特集 PR

あがた森魚が語る「ベルウッド・レコード」と、伝える技術の話

あがた森魚が語る「ベルウッド・レコード」と、伝える技術の話

インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:田中慎一郎
2012/10/09

毎日朝起きると、今日も僕は自分であり、同時に、地球上の森羅万象、有象無象、全部自分の中に詰まってるんだなって思うわけ。

―今の「気配を伝える」ということであったり、最初におっしゃられた初期衝動的な「とにかく誰かに聴いてほしい」っていうのは、どんな人に届けたいかっていう、相手を想定したものなのでしょうか?

あがた:上手く言えないんだけど……。毎日朝起きると、今日も僕は自分であり、同時に、地球上の森羅万象、有象無象、全部が自分の中に詰まってるんだなって思うわけ。新しい音楽を生み出そうとしてる多くのアーティストがどっかでザワザワっているとしたら、僕もその中の一人だぞって思うし、ラテンアメリカでもアフリカでも第三世界でも色んなところで、いつ飢え死にしてもおかしくない子供たちもザワザワっていて、この現象も僕なわけ。僕が毎日喜んだり、得意になったり、落ち込んだりするのもそうだし、去年の震災以降の状況とか、昨今は大陸と日本海を挟んで領土問題でザワザワしてたり、それはホントにどれも捨てられないっていうか、僕の中にあるわけよ。新聞読んで「ああ……」ってなって、でも次の瞬間にカワイイ子が通ると「おお!」ってなってる自分もいるわけだから(笑)。

―(笑)。

あがた:それがポップスだよね。メッセージソングを歌ったかと思ったら、「君に捨てられてさ」って歌い出したり、それがポップスなわけだから……。欲張りってことだよね(笑)。「僕はそこまで色々思ってるんだ」っていう気負いなり、自負なりを見せたいんだね。

―そういう言葉では簡単に表せない人間の複雑さを表現するためにこそ、音楽はあると言えますよね。

あがた:やっぱりね、美しい女性とインテリジェンスのある男性には勝てないんですよ。非常によく計算されてしっかり作られたものはいい作品なわけだし、向こうから美しい女の人が来ると、それは作品がどうかはわからないけど、否定できない。コクトーは「美しいものは、美を認めてないものをさえ、虜にする」って言ってるけど、それは「歌を歌いたい」「美味しいものが食べたい」「みんなに認められたい」みたいなことと同じことかもしれない。逆に、今日アメリカを中心に回ってる世界および政治的かつ、経済的支配力とか、科学的テクノロジーっていうのは男性的インテリジェンスの作った最たるものであって、それは圧倒的に肯定もしたいし、圧倒的に否定もしたい。そこに答えがないから、永遠に歌もまた作られ続けるだろうし。

―「歌いたい」という抗えない欲求によって生まれた音楽が世界を動かすこともあるわけで、それは美やインテリとも拮抗するものではありますよね。

あがた:まさにそういった全部が混沌として混ざってるわけだから、どれかを切り離して「これは出来がいい」「これはつまらない」では片付けられないわけ。ジョン・レノンだって、(ブライアン・)エプスタインがいなければジョン・レノンになってなかったかもしれないし、ピカソも彼を支えたパトロンがいなければ、ピカソになっていなかったかもしれない。そう考えると、ベルウッドの各アーティストも知らないうちにベルウッドという支柱をもち、そこで相互に影響を与え合ってたんだと思います。音楽的にはすごく違うんだけど、ものの考え方とか、生き方全般で絶妙に影響を与え合っていて、その中にベルウッドのジョン・レノンがいたかもしれないし、ピカソがいたかもしれない。そういう人たちがこの歴史を作ってきたような気がします。

テーゼに対するアンチテーゼには興味がなくて、自分が必要とされてるのかされてないのか、これがものすごく大きなテーマで。

―ベルウッドの感性というのは若い人にも脈々と受け継がれていると思うんですね。実際にあがたさんはオワリカラのようなバンドと共演の機会もあって、リスペクトも受けていらっしゃると思うし、同じような感性を持って活動してる若いミュージシャンの数は決して少なくないと思います。そういった今の若い人たちのことをどう見ていらっしゃいますか?

あがた:僕の中にその質問の答えは色々あるんだけど、結局それは次のアルバム、次のステージ、次に作った楽曲で、「あがたさん今こういうことを考えてるんだ」「去年ああだったのに、今年こうなったんだ」っていうとこでしか答えはないわけ。まあ、オワリカラその他若くて面白いバンドがいっぱいいて、僕たちもそうだったけど、もがいてる感じはするよね。もがいていても全然いいんだけど、ただ僕たちのときの方がまだ駄々をこねたり、やんちゃする対象があったかな。

―ああ、それはよくわかります。

あがた森魚

あがた:ものを言う対象があるのは表現者にとって重要かつラッキーなことだけど、今の若者たちにそうした対象があるかというと、あまりにも錯綜してるというか、コーティングが巧みにされてるから、突っつきようがない。何をモチーフにして訴えることで不特定多数の人が一緒に共鳴するのか、すごい難しいだろうなって。

―今は二項対立になりにくい、白黒はっきり分けられなくて、自分自身が仮想敵の一部だったりということがわかってしまう時代だということはすごく感じます。ただ、あがたさんが先ほどおっしゃったように、2011年っていうのは若い世代にとってもある意味始まりの年になって、これからどんな表現が生まれてくるのか、楽しみではあるんですよね。

あがた:ただ僕はテーゼに対するアンチテーゼには興味がなくて、限りなくテーゼでやりたい。戦う相手というよりも、自分のテーゼを求める相手がいるのかいないのか、そういう自分が必要とされてるのかされてないのか、これがものすごく大きなテーマで。その辺も巧妙にぼかされてたり、コーティングされてて、段々日々が過ぎて行ったっていうのがここ30〜40年だったんだけど、2011年が契機になったかなとは思うとこもある。何かが始まるのか、風化が加速していくのか、それはわからないんだけどね。

―今日お話ししていて、ベルウッドの40年という重みを感じつつ、同時にこの先の10年が楽しみにもなりました。

あがた:そういうことだね。ベルウッド50年に向けてなんていうのは今日のお題目ではないけど、せっかく40年まで来たんだから、未来を展望しようっていう意味でね。僕を含め、個人個人これから10年どうなっていくかわからないけど、50年っていう次のスパンを目指したいなって気はする。そのときはまた、お話をしましょう(笑)。

Page 4
前へ

リリース情報

『Bellwood 40th Anniversary Collection』
『Bellwood 40th Anniversary Collection』

2012年10月3日発売
[リリース作品]
・六文銭『キングサーモンのいる島』
・高田渡『系図』
・山平和彦『放送禁止歌(オリジナル・バージョン)』
・西岡恭蔵『ディランにて』
・武蔵野タンポポ団『武蔵野タンポポ団の伝説』
・あがた森魚『乙女の儚夢』
・大瀧詠一『大瀧詠一』
・Bellwood 40th Anniversary Collection『フォーク・ギターの世界』
・はっぴいえんど『HAPPY END』
・細野晴臣『HOSONO HOUSE』
・及川恒平『忘れたお話』
・高田渡『石』
・山平和彦『風景』
・岩井宏『30才』
・南正人『南正人ファースト』
・はっぴいえんど『CITY/はっぴいえんどベスト・アルバム』
・はちみつぱい『センチメンタル通り』
・小室等『私は月には行かないだろう』
・高田渡『ごあいさつ』
・小室等『東京』
・はっぴいえんど『ライブ!!はっぴいえんど』
・西岡恭蔵『街行き村行き』
・あがた森魚『噫無情(レ・ミゼラブル)』
・Bellwood 40th Anniversary Collection『フォーク・ギター』
・オリジナル・ザ・ディラン『悲しみの街』
・いとうたかお『いとうたかお』
・はっぴいえんど『シングルス・はっぴいえんど』
・六文銭『シングルス・六文銭』
・及川恒平『名前のない君の部屋』
・ザ・ディランII『この世を悲しむ風来坊に捧ぐ』
・加川良『アウト・オブ・マインド』
・小室等『デッドヒート '74年ライブ』
・ザ・ディランII『時は過ぎて〜ザ・ディランIIライヴ』
・朝野由彦『巡礼』
・あがた森魚『僕は天使ぢゃないよ』
・山平和彦『ライブ!山平和彦』
・中川五郎『また恋をしてしまったぼく』
・遠藤賢司『東京ワッショイ』
・大瀧詠一『アーリー大瀧詠一』
・友川かずき『俺の裡で鳴り止まない詩〜中原中也作品集』
・小室等『私は月には行かないだろう(完全限定プレス盤)』
・六文銭『キングサーモンのいる島(完全限定プレス盤)』
・六文銭『六文銭メモリアル(完全限定プレス盤)』
・山平和彦『放送禁止歌(完全限定プレス盤)』
・山平和彦『風景(完全限定プレス盤)』
・山平和彦『ライブ!山平和彦(完全限定プレス盤)』
・大瀧詠一『大瀧詠一(完全限定プレス盤)』
・大瀧詠一『アーリー大瀧詠一(完全限定プレス盤)』
・はっぴいえんど『HAPPY END(完全限定プレス盤)』
・はっぴいえんど『CITY/はっぴいえんどベスト・アルバム(完全限定プレス盤)』
・はっぴいえんど『ライブ!!はっぴいえんど(完全限定プレス盤)』

あがた森魚
『大航海40年史』(2CD)

2012年11月7日発売
価格:3,500円(税込)
UPCY-6673/4

[DISC1]
1. コドモアルバム/あがた森魚と山崎優子
2. 俺の知らない内田裕也は俺の知ってる宇宙の夕焼け
3. 沢尻エリカぶるぅ。
4. キューポラ・ノアールの街
5. るるもっぺべいぶるう
6. 佐藤敬子先生はザンコクな人ですけど
7. 風立ちぬ
8. 太陽コロゲテ46億年
9. たそがれる海の城
10. キットキット!!遠く遠く!!(Version T.K.T.)
11. 月食/雷蔵
[DISC2]
1. 誰が悲しみのバンドネオン
2. パール・デコレーションの庭
3. 骨
4. いとしの第六惑星
5. 春の嵐の夜の手品師
6. 百合コレクション/ヴァージンVS
7. 星空サイクリング/ヴァージンVS
8. 僕は天使ぢゃないよ
9. 星のふる郷
10. 最后のダンス・ステップ(昭和柔侠伝の唄)
11. 大寒町
12. 清怨夜曲
13. 大道芸人
14. 赤色エレジー(Single Version)
解説:湯浅学
イラスト:山本ルンルン
※SHM-CD(Super High Material CD)仕様

プロフィール

あがた森魚

1948年北海道生まれ。1972年『赤色エレジー』でデビュー。 当時、アメリカのコンテンポラリーなフォークロックやヒッピームーブメントなどに強い影響を受けながらも、その影響下に留まらず、 日本の大正や昭和のロマンティックな大衆文化を彷彿とさせるオリジナリティーあふれる音楽世界を創り出していった。 デビューアルバム『乙女の儚夢』以降、『噫無情』『日本少年』『永遠の遠国』と、あがた森魚世界観をはらんだアルバムを発表しながら70年代を駆け抜けた。映画製作や文筆活動等々多岐にわたりながらオリジナルアルバムを次々とリリース。 デビュー40周年を迎える2012年はアルバムリリースや記念コンサートの開催など引き続き意欲的な活動が続いている。10月3日、ベルウッドの創立40周年を記念して「Bellwood 40th Anniversary Collection」と銘打って51タイトル再発されたコレクションには、あがた森魚の初期3枚のアルバムが含まれる。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

The Wisely Brothers“テーブル”

The Wisely Brothersの新アルバム『Captain Sad』から、リード曲“テーブル”のMVが公開。監督は新進気鋭のアートチーム「chua」。目の前に座っていても視線は交わされない、ひりつくように愛おしい時間は自分の記憶にも確かに存在していて、なんとも切ない気持ちに。ちょっとドリーミーなのも癖になる。<ふたつが重なることはない どうしてもそれぞれは なくなるコーヒーを見て歌おう>というフレーズ、このアルバムに通して漂う悲哀と希望がぎゅっと詰まっているよう。(石澤)

  1. おうちでサマソニ。YouTubeライブ配信にThe 1975、レッチリ、Perfumeら 1

    おうちでサマソニ。YouTubeライブ配信にThe 1975、レッチリ、Perfumeら

  2. 柄本佑と瀧内公美が盆踊りを手繋ぎで横切る 映画『火口のふたり』本編映像 2

    柄本佑と瀧内公美が盆踊りを手繋ぎで横切る 映画『火口のふたり』本編映像

  3. ピアニスト・清塚信也はなぜバラエティ番組に出る?意外な狙い 3

    ピアニスト・清塚信也はなぜバラエティ番組に出る?意外な狙い

  4. 吉田豪が見た『全裸監督』と村西とおる 過去の危ない体験談を語る 4

    吉田豪が見た『全裸監督』と村西とおる 過去の危ない体験談を語る

  5. 大友良英が『いだてん』に感じた、今の時代に放送される必然性 5

    大友良英が『いだてん』に感じた、今の時代に放送される必然性

  6. 『ライジング』8月16日は開催中止、台風10号接近のため 17日の開催は明日発表 6

    『ライジング』8月16日は開催中止、台風10号接近のため 17日の開催は明日発表

  7. 草彅剛がダメ長男、MEGUMI&中村倫也らが家族 映画『台風家族』場面写真 7

    草彅剛がダメ長男、MEGUMI&中村倫也らが家族 映画『台風家族』場面写真

  8. 『スター・ウォーズ』の展覧会『STAR WARS Identities』寺田倉庫で開幕 8

    『スター・ウォーズ』の展覧会『STAR WARS Identities』寺田倉庫で開幕

  9. 三浦直之とEMCによるファミレス感漂う「ポップカルチャー」談義 9

    三浦直之とEMCによるファミレス感漂う「ポップカルチャー」談義

  10. 広瀬すずが『LIFE!』登場、『なつぞら』コラボで中川大志&内村光良と共演 10

    広瀬すずが『LIFE!』登場、『なつぞら』コラボで中川大志&内村光良と共演