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今さら人に聞けない、写真再入門 Vol.1 「写真集」とは何ぞや? 僧侶収集家による贅沢レクチャー

今さら人に聞けない、写真再入門 Vol.1 「写真集」とは何ぞや? 僧侶収集家による贅沢レクチャー

内田伸一
撮影:豊島望

「幻の写真集」を手に入れるためのオススメ古書店とは?

印刷技法という点では対照的なのが、アラーキーこと荒木経惟の『センチメンタルな旅』(1971年)。愛妻・陽子との私的な二人旅を写したもので、当時は1000部限定の自費出版。後に復刻されるまでは「幻の写真集」とも言われました。

金子:画質が悪くても写真集になる好例です(笑)。大量印刷向きのオフセット手法で、しかも一色印刷ですからね。私は1970年代後半に古本屋で手に入れたのですが、手に取ってみてあらためて「こんな印刷だったのか……」と思ったのを憶えています。でもそれで成立している。当時、荒木さんはネガフィルムにホコリをまいてから現像する、なんて噂も聞きましたが、これを見て「そういうことか」とも思いました。

荒木経惟『センチメンタルな旅』(1971年)

荒木経惟『センチメンタルな旅』(1971年)
荒木経惟『センチメンタルな旅』(1971年)

つまり、単にそこに写るものだけでなく、「荒木さんはモノとしてのフィルムのリアリティーも撮っている」と金子さんは語ります。この写真集もまた、若き「天才アラーキー」の確信犯的な挑戦だったのかもしれません。

金子:東京都写真美術館が『センチメンタルな旅』のプリント写真を収蔵していますが、それはもっとクリアなんです。だから先ほどのブレッソン写真集の印刷がハイファイだとしたら、あえてのローファイ印刷とでも言いますか。広く写真界を見渡せば、こうした表現が現れてくる流れには、同時代の美術の要素が写真に入っていった側面もあると思います。

今や400冊以上もの写真集を世に送り出し、なお現役のアラーキー。美術館のプリント写真ではわからない、その世界観を手に取れる1冊と言えそうです。

そして、同書のように稀少な写真集を手に入れるには、古書店めぐりが鍵? そこで金子さんオススメの場所も教えてもらいました。

金子:神田・神保町なら源喜堂書店、小宮山書店あたりは誰もが挙げるでしょうね。でも古書って、いつどこで何が手に入るかがわからない世界。だから初めて訪れた街では必ず古本屋に入ります。そして、掘り出しものがなければ100円文庫でもいいから、1冊欲しいものを買う。すると次の訪問時には良い出会いがあるんですね。まあ縁起かけですが、実際に買うとなれば店の棚の様子をよく憶えられるのも理由です。あと、古本市にもよく通いました。巨大な会場の目当ての棚に一番乗りすべく、事前に全てのドアの位置や経路を調べたり……これはもう、戦いでしたね(笑)。

ときには、理屈抜きに「ジャケ買い」で大当たりの醍醐味を

さらに紹介してくれたのは、オランダの写真家、ヨハン・ヴァン・デル・クーケンの美しい『Achter Glas』(1957年)。淡い光の中で夢見るような少女の表紙を前にした瞬間、金子さんの瞳も乙女のように(?)輝きます。いわゆる「ジャケ買い」をしてしまいそうな1冊。

ヨハン・ヴァン・デル・クーケン『Achter Glas』(1957年)
ヨハン・ヴァン・デル・クーケン『Achter Glas』(1957年)

金子:でしょう~?(笑) これ、購入しないと中を開けなかったんですけど、迷わず買いましたね。ま、それで失敗した例もあるけれど……(一瞬、すごく遠い目)、これは大当たりでした。

内容は、ある少女の青春の季節を追うフォトストーリー。映画監督でもあったクーケンの写真は、一枚一枚に物語が宿るようです。そこへオランダ詩人の巨匠レムコ・カンペルによるテキストが添えられます。

ヨハン・ヴァン・デル・クーケン『Achter Glas』(1957年)
ヨハン・ヴァン・デル・クーケン『Achter Glas』(1957年)

金子:もちろん、クラインやアラーキーもいいし、そこにある文脈や歴史も意義がある。でもこの写真集は、そういうのはひとまず置いて、理屈抜きに胸をキュンとさせます。写真好きの間でもかなり評価の高い1冊で、書いてある言葉がわからなくても、いろいろ想像が働きますね。映画でいうと『シベールの日曜日』(1962年のフランス映画、セルジュ・ブールギニョン監督。戦争で記憶喪失になったパイロットと、天涯孤独の少女の交流を描いた)をどこか思わせる、美しくも切ない気持ちを思い出させてくれます。

アカデミックな探究心とは別に、ただ素直に感動できる写真集への情熱も併せ持つ金子さん。「自らの心が動くものを欲する」収集家の原点がうかがえる1冊でした。

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インフォメーション

東京都写真美術館(2016年秋リニューアルオープン予定)

書籍情報

『日本写真集史1956-1986』

2009年10月15日(木)発売
価格:4,104円(税込)
発行:赤々舎

プロフィール

金子隆一(かねこ りゅういち)

1948年生まれ。写真評論家、写真史家、写真集コレクター。本業は僧侶。立正大学文学部卒業。元東京都写真美術館学芸員。武蔵野美術大学非常勤講師。日本写真史、特に日本の芸術写真(ピクトリアリスム)を専門とし、東京都写真美術館の企画展はもちろん、国内の様々な写真展を企画している。主な著書として、写真集を写真撮影してアーカイブした『日本写真集史1956-1986』(2009年、赤々舎)などがある。

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