『クリエイターのヒミツ基地』

『クリエイターのヒミツ基地』 Volume18 細金卓矢(映像作家)

『クリエイターのヒミツ基地』 Volume18 細金卓矢(映像作家)

一躍若手の映像作家として注目された細金卓矢さん。最近では、人気作家・森見登美彦氏が原作のアニメ『四畳半神話大系』のエンディング制作に参加したほか、ボーカロイド「IA」のアニメーションPVの監督も務めるなど、活躍の幅をさらに広げています。「基本的にものぐさ。目の前にある課題を、どうやって『トンチ』で返そうかということをよく考えています」と話す細金さんですが、その背景には「セオリーを壊して視聴者に驚きを与える」という既成概念に対する挑戦心が隠されています。秋葉原駅に近い制作現場にお邪魔して、高校生から「プロ」として映像制作に携わる細金さんに話しを伺いました。飾り気のない、しかし、本質を突いた細金さんの言葉に耳を傾けてみてください。

テキスト:宮崎智之(プレスラボ)
撮影:CINRA編集部

細金卓矢(ほそがね たくや)
東京都出身、千葉育ち。2004年ころから映像制作を開始。国内外で高い評価を受ける『Vanishing Point』や文化庁メディア芸術祭大賞に選ばれたアニメ『四畳半神話大系』のエンディング制作、WIREDへの映像提供、NHKデザイン「あ」のクラッチ映像提供、そしてボーカロイド「IA」のプロモーションを兼ねた『日本橋高架下R計画』のアニメーション制作を手掛けるなど、活動領域は多岐にわたっている。

細金卓矢(ほそがね たくや)

ウェブサイト制作から映像制作の道へ

動画に興味を持ち始めたのは、2001年ころ。もともとはウェブサイトを制作しようとFlashを独学で学んでいましたが、次第にFlashでも動画を作れることに気がつき、モーショングラフィックスの世界に足を踏み入れるようになりました。本人にとってはいたって自然な流れだったようです。

細金:ウェブサイトを作るっていっても、ただの学生が良質なコンテンツを提供するのは難しいものがあります。そもそも、当時のウェブはお金や手間暇をかけて制作したコンテンツが今より少なかったんです。そんな折に出会ったのがFlashの実験サイト。自分のように伝えるべきコンテンツがなく持て余してしまっている人たちが持て余したエネルギーや技術をつぎ込んで異様な進化をしているところに惹かれ、自分もその流れに参加したいと思うようになりました。

昔はいわゆる、アニメやゲームが好きな「おたく体質」で、ネトゲにハマって廃人になりかけたこともありましたが、高校に入学してからもFlashで動画を作り続け、ウェブ上で発表。それを見た企業から初めて仕事の依頼がきたのは2004年ころかな。その後YouTubeなどをはじめとする動画共有サイトが登場してからはFlashだけではなく、After Effectsなどを使ってモーショングラフィックスを制作するようになっていきました。

細金さん

クリエイターの出発点としては、まさに順風満帆。「幼少からネットに慣れ親しみ、次第に自分にあった表現方法を獲得していった」というサクセスストーリーをついつい描きたくなってしまいます。しかし、細金さんはそんなありきたりな「物語」に自身の人生が回収されてしまうことを避けるかのように、静かにこう語ってくれました。

細金:根本にあるのは、ただ単に「新しいものが好き」という思いだけなんです。自分では絵も描けない、音楽も作れないとなったら、けっこう選択肢が減ってきますよね。だから動画という表現に流れ着いた、というのが正直なところです。せっかくのインタビューなのに、高尚な動機を語れなくて申し訳ないのですが…。

『四畳半神話大系』の意外な「元ネタ」

しかし、ただそれだけでは、国内外で評価される映像作品を次々に発表できるわけがありませんし、新進気鋭の若手映像作家として注目を集める存在になれるわけがありません。下手をすると「天の邪鬼」とも捉えられかねない、細金さんのクセのある語り口に注意深く耳を傾けてみると、徐々にその謎が解き明かされてくるのですが、気になるヒミツを探っていく前に、まずは具体的な作品から紹介していきましょう。

細金:2010年の作品『Vanishing Point』は、フリーソフトで遊べる音楽ゲームのために制作したモーショングラフィックスです。これがVimeoという動画共有サイト上で話題になり、海外からも仕事のオファーがくるようになりました。海外の案件でいうと、雑誌『WIRED』のiPad創刊号用に制作した動画が代表例として挙げられます。

細金さんと言えば、文化庁メディア芸術祭で大賞に選ばれたアニメ『四畳半神話大系』のエンディングが代表作として有名ですが、その映像が誕生した背景は意外なものでした。

細金さん

細金:実は『四畳半神話大系』のエンディング映像には元ネタがありまして。それは8時間の制限時間内にお題に合わせて映像をその場で作る『cut & paste』というイベントで制作した作品でした。1週間前に主催者提示されたお題は「自然淘汰」だったのですが、「可愛いキャラクターが怖いキャラクターに食べられて…」みたいなイメージで作品を作っても対戦相手とかぶる可能性が高いために目立たないと思っていました。

「優勝者へ副賞として与えられる『ニューヨークへの往復航空券』を8時間の労働で手に入れたい」と考えた細金さんは、頭をひねって必死に優勝するための戦略を考えます。

細金:僕の好きなゲームに『マジック:ザ・ギャザリング』という世界的なトレーディングカードゲームがあるのですが、これには相手との相性を考慮しながら戦略を練っていく、「メタゲーム」という考え方があるんです。そこで思い付いたのが、テーマの「自然淘汰」とは一見関係なさそうに思える部屋の間取りをモチーフに使うことだったんですね。絵が描けない僕でも間取りなら図形の組み合わせで描けますし、動きでそれなりに物語性も出せる。かなりいいアイデアだと思ったのですが、それだけでは意味が通じないんじゃないかと心配になって、「大きな間取りが小さな間取りを食べる」という、いかにも「自然淘汰」的な映像を1ヶ所だけ差し込んでしまったんです…。そういう説明的なことは、本来ならば好きではないのですが、最後の最後で日和ってしまいましたね。

とは言うものの、15秒で簡潔に終わる音楽と間取りの映像が完全に同期した質の高い作品に仕上がり、見事に優勝。この映像が『四畳半神話大系』に携わっていた映像作家・川村真司氏の目に止まり、エンディングを共同で作ることになりました。

細金:ですから、『四畳半神話大系』という素晴らしい作品に関われたのは、本当に偶然だったんです。でも、そのおかげで貴重な体験することができました。中身のことで言えば、最終話だけ、ラストに間取り図のドアを開かせるなど、細かいところにこだわって制作しています。ただ、そのことに気づいてくれた視聴者さんはそんなに多くなかったようなのですが(笑)。

セオリーの裏をかく「細金イズム」

これまで見てきたように、細金さんのクリエイティブには、「セオリーの裏をかいて視聴者を驚かす」という基本姿勢があります。その考え方がもっとも分かりやすく現れているのが、ボーカロイド「IA」のプロモーションを兼ねた
『日本橋高架下R計画』の制作でしょう。

この作品は細金さんが監督として、初めて企画から携わったアニメーションです。アニメーターへの依頼や、予算の確保など慣れない作業に苦労が多かったと言いますが、作品の細部には「細金イズム」が散りばめられています。

細金:今までのボーカロイド楽曲に添えられた映像は、ボーカロイドの滑舌がそこまで良くなかったこともあり、歌詞の内容を補足するようなものが多かった。例えば「卒業」という歌詞が出てきたら、「卒業表彰」の絵を流すといったような。でも「IA」は声の性能が改善されていたので、思い切って歌詞とは無関係の映像ばかりを流すスタイルを取ってみたんです。また、機械的なボーカロイドというアイドルを生き生きとさせるために、あえて生活感のあるシーンを多用してみました。

細金:大量のコンテンツに溢れ、みんながせっかちになってしまった昨今では、何分もおとなしくシークせずに最初から最後まで見てもらおうというのは無理があるな、とは考えていました。また、Tumblrなどではカットごとに切り取られてgifアニメとしてアップされることが多いことをあらかじめ考え、1カットだけでも、あるいは順不同でも成立するように作りたいという思いがありました。あと、僕は映画の予告編を観るのが大好きなんですが、予告編って1番良いカットばかりを切り繋いでいるから、興奮する映像に仕上がっているんですね。そんなイメージでアニメーションを作ったんです。

『四畳半神話大系』の元となった映像を『cut & paste』で作った際に、ゲーム『マジック:ザ・ギャザリング』の考え方を応用した時もしかり。常にセオリーやルールをハックし続ける細金さんだからこそ、既存の枠にとらわれない新しい作品が作れるのでしょう。

細金:これまで、「美味しい食事ができればいい」くらいに目標もなく生きてきましたが、表現できる領域が広がっていくのは楽しいです。特にアニメーションの監督をさせてもらえた経験は貴重でした。これからは、モーショングラフィックスとアニメーションの中間くらいの領域で作品を発表できたら面白いですね。

これからの活躍に期待が高まります。

細金さん
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