ROVO インタビュー

各人がトップ・プレイヤーとして活躍するメンバーを擁し、人力トランス・バンドの先駆者としてカリスマ的な人気を誇るROVOが、日比谷野外音楽堂での年に一度の恒例イベント、『MDT FESTIVAL 2010』(以下、MDTフェス)を5月16日に開催する(共演はキセルとenvy)。別名「宇宙の日」とも呼ばれるMDTフェスは、野外ならではの環境を踏まえた壮大なスケールの演奏、巨大なキャンバスを最大限に活かした映像演出など、この日この場所でしか体験することのできない絶対に生で体験してほしいイベントだ。中心人物である勝井祐二氏に、改めてROVOの成り立ちから、MDTフェスの特別性についてまで、たっぷりと話してもらった。

(インタビュー・テキスト:タナカヒロシ 撮影:柏井万作)

レイヴ・カルチャーに触発されたROVOの始動

―ROVOは96年結成なので、もう15年ですよね。そもそもバンドを始めたきっかけは何だったんですか? 資料には「宇宙っぽい音楽をやろう」と言って始まったとありますけど。

勝井:いや、そう書いたらおもしろいかなと思って(笑)。最初はね、すごくシンプルでミニマルなことと、当時のテクノみたいなダンス・ミュージックをリンクできないかと考えてて。ひたすらシンプルに同じことを繰り返していくと、いつの間にか宇宙を感じられるような、すごいでっかいものができるんじゃないかって。

―いまはフォロワーみたいなバンドも多いですけど、当時としては新しい音楽性だったのでは?

勝井:ROVOの音楽は、新しいのか古いのかよくわからないところがあって。だってテクノはもちろん、ミニマル・ミュージックなんて60〜70年代からあったわけだし。僕らがROVOを始めた頃に興味を持っていたのは、ミニマルで繰り返す、それをバンド編成でやるっていうこと。そしてそれを、クラブでDJがかけるレコードと同じような役割で、ダンス・ミュージックとして機能させること。それに関しては、まだ誰もやってなかったかもしれないですね。

ROVO インタビュー
勝井祐二

―始めた頃って、まわりの反応はいかがでした?

勝井:90年代の頭にイギリスに行って、ロンドンのレイヴ・カルチャーを体験したんですけど、こりゃすごいのがあるなと思って、日本でもそういうパーティーをやろうとしたんです。そのときの仲間が、RHYTHM FREAKSっていうドラムンベースを日本で最初に紹介したDJチームなんですけど、一緒にパーティーをやる前に、「新しいバンドを作ったから見に来てくれ」ってライブを見てもらったら、「いま自分たちがかけてるドラムンベースのビート感に近い」って、すごく反応してくれたんですよね。それで一緒におもしろいことできないかなって。

―それでライブを実際にやってみたんですか?

勝井:そうそう。RHYTHM FREAKSのパーティーに出たんですけど、彼らは当時すごく注目度が高くて、僕らは始めたばかり。RHYTHM FREAKSのお客さんが相手だったんですけど、DJが交代していくなかにバンドとしてDJからビートを引き継いで出て行って。そしたらお客さんも「あれ? バンド? まぁ、引き続き踊れるからいいか」みたいな感じで。それで1時間くらいのライブをやったんですけど、最後のほうはこっちも予想してなかったくらい盛り上がって、変な一体感まで生まれて。手応えみたいなものは、ものすごくありましたね。



このROVOっていうバンドは、ちゃんと世界観を共有できるというか、希望が持てるなと本当に思ってて。

―曲作りは勝井さんが基になるメロディーを決めて、そこから発展させてるんですか?

勝井:セッションから発展させることもあるんですけど、一番多いのは僕かギターの山本(精一)さんが、「こんなリズムでこんなことをやりたい」とか、「こういうメロディーと展開を考えたので、これを基にアレンジを考えていきましょう」とか。そういうのが多いですね。

―何かしらテーマやキーワードを提示して、そこから広げていく。

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勝井:そのキーワードもおもしろいんですけど、前に山本さんが、「抽象的なラテンみたいなのを叩いてくれへんかな」ってドラムの芳垣さんに言ったんですよ。「抽象的なラテン」ってすごいこと言うなと思ったんですけど、さすが芳垣さん、「うん、わかった」って叩き始めて。「うわっ、そのリズムなんだ!」みたいな。山本さんはそういうイメージ的なことをいっぱい言うんですよね。「すずらんみたいなベース弾いてくれ」とか(笑)。

―全然想像できないですね(笑)。でも、その発想が、オリジナリティとか、意外性を生んでいるんでしょうね。

勝井:そうですね。僕らも常に当たり前ではない発想で臨もうとはしているので。「そのフレーズちょっとダサイんじゃないの?」みたいなこともみんな平気で言うし。10年以上同じメンバーでやっているので、お互いにわかっていることも多いし、年月をかけたからできるアンサンブルもあると思うんですよね。

―そのすずらんみたいなベースとか、抽象的な表現を音を通して会話できることが、ROVOをやるうえでの醍醐味のひとつにもなっている思うんですけど。

勝井:もちろんそれもありますけど、やっぱり僕たちじゃないとできないサウンドが作れて、曲が作れて、僕たちが演奏することで向かっていける他にはない世界観っていうものを、メンバーがちゃんと共有しているから向かえる先というのがあって。それがあるから、いろんなことがありながらも、バンドを一緒に続けていけるということだと思うんですよね。

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―信頼関係ですね。

勝井:このメンバーじゃできないなとか、絶望することとか、希望が持てないことが、何かひとつでもあると続けられないと思うんですよ。でも、僕はこのROVOっていうバンドは、一緒に作ってきたスタッフも含めて、ちゃんと世界観を共有できるというか、希望が持てるなと本当に思ってて。それが15年も続けられる原因だと思いますね。

『MDTフェス』ならではの映像演出

―ここ何年かでフェスが一気に増えてきて、音楽の楽しみ方も変わってきたと思うんですけど、ROVOはものすごくたくさんのフェスに出ているじゃないですか。そういったことで、何かバンドに影響を与えたものはありますか?

勝井:バンドの音楽に影響があったかというと、そんなにないと思うんですよね。ただ、演奏するときの気持ちとか、曲順とかはそのときの状況で変わるので、そういうのにはすごく影響があったと思いますね。

―曲順も状況次第で変わるんですね。

勝井:野外フェスに出るときはギリギリまで決めないんですよ。その場所ごとの雰囲気とかあるじゃないですか。昼とか夜とか、雨が降ってるか降ってないかだけでも違うし、ちょっと寒いから、1曲目から踊りやすい曲のほうがいいんじゃないかとか。昼間で天気もよかったら、そんなにアッパーな曲じゃないほうが気持ちよく聴けるんじゃないかとか。そういう場所とか、そのときの環境っていうのは、すごく影響するし、考えますね。

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―毎年野音で『MDTフェス』をやってるのは、そういうROVOの魅力を発揮しやすい会場だからということもあるんでしょうか?

勝井:もともとは東京で野外でやりたいと思ってたんですけど、イベントを始めた2003年頃はなかなかそういう場所も機会もなかったんですよね。それでスタッフも含めてみんなで相談したら、日比谷野音っていうのがあるなって話になって。

―今から考えれば、最高なロケーションですよね。

勝井:あれだけの都心で、野外でできる気持ち良さを味わえる場所は他にないですよね。『MDTフェス』に関して言うと、5月っていう時期もよかったですよね。最初はそんなに深く考えて決めたわけじゃないんですけど、1年目が本当に天気がよくて気持ちよくて。それもあって続けようってなったんですよ。あとは、日比谷野外音楽堂とか京都大学西部講堂って、いろんな歴史があって、日本のロックの聖地みたいなところじゃないですか。そういう場の持ってる力というも感じますよね。

―僕は野音の大きな壁を使った映像がすごいなと思ったんですけど、野音だからこそできることみたいなものは?

勝井:やっぱり、その壁というか、あれはもう巨大なキャンバスですよね。映像演出は、ずっと一緒に組んでる迫田悠さんに任せてるんですけど、最初はそんなすごいことになってるなんてわかんなかったんですよ、演奏してるときは見えないので。でも、まだ曲のイントロでドラムの2人がハイハットかなんか叩いてるところで、お客さんがウワーッて沸いた瞬間があって。俺は「すげー、ハイハットで沸いた!」と思ってたんですけど、そこですごい映像演出が出てたらしくて。後日録画してたビデオ見せてもらったら、もうすげーなって。

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―迫田さんの映像は、『MDTフェス』にとってかけがえの無いもののひとつですね。

勝井:本当にそうですね。『MDTフェス』は空がまだ明るいうちに始まって、先に一緒にやってもらうバンドが出て、僕らが始まる頃には陽が落ち始めて、だんだん暗くなって。明るいうちは映像も見えないんですけど、日が暮れていくにしたがって映像演出がクロスしてくる。そのダイナミクスが野音は特別だと思いますね。

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―そこまで考えて演出されていたんですね!

勝井:イベントを始めた頃はそこまで狙ってなかったんですけど、いまはすごくそれを意識して作ってます。これが屋内の会場だと、最初から暗いとか明るいとか作れるわけじゃないですか。そうじゃなくて、時間の変化というか、明るいのが暗くなるっていう当たり前のことなんだけど、それがこんなにダイナミックなのかっていうことを、お客さんも含めて共有できる。そこが他のライブと一番違うところじゃないですかね。 だから年に1回ですけど、バンドにとって一番大事な日というか。規模が大きいっていうだけじゃなくて、やっぱり特別なんですよね。あれを軸に1年の動きが決まってるくらいの感じなので。

今年の『MDTフェス』はキセル、envy、ROVO。「本当に僕が一緒にやりたかったバンドにお願いした」

―今年も5月16日に『MDTフェス』がありますね。お客さんには、どういうふうに楽しんでもらいたいですか?

勝井:もともとはダンス・ミュージックをやろうと思って始めたバンドですけど、別に踊らなくたっていいと思うんです。寝転がって聴きたい人は寝転がって聴けばいいし、踊りたければもちろん踊ればいい。ボーッと突っ立って聴いててもいいわけだし。だから、『MDTフェス』はお客さんの座席を決めてないんです。みんな好き勝手なところに行くし、踊ってるやつ、走り回ってるやつ、いっぱいいる。僕らはそれが楽しいと思うし、決められた場所で見るんじゃなくて、自分で能動的に参加することで、もっと楽しめると思うんですよね。踊るもよし、酒飲むのもよし。まぁ、飲み過ぎて潰れてる人が本当にたくさんいるんですけど(笑)、それでもいいんですよ。スタッフの目撃例で一番すごいなと思ったのが、友達同士で誕生パーティーやってたっていう。ケーキ持って来て、「ナニナニちゃん、おめでとー!」って。

―何しに来てるんだか(笑)。

勝井:でも、それはそれで楽しいと思うんですよね。ここに座って、こうしていなきゃいけないっていうコンサートじゃなくて、楽しみ方は自分で作る。フェスもそうですよね。僕らFUJI ROCKとかRISING SUNとか、フェスには初期の頃から出させてもらいましたけど、そういう音との向かい方に関しては、すごくいい関係を作ってこられたなと思いますね。

ROVO インタビュー

―僕的には、ROVOは曲を知らなくても楽しめるということを伝えたくて。ROVOの曲って、1曲が普通に15分とかあるので、正直なところ曲の構成とか覚えられなかったりするんですけど、それでもすごく楽しめるんですよね。

勝井:知ってる曲を確認しに行くのとは違う楽しみ方はできるかもしれないですね。お客さんに「こないだのライブ行きました。最後のあの曲、“CISCO!”最高でしたね!」と話しかけられ、「あの日は“CISCO!”やってませんよ」っていうようなことはよくあります(笑)。まぁ、でも、よかったからいいんじゃないの、みたいな。

―なるほど(笑)。今回の野音は対バンもちょっと異色ですよね。envyとキセル。

勝井:ずっと一緒にやりたいと思ってたバンドなんで。僕らがダンス・ミュージックに基盤を置いているからといって、そういうバンドばっかり集めなくてもいいと思うんですよ。楽しみ方っていろいろあると思うし。野音のイベントは今年で8年目なんですけど、形態としてはフェスティバルと同じだと思ってるんです。そう考えると、もっと幅の広い音楽の在り方というか、そういうことが成り立つんじゃないかなと思ってて。

ROVO インタビュー

―勝井さんご自身は、envyとキセルのどういう部分を楽しみにしてます?

勝井:僕ね、envyを最初に見たのが野外だったんですよ。すっごい天気のいい日で、芝生が広がってるところで、寝転がって見てたの。「これがenvyか」みたいな。そしたら本当にかっこよくて。この人たちがこの音楽をやらなきゃいけないっていう純度の高さ。強さ。その説得力ですよね。寝転がってビール飲んでたはずが、気付いたら最前列まで行ってて。その記憶が大きくて、一緒にやれたら素敵なんじゃないかなと思ってたんです。 キセルのほうは、実はずーっと候補になってたんですよ。キセル好きなROVOのメンバーも多くて。毎年候補に挙がってたんですけど、全体の流れを考えると、なかなかバランスを取れなくて、断念してたんです。でも、今年はキセル、envy、ROVOでいっぺんにどうだ、みたいな思いつきがあって。メンバーやスタッフも賛成してくれたので、本当に僕が一緒にやりたかったバンドにお願いしたということ。今年はそれに尽きますね。

―ROVOに関しては、どんなパフォーマンスを?

勝井:年に一度の野音を楽しみに来てくれてる人もいるので、新しい曲は何曲かやります。これまでやってない新しい試みも当然あって、いまそれに向けて準備をしてます。映像の演出も、いつもよりもっと野音っていう場所を空間的に捉えられるような、あの場所自体を立体的に感じられるようなアイディアを考えてるので、それは楽しみにしてほしいですね。 それから、去年の9月にBuffalo Daughterの大野由美子さんとパーカッションの高良久美子さんをゲストに迎えて即興演奏のライブをやったんですけど、それをオフィシャル・ブートレッグという形でCDにして、野音に向けたツアーから会場限定で売っていこうと思ってます。 あとは、飲み過ぎ注意ってことかな。毎年酔いつぶれてる人が本当に多いので。楽しみ方は自由なんですけど、いちおうライブも見てください(笑)。

イベント情報
『ROVO presents MDT FESTIVAL 2010 !!!!!!!!』

2010年5月16日(日) OPEN 15:00 / START 16:00
会場:東京・日比谷野外音楽堂

出演:
ROVO
envy
キセル

料金:前売4,500円(全席自由)※当日券未定

『ROVO TOUR 2010 !!』

2010年5月6日(木) OPEN 18:30 / START 19:30
会場:大阪・梅田シャングリラ
料金:前売3,500円 当日4,000円(ドリンク別)

2010年5月7日(金) OPEN 18:30 / START 19:30
会場:名古屋・ボトムライン
料金:前売3,500円 当日4,000円(ドリンク別)

2010年5月8日(土) OPEN 17:30 / START 18:30
会場:京都・磔磔(ワンマン)
料金:前売3,500円 当日4,000円(ドリンク別)

プロフィール
ROVO

勝井祐二(Vln)、山本精一(G)、芳垣安洋 (Dr/Per)、岡部洋一(Dr/Per)、原田仁(B)、益子樹(Syn)。「何か宇宙っぽい、でっかい音楽をやろう」と、勝井祐二と山本精一を中心に結成。バンドサウンドによるダンスミュージックシーンの先駆者として、シーンを牽引してきた。驚異のツインドラムから叩き出される強靱なグルーヴを核に、6人の鬼神が創り出す音宇宙。音と光、時間と空間が一体となった異次元時空のなか、どこまでも昇りつめてゆく非日常LIVEは、ROVOでしか体験できない。“フジロック・フェスティヴァル”、“ライジングサン・ロックフェスティヴァル”、“メタモルフォーゼ”、“朝霧JAM”、“アラバキ・ロックフェス”など、大型フェス/野外パーティーにヘッドライナーとして連続出演し、毎年5月には恒例の日比谷野音を熱狂させる。国内外で幅広い音楽ファンから絶大な信頼と熱狂的な人気を集める、唯一無二のダンスバンド。



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