
ものの価値はものにはない 寒竹ゆりインタビュー
- インタビュー・テキスト
- 金子厚武
- 撮影:柏井万作
監督の一番最初の仕事って、熱をどう波及させていけるか、周りに本気を出させるかだと思うんです。
―そしてやはり主人公がホームレス風の老人っていうのが非常に大胆な設定で、議論も多々あったのではないかと思うのですが、この設定はどのように生まれたのでしょうか?
寒竹:このストーリーを考えたときに、どんな主人公がフィットするだろうと考えて、いろんなものに対する執着がなくて、どこか絶望している主人公がいいんじゃないかと思ったんです。ただ、それが「ホームレスのおじいさん」になると、さすがに「何か言われるかな」とは思いました。すごくキレイな印象の曲だから、イメージに合わないって言われちゃうかもって。でも、スタッフの方が「これでいきたい」とおっしゃってくださったので。
大知正紘“手”ミュージック・ビデオより
―勇気の要る、楽曲のことを真摯に考えた決断だと思います。でも、主人公のおじいさんはすごくいい味を出してますよね。
寒竹:ジジ・ぶぅさんっていうWAHAHA本舗の芸人さんなんですけど、いわゆるイケメン俳優さんではないですし(笑)、どこか物寂しさと愛嬌のある不思議な主人公ですよね。後から知ったんですけど、ご本人もホームレスの経験があったみたいで(笑)。
―実体験なんだ(笑)。それ、すごいですね。では、大知さんとはどんなやり取りがあったんですか?
寒竹:初めて会ったのは撮影の日だったんですけど、その前に手書きでコンセプトを書いた手紙のようなものを渡したんです。さっき言ったように、なぜものの価値をテーマにしようと思ったかを伝えたかったので。あえて手書きにしたのは、それだけでこの歌詞を歌ってる人にならこちらの想いが伝わるだろうなと思って。
―ある意味、その手紙をきっかけに制作がスタートしてるわけですね。
寒竹:だといいんですけど(笑)。アーティストさんが真ん中にいて、曲はもうあるわけじゃないですか? 監督の一番最初の仕事って、まずアーティストさんから熱を受け取って、それを自分なりに感じて、そこで自分が持った熱をどう波及させていけるか、周りに本気を出させるかだと思うんです。現場スタッフはプロなので当然きちんと仕事をこなしてくれるんですが、彼らに熱を伝えて、この作品のためにいつも以上に無理をしてもらうというか、力を出す動機を作るっていうのが最初の仕事で、そうすると今度はスタッフの熱が撮影現場の地元の人に伝わってっていう風に、どんどん広がっていけばいいものができると思うんですね。その最初の熱を伝える仕事が、今回は「手紙を書く」っていうことだったのかもしれません。
リリース情報

- 大知正紘
『手』 -
2010年9月8日発売
価格:1,000円(税込)
Driftwood Record / AKOM-10001〜2[DISC1]
1. 手
2. 星詩
[DISC2]
1. 手
2. 星詩
プロフィール
- 寒竹ゆり
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映画監督・脚本家。1982年生まれ。東京都出身。日本大学藝術学部在学中に岩井俊二監督にシナリオを送り、ラジオドラマ『ラッセ・ハルストレムがうまく言えない』で脚本家デビュー。同監督に師事し、映画やCF等の監督助手を務めたのち、佐藤健、上野樹里らのDVD作品を手掛ける。‘09『天使の恋』で劇場映画初監督。以後、MVやTVドラマの脚本・演出を手掛けるなど、幅広く活動。最新作はAKB48のドキュメンタリー映画 (1月22日全国公開)。