早くも6月最終日。世界的に6月はプライド月間で、セクシュアルマイノリティの権利や歴史を祝福し、社会への理解と連帯を深める月間だ。しかしながら、せわしい日々、あっという間に時は流れ、今年もデモにも触れられず、自分は何もできていない……そんな落胆とともにきょうを迎えている人も多いのではないだろうか。また、そもそもプライド月間って何? という人もいるかもしれない。そんな方々に触れていただきたい、物語を通してセクシュアルマイノリティの権利や社会の課題に触れる作品たち。CINRA編集部員が選ぶ、プライド月間に見たかった / 読みたかった作品をピックアップする。
そもそもプライド月間とは?
プライド月間(Pride Month)とは、LGBTQ+(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クィアなど)、セクシュアルマイノリティの人々の権利や歴史、多様性を祝い、社会への理解と連帯を深めるための月間だ。毎年6月に世界各地で開催され、パレードやイベント、キャンペーンなどが行われている。
プライド月間の起源をたどると、1969年にアメリカで起きた「ストーンウォールの反乱」にさかのぼる。6月27日夜(28日の未明)、ニューヨークにある、セクシュアルマイノリティの集まるバー「ストーンウォール・イン」に、警察の強制的な捜査が入った。当時、アメリカのほとんどの州でソドミー法(「自然に反する」と見なされる性行動を違法とするもので、同性愛者を逮捕する根拠とされた)が残っていて、同性愛者に酒類を提供することが違法だった時代。数少ない「居場所」であったバーに強制捜査が入ったその夜、当事者の怒りが吹き出し、暴動へと発展。ここからゲイ解放運動が一気に広がりを見せ、LGBTの歴史において象徴的な出来事となった。
翌年、ストーンウォール1周年を記念した大々的なデモ行進「プライド・パレード(Pride Parade)」が行われ、次第に「プライド月間」へと世界に広がっていったのだった。
片袖の魚(映画)
トランスジェンダー女性の新谷ひかり(イシヅカユウ)は、ときに周囲の人々とのあいだに言いようのない壁を感じながらも、同じくトランス女性の友人をはじめ上司や同僚ら理解者に恵まれ、会社員として働きながら東京で一人暮らしをしている。ある日、出張で故郷の街へと出向くことが決まり、過去の記憶がふとよぎる。ひかりは、高校時代の同級生に、いまの自分の姿を見てほしいと考え、勇気をふり絞って連絡をする——。
東海林毅監督による、34分の短編映画(2021年)。日本で初めてトランスジェンダー女性の俳優オーディションを開催した映画でもあり、主演をトランスジェンダーである俳優、モデルのイシヅカユウが務めている。
リリーのすべて(映画)
風景画家のアイナーは、肖像画家の妻ゲルダと充実した毎日を過ごしていた。ある日、ゲルダに頼まれて女性モデルの代役を務めたアイナーは、自分の内側に潜んでいた女性の存在に気付く。以来、リリーという名の女性として過ごすようになり、心と体が一致しない事に困惑し、ゲルダも夫が夫でなくなっていく事態に戸惑うようになる。
2016年公開。1930年代に世界で初めて性別適合手術を受けたデンマーク人、リリー・エルベの実話をもとに描かれた物語だ。『博士と彼女のセオリー』で『第87回アカデミー賞』主演男優賞に輝いたエディ・レッドメインが主人公のアイナーを演じたことで話題になった作品だ。
キャロル(映画)
主人公テレーズ(ルーニー・マーラ)は、アルバイトをしているデパートの玩具売り場で、娘へのクリスマスプレゼントとして人形を探すキャロル(ケイト・ブランシェット)と出会う。美しくもミステリアスな雰囲気をもつキャロルに心を奪われたテレーズは彼女と連絡を取り合うようになり、ある日、キャロルから小旅行という名の逃避行に誘われて——。
パトリシア・ハイスミスの同名小説(出版当時の題は『The Price of Salt』で、別名義で出版された)の映画化。原作小説はレズビアンであるハイスミスの自伝的要素を含んでいて、セクシュアルマイノリティが激しい差別と抑圧を受けていた1951年に出版された。映画は、ファッションや街の色合いなども絵づくりが美しい。
ラブ・イン・ザ・ビックシティ(映画)
自由奔放でエネルギッシュなジェヒと、穏やかで繊細なフンス。正反対の二人が、ある出来事をきっかけに特別な契約を結び、一緒に暮らし始めることになる。ジェヒは奔放な恋愛を楽しみながら、世間のルールに縛られず、自分の価値観を大切にして自由に生きている。一方、フンスはゲイであることを周囲に隠しながら、孤独と向き合う日々を送っている。二人はお互いの違いを認め合い、次第にかけがえのない存在となっていく……。
現在、劇場公開中の映画作品。原作は、韓国でベストセラーとなり、国内外でも根強い人気を誇る小説『大都会の愛し方』(パク・サンヨン著)に収録されている短編「ジェヒ」。
原作者のパク・サンヨンは映画作品について「当初映画化については心配もありました。監督がゲイではないため、当事者性に欠けるものができるのではないかと。そういう不安を抱えて観た本作は、結果的にとても満足のいくものでした。なにより良かったのは、ゲイという存在を対象化、すなわち『自分とはまったく別の異質なモノ』のように表現しなかったことです」と評している(※以下の記事より引用)。
ユンヒへ(小説、映画)
韓国で暮らすシングルマザーのユンヒは、一通の手紙を受け取った。母の手紙を盗み見てしまった高校生の娘セボムは、自分の知らない母の姿をそこに見つけ、手紙の差出人であるジュンに会わせる決心をする。セボムに強引に誘われるかたちで、ユンヒはジュンが暮らす小樽へ旅立つ。
2022年に公開された韓国映画。それまで韓国では正面から描かれることが少なかったという、中年女性の同性愛と彼女達が経験してきた抑圧を描き出した。岩井俊二監督の『Love Letter』にインスパイアされた作品で、北海道・小樽がロケ地となっている。
POSE/ポーズ(ドラマ)
1980年代のニューヨーク、LGBTQの若者たちは母親代わりの「マザー」のもとに集まり、「ハウス」と呼ばれるコミュニティで共同生活を送っていた。そして、ダンスホールに集まっては、ファッションとパフォーマンスで競い合っていた。日常生活では肩身の狭い思いを強いられていた彼らのリアルを、ボールカルチャーを通して、夢や愛、そしてプライドを追いかける姿を通して描く。
ボールカルチャー(当時のアフリカ系、ラテン系アメリカ人によるLGBTQコミュニティのなかで、定期的に開催されていたBall=ボール=と呼ばれるダンスパーティーの文化)とLGBTQコミュニティを描いたドラマ。制作スタッフ、キャストに、数多くの当事者が参加している。
しまなみ誰そ彼(漫画)
主人公のたすくは、ふとしたきっかけで、クラスメイトにゲイビデオを観ていることを知られてしまう。ゲイであると皆に知られたのではないかと怯え、自殺を考えていた彼の前に、「誰かさん」と呼ばれる謎めいた女性があらわれた。彼女は、たすくを「談話室」へと誘う。そこには、レズビアンの大地さんがいて……。
『隠の王』(スクウェア・エニックス)、『ヒラエスは旅路の果て』(講談社)の鎌谷悠希が描く、性と生の物語。主人公のたすくだけではなく、さまざまなセクシュアルマイノリティのキャラクターが登場する群像劇でもある。広島・尾道を舞台に、美しい筆致で描かれる。1〜4巻、小学館発行。
付き合ってあげてもいいかな(漫画)
異性からモテるのに「好きな人と両想いになったことがない」という、みわ。「絶対友達にならないタイプ」だと思ったお調子者の冴子と急接近し、付き合い始めることに……。
漫画家、たみふるが描くガールズラブストーリー。「リアリティのある」恋愛描写を意識した作品であり、主要人物のみわと冴子をはじめ、ほかのキャラクターも個性的かついきいきとキャンパスライフを送っている姿が印象的だ。小学館の漫画アプリ「マンガワン」にて連載され、2025年4月に最終巻である14巻が発売された。1〜14巻、小学館発行。
作りたい女と食べたい女(漫画、ドラマ)
ひとり暮らしで少食だし、つくったところで食べきれない。でも、本当はもっと作りたい——料理が大好きな野本さんは、そんな想いと職場のストレスから、うっかり一人で食べきれないほどご飯を作ってしまう。そんなとき、お隣のお隣に住む春日さんのことを思い出して勇気を出して夕食に誘ってみると……。
漫画家、ゆざきさかおみによる漫画で、NHKでドラマ化もされている作品。「シスターフッド×ごはん×ガールズラブ」というテーマで、日常に生きる女性たちの生きづらさや違和感と丁寧に向き合った作品。1〜5巻、KADOKAWA発行。
きのう何食べた?(漫画、ドラマ、映画)
生真面目な弁護士の筧史朗と、人当たりの良い美容師の矢吹賢二の2人が、2LDKのアパートで暮らす日々を、食生活をメインに据えて展開する物語。2人はゲイのカップルであり、食生活だけではなく、日々の悩み事やゲイカップルであることによって生ずる問題、親との関係性なども描かれている。
『西洋骨董洋菓子店』(新書館)や『大奥』(白泉社)のよしながふみによる漫画作品。『モーニング』(講談社)にて、2007年から連載されていて、2025年6月23日に最新24巻が発売された。ドラマ化、映画化もされた人気作品。連載が進むに連れて年齢を重ね、ストーリーも進んでいくのがひとつの特徴でもある。1〜24巻、講談社発行。
なかよしビッチ生活(漫画)

失恋した超恋愛体質のユミコ、結婚前提で7年付き合った彼氏と別れたタマヨは、SNSのアジアBLドラマ界隈で出会い、意気投合してお隣に住んでいる。性愛・恋愛の関係ではないパートナーとして生活をともにするふたりだが、ある日ユミコが「セックスをしたいです」と切り出して……。
とれたてクラブによる作品。「恋愛は政治。異性愛生殖至上主義にサヨナラ!」をコピーに掲げたフェミニスト・コミック。アセクシュアル、アロマンティック、ポリアモリーのキャラクターも登場する。エトセトラブックス発行。
以上、CINRA編集部がプライド月間を機におすすめしたい作品をまとめた。今回は、セクシュアルマイノリティが主人公、もしくは主要なキャラクターである作品をあえてピックアップした。そんな作品がどんどん世に出てきてくれたら幸せだと感じる一方で、筆者の個人的な思いとしては、どんな物語にも、当たり前にクィアなキャラクターが登場する時代になればいいな、とも考えている。
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