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李纓(リ・イン)監督インタビュー

李纓(リ・イン)監督インタビュー

インタビュー・テキスト
早川すみれ
撮影:U-CO.
2008/03/26

なぜ、世界は靖国神社に注目するのか

―『靖国』は、右とか左、反日とかではなくて、もっと大きな視点で語られている。これは日本国内だけでなく、アジア全体にも向けられたものですか。

李纓:靖国神社にかかる問題、その解決の糸口が、日本やアジアだけじゃなく世界全体の戦争と、その記憶に対する問題にもつながると思います。この映画を世界中で公開して、その反応を見てみればわかります。いま世界のどこかで戦争が起こっていますね。どの国にだって戦争で戦死した人がいる、その遺族とその悲しみも必ず存在する。そして追悼したい気持ちも同じように存在しているんです。

一番肝心なことは、靖国神社では戦争で死んだ人をどういうふうに見ているかということです。それはアジアだけじゃなくて世界につながる問題です。戦争を始めるときは、どんな国でもそれが正しいと思って始めます。戦場に国民を動員する為に戦争を正当化して、戦没者を讃え、次を募る。靖国神社の存在は、国の為に犠牲になった人に対して贈られる大きな勲章です。正当化された戦争の象徴と<記憶>を残している場所、それは世界中を見てもここがかなり特別なものだと思います。戦争というものを、どういう方向に記憶していくか。何か一方的な角度からではなく、色んな角度から記憶しないと悪循環になります。そういった意味で、世界全てに繋がっている。

―すでに世界各国の映画祭で上映されていますが、他の国での反応はどうだったんでしょうか。

李纓監督

李纓:韓国では大きな反響がありました。韓国ではよく首相の靖国参拝が報道されていますが、「靖国刀」が靖国神社のご神体であることをみんな知らなかった。アメリカ人は、戦中戦後の日米の関係と実際の出来事をふまえて、アメリカがアジアに残している戦争責任の複雑さに対する自分たちの役割は何なのかを議論していました。これはアメリカがアジアに残した問題の一つでもあるんです。

ドイツ人の場合は、戦争中は日本と同盟国であったわけだけど、ドイツでは違法的な発言や行為が靖国神社では普通に行われていて、戦死した軍人に対しての扱いがドイツとは全然違うし、国の政治家たちが参拝するのは考えれないという反応でした。かなり衝撃的だったみたいです。

―日本では、「戦争」とか「平和」とか、その言葉を見ただけでめんどくさがって目も耳もふさぐ人がいるかもしれません。もしかすると私もそうなのかもしれない。所詮一個人が考えていることに意味があるのか、何か解決の糸口につながるのかもわかりません。

映画『靖国 YASUKUNI』より

李纓:まずは事実を知ることが必要です。その中で、本当に自分には関係ない問題なのか関係あることなのか判断すればいい。目を閉じて知らん顔してても何も始まりません。自分の知らない部分、語られない沈黙の部分をもう一度見つめ直してください。『靖国』は、あくまでもきっかけに過ぎません。私からの問題提起なんです。これが糸口であり、そこから始まるんです。

日本人は集団的な思考傾向を持っているからなのか、自分の無力感だとか個人で考えてもしょうがないと感じたりだとか、めんどうなところを曖昧にする傾向がありますよね。めんどくさいことを水に流して、あなたたちは全然違う世界に生きている様に感じているんでしょ? 自分は関係ないようにしてる。それが、一般に言われる「平和ぼけ」ですね。戦争の話だって、決して君たちの生活と遠い話じゃないよ。

―この時間といい、映画といい、とても意味のある時間になったことを嬉しく思います。ありがとうございました。

李纓:いえ、私自身、20代の若い人たちの考えていることが聞けてとても面白かったです。問題解決にはもっともっと時間がかかると思うけれど、それはこれからを作る若者たちの問題になると思います。若い人たちが考えることは本当の未来につながる。いま、事実を知らないままで、変なプライドだけ持っている人がいますが、自分の思う名誉や誇りとは一体なんなのかをよく考えるべきです。

最後に、李纓氏にとって靖国神社とはどういうところかという問いに対し、李纓は「人間の<生>と<死>が交錯する巨大な装置」と語った。いろんな「魂」と美学が注ぎ込まれていて、人間の思考力が生まれている場所、そこから蔓延しているものはとても大きいのだ、と。

『靖国』の宣伝担当者によれば、試写を終えて敏感に反応するのは若い記者や編集者だという。「若い人たちの方が、右とか左とかじゃなくてニュートラルな視点で感じようとしていると思いました」。

あなたは、どう考えるのか。それとも興味ないまま通り過ぎてしまうのか、私と同じ世代の人の反応が楽しみである。

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作品情報

『靖国 YASUKUNI』

2008年5月3日公開
監督:李纓
配給:ナインエンターテイメント

プロフィール

李纓

1963年生まれ。1984年、中国中央テレビ局のディレクターとしてドキュメンタリー制作に携わる。1989年に来日し、93年に映画テレビ番組制作プロダクション「龍影」(ドラゴンフィルムズ)を設立。 1999年、孫文の参謀を勤めた後日本に亡命した老人を描いた『2H』では、ベルリン映画祭最優秀アジア賞を受賞し、以来、数々の劇映画と記録映画の全てがベルリン映画祭に招待される。また、東京で中国伝統の味を守り続ける料理店の日本人夫婦を描いた『味』(2003年/NHK/龍影)はマルセイユ国際映画祭エスペランサ賞受賞。その他、日本のテレビ番組を数多く制作。作品に漂う独自のまなざしと感性が、いま世界中で注目されている。

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