
写真から世界へ踏み出せる テラウチマサト×Sam Barzilay対談
- インタビュー・テキスト
- 田島太陽
- 撮影:安野泰子
まずは夢だけあればいい
─これは難しい質問かもしれませんが、カメラマンにはどんな人が向いているんでしょうか?
テラウチ:いい写真を撮るためには、本当に撮りたいものを撮っているかどうかが重要です。なんとなくこんな感じかな、という作品では、どこにも届かない。どうしても撮りたいという想いは、写真から必ず伝わるものなので、それがあるかどうかが大事なことだと思います。
サム:それは確かに難しい質問で、どのジャンルのカメラマンなのかによっても違いがあります。例えばジャーナリズム写真を目指すのであれば、東京にいても意味がなくて、今ならすぐにエジプトや中東に行ったほうがいい。いつでも現地に向かえるフットワークが必要とされるからです。でもアート写真を目指すのなら、自分の中にある思想や世界観をどう写真にするかを絶えず工夫し続けないといけません。ただ確実に言えることは、写真家になりたいという強い気持ちがなければ絶対になれないということです。
─もうひとつ答えが難しそうな質問をさせて下さい。テラウチさんも「誰でもおいで」と言っているように、初めて写真を撮って『NYPH』に応募してみようと思っている方もいると思います。これからカメラを手にしようとしている人たちに向けて、アドバイスがあればお聞きしたいのですが。
サム:僕がアートスクールに入った時にまず言われたのは「世界的な写真家になることは、世界的な野球選手になるより難しい」ということで、今でもその通りだと思っています。だから繰り返しになりますが、自分が本当にやりたいかどうかがいちばん大事。強い気持ちがあっても失敗するかもしれないけど、それがなければ絶対に成功はしません。中途半端な気持ちでもサラリーマンにはなれるかもしれませんが、写真家は無理ですね。
テラウチ:僕も全く同意見だけど、もう少しハードルが低くてもいいかなと思っています。「もしかしたらNYで評価されるかも」「プロになれちゃうかも」というくらいの考えでいいんじゃないかなと。もちろんそれでうまく行くとは限らないし、サムが言ったように現実は厳しいです。でも実際にやってみれば必ずなにか得られると思うし、失敗したらそこでまた考えればいい。
サム:そうですね。アクションを起こせるかどうか、チャンスを自分で作れるか、ということが最初のステップです。まずは応募しないとなにも始まらないわけですから。
テラウチ:応募するような人は、少なからず自分の作品がいいと思っているから送るわけですよね。作品を褒めてくれる人がいたらすごく嬉しいだろうし、ダメ出しをされてもステップにできるだろうし。まずは夢を持ってほしいんですよ。僕も数年前は、まさか『御苗場』が『NYPH』に出展するなんて思ってもみませんでしたが、「こうなったら面白いよな」という夢があったから繋がったんです。そういう理想って、みんなが持っているハズなんですよ。まずはそれだけあればいいと思っています。
─では最後の質問ですが、写真家としてのテラウチさんが、いま撮ってみたい被写体とはなんでしょう?
テラウチ:見ず知らずの普通の人を撮りたいですね。最近はプライバシーや個人情報保護といった意識が強くなっていて、街中でのスナップ撮影が難しくなっているんです。『御苗場』に出品されている写真も、後ろ姿や離れた場所から撮ったものが多いんですが、それは絶対にもったいない。「撮りたいんです」と声をかけてみたほうが、そこから会話が生まれたりもするし、間違いなくいい写真になりますよ。
こうやってサムと話していても、「ガラパゴス」的な日本は悪い状況のように思ってたけど、サムの話を聞くと違う面も見えてきましたよね。写真というのは本来コミュニケーションツールです。被写体に踏み込み会話して撮ることで、さらに面白い写真が撮れるんじゃないかと思いますね。
イベント情報
- 『御苗場 in NY』
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2011年5月11日(水)〜5月15日(日)
現在、出展作品を3月18日(金)まで募集中(当日消印有効)。
審査実施後、最大10名の作家作品を「御苗場 in NY」にて展示。
応募詳細は『御苗場 in NY』ウェブサイトを参照ください。
プロフィール
- テラウチマサト
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{写真家、『PHaT PHOTO』編集長、『御苗場』総合プロデューサー。2000 年、フォトカルチャーを提案する雑誌『PHaT PHOTO』を創刊。編集長兼発行人として写真業界に新ジャンルを確立した。また、CP+会場や横浜・大阪において参加型写真展「御苗場(ONAEBA)」をプロデュースしている。
御苗場公式ウェブサイト
『御苗場 in NY』Sam Barzilay(サム・バージレー)
アメリカを代表するフォトフェスティバル「New York Photo Festival(『NYPH』)」の運営ディレクター兼創立メンバー。