音楽を生活に取り戻すために the telephonesインタビュー

海の向こう、イギリスのマンチェスターはTHE STONE ROSESの再結成によって大きく盛り上がっているが、the telephonesのフロントマン石毛輝いわく「日本のマンチェスター」である埼玉の浦和も、12月23日に行われるthe telephonesのさいたまスーパーアリーナ公演に向けて、徐々に熱を高めている。the telephonesというバンドは海外の音楽に対するピュアな愛情を表明し、高い志を持って活動を続けることで成功を収めてきたバンドであるが、その分誤解を受けることも多く、これまでの道のりは決して平坦ではなったはずだ。しかし、初の海外レコーディングをニューヨークで敢行し、自らのオリジナリティを再確認した現在の彼らは、強い決意を持って、「音楽を生活に取り戻したい」と言う。もしかしたら、「大げさだなあ」と思う人もいるかもしれない。しかし、「これからはオーディエンスの時代だ」と宣言したTHE STONE ROSESが実際に時代を動かしたことを、僕ははっきりと覚えている。

また音楽に対してピュアに戻れたというか、そんな気がします。

―新作『Rock Kingdom』は、非常にソリッドでタイト、ロックであり、パンクな作品になりましたね。

石毛:単純に、前のアルバムと違うものを作りたがる人間なんです。前の『We Love Telephones!!!』では曲のバリエーションを広げたので、その反対のものを作ろうとすると、シンプルかつ短いものになったということですね。あんまりごちゃごちゃした重ね録りもしないで、シンプルなロックというか、ガレージとかパンクっぽいのを作りたいと思って。

―今回の作品がニューヨーク録音だと聞いたときに、近年のいわゆる「ブルックリン・シーン」を意識した音になるのかなって一瞬思ったんですけど、そういう作品ではないですよね。時代との距離間はどう考えましたか?

石毛:もちろん意識はするんですけど、サウンド面に関してはプロデューサーのアレックス(・ニューポート)に任せました。それこそアレックスはブルックリンに住んでるので、彼が「このバンドが持ってる空気感はすごくいいから、それを出していこう」って言ってくれて、それは自信になりましたね。寄せる必要がなかったっていうか。

―やっぱりニューヨークでのレコーディングは大きな経験だったわけですよね。

石毛:レコーディングもそうですけど、アレックスに紹介してもらってお忍びでライブをやったんですよ。正直自分のやってる音楽は現地では受けないだろうなって思ってたんですけど、いざライブをやったらめちゃめちゃ盛り上がったんですね。機材もそんなに持って行っていなかったから、5~6曲しかやんなくて、アンコールももちろん用意してなかったんだけど、「ONE MORE SONG!」ってすごくて(笑)。

―おー、それは嬉しいですよね。

石毛:ニューヨークでこんなにライブが盛り上がるのは珍しいらしくて、「最近は腕組みしながら見るお客さんが多くて、それが嫌だったんだ」って現地の人に言われたり。「君たちみたいなエナジーのあるバンドが好きだから、ニューヨークに住んでくれ」とか(笑)。

石毛輝
石毛輝

―さっき言った「自分のやってる音楽は現地では受けないと思った」っていうのは、今のブルックリンの流行りの音とは違うからっていうことですか?

石毛:そう思ってました。洋楽に対する憧れが強い分、自分は模倣品っていう意識がどこかにあったんです。でも、アレックスには「アメリカの英語とイギリスの英語が混ざってるのが面白い」って言われたりして、自分が思ってるより現地の人って細かいこと気にしてないんだなって。逆に、日本人の方が海外のロックに憧れてる分、英語の正しさとかに過敏に反応してるみたいですね。

―やっぱり日本の中にずっといると見えないことってありますよね。一回外から見てみることの重要性ってやっぱり大きい。

石毛:そうですね、また音楽に対してピュアに戻れたというか、そんな気がします。

2/3ページ:誰だって最初から音楽に詳しいわけじゃないから、音楽に興味を持つきっかけになりたい。

「DISCO」っていうワードが強過ぎて、全部一緒に聴こえてしまってるんじゃないかって。

―“New York City”の歌詞は、今話してもらったような経験を基に書いたわけですよね?

石毛:そうです。この歌詞はニューヨークで書いたので、「俺は変わる」みたいなことを言ってるのは、その意思表示というか。

―でも、同時にこの歌詞にはこれまで抱えていたであろう葛藤も描かれてますよね?

石毛:そうですね。「DISCO葛藤」してました(笑)。

―それ、どういうことですか?(笑)

石毛:自分たちではいろんな音楽をやってるつもりなんだけど、「DISCO」っていうワードが強過ぎて、全部一緒に聴こえてしまってるんじゃないかって。例えば、“I Hate DISCOOOOOOO!!!”っていう曲はメタルっていうかハードロックだし、“A.B.C.DISCO”っていうのはシンセポップなんですけど、「DISCO」っていう言葉のせいで一緒に聴こえちゃうのかなって…勝手に悩んでたんですけど(笑)。だから、今回“DISCO AGE MONSTERS”っていう夏フェス用に書いた曲は入ってるんですけど、アルバム用には「DISCO」っていう曲は作ってなくて、ロックバンドとして認められたいっていうのは強くあったんです。

the telephones
撮影:古渓一道

―もちろん「DISCO」っていうワードがバンドにもたらしたプラスも大きかったけど、その逆もあったと。

石毛:そんなこと気にしないハートの持ち主だったらいいんですけど、若干気にしてしまうというか(笑)。

―だからこその『Rock Kingdom』というアルバムタイトルでもあるわけですね。

石毛:そうですね。でもホント、結局今思えば勝手にジレンマとして悩んでいただけなんです。ニューヨークでライブをやったときも、「We Are DISCO!」っていうコール&レスポンスをちゃんとやってきましたからね(笑)。それが一番滑ると思ってたんですけど、でもやんなきゃthe telephonesとしてライブをやる意味がないと思って、そうしたらお客さんみんな「DISCO! DISCO!」って(笑)。

―(笑)。ちなみに、その葛藤はいつごろからあったんですか?

石毛:最初の頃はお客さんがいなかったから何とも思ってなかったんですよ。ギャグというか、ロックシーンに対するカウンターになればいいと思ってやってたんで。でも、それが支持されるようになったらいろいろ考えるようになっちゃって、「嘘から出た実」じゃないけど、「どうしよう?」って。今はもうないですけどね。ニューヨークに行って、完全に迷いが吹っ切れました。

誰だって最初から音楽に詳しいわけじゃないから、音楽に興味を持つきっかけになりたい。

―この前の『kings』(the telephones、THE BAWDIES、QUATTRO、THE BRIXTON ACADEMY、PILLS EMPIRE、FREE THROWによるイベント。8月に2年ぶりに開催され、大成功を収めた)を見に行ったんですけど、あのイベントは洋楽への憧れを根底に持ったバンドとDJが集まって、「日本のシーンを変える」っていう大きな名目がありつつ、今回でそれぞれのバンドがそれぞれの道を見つけたっていう段階にあると思うんですね。今後はそのバランスをどう考えますか?

石毛:シーンを変えることと、自分たちの道を追求することって、結構イコールだと思うんですよね。オリジナリティって追求すればするほど、コアな人しかついてこないじゃないですか? でも、そのコアな人が多ければ、シーンが変わると思うんですよ。そのバランスの正解は今も模索中ですけど、基本的に音楽ありきで、それに人がついてくるっていうのが理想ですね。

―あのメンバーの中でも、特に石毛君って「シーン」っていうものに対する意識が強い人だと思うんです。MCでも「シーンを変えよう」って口に出すじゃないですか?

石毛:みんな恥ずかしいから言わないですもんね(笑)。

音楽を生活に取り戻すために the telephonesインタビュー

―でも、それをあえて言うことに意味があると思うから言ってるわけですよね?

石毛:誰かが言わないといけないことなんですよ、たぶん。俺は昔から言ってるっていうのもあるから、これからもずっと言いますね。だから、メディアに出るのも厭わないですし、今度『ピカルの定理』(フジテレビ系列で放送されているバラエティ番組。石毛が音楽を担当している)にも出ますし。そういう層に訴えていかないとダメだなって感じはありますね。

―いわゆる音楽ファンだけじゃなくて、より一般層に?

石毛:もっと巻き込んでいきたいんです。まだ俺らなんて世間的には存在すら知られてないと思うんですけど、でも音楽が好きな人は日本全国どこにでもいると思うんですよ。まずはその人たちに知られることが大事だと思うんです。誰だって最初から音楽に詳しいわけじゃないから、音楽に興味を持つきっかけになりたい。音楽が生活の一部だった時代に戻したいというか。

3/3ページ:文化を守るっていう意味でのコミュニケートが今後ますます大事になるだろうなって。

自分がアンダーグラウンドの音楽をやってるとは全く思ってない。

―そういう風に考えるようになったのって、何かきっかけがあったんですか?

石毛:まず自分がアンダーグラウンドの音楽をやってるとは全く思ってないんですよ。ちゃんとポップなメロディがあって、楽器がちゃんとしたチューニングで鳴らされてる以上は、普通の人に受け入れられる権利があると思うんです。そこに変にカッコつけたくないというか、天才は本当のオリジナリティを追求するんでしょうけど、僕らは基本的には大衆音楽の中でのオリジナリティを追求してるので、だったら宣伝できるときはした方がいい。昔とは違って、自分から動いていかないと音楽が知られない時代になってるから、そこには危機感を持ってやってますね。

―さっき言ってくれた「音楽が生活の一部」っていうことに関しては、やっぱり海外に対する憧れはありますよね。文化としての根付き方が日本とは全然違うから。

石毛:それは超でかいです。ニューヨーク行っても思いましたもん。

―それこそ、アメリカやイギリスは地域ごとの音楽区分があって、それも生活に根付いてる。そういう意味でthe telephonesが、出身地であるさいたまのスーパーアリーナでドカンとライブをやるっていうのは、すごく意味がある。

石毛:僕ら昔から「日本のマンチェスター=北浦和」って言ってて(笑)。東京がロンドンなら、埼玉、浦和はマンチェスターでありたいなって。

―日本にも札幌はハードコアとか、福岡だったらめんたいロックとか、そういう地域性っていうのもちゃんとあるにはあるわけで、それがもっと認識されればより生活に根付くはずですよね。例えば、the telephonesが浦和レッズのテーマソングを作ったりとか。

石毛:それ結成したときからずっとやりたいと思ってるんですよ(笑)。

文化を守るっていう意味でのコミュニケートが今後ますます大事になるだろうなって。

―音楽と生活の距離って、いつ頃から意識してましたか?

石毛:僕はライブハウスでブッキング・マネージャーっていう、ライブが終わった後にバンドに対して偉そうなことを言う仕事をちょっとだけやってたんですけど(笑)、「どういう音楽好きなの?」って話をすると、意外と音楽聴いてないんだなって思って。それはそれでいいんですけど、思ったより音楽好きが周りにいねえぞって思って、そういう違和感から始まってるんだと思います。せっかく学校の授業になってる生活必須科目なのに、何で大人になると忘れてしまうんだろうなって。

―ああ、確かに。

石毛:いい曲作るのは難しいけど、曲なんか誰でも作れると思うんですよ。アイスランドとか、自宅にDAWソフト(パソコンで音楽を制作するためのソフト)があって、「休日にゴルフするか作曲するか」みたいな家もあるって聞いて、「普通の人が趣味で作曲とかあるんだ」と思って。そういのすごい素敵だなって。僕がソロ作品をリリースしたのもそういう意図があったんですよ。「これぐらい日常的に作れるんだよ」っていう。

音楽を生活に取り戻すために the telephonesインタビュー
撮影:古渓一道

―なるほどなあ。今日の話はメディアに携わってる側としても気が引き締まる話ですね(笑)。

石毛:ミュージシャンとメディアがちゃんとタッグを組んでいくことは大事な気がしますね。利益ももちろん大事ですけど、文化を守るっていう意味でのコミュニケートが今後ますます大事になるだろうなって、今日話してて思いました。

―CINRAが音楽だけじゃなくていろんなカルチャーを扱ってるのも、要は入り口を増やしてそれぞれのカルチャーに興味を持ってもらうっていうことだったりするんです。ちなみに、石毛君は音楽以外のカルチャーに対する興味ってどうですか?

石毛:人並みだと思いますけど、興味はあります。映画も好きだし、たまには美術館にも行くし。でも音楽ほど情熱を傾けて好きっていうわけではなくて、発想の転換というか、自分が知らない発想を提示してくれるので、視野を広くしてくれるものですね。「こういう絵は思いつかねえな」っていうのが新しい知識として体に入ってきて、その絵を音で表現したらどうなるかっていうヒントになるじゃないですか? 今持ってるセンスで満足しちゃうと、自分の作る音楽がどんどん古くなると思うんですよ。古くてかっこいいものもいっぱいあるけど、僕がやってるのはそうじゃないので、そういう時代のセンスはアートからもらってますね。

―では最後に、12月のさいたまスーパーアリーナに向けての意気込みを聞かせてください。

石毛:さっき言った、昔働いてた北浦和のKYARAっていうライブハウスから僕らは始まって、100人も入ればいっぱいいっぱいのライブハウスに10人いればいい方みたいなところから、スーパーアリーナまで来れたっていうのは単純に嬉しいです。でもその分責任感も出てきて、今日話したように、ライブハウスを、音楽を生活に戻すための戦いだとも思ってます。市民権とか言うと大げさだけど、ああいう大きなところで成功すれば、来年からトリッキーな動きをしたとしても、捉え方も変わってくると思うので。まあ、まずは成功しないと始まらないことなので、これを読んで興味を持ってくれたらぜひ来てほしいですね。今バンドはすごくいい状態なので、いいライブが絶対できると思います。

イベント情報
『SUPER DISCO Hits!!!~そして伝説へ~』

2011年12月23日(金・祝) OPEN 16:00 / START 17:00
会場:埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
出演:the telephones
料金:前売 3,731円 当日未定

全国各地よりさいたまへ集まるためのツアーも盛り沢山!

リリース情報
the telephones
『Rock Kingdom』

2011年10月12日発売
価格:2,800円(税込)
EMI Music Japan / TOCT-27095

1. White Elephant
2. DISCO AGE MONSTERS
3. Yeah Yeah Yeah
4. Punk Is Not Heavy Metal
5. Just One Victory
6. A A U U O O O
7. I Am Me
8. Crash The TV
9. New York City
10. Can't Stop Loving You

プロフィール
the telephones

2005年に埼玉県浦和にて結成。ポストパンク、ニューウェイブにも通じるダンスロックサウンドで各地のフェスを席巻しながら、ライブハウスとクラブシーンをつなげるロックバンドとして注目を集める。2011年12月23日にはバンド史上最大規模となるさいたまスーパーアリーナでのワンマンライブ『SUPER DISCO Hits FINAL !!! ~そして伝説へ~』も実施。ハイテンションなライブパフォーマンスは、ロックファンの熱狂的な支持を集めている。



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