不思議っぷり全開! henrytennisインタビュー

1年が経つのはものすごく早いが、3年半というと結構長い。2年半続いているカップルというのはよく聞くが、3年半というと一気にハードルが上がる(ような気がする)。それくらいの歳月だ。さて、henrytennisがファーストアルバムをリリースしたのが2006年の5月。それから3年半後の2009年11月11日、いよいよセカンドアルバム『R.U.R.』がリリースされる。オシャレさ、泥臭さ、激しさ、浮遊感といった相反する言葉を全部ひっくるめながらも美しくパッケージされたこの音楽には、音楽好きを熱狂させる力と、誰にでも伝わるポップさとが見事に同居している。日本音楽シーンの新たな境地を切り開くhenrytennisのリーダー・奥村さんの卓越した才能というか不思議っぷりに、インタビューは終始笑いと驚きの連続だった。

(インタビュー・テキスト:杉浦太一)

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60人からの愛情溢れるメッセージ

―ライブおつかれさまでした! 数ヶ月ぶりに見たんですが、だいぶパワーアップしてますね。

岸田(ドラム):ありがとうございます。今日は実はメンバー揃って体調崩し気味だったんですよ(笑)。でも、ライブの良し悪しって、ほんとにやってみないとわからないんですよね。「今日は完璧だ!」って思っても、やってみるとそうでない時もあるし。今日はいいかんじにできました。

植野(鍵盤):本番前に、奥村さんが小さい紙コップ持ちながらフラフラ歩いて来て、「・・・バーガーキングで水汲んでもらった。」って聞いて、「あぁ、この人だめだ。今日は完全にだめだ」って思って(笑)。でもまぁ、奥村さんの場合は普段からそういうところあるからね。

奥村(ギター):始まるまではわからなかったね。うまくいって良かったよ。

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―今日はセカンドアルバム『R.U.R.』について色々と聞いていきたいんですが、ファーストから実に3年半ぶりということで、henrytennisはこの期間、色んなことがあったんじゃないですか?

奥村: そうですね。なんと言ってもファーストアルバムをリリースした頃のメンバーで残っているのはぼくだけですからね(笑)。みんなそれぞれの理由があって離れていったんだけど、今のメンバーで新しいアルバムがつくれて、本当に嬉しいです。すごいセンスを持ったメンバーですから。

―バンドを続けていくっていうのは、大前提としてタフなことだと思うんですけど、そんな苦境にありながらもメンバーを集めて、これだけの作品をつくりあげる。その原動力は何ですか?

奥村:カッコいいことを言うつもりはないんだけど、ぼくの中で音楽はライフスタイルそのものなんです。だから、「やめる」っていう選択肢は最初からないんです。やっていきたい音楽っていうのは明確にあったから、それを一緒にできる人たちを集めてやろう、って。でもやっぱり、メンバーには本当に助けられていますね。

―助けた側としては、いかがですか?

植野:助けているようで、助けられているんですよ。助け合いですよ。

奥村:ありがたやありがたや。

岸田:いい話しだ!(笑) 早くもインタビューの締めっぽいですね。

―締まりましたね(笑)。ありがたやと言えば、このフライヤーですよ。60組の人のコメントがギッシリ。

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奥村:いやぁ、これはね。コメントもらう度に、みんなの愛を感じましたね。

―なぜ、こんなにもたくさんの人たちがhenrytennisや奥村さんのことを想ってくれるんですかね。

奥村:うーん、何もないですよ。「いつもニコニコしているのは疲れてるからなんでしょ?」ってこの前突っ込まれたし・・・。

植野:あっくん(バンドで最年少のサックス担当)にも、「表情を変えるのがめんどくさいからでしょ?」って言われてたね(笑)。

奥村:一番年下にこんなこと言われるんですから。

全員:笑

岸田:でもまぁ、主催イベントをたくさんやってきたから、っていうのはあるんじゃないかな。奥村さんはバンド活動だけじゃなくて、同じシーンにいるバンド同士でイベントをやったりしていて、そういう音楽シーンに対する積極的な活動が、支持を集めるきっかけになったとは思います。

奥村:バンドはライフワークとしてやっているわけなんですけど、イベントをやる時のモチベーションは、世界の音楽のレベルをフラットにしたいっていうことなんです。各国がバラバラなんじゃなくて、肩を並べて競いたい。そのためには、日本の音楽のレベルを上げないといけないんです。日本にいる良いバンドは、ほんとに良い。全く世界の音楽にも引けを取らないんですよ。でも、そういうアンダーグラウンドなところに光があたらないから、世界には届かない。そういう悔しい現状があるから、少しでも多くの人に日本の素晴らしい音楽を知ってもらって、日本の音楽のレベルを世界と並ばせられれば、っていう想いがあるんです。

2/3ページ:突然、「ちょっと待って! でっかいUFOが〜」って(笑)。

突然、「ちょっと待って! でっかいUFOが〜」って(笑)。

―11月11日発売の最新アルバム『R.U.R』ですが、ロック、プログレ、クラブミュージック、ジャズと、色んな要素が入っていました。本当に幅の広い音楽です。

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奥村:そうですね。やっぱりそれはメンバー一人ひとりのアレンジ力だと思います。10代の頃、レノン&マッカートニーに憧れたんですよ。なぜそこにパワーを感じたのかなって考えてみたら、脳みそが2つあるからだ、って思ったんです。違う考え方を持つ脳みそが2つあれば、プラスアルファの力を出すことができるって。だから、この2、3年にメンバー抜けてしまって誰を入れるかという時にも、そのプラスアルファになるって確信した人に声をかけていったんです。

―いくつも脳みそがあるから、これだけ幅の広い音楽が生まれるということですね。

植野:たしかにみんな個性は強いですね。

―でも、個性がぶつかり合うだけでは形にならないじゃないですか。『R.U.R.』は、これだけ色んな要素が入っているのに、音楽としてとてもまとまっています。全体を独特のポップさが包んでいるから誰でも聴きやすくて、でもバリエーションに富んだアルバムになったんじゃないかな、って思ったんですけど。

奥村:メロディを大事にしているっていうのはかなりありますね。メロディがポップじゃないと音楽じゃないとまで思ってます。メロディの集まりによって楽曲ができて、その合間合間にリズムが入る。音楽はそういうものだと思っています。だから、逆にリズムはお任せしちゃうことが多いんですよ。あまりリズム感がないので(笑)。

岸田:曲をつくっていくと、たまにとんでもない拍子になるんです。「これ、何拍子ですか?」「え、わからない。」っていう(笑)。

植野:「ここは崖を登ってる感じで」とか、「ここは夕日をバックに」とか言いますからね。

―え?

岸田:「UFOが自分の真上を通り過ぎていくかんじ」っていうことでやっていると、「いや、それじゃだいぶ高いんだよね。もっと自分の真上をUFOが通り過ぎるかんじ」って(笑)。

―めちゃくちゃ斬新ですね(笑)。というか、その奥村さんのオーダーを具現化するメンバーの表現力がすごい。奥村さんはそういう、ビジュアルなところから曲をつくっていくことが多いんですか?

奥村:そうですね。曲を映像喚起力のあるものにしたいと思っていて、曲1曲に対して、1本の映画ができるくらい、映像のイメージを音だけで表現できたらいいなってつくづく思っています。

―最初から映像が浮かび上がっているんですか?

奥村:いや、自分の弾いたフレーズを繰り返しているうちに情景が浮かんできて、この情景でやればいい曲ができるなと思ったら、その情景を伝えるんです。

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―(他2人に対して)伝えられるわけですね?

植野:うん、伝えられる。突然、「ちょっと待って! でっかいUFOが〜」って(笑)。

―最高のメンバーですね(笑)。ちょっと話が変わりますが、今回のアルバムタイトル『R.U.R.』って、何か由来があるんですか?

奥村:もともと、チェコのカレル・チャペックっていう作家の戯曲のタイトルなんですよ。アンドロイドのお話しなんだけど、アンドロイドをとても有機的に描いている小説なんです。そういう、無機的なものを有機的に表現するということが、自分たちの音楽で今回できたことなんじゃないかと思って、このタイトルにしました。

―無機的なものっていうのは?

植野:henrytennisの音楽って、フレーズの繰り返しとか、すごくミニマルですよね。そういう意味では無機的っぽいんだけど、聴いてみるとその中に有機的なものが感じられるっていうことですね。

―意味深なタイトルなんですね。最後に収録されている”oslo”ですが、最後にグワーって盛り上がるんですけど、あれは?

奥村:ビートルズの『LOVE』ってあるじゃないですか。あの中の”ストロベリー・フィールズ・フォーエバー”の編集の仕方がものすごくって、いつかやってみたいなって思ってたんです。

岸田:そう、あれはまさにUFOが来てるんですよ。

奥村:そう、UFO終り。UFO締め。

―あ、そうつながるんですね(笑)。

3/3ページ:小学校6年の時、“ヘイ・ジュード“を聴いて、びっくりして停止ボタン押しちゃって。

小学校6年の時、“ヘイ・ジュード“を聴いて、
びっくりして停止ボタン押しちゃって。

―そんな奥村さんが、音楽をそもそも始めたきっかけってなんだったんですか?

奥村:小学校6年生くらいの時に…

―はやっ(笑)

奥村:よく駅前で売っているような、ビートルズの海賊版ってあるじゃないですか。あれをおふくろが買ってきて、家で突然“ヘイ・ジュード”が流れたんです。それがあまりにも驚きで、その時手にしていた『ムーミン谷の冒険』を放っぽり出して、Aメロが終わったところですぐに停止ボタンを押したんです。「一体何が起こったんだろう」ってわけがわからなくなって。それで巻き戻してもう一回Aメロから聴いて、Bメロのところでまた巻き戻してBメロを聴き直してって繰り返して、一向に前に進めない…。

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―とんでもない小6ですね。

奥村:もうそれ以上は聴けなくなっちゃったんですよ。完全に自分のキャパをオーバーしてたんです。

―情報量が多過ぎちゃったんですね、ビートルズが。

奥村:後から聞いたら、当時僕は男闘呼組(おとこぐみ)に興味を示したりしていて、母親が「あぶない、あぶない、センスの悪い子に育っちゃう」って思って狙ってビートルズを聴かせたらしいんですけどね。

―そう考えるお母さんもすごいけど、それに反応する子供も子供ですね。早熟にもほどがある…。そんな小6からの音楽人生の中で、一番嬉しかったこととか、あるんですか?

奥村:2006年に木曽鼓動っていう野外フェスティバルに出演して、13分くらいの長い曲をやったんですね。最初はゆっくりした感じで、最後に開放的になる曲なんですけど、その開放的になる時に、Dのコードをジャーンって弾いたんです。その瞬間に、周りの木がその音に反応を示したような感じになったんですよ。

―え? 木ですか? ……でもまぁそれは、ものすごく気持ち良さそうですね。

奥村:あれはヤバかったです。

―植野さんはどうでしょう?

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植野:フェスはやっぱり楽しいですよね。あと、ライブをしている時に、ある曲のある部分でメンバー同士で目を合わせちゃうところがあるんですよ。たぶんお互いあんまり意識はしていなくて、ライブ終わった後も「目が合ったよね」みたいなことは言わないんですけど、そこがなんか寅さんっぽくて、好きなんですよね(笑)。

岸田:ぼくの場合は直接的ではないんだけど、音楽をやっているおかげで色んなところに行けたり、色んな人と出会えることですかね。海外なんてライブしに行ったことしかないし、色んなことを共有できる深い人間関係もたくさんできるし。

―なるほど、では最後に今回のアルバム、どんな人に聴いてもらいたいですか?

奥村:普段洋楽を聴いている人に聴いてもらいたいですね。洋楽を聴く人って、インディーズは聴かないじゃないですか。そういう人に、日本のインディーズも捨てたもんじゃないな、って思ってもらうことがスタートかと。

岸田:ぼくはあまりライブハイスに行かない人に聴いてもらいたいですね。やっぱりライブハウスに行く人って、全体で考えれば圧倒的に少ないじゃないですか。だから、少しでもその外にいる人たちに聴いてもらえたら嬉しいです。

植野:岸田君が言うように、このアルバムはポップさがとても出ていると思うので、どんな人でも聴ける音楽になっていると思います。インストミュージックを聴いたことがない人にも聴いてもらいたいですね。あとは、奥村さんみたいな小学6年生に聴いてもらえたら大成功なんじゃないでしょうか。

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リリース情報
henrytennis
『R.U.R.』

2009年11月11日発売
価格:2,500円(税込)
CINRA RECORDS DQC-365

1. Valencia raincoats
2. Jesus
3. Dortmund in the sky
4. red cats
5. circle
6. Weekday heartbreak
7. Song to say hello
8. Holy Ghosts
9. oslo

プロフィール
henrytennis

NEW WAVE OF PROGRESSIVE ROCK。Gt、Ba、Dr、Key、Sax、Glocken、PCによって奏でられる音楽は、インストゥルメンタル主体の生楽器によるミニマリズムを重視した音楽性を基本に構築され、豊かなリズムと音の波が押し寄せ、グルーヴを創り上げる。そのミニマルなリズムに突如、ユニゾン、変拍子という展開を挿入し、既存のインストバンドとは違うダイナミズムを持ち合わせ、多くの人を圧倒させる。09年11月11日に、2ndアルバム『R.U.R.』をリリースする。



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