坂元友介インタビュー

(アラーキーさんに)「この作品には、愛し合うの“あい”と哀しみの“あい”っていう二つの“あい”があっていいよね」って言われました。

―普段は何をされているんですか?

坂元:今はまだ学生なので、自主制作をしています。誘いを受ければ遊びに行ったり飲みに行ったり、普通の学生ですね。最近は料理にはまっていて、結構手の込んだものも作ってます。

―独り暮らしでそれは凄い! 誰かに食べさせたりするんですか?

坂元:いえ、誰かのためとなると緊張するので。自分だけなら大雑把にできますし(笑)。

―なるほど。学生と言っても、坂元さんは色々なコンペや映画祭に参加されているので、学外の人にも作品を観てもらう機会が多いと思うのですが、一般のお客さんの反応はいかがですか?

焼き魚の唄

坂元:そうですね、ありがたいことに概ね好意的な感想をいただいています。中でも「焼き魚の唄」はわりと海外で評価されることが多くて、フランスやスペインでも上映させていただいたんですけれど、ある外国の方に「これは、狩った獲物に対するインディアンスピリットの作品だね」と言われて、「あぁ、インディアンなんだぁ」と思ったり(笑)。そんな面白いこともありました。

―作った方が驚かされるコメントですね(笑)。では、有名なクリエーターや第一線で活躍されているプロの作家さん達からの言葉で、印象的に残っている言葉はありますか?

坂元:いっぱいあるんですけれど、ユーリ・ノルシュテインさんに「電信柱のお母さん」を観ていただいた時に言われたのが、「この作品は全てにおいて中位ではない」という言葉で、それは忘れられないですね。

―どういう意味として受け取ったんですか?

坂元:「もっと頑張んなきゃ駄目だぞ」って言われているんだと感じました。あとは、アラーキーさんに「焼き魚の唄」を観ていただいた時には、「この作品には、愛し合うの“あい”と哀しみの“あい”っていう二つの“あい”があっていいよね」って言われました。

―そうですか、両方ともその人らしい言葉だなぁ(笑)。ところで、そういう風に外に発表していくことで、プロダクションにスカウトされたり仕事の依頼に結びつくとはありましたか?

坂元:ええ。今年の「東京国際アニメフェア」でお店を出したんですが、それをご覧になった方が声をかけてくださって、11月上旬にNHK総合で放送された「星新一ショートショート劇場」という番組の中で、「ゆきとどいた生活」という人形アニメーションを製作しました。ただ、そのお話はたまたま時間が空いていたのと僕が星さんを大好きだったのでお受けできたんですけれど、あまり仕事の話は来ないですね。僕が普段やっているやり方だと、相当手間と時間がかかるので仕事にするのは難しいみたいです。今回は、音は全部お任せしてしまいましたし、いつもに比べたら手間はかかっていないです。

―そうなんですか? でも、一作毎にしっかり成長しているって言うのでしょうか、洗練されてきていると感じます。「ゆきとどいた生活」においてはハイビジョンということで、苦労されたのではないですか?

坂元:はい。うちのMacは今、相当疲労してます(苦笑)。でも、一度も固まったりはしませんでしたよ。普段から可愛がっているので。

坂元友介インタビュー

―それは凄い! 愛情をかけていれば物でも応えてくれるわけですね(笑)。そういえば以前、坂元さんが人形に対して「生きていると信じる」と語ったコメントを読んだのですが・・・

坂元:独り暮らしだと自然に物に話しかけたりしますよね。電化製品が動かなくなったら「なんで壊れるんだよ~」とか言いません? 人形でも同じで、落としちゃったら「ごめんね」とか当たり前に言います。

―確かに、自分の作ったものならなおさら愛情は沸きますね。「お前可愛いなぁ」とか言うかも(笑)。それでは、坂元さんがアニメーションを作り始めたきっかけを教えていただけますか?

坂元:高校の時に面白い先生がいて、その方がヤン・シュバンクマイエルの「アリス」をみせてくれて、「じゃぁ、教室をスタジオにしてやっちゃおう」って勝手に作り始めたのがきっかけです。それが「息子の部屋」で、その作品でたまたま凄い賞をとっちゃって・・・。その受賞がなければ今頑張ってアニメーションを作ってはなかったですね。

―元々ものを作るのが好きだったんですか?

坂元:そうですね。小さい頃から絵を描いたりものを作るのは好きでした。僕、子どもの頃ダリが好きで、その頃描いている絵をみると凄い影響を受けていますね。

―へぇ、坂元さんのつくる人形も独特の雰囲気を持っていますよね。グロテスクというか、異形の者を描いてて・・・坂元さんの作品って一見難解なようにみえるんだけど、見終わったあとにストンと落ちてくるような感覚になるんですよね。実はわかりやすいんです。

坂元:そうですか! 僕は、割と観る人のことを考えて作るので・・・「自分は芸術家であるから自分の良しとするものを作る。お客さんは関係ない。」って人がよくいるんですけれど、それは間違いで、自分以外の人がいて初めて芸術は成立すると思うんです。自分しかこの世にいないのに絵を描いてもしょうがないじゃないですか。それに、作品って作者と観る人の間にいなければならない、コミュニケーションのツールだと思うので、「ここはゆずれないけれど、ここはわかりやすくするためにカットしよう」というようにバランスは凄く考えます。

好きな言葉が「勤勉努力活動発展」という新撰組の近藤勇の言葉です(笑)。

―それは素晴らしいですね。大学の制作展などに行って、うち輪だけで終わっている作品を観てもどかしく感じることが多々あります。面白いことはやってるし、情熱はあるんだけど、これじゃ一般の人はわからないよ・・・と。もっと外をみて欲しくなるんですね。

坂元:自分の場合は小心者なので、色んな人の感想が気になるんです。で、たくさんの好意的な感想があっても、ひとつだけダメ出しのコメントがあるとそれだけずーっと考えてしまう(苦笑)。「あぁ、この人はこういう風に考えるんだ」って思ったり。凄い落ち込みやすいので。

―そうなんですか(笑)。でも、そうやってひとの意見を聞き入れられるのはいいことじゃないですか。それが出来ないと、ずっと同じ所ぐるぐる回っているだけですもの。ちなみに、落ち込んだ時はどうやって乗り越えるんですか?

坂元:基本的には、新しい作品作って・・・

電柱柱のお母さん

―作品で取り返す! と。

坂元:はい(笑)。

―では、手法について少し聞かせてください。「電柱柱のお母さん」の、マンションの明かりが点滅して色々なイメージになって動き出すシーンがありますよね。あのシーンが私は凄く好きなんですけれど、どのようにして作ったのでしょう?

坂元:あれは本当に大変でしてね・・・。まず動画を描いてそれに黒い紙を重ね、動画に添って針で穴を開けて、ライトボックスの上にビルを置き、その上に黒い紙を重ねてひたすら撮影していったんです、何百枚分も・・・。だからあのシーンはパソコンでの合成などは一切してません。すべてアナログです。

―ひ~・・・ 気が狂いそうですね。

坂元:えぇ、もう狂いますよ(苦笑)。

―そうした手法はどうやって考えつくんですか?

坂元:いや、もう必死なんで、こうするしかないなみたいな感じでやってました。凄く要領の得ないやり方でも、これがイメージに合うものを出せるやり方だからやっていくみたいな。学校でも大まかなことは教えてもらうんですけどほとんどは自力で、やってみて駄目だったらまた工夫してという中で、ある程度のルールみたいのは気付いていきますね。

―凄い努力家なんですね!

あぁ、はい・・・。僕は、天才肌ではないので努力してます。好きな言葉が「勤勉努力活動発展」という新撰組の近藤勇の言葉です(笑)。

坂元友介インタビュー

―なるほど(笑)。そうして作られてきた中で、一番想い入れの強いのはどの作品ですか?

坂元:それは、「蒲公英の姉」ですね。同じ人形アニメでも「歯男」や「在来線の座席の下に住む男」とかと「蒲公英の姉」では人形が全然違うんです。以前はグロテスクな形にしたりわざと汚しをかけて雰囲気を持たせてたんだけど、それは割りと簡単なことでして。逆に、美しいものや綺麗なものを人形で表現できるようになりたいと思って作ったのが「蒲公英の姉」だったんです。

―新たな挑戦が形になった作品なんですね。今制作中のものはどんな作品でしょうか?

坂元:今回は、初めて撮影台ではなく、スキャナを使って制作しています。いわゆるCGアニメでして、やっぱりCGもやってみなければダメだ、時代の波にも乗らなければという、自分に対する課題でもあります。

―それはどこかで観られますか?

坂元:はい。1月19日から下北沢のトリウッドで僕の特集上映をやるので、その時に上映します。そこでは、過去のお蔵入りになった作品も恥を忍んで上映しますので、お時間のある方は足を運んでいただければと思います。

―楽しみですね! 是非観に行きたいと思います。それでは、最後に、今後制作を続けていく上で大切にしていきたいことは何でしょうか?

坂元:・・・とにかく前に進むこと、考え込んで立ち止まるよりも、がむしゃらに作り続けて気がついたら65歳! みたいな。アニメーションに関わらずですけれど、とにかく頑張って気付いたら65歳になっていてふと「大切なものって何だったっけ?」っていうのがいいですね。

―人生そのものが制作だ! みたいなね。

坂元:えぇ、そうです(笑)。

イベント情報

2008年1月19日より短編映画館トリウッドにて坂元友介の全作品を網羅した「坂元友介アニメーション全集」を上映。

プロフィール
坂元友介

1985年栃木県出身。高校在学時より油絵を学ぶ傍ら、独学で人形アニメーションを作り始める。初監督作品「息子の部屋」で、キリンアートアワード2002奨励賞を受賞。以降、次々に作品制作に取り組み、「在来線の座席の下に住む男」デジスタアウォード2004グランプリ、「焼き魚の唄」第5回ユーリー・ノルシュテイン大賞優秀賞、「電信柱のお母さん」東京国際アニメフェア2006企業賞&東京ビッグサイト賞、「蒲公英の姉」水戸短編映画祭準グランプリなど、数々の賞を受賞。また、文化庁メディア芸術祭上海展や東京国際映画祭、カルティエ財団現代美術館「私はそれを夢見ている」展など、国内外問わず多くの上映会に参加し注目を集める。最近では、NHK総合「星新一ショートショート劇場」にて人形アニメーション「ゆきとどいた生活」を制作。現在は東京造形大学大学院にてアニメーションの研究・制作に取り組んでいる。



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