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表現とは罪を犯すこと 瀬々敬久×中原昌也対談

表現とは罪を犯すこと 瀬々敬久×中原昌也対談

インタビュー・テキスト
田島太陽
撮影:小林宏彰

「美意識」にこだわりすぎるのは危険?

―そもそもの話になりますが、お2人の出会いはいつだったんでしょう?

瀬々:僕のピンク映画の処女作で、出演してくれる若い男の子を探していたら、監督の松井良彦さんに中原さんを紹介されたんですよ。新宿で会ったんですよね。そうしたら彼は最初に「尻を出さないといけないんですか!?」って聞いてきて(笑)。

中原:まだ10代の頃でしたから。高校を中退してピンク映画に出ているなんて、もう人生終わりだなって思ったわけですよ(笑)。でもよくよく台本を読んだら、別に尻を出さなくても良い役だった(笑)。

―では、もう20年以上の付き合いになるんですね。

中原:でも、それ以来長いこと会っていなかったんですよ。それからずっと経って、あるパーティーで再会したんですよね。それで僕が気付いて挨拶して。

瀬々:まさかあの時の高校生だとは思いませんでしたけどね(笑)。でも、再会もかなり前だから、結局長い付き合いですね。

中原:そういえば、この映画がきっかけでドストエフスキーの『罪と罰』を読み始めてみたんですが、途中で挫折しちゃいました。

瀬々:『罪と罰』読んでないんですか!? 小説家なのに。

中原:小説家じゃないですよ! 文章書くのキライなんですから。

瀬々:じゃぁ映画を撮ってみればいいんじゃないですか?

表現とは罪を犯すこと 瀬々敬久×中原昌也対談

中原:簡単に言いますね(笑)。でも当然のことですが、映画制作も大変でしょう。監督だけじゃなくて、役者やカメラマンの意思も反映されているのが映画の面白味だと思いますが、やっぱり自分が作るとなると全てをコントロールしたくなるんですよ。それは映画においては無理だし、できたものもつまらないですよね。

瀬々:作り手の「我」が見えてしまう作品は、あまり面白くないことが多いですよね。サッカーでも「審判が目立つ試合はよくない」って言われるらしいですが、それと一緒です。

中原:確かにそうですね。でも瀬々さんの映画って、そうした「我」を見せたいという欲望から解放されている気がするんですよ。普通だったらもっとカッコつけそうなのに、イマイチ洗練されていない感じが素敵なんです。

瀬々:それ、褒めてくれているんですか?(笑)

中原:もちろんです! 僕は映画的な洗練ってガンだと思っているんですよ。「フィルム的質感が欲しいんだよね」なんてカッコつけて言う人がいますが、そんなものはいらないんです。洗練に背を向けるという姿勢が、観ていて気持ちがいいんですね。

瀬々:確かに「美意識」というものにこだわりすぎるのは危険だと思っています。もちろん洗練イコールダメというわけではなくて、方法と内容がマッチするかどうかが大事だと思うんですね。外見だけが突出しても、うわべだけの表現にしかならないんですね。

中原:うん、やっぱりそうですよね。

瀬々:「あのシーンはどう撮ったんですか?」なんていう質問がよくありますが、そんなことはどうでもよくて、やりたいことと技術は一緒にならないと意味がないし、良い作品には必ずそれがありますよ。

若い人が「状況に向き合って何かを作る」ことが少ない

―映画の公開に合わせて発売された著書『瀬々敬久 映画群盗傳』はどういった内容なのでしょうか?

瀬々:前半は90年代からわりと最近までに書いていたエッセイをまとめたもので、後半は『ヘヴンズ ストーリー』についての内容です。エッセイに関しては、自分の悩みがそのまま出てるので、当時の時代の移り変わりがすごく表れていると自分で思ってます(笑)。社会の転換期の中で自分が何を考えていたか、映画界がどう変わってきたか、そんなことも読み取れると思います。単なる映画監督のエッセイではなくて、時代性も感じてもらえるんじゃないかと。

表現とは罪を犯すこと 瀬々敬久×中原昌也対談
©2010ヘヴンズ プロジェクト

―では最後に、この映画を特に観てもらいたいと思っている人について教えてください。

瀬々:やっぱり、若い人にこそ観てほしいです。この映画の冒頭で、おしっこを漏らしてしまう女の子が出てきますけど、ああいう自分の殻に籠った子どもたちってたくさんいると思うんです。そこからしだいに世界に触れて、どんどん変わって行く時期を描いているつもりなので、実際にそういう年代にいる人たちに観てもらいたいですね。僕らは今大変な世の中にいることは間違いなくて、その中でこういう映画があるということを知ってほしいし、この作品を観てどんなことを思ってくれるかにも興味があります。

中原:今は若い人が状況に向き合って何かを作るということが少ない気がしています。だからこそ、技術ばかりにこだわったオタクっぽい作品づくりに走ったりするんじゃないかと思うんです。この作品は、時代の流れを捉えた映画であることにまず感動したし、これからはそういう状況を踏まえてしか良い映画って生まれないんじゃないでしょうか。

瀬々:最近は富田克也(『国道20号線』など)くんとか松江哲明(『ライブテープ』など)くん、入江悠(『サイタマノラッパー』など)さんといった若い監督の力が自主制作的な場所から、どんどん爆発している気がするんです。これから映画は絶対に変わって行くと思うし、それがすごく楽しみですね。でも、僕もまだまだ負けてはいられません、って、感じかな?(笑)

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イベント情報

『ヘヴンズ ストーリー』

ユーロスペース、銀座シネパトスにて公開中、ほか全国順次ロードショー
監督:瀬々敬久
出演:
寉岡萌希
長谷川朝晴
忍成修吾
村上淳
山崎ハコ
菜 葉 菜
栗原堅一
江口のりこ
大島葉子
吹越満
片岡礼子
嶋田久作
菅田俊
光石研
津田寛治
根岸季衣
渡辺真起子
長澤奈央
本多叶奈
佐藤浩市
柄本明
人形舞台 yumehina
百鬼どんどろ
配給:ムヴィオラ

トークショー

2010年10月21日(木)18:00の回終了後
会場:東京都 渋谷 ユーロスペース
出演:鈴木卓爾監督+熊切和嘉監督+村上淳+瀬々監督

2010年10月26日(火)18:0の回終了後
会場:東京都 渋谷 ユーロスペース
出演:中原昌也+瀬々監督

公開記念ミニライブ+トークイベント
『晩酌の会〜映画を語ろう@しぶや花魁』

2010年10月31日(日)18:00開演 20:00終了予定
会場:東京都 渋谷 しぶや花魁 2F
出演:Tenko、安川午朗、瀬々敬久監督
料金:1,000円(1ドリンク付)
※映画の前売り券または鑑賞後の半券をお持ちの方のみご入場いただけます

プロフィール

瀬々敬久

1960年生まれの映画監督。京都大学在学中に『ギャングよ 向こうは晴れているか』を自主制作し注目を浴びる。その後「ピンク映画四天王」として日本映画界で独特の存在感を放つ。以後、大規模なメジャー作から社会性を取り入れた作家性溢れるものまで幅広く手がけ、国内外で高く評価されている。代表作に『雷魚』(1997)、『HYSTERIC』(2000)、『RUSH!』(2001)、『トーキョー×エロチカ』(2001)、『MOON CHILD』(2003)、『ユダ』(2004)、『サンクチュアリ』(2006)、『刺青 堕ちた女郎蜘蛛』(2007)、『フライング☆ラビッツ』(2008)、『感染列島』(2009)、『ドキュメンタリー頭脳警察』(2009)など。

中原昌也

1970年生まれ。90年代から暴力温泉芸者(Violent Onsen Geisha)名義で音楽活動を開始、現在はHAIR STYLISTICS名義で活動中。映画評論家、小説家としても活躍。『あらゆる場所に花束が・・・』(2001)で三島由紀夫賞、『名もなき孤児たちの墓』(2006)で野間文芸新人賞、『中原昌也 作業日誌 2004→2007』(2008)でBunkamura ドゥ マゴ文学賞を受賞。9月には初の絵本『IQ84以下!』が発売となった。

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