
失う用意はある? アナログフィッシュ インタビュー
- インタビュー・テキスト
- 金子厚武
- 撮影:木下夕希
いつの時代も、優れたポップミュージックとは社会を映す鏡である。「失う用意はある? それともほうっておく勇気はあるのかい」という、3.11以降の日本において、あまりにも示唆的に響くフレーズを持った“PHASE”という曲を、下岡晃が311以前に書きあげていたという事実は、彼が表現者として非常に研ぎ澄まされた状態にあることの証明に他ならない。このフレーズをそのままタイトルとしたEPに続くニューアルバム『荒野 / On the Wild Side』は、“PHASE”に代表される強いメッセージ性を持った言葉の数々と、近年のブルックリンシーンからの影響を取り入れた新しいサウンドが融合し、アナログフィッシュが明確に新しいステージに到達したことを示す素晴しい作品である。斉藤州一郎がバンドに復帰して約2年、彼らは最高の状態で、10月10日に行われる日比谷野外大音楽堂でのワンマンライブへと臨む。
痛みは伴うけど、失って上手くいくことを考えた方がフェアだし、自然だなって思ったんです。
―まずひとつ確認すると、“PHASE”の「失う用意はある? それともほうっておく勇気はあるのかい」っていうフレーズは、震災以前に書いたものなんですよね?
下岡(Vo,Gt):そうです。全然前ですね。
―じゃあ、震災を受けて原発の問題が浮き彫りになって、まさにこのフレーズがそのまま当てはまるような状況になったことは、ご自身でも驚きました?
下岡:そうですね…びっくりしましたね。
―そもそも、この歌詞のフレーズっていうのはどこから出てきたフレーズなんですか?
下岡:アルバムの曲を作っていた1年とかそれくらい前に、エネルギー政策のことを考えてたんです。このまま好きなようにエネルギーを使っていく前提で何かをよくしようとしてるけど、それはきっと無理だろうなって。痛みは伴うけど、失って上手くいくことを考えた方がフェアだし、自然だなって思ったんです。
―その頃から今の原発の問題に通じる部分に目を向けていたんですね。
下岡:ある時期から、一部の人たちの中でそういう気持ちがどんどん強くなってるような感触が自分の中にあったんですよね。
―“PHASE”であったり、“戦争がおきた”であったり、今回の作品は非常にメッセージ性が強くて、その表現がよりダイレクトになっていると思うんですね。それには何か理由があるのでしょうか?
下岡
下岡:ある時期に作った俺の曲がひたすらそういう曲だったんですよね。俺は何かしらテーマみたいなものを設けてしまいがちだけど、ベースの健太郎の歌詞は、その流れを感じながら、もっと暮らしに根ざした、何かに悩んで、それをどうにかしようとしてる普通の人の生活が語られてると思う。だから、全体としてはバランスが取れてるというか、同じ流れにありながら、補完し合ってると思いますね。
―下岡さんが一時期メッセージ性の強い曲ばっかり書いていたっていうのは、何か理由があるんでしょうか?
下岡:…(佐々木に)なんでだろ?
佐々木(Vo,Ba):え、わかんない(笑)。でも、晃の曲って前からそういう視線もあったから。このアルバムのための曲を出してくる時に、晃の曲の詞のレベルが格段に上がってて、どの曲もすごく刺さる時期があって。それに触発されて「俺も書かなきゃ」って思ったところはありますね。
―詞の内容が「変わった」っていう印象はそんなにない?
斉藤(Dr):昔からそんなに変わってないと思います。このアルバムのために、同じ方向を向いてる曲を集めたから、そういう印象が強くなってるのかもしれないけど。
―確かに、昔から下岡さんの書く詞には社会に対するメッセージが込められたものはあったと思うんですけど、昔はもう少し何層かに包まれてたようなイメージがあるんですよね。
下岡:歌詞を書いていくと、いろんな選択をしていくじゃないですか? どっちの言葉がいいか、どの語尾がいいかとか。俺、ストーリーとか話自体はすぐ書けちゃうんだけど、その選択をするのにいつも時間がかかっちゃうのね。それを今回は、よりシャープな方を選ぼうとはしましたね。だから、全体が変わったっていうよりも、「そうしたい」っていう意思の下に、今までよりシャープな表現を選んだって感じですね。
―「そうしたい」とは?
下岡:強く「どうにかしたい」って思ったんですよね。世代的に、あんまり物事に踏み込まないというか、今ロックって言われてる日本の音楽自体そういうものが多いと思うし、それ自体を悪いとは思わないけど、自分はそれだと嫌だなって。何か言いたいと思ったし、はっきりコミットしたい。それを1人でも2人でも聞いてくれて、感動したり、いいと思ってくれるなら、そこには明確に価値があると思ったんです。
リリース情報

- アナログフィッシュ
『荒野 / On the Wild Side』 -
2011年9月7日発売
価格:2,800円(税込)
PECF-10311. PHASE
2. 荒野
3. ロックンロール
4. No Way
5. 戦争がおきた
6. Hybrid
7. チアノーゼ
8. SAVANNA
9. ハミングバード
10. Fine
11. TEXAS(やけのはらバージョン)
イベント情報
- 『TOKYO SAVANNA』
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2011年10月10日(月・祝)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京都 日比谷野外大音楽堂
出演:アナログフィッシュ
料金:
砂かぶりシート(指定)5,000円(完売)
ハーモニーシート(指定、ペアチケット)4,000円
サラウンドシート(自由)2,000円
プロフィール
- アナログフィッシュ
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佐々木健太郎(Vo.B.)、下岡晃(Vo.G.)、斉藤州一郎(Dr.)からなるツインボーカル/3ピースバンド。1999年長野県喬木村にて佐々木、下岡の2人で結成。上京後、斉藤と出会い3ピースバンドに。2人のボーカル/コンポーザーによる楽曲の圧倒的なヴァリエーション、ゆるいキャラクターとは対照的な緊張感と爆発力満載のライブパフォーマンスは他のバンドのそれとは一線を画す。