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わかったつもりにならない事『未来の記録』の「不合理」な軌跡

わかったつもりにならない事『未来の記録』の「不合理」な軌跡

インタビュー・テキスト
萩原雄太
撮影:森友香理

パレスチナへの旅で得た、忘れがたい経験

―この撮影の前にパレスチナを訪問されたということですが、作品に影響を与えた部分はあったのでしょうか?

:直接的にパレスチナを表現しているわけではありませんが、かなり影響を受けた部分はありました。制作の渦中は半ば無意識だったんですが、『SKIPシティ国際Dシネマ映画祭』で初めて『未来の記録』を上映した際に、映画を見ながらあることが鮮烈に蘇ったんです。

―それはどのようなことでしょうか?

:2007年に渡航したのですが、象徴的な出来事が2つありました。1つは、ラマッラーという街に降り立ったときのことです。あの土地を踏みしめたとき、乗用車の中から見知らぬ家族が僕に向かって手を振っていました。たったそれだけの出来事だったんですが、その瞬間僕は雷に打たれたような状態になって、ビデオカメラを地面に落としてしまったのです。しばらく放心状態だったんですが…そのとき迫ってきたのは、この土地でたくさんの人が亡くなったのだという漠然としたイメージでした。何か大きなものが、僕の身体を叩いたんです。

また、知り合いのつてで、戦傷孤児たちが集められたフリースクールに案内されたのですが、子どもたちとサッカーをしたりした後、村人たちと「自由とは何か」というテーマで語り合いました。そこで、ある村人の言葉に衝撃を受けたのです。彼は「我々には祈る自由すらもない」と言いました。僕は、彼の訴えに対して、何も言うことができなかったんです。これが2つめの経験です。

―それらの経験について、撮影中はあまり意識していなかったんでしょうか?

:表面的にはしていなかったですが、意識の奥底のほうに沈殿していたのだと思います。上映された作品を映画館で見た時、それがダイレクトに伝わってきて身震いが止まらなかった。『未来の記録』は、外部からのさまざまな刺激を肥やしにして変化していきました。

上村:撮影当初はしっかりとしたシナリオがあるわけではなくて、映画の大まかな流れだけが共有されていました。だからストーリーの詳細について、ほとんど決まっていなかったんです。膨大な余白だけがあって、白紙のページに何を想像するか全員でひねり出してゆくという。それぞれの中で問題となっていることやなかなか答えが出せないテーマと向き合いながら、より実感を持てるストーリーを選択していくことを目指したんです。

わかったつもりにならないこと 『未来の記録』の「不合理」な軌跡

仕事場で泣いたのなんて、初めてです(あんじ)

―俳優から見た岸演出の魅力とは、どのような部分でしょうか?

わかったつもりにならないこと 『未来の記録』の「不合理」な軌跡

あんじ:岸監督は俳優との間に信頼関係をつくってくれて、真剣に向き合ってくれるんです。岸監督ご自身も俳優なので、私たちの気持ちを理解してくれるんだと思いました。だから自分でも知らない自分が見つけられたというか、「あ、私ってこんな人間だったんだ!」っていう意外な一面を発見できました。

:あんじさん、撮影中に号泣してましたよね。

あんじ:ぐちゃぐちゃに泣きましたねー。仕事場で泣いたのは初めてですよ。

―どんなことがあったんですか?

:ストーリー上、あんじさんは知らないほうが良いシーンがあって、事前に台本を渡さなかったんです。いきなり撮影を目撃することで、出来事をそのまま体感して欲しかった。それは80分ワンカットで回し続けたシーンだったのですが、2回やるつもりは最初からなかったので。まさに「1回きり」だったのです。あんじさんが唯一の観客としてそれを目撃すれば、その後の演技にも良い形でフィードバックされるだろうと考えたんです。撮影が終わった後、杉浦千鶴子さんに抱きついて号泣してましたよね。ぐちゃぐちゃになっているあんじさんの様子は、もう1台のカメラがちゃっかり押さえていました。

あんじ:私の中では「究極のリアリティ」が感じられたシーンでした。他の映画では味わえないような体験で、監督や演じてくれた俳優とか、スタッフのみんなにとても感謝しています。

わかったつもりにならないこと 『未来の記録』の「不合理」な軌跡
『未来の記録』より

―岸監督から見てお2人はどんな俳優でしょうか?

:まず2人が並んだ時のバランスがとても良かった。あんじさんはある種の「デタラメさ」がある女優さんですが、それが僕にとってすごく面白く感じられたのです。上村くんは逆にとても冷静で、いつもフラットな立ち位置で存在することができるとても希有な俳優です。また上村くんとはこの3年間、脚本や編集に至るまで何百回とやりとりしているので、長い道を一緒に歩んだ戦友のような印象があります。作品を練り上げる上で貴重なアイデアや勇気をたくさん貰いました。正直、上村くんがいなかったら僕は途中でつぶれていたと思います。

3/3ページ:「究極のプライベート映画」。だけど、誰にでも開かれてます(上村)

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作品情報

『未来の記録』

2011年5月14日より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
監督・脚本・撮影・編集:岸建太朗
プロデューサー:清水徹也
出演:
上村聡
あんじ
鈴木宏侑
町田水城
杉浦千鶴子
小林ユウキチ
高橋周平
鈴木雄大
吉田真理子
川上友里
配給:株式会社デジタルSKIPステーション

プロフィール

岸建太朗

1973年、東京都出身。 1998年より劇作家宮沢章夫氏に師事し、演出助手に従事。後、「映像演劇実験動物黒子ダイル」を旗揚げし、自主映画、PV、ネットドラマなどを多数制作。俳優としても、映画、演劇、CM、テレビドラマなどに多数出演している。

上村聡

1977年、神奈川県出身。2006年より遊園地再生事業団(主宰:宮沢章夫)の公演に参加し、現在正式メンバーとして活動を行う。また、近年では遊園地再生事業団ラボにおける公演でドイツ戯曲の演出も手掛ける。最新出演映画の『飯と乙女』(2011年6月公開予定)では、俳優・岸建太朗と共演している。

あんじ

1975年、東京都出身。1995年よりファッション誌でモデルとして活躍した後、テレビやラジオなどに活動の場を広げる。1999年には『白痴』で女優としてデビュー。以後『Paradice』『美代子阿佐ヶ谷気分』などに出演。

SKIPシティ Dシネマ プロジェクト

若手映像クリエイターの発掘と育成を推進するSKIPシティ彩の国ビジュアルプラザが、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭に集まった作品を、一般の劇場での公開を支援する配給プロジェクト。プロジェクト第1弾の作品が『未来の記録』に決定。

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