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大橋可也×佐々木敦×西中賢治『春の祭典』鼎談

大橋可也×佐々木敦×西中賢治『春の祭典』鼎談

司会・構成
黒川直樹
写真:小林宏彰

第四幕 「こころ」を視るダンスの可能性? 痩せた口づけに大地が踊る。

─さて、大橋さんは『春の祭典』に出演されますが、ご自身の作品で踊るのは、およそ3年ぶりと伺っています。どのような心境の変化があったのでしょうか。

大橋:しばらく踊らずにいたのは、自分がダンスすることに押し付けがましさを感じていたからです。黙って座っているだけでも、体の存在感は大きいのに、と。

佐々木:いま大橋さんがおっしゃったお話は、かつて僕が演劇を苦手としていた理由、そのままです。

大橋:僕はダンサーに振付けをしているうちに、「踊るのも踊らないのもどちらでもいいな」という気持ちになりました。『春の祭典』に出演することにしたのも、こういった気持ちの変化が大きいです。

西中:大橋さんは、どのような気持ちでダンスの振付けや演出をされるのですか?

大橋:これは僕の人生観でもありますが、ダンサーに正しさを求めることはありません。動きのなかにエラーがあってもいいし、ダンサーが見せてくれる偶発的な動きが面白ければ、それを活かせる形や流れに振付けを換えてしまいますしね。

大橋可也×佐々木敦×西中賢治『春の祭典』鼎談
西中賢治

西中:大橋さんは「帝国ペーパー」(※『帝国、エアリアル』のリリースメディアとして、大橋可也が批評家、政治批評家、写真家など、多分野で活躍する有識者との対話にダンスシーンの可能性を模索したフリーペーパー)で、秋葉原無差別殺傷事件の犯人である加藤智大について「事件を起こす前、彼に稽古場に来て欲しかった」と書かれていました。

のちに明かされた殺人の動機を聞けばわかるように、あれは彼にとってまさに身体を用いたパフォーマンスでした。この行為と、大橋さんの作る、心の辛さが増殖するようなダンス作品とでは、どのように異なるんでしょうか。

大橋:秋葉原の通り魔事件は本当に衝撃的でした。彼のやり方は、たしかに身体を用いたパフォーマンスだったとも言えますが、非常に稚拙でしたし、決して許されるものではありません。ただ、彼の疎外感や虚無感には、シンパシーを感じています。これらは自分も苛まれてきた感情でもありますから。

西中:公演のフライヤーにも書かれている「生きづらさ」の感覚にも通じそうですね。お話を聞いていて、大橋可也&ダンサーズ作品に頻出する「人が人を拒絶するように見えるダンス」を思い出しました。

大橋:僕は生きることが楽になってはいないけれど、ダンスに携わることでかろうじて「生きづらさ」に向き合うことができているし、社会に関われているんです。いま、迷ったり悩んだりしている人には、そういった「何か」を見つけてもらえたらと思いますし、僕たちの公演を、そのきっかけにしてもらえたら何よりですね。また、ダンスの「身体を通して精神を客観的に捉える」という可能性は、これからも積極的に肯定していきたいと思います。

大橋可也×佐々木敦×西中賢治『春の祭典』鼎談

─佐々木さんは、大橋可也&ダンサーズ作品に何を見ていますか?

佐々木:大橋さんは、メディアに対して社会性の高いメッセージを発信することもあるアーティストですが、だからといって、作品が直接的で政治的に偏っているかというと、むしろその逆で、そこに魅力があると思います。

大橋さんが作品に、社会への問題提起や現代人への啓蒙を込めていることは分かりますが、観客の目に見えるのは、ダンスを踊る身体の、かなり抽象性の高い動きだったりするんです。

─それは、ダンスで思想的な問題を扱う際につきまとう困難でもありますね。

佐々木:作品の特徴については、先ほど西中くんから「フランシス・ベーコン」という示唆があったように、大橋可也&ダンサーズ作品は、もしかするとある種の露悪的な表現と受け取られるかもしれない。でも、現代をスケッチしようとするとき、大橋可也のキャンパスに、そういった事象が浮かび上がってしまっているのではないか。つまり、そこには必然性があり、リアリズムがある。僕は個人的には、そうしたプロセスこそが、ダンサーや風景を「写実的=即物的=非人称的」の等式で結ぶことができ、かつ、信頼感の置ける現実のスケッチを得られるための方法だと思っているんです。

─大橋さんは自衛隊に勤めてらした時代もありますし、スポーツサイクリングなどダンス以外の運動のご経験も豊かですが、そういった運動にはないダンスならではの魅力とはなんでしょう。

大橋:まず「楽しさ」ですね。ダンスのように体を動かすのは楽しいですよ。トレーニングやスポーツにない要素としては、自分でルールが作れることでしょうか。

─ルールとは?

大橋:どのように動くか、どのようにアイデアを浮かべるか、どのように移動してどのように動きを続けるか。すべて自分で決めることができます。とはいえ、子どもの頃は体を動かすのが大嫌いでした(笑)。

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イベント情報

大橋可也&ダンサーズ新作公演
『春の祭典』

2010年5月14日(金)19:30
2010年5月15日(土)15:00 / 19:30
2010年5月16日(日)15:00
※開場は開演の30分前
会場:シアタートラム(東京・三軒茶屋)

出演:
大橋可也
垣内友香里
皆木正純
前田尚子
多田汐里
山田歩
唐鎌将仁
平川恵里彩
エフテル・プリュン
HIKO(from GAUZE)

料金:
10代(9歳以下含む)1,000円 20代2,000円 30代3,000円 40代4,000円 50代以上5,000円
※当日料金はそれぞれ500円増

ポストパフォーマンストーク
2010年5月16日(日)17:30〜
会場:シアタートラムロビー
出演:
佐々木敦(批評家)
森山直人(演劇批評)
大橋可也
※ご観覧される方は、「春の祭典」チケットの半券をお持ちください

プロフィール

大橋可也(おおはしかくや)

1967年、ユニクロの発祥地として知られる山口県宇部市生まれ。大橋可也&ダンサーズ主宰・芸術監督。横浜国立大学卒業。イメージフォーラム付属映像研究所卒業。陸上自衛隊第302保安中隊(特別儀仗隊)出身。システム開発の業務に携わりながら創作活動を続ける。カンパニー外での振付け作品には、東野祥子(BABY-Q)に振付けた『9(nine)』(2007年、多摩美術大学八王子図書館ほか)、東京シティ・バレエ団ダンサーに振付けた『愛と誠』(2009年、ティアラこうとう)がある。

佐々木敦(ささきあつし)

1964年生まれ。批評家。HEADZ主宰。雑誌エクス・ポ/ヒアホン編集発行人。BRAINZ塾長。早稲田大学および武蔵野美術大学非常勤講師。『ニッポンの思想』『批評とは何か?』『絶対安全文芸批評』『テクノイズ・マテリアリズム』など著書多数。

西中賢治(にしなかけんじ)

1978年生まれ。大阪府出身。批評誌「アラザル」同人で、主に現代美術に関する論考を発表。また、学生時代より現在まで商業誌の編集ライターとして活動。専門はアイドル、アニメ、同人文化、秋葉原。

大橋可也&ダンサーズ(おおはしかくやあんどだんさーず)

土方巽直系の舞踏の振付け方法をベースに、現代における身体の在りかたを問う作品を提示し続けるダンスカンパニー。 1999年、結成。2000年、「バニョレ国際振付け賞ヨコハマプラットフォーム」に出場するも、出演者が全裸であるという理由で非公開の審査となる。その後、活動を休止。2006年より「明晰」三部作の発表を開始。2008年に上演した『帝国、エアリアル』では、秋葉原連続殺傷事件を題材に鈴木邦男、椹木野衣ら、各界の著名人を巻き込んだフリーペーパーを制作、配布するなど、ダンスの枠組みを大きく超えた活動をおこなっている。
主な作品に、『あなたがここにいてほしい』(2004年、STスポットほか)、『明晰さは目の前の一点に過ぎない。』(2006年、吉祥寺シアター)、『明晰の鎖』(2008年、吉祥寺シアター)、『帝国、エアリアル』(2008年、新国立劇場小劇場)、『深淵の明晰』(2009年、吉祥寺シアターほか)などがある。

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