ちゃんが頑張ってくれてるのも感じるし、そこで自分たちも頑張れて、そういうチームワークの心地良さがプロジェクト全体に及んでいって。皆でやることの気持ち良さ、楽しさが倍々ゲームみたいに膨らんでいった。

加藤:まあ、ここまで上手くいくとは思ってなかった(笑)。でも、セカンドのレコーディングで、これは必ず上手くいくぞって確信したかな。もともとメジャーからもハンコもらえるくらいバンドの状況は出来ていたわけで、あとはバンドが1つにまとまって、やるべきことをやるだけだった。それをちゃんとやらせるのが俺の仕事だと思ったの。だからPBL復活プロジェクトを考え始めた時に、四人を集めて「本当にやるのか、やめるのか」って血判状を押すようなミーティングをしたんだけど、そのなかで「俺のやり方を信用するのか」みたいな問いかけもあって。で、四人から「信用するし、してる」と言われて、「じゃあ全力を尽くしてやろう」って話になったんだよね。そういうわけで、今回のシナリオに関しては強権を発動してでも進めた。使うスタジオもエンジニアも日程も、アルバムのアートワークでさえメンバーに相談せずに決めた。収録する曲だけはみんなで決めたけど、他はもう全部俺がまとめる。それを前提として、皆でアルバムを作ろうって。それをちゃんとやればバンドが好転する自信はあったから、あとは本当に「やる」だけだったんだよね。
この取材をしたのが2010年の12月28日。PBLの2010年は、こんな風に晴れ晴れとした話ができる、そういう状態だった。
突然全てが一変し、改めて問題が浮き彫りになった2011年
全てが一変したのは、年が明けた2011年1月のことだった。無事にアルバムがリリースされ、その月末に開催されるCINRA主催の音楽イベント『exPoP!!!!!』から、PBLは26か所に及ぶサードアルバムのツアーをスタートさせる。そこで一気に流れにのって、3月26日のツアーファイル / ワンマンライブをソールドアウトさせるというのが、ぼくとPBLが思い描く「成功=ゴール」だった。

その『exPoP!!!!!』が終わって3週間後、ぼくはこの連載で、そのPBLのライブが不出来であったことを記し、「3月半ばには、一連の出来事についてまとめた記事を掲載したいと思うので、楽しみにしていただきたい」と書いたまま、結果としてこの連載の更新は止まってしまった。しかし実際は、3月半ばに記事をアップするため、ぼくはPBLのツアーに同行取材をして、なぜ肝心の『exPoP!!!!!』のライブが失敗に終わったのか、彼らにどんな異変が起きたのか、記事を書き上げていたので抜粋する(本ページのコメントは全て当時のもの)。これが、PBL破滅の序章だ。
ナカノ:1月の半ば頃、アルバムのプロモーションで関西に行ったんです。レーベルがラジオ出演をいくつも仕込んでくれていて、それに出て回っていたんですけど、3回目くらいからどんどん覇気が無くなってきて、トークがうまく出来なかったんです。それをこっぴどく加藤さんに叱られて……。

―与えられた仕事をただこなしているだけ、みたいになってしまった?

ナカノ:そう。それでさらに悪いことに、怒られたのをリカバリーできないまま翌日もラジオに出て、またダメだったんです。しかもラジオだけじゃなくて、『exPoP!!!!!』を含めたツアーでのライブ演出をどうするのかとか、考えるべきことは沢山あったのに、それを俺たちが少しもやってなくて。それでレーベルの二人からも呆れられちゃって、「こんな感じならもうPBLの面倒を見るのやめる」っていう話になって……。

―自分たち自身で「PBLはどうすればいいのか」と考えることを、サボっちゃってたんだ。

伊藤(PBLのDr):うん……。このプロジェクトを先導しているのは加藤さんだけど、そこに私たちが食らいついていこうとしていなくて。自分たちの意思がない。昔っから、そういう自主性がないの。

―でもそれって、ずっとPBLの課題だったことだよね。5年間苦しい期間があって、ようやく色んなことが前に進んできたのに、どうしてそこで自主性を発揮できないんだろう?

伊藤:「よしやるぞ!」ってなるにはなるんだけど、それが本当に実行できてたかと言えばそんなことなくて、口で言ってるだけになっちゃう。だからラジオもライブも、下準備や勉強が足りてないって結果になる。言ってることに対して、中身が伴わないんです……。
―正直言って、俺もショックだった。この連載であれだけ「PBLは絶対にいいライブしてくれるはず!」って書いてきたから、「なんでCINRAのイベントでこうなるの!?」って。

曽根原(現場マネージャー):準備不足もそうなんですけど、より深刻なのはメンタルの問題なんですよね。『exPoP!!!!!』の後、静岡にツアー行ったんですけど、そのライブは良かったんですよ。もちろん『exPoP!!!!!』で失敗した経験のお陰でもあるけど、静岡が良かったのは、「レーベルから怒られないから」っていう理由ですよ。それで一応前を向けただけだったと思うんです。そして本人たちは、自分たちのメンタルを意識できていないという、決定的な欠陥がある。

―ナカノくんは前からそうだよね。怒られると萎縮しちゃうし、褒めると伸びるっていう。

ナカノ:怒られると絶対にダメですね。それはもう、どうしたって直らない。

曽根原:でも、そういうこと言ってる場合じゃないですよ。もう一歩も立ち止まることは許されないわけだし。

ナカノ:わかってるよ! でも、我慢しようと思えば思うほど、押さえ込もうとすればするほど苦しいんですよ。そういうことも含めて、メンタルと向き合うことをしなくちゃいけないんだけど、出来ないんですよ……。
どんなに頑張っても、人は本当に変われないのか?
こんな風に、一気にバンドが崩れていった。恐ろしいくらい、一瞬にして全てが変わっていってしまったのだ。この当時、ナカノはそれくらいボロボロになっていた。生活も、メンタルも。

ナカノ:セカンドを出した頃からずっと生活がギリギリで、医者に行くお金すらない状況だったんです。財布の中はいつも500円くらいしか入ってなくって。それがツアーで横浜に入る直前に、俺の中の精神的な心配度が限界を超えてしまって、「ヤバい、飢え死にする」って不安が襲ってきて。落ちたんですよ、メチャクチャ。一気に体調も悪くなって。結構ヤバいところまできちゃってたんです。

―そうだったんだ……。

ナカノ:でも俺だって少しは進歩しているし、これでレーベルに相談しなかったら昔と同じだと思って言ったんです。そうしたら加藤さんに、「なんでこうなるまで相談しないんだ? お前だけの体じゃない。みんなのプロジェクトが、お前だけの理由でダメになったらどうするんだ?」って言われて。

―また怒られて、横浜のライブがダメだったんだ。

ナカノ:そうなんです……。でも、加藤さんが言ったこと、本当にその通りだなって思った。

曽根原:加藤さんが怒るのはもっともなんですよ。去年の夏からスケジュールが過密になるのは分かってたし、バイトができないのも分かってて、だからメンバーには金がヤバかったらレーベルで貸すからって話もしてあったんです。お金が理由でプロジェクトがストップするのは嫌だったから。それなのに結局、お金が理由でストップしたり良いライブができなかった。そういう一連の問題が改めて浮き彫りになって、レーベルとしてはもう、メンバーに自主性とか自発性を求めるのはやめようってことになったんです。レーベル側が全部のレールを敷いて、その道を走ってもらう。

―それって、すごく難しい決断ですよね。バンドにとって、本当にそれが正しいのか分からないし。

曽根原:人はそんな簡単に変わらない。変わって欲しいと思って、その為の努力を延々続けてきたけど、そうはならない。死ななきゃ直らないっていうことですよ。だからもう、求めるのはやめようって。労力の無駄だし、逆にこっちが潰れちゃう。正直言って、ぼくや加藤さんだってそんなに強い人間じゃないですからね。
曽根原が言う通り、加藤は加藤で、ギリギリの精神状態の中で綱渡りを続けていたはずだ。長年PBLに自分の人生を投資し、半年ほどの短い期間で2枚のアルバムを制作、2回のツアーで50か所以上のライブを仕込み、宣伝のため日本中を飛び回っていた。PBLの復活劇のシナリオを描き、そのためのお金やスタッフィングを整え、アルバムのプロデュース、ディレクションまで全てを手がけていたのだから、加藤にとって、音楽人としての彼の意地とプライド、自分の全てを賭けたプロジェクトと言っても過言ではない。しかしそんな加藤も、時には薬を飲まなければ起き上がれないほど、肉体も精神もボロボロな状況だったのだ。
 

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