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『クリエイターのヒミツ基地』 Volume22 STEVE NAKAMURA(アートディレクター)

きゃりーぱみゅぱみゅのジャケットデザインや、ラフォーレ原宿の広告ビジュアルなど、人目を引くクセあるユーモアや、小さな驚きを起こさせるような要素を入れ込んだ作品が、日本のみならず海外からも注目されている、スティーブ・ナカムラさん。アメリカ出身ということもあり、謎に包まれた部分も多いその経歴ですが、お話を伺うと予想もつかない劇的な展開の連続。アメリカ、イギリス、日本を転々としたそのクリエイター人生とは。そして独特の表現はどのようにして生まれているのか。ナカムラさんの制作現場にお邪魔してお話を伺いました。

テキスト:タナカヒロシ
撮影:CINRA編集部

STEVE NAKAMURA(スティーブ・ナカムラ)
1973年ロサンゼルス生まれ。ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン卒業。これまでに日本やニューヨークを拠点にアートディレクター/グラフィックデザイナーとして活躍。きゃりーぱみゅぱみゅのジャケットのアートワーク、ラフォーレ「グランバザール」のビジュアル広告やプロモーションムービーをはじめ、パルコ、ナイキ、マセラティなどなど、手がけた作品は誰もが一度は目にしたことのあるものばかり。また、自身のサイトで、映像作品なども発表している。

スティーブナカムラ(すてぃーぶなかむら)

漫画のような運命的な出逢い

日本人の両親のもとロサンゼルスで生まれ、アメリカ各地を転々としながら育ったナカムラさん。「ちょっと変わってたんだろうね」と語る高校時代は、野球、ジャズと女性ファッション誌が好きだったそうです。自然とアートの道を志すようになり、大学は著名なデザイナーを数多く輩出しているロンドン芸術大学、いわゆるセント・マーチンズへ入学。はじめはペインティングを専攻していたものの、途中からグラフィックデザイン専攻となり、タイポグラフィを中心に学んだそうです。そんな中、ある夏休みにアメリカに帰省中、アートの講義を受けに行ったときに、突然運命的な出会いがやってきます。

ナカムラ:生徒が3人しかいなかったんですが、そこでけっこう年の離れた方と仲良くなったんです。その人にある日「スティーブ君は将来、何したいの? 日本のW+K(ワイデンアンドケネディ)で働くのって興味ある?」って聞かれて(笑)。

なんとその御仁の正体は、W+Kの創業者デイヴィッド・ケネディだったのです。まるで漫画のようなストーリーですが、ナカムラさんはその1週間後には日本で働くことになります。

ナカムラ:21歳のときに日本へ来てナイキの広告に携われたのは、大きな自信に繋がりました。あの頃はちょうどナイキジャパン立ち上げのころで、アメリカのアティテュードや若い文化を日本に広めたかった。今思えば、私には自然とアメリカと日本のふたつの文化が混じっていて、育った環境も音楽やスポーツ、ファッションがとても充実していた。そういう若い人を欲しがっていたんじゃないかな。自分が刺激的で面白いと思っていたことをストレートに表現することができました。ただ、そういった知識を思った通りのビジュアルで表現するには、まだまだ経験が足りなかったので、その後何年間か創作期間も必要でした。

想像もつかない展開で訪れた日本での生活は、半年ほどでいったん終わりを迎えるのですが、世界のトップクリエイターたちの仕事を間近で見る、という得難い経験は、大きなステップとなったようです。そして、一度開いてしまった劇的な人生のドアは、ナカムラさんをさらなるストーリーへ導くのでした。

ナカムラ:デザインの仕事を取ったり自分のプロジェクトをやりながら、ニューヨークで働いてたんだけど、インターネットバブルがはじけて、急に景気が悪くなったんですよ。ちょうどそのときMTVが日本でブランドを立ち上げるから参加しないか、って誘われて。いいタイミングかなと思い、その半年後、日本でまたフリーランスとして活動し始めました。ナイキのときと同じように、私には自然とアメリカと日本の両方の文化が混ざっているので、どちらの土壌でもやっていける表現の自由さがあるのではないかなと思ったんです。

コンピュータの画面を見るスティーブナカムラさん

これをきっかけに日本に拠点を移したナカムラさん。「その頃日本では広告業界も音楽業界もコンサバティブな感じで、ちょっとつまらなく感じたんですよ。そういうときだからこそ表現の方向性を変えれば、意外と目にとまるかなと思ったんだけど」と、攻めの姿勢で臨んだパルコやラフォーレ原宿の広告が高い評価を受けると、2011年デビューした「きゃりーぱみゅぱみゅ」のジャケットデザインが国内外で大きな話題となり、押しも押されもせぬアートディレクターとしてその名を知られることとなりました。

ナカムラ:音楽だったら新人、ファッションだったら新しいブランドを立ち上げるとか、やっぱりゼロから始めるのが好き。きゃりーは、彼女のイメージやキャラクター、性格を、どうやってMAXで出すかっていうのが仕事だと思うんですけど、ポップカルチャーにちょっとは影響を与えられたんじゃないかな。でも、もっと社会に影響を与えられるような、そういうプロジェクトをいつかやりたいです。

日常のなかの面白さが本能をくすぐる作品を生み出す

きゃりーぱみゅぱみゅのジャケットに代表されるように、ナカムラさんの作品には必ずといっていいほど、小さな驚きを起こさせるような要素や、クセのあるユーモアが盛り込まれています。「アートディレクターはアイデアで相手を惹き付けて、しかも納得してもらわないとダメ」というナカムラさん。そのためには、「リファレンス(=参照)」が欠かせないといいます。

ナカムラ:自分はアメリカの文化とか、色んなスタイルやカルチャー、音楽、時代性とかを混ぜるんだけど、見る人のキャラクターはさまざまなので、幅広い人に理解してもらわないといけない。だから大切なのは、流行ってるものもちゃんと混ぜて使うことだと思うんですよ。あとコンフォート・ゾーン(=快適帯)だけじゃなくて、ちょっと違和感があるものを入れる。たとえば、きゃりーのジャケットはけっこうインパクトがあると思うんですけど、原宿的な分かりやすいイメージにするんじゃなくて、彼女のイメージと外れたシチュエーションや衣装とかと組み合わせると、面白いキャラクターができると思うんですよね。

では、そのアイデアは一体、どんなところから生まれてくるのでしょうか。

ナカムラ:昔から気になることがあるとすぐにリサーチしています。今はネットで調べることが多いけど、人間ウォッチングから得ることも大きいですね。この前、目の前を歩いてたおじいちゃんが急に立ち止まって動かなくなっちゃって、大丈夫なのかな? と思ったら、ブッって「おなら」したんですよ(笑)。それで、また普通に歩き出して。なんかすごいことが起きてる! と思ったんですよ(笑)。人間の本能をくすぐることって、普通の生活で起きることだと思うんです。日常のリアリティーのなかに人の心をくすぐる面白さがあるというか。

常日頃から蓄積してきた知識と経験、そして自身の人生がそうだったように、日常の中で訪れる想像もつかないシーン。そうしたものを掛け合わせることで、面白い作品が生まれるという。

ナカムラ:重要なのはリアリティーがあるかどうか。アドリブ感もとても大事だと思ってます。もちろんそこには基本カタチがあるんですけど、そこからどうやって広げられるかが大切。その時のムードによって、いろんな表現が生まれるんです。

今後はこれまで通り、さまざまなアートディレクションを手掛けつつ、自分のブランドを立ち上げるなど、より自分発信の仕事もしていきたい、というナカムラさん。「何か面白い企画を思いついたら、まず行動しちゃったほうがよいと思うんです。自分でやるのがいいか、どこかと一緒にやるのが面白いか、とか考えながら」。波瀾万丈の展開を繰り返してきたナカムラさんのクリエイター人生ですが、まだまだ安住することはなさそうです。

スティーブナカムラさん
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