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わかったつもりにならない事『未来の記録』の「不合理」な軌跡

わかったつもりにならない事『未来の記録』の「不合理」な軌跡

インタビュー・テキスト
萩原雄太
撮影:森友香理

RECボタンを押し忘れて撮影していたことも(岸)

―3年半の間に、いったいどれくらいの素材を撮影したんでしょうか?

:本当~に膨大な分量ですよ。普通のドキュメンタリー映画よりも撮影時間は長かったかも知れませんね。関わったほとんどの人は4時間くらいの大作映画になるんじゃないかと思っていたらしいですが、1時間半にまとめたのは僕の意地ですね。

―俳優として「何でこのシーンを使わないんだ」というシーンってありますか?

あんじ:それは、あり過ぎますよ(笑)。ただ撮影の時は、撮られているというよりも、そこにいただけという感覚だったんです。そこにしっかりと「いる」ために、いろいろと想像をしたりみんなで話し合ったりしたんですね。だから、そこにいた自分のどこを切り取られてもいいや、という気持ちになっていました。それに、あのシーンを使ってほしいと言い出したらきりがなくなっちゃいますから。

:本当は使いたかったけど、僕がカメラのRECボタンを押し忘れたシーンもありました(笑)。以前、RECボタンを押すことを意識せずに撮影できるようになるための修行をしていたんです。瞬間を切り取るには、撮ろうとした時点でもう遅いんです。やがて修行の成果もあって、ほとんどRECボタンを意識しないで撮影できるようになったんですが、そうしたら、本当にRECを押してなかったという…。

―俳優としても「演技をする」という意識からは逃れられましたか?

上村:いや、やっぱり演技をしているという意識はありましたね。見られているなあ、というか…。ただ分かったのは、これだけ演技をしていると意識しないようにしても、やっぱり意識してしまうんだ、ということです。どうしても「嘘」を演じることからは逃れられないため、演技における「本当」なんてなくて、結局は全部「嘘」だというか…。

:けれども、極限まで「本当」に近づこうとしましたよね。撮影中、僕は用意された脚本が終わってもカットをかけませんでした。たとえば5ページの脚本があったとすると、5ページ目が終わって、何とも言えない間が広がった後に、俳優が6ページ目を演じ始めるのを待ったんです。その瞬間からは、何が起こるのかを誰も知りません。完全な未知の世界です。だから撮るほうも演じるほうも、等しく極限に追い込まれます。俳優たちは台本という助走を踏み台にして自動的に動き始め、スタッフはただそれに合わせて動いてゆく。究極、何もしなくたっていいんです。じっと待つんです。すると感覚が研ぎすまされて、全員が獣になる。そんな素敵な瞬間が確かにありました。

―いわゆるエチュード(即興)とは違った緊張感がありそうですね。

:確かにエチュードとは異なると思います。それは何かと言えば、たった「1回きり」を呼び寄せるための姿勢、その粘り強さでしょう。空白の「6ページ目」が始まった瞬間は、今でも忘れられません。感動したり、畏れたり、笑ったり、ぐちゃぐちゃになりながらカメラを回すんです。だけど、随所に僕の泣き声が入っていて、使えなくなった素材もあるんですが(笑)。

わかったつもりにならないこと 『未来の記録』の「不合理」な軌跡
『未来の記録』より

「究極のプライベート映画」。だけど、誰にでも開かれてます(上村)

―また今作は「SKIPシティ Dシネマ プロジェクト」の第1弾作品として劇場公開されますが、意気込みをお話しくださいますか?

:劇場公開を前提で撮影していたわけではないのですが、次第にこれはたくさんの人に見てほしい、ここで終わらせるべきではない、という思いが強くなっていきました。その後いろいろな映画祭に出品したのですが、『SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2010』にノミネートされたことが本当に大きかったですね。その後の『TAMA CINEMA映画祭』での受賞や『ハンブルグ日本映画祭2011』への正式招待などに繋がってゆくことができました。今回は、「SKIPシティ Dシネマ プロジェクト」第1弾作品として、たくさんのお客さんに見てもらうことが監督としての使命だと思っています。

―最後にそれぞれから、ご覧になる皆様にメッセージをお願いします。

あんじ:見る人と一緒に進化していくような、凝り固まらない映画づくりを目指しました。映画に入り込んでもらいつつ、いろいろと想像をめぐらせていただきたいですね。

上村:自分が見たいと思う作品をつくりたくて出来た作品です。お客さんにも「自分たちもこういうのが見たかった!」と思ってもらえると嬉しいですね。ある意味、究極のプライベート映画だと言えますが、僕らにしかわからないような、趣味的なものをつくりたかったわけではないんです。

:主観的に「映画とは何か」とずっと考えていたら、自分を突き抜けて広いところに出ちゃった、というような感覚です。本当にいろんな偶然が重なってできた作品なんですが、さまざまな思いと情熱を注いだ時間の集大成を、ぜひご覧いただきたいですね。

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作品情報

『未来の記録』

2011年5月14日より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
監督・脚本・撮影・編集:岸建太朗
プロデューサー:清水徹也
出演:
上村聡
あんじ
鈴木宏侑
町田水城
杉浦千鶴子
小林ユウキチ
高橋周平
鈴木雄大
吉田真理子
川上友里
配給:株式会社デジタルSKIPステーション

プロフィール

岸建太朗

1973年、東京都出身。 1998年より劇作家宮沢章夫氏に師事し、演出助手に従事。後、「映像演劇実験動物黒子ダイル」を旗揚げし、自主映画、PV、ネットドラマなどを多数制作。俳優としても、映画、演劇、CM、テレビドラマなどに多数出演している。

上村聡

1977年、神奈川県出身。2006年より遊園地再生事業団(主宰:宮沢章夫)の公演に参加し、現在正式メンバーとして活動を行う。また、近年では遊園地再生事業団ラボにおける公演でドイツ戯曲の演出も手掛ける。最新出演映画の『飯と乙女』(2011年6月公開予定)では、俳優・岸建太朗と共演している。

あんじ

1975年、東京都出身。1995年よりファッション誌でモデルとして活躍した後、テレビやラジオなどに活動の場を広げる。1999年には『白痴』で女優としてデビュー。以後『Paradice』『美代子阿佐ヶ谷気分』などに出演。

SKIPシティ Dシネマ プロジェクト

若手映像クリエイターの発掘と育成を推進するSKIPシティ彩の国ビジュアルプラザが、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭に集まった作品を、一般の劇場での公開を支援する配給プロジェクト。プロジェクト第1弾の作品が『未来の記録』に決定。

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